Event / Report

「MEET UP KANSAI」の挑戦

3日間でインプットからアイディアソン、
そしてプロトタイピングまで挑戦するトライアスロン的ハッカソン。
それが、りそな銀行・近畿大阪銀行の主催する「MEET UP KANSAI」です。
1月13日~15日に大阪で開催され、新しいビジネスの地平を拓くイベントとして注目を集めました。

学生を軸にオール大阪でイノベーションの体制を。

過酷なハッカソンに挑め!

1

なぜ関西でハッカソンをするのか

りそな銀行営業サポート統括部(大阪) 地域戦略グループ 地域オフィサー 奥田浩之さん

りそな銀行営業サポート統括部(大阪) 地域戦略グループ 地域オフィサー 奥田浩之さん

「MEET UP KANSAI」は、若い世代の柔軟な発想を地元企業や行政が抱える社会課題の解決に活かすことを目的にしている体験プログラムです。初めての開催となった今回は、「世の中のみんなが使いたくなる金融サービス」がテーマ。

参加者である関西の大学生や大学院生はFinTechに関する知識やフィールドワーク、アイディアソン、ハッカソンを体験します。銀行サービスにとらわれず、幅広く金融を考え、新しいサービスを案出する。それは未来の新しいマネーライフを考えることでもあります。

開催のきっかけは、主催者である、りそなホールディングス(以下:りそなHD)が「ユーザーニーズが多角化し、技術も多様に発展していく現代にあって、ユーザーとの共創が必須」と考えたことにあります。

りそな銀行の営業サポート統括部(大阪) 地域戦略グループ 地域オフィサーの奥田浩之さんもまた「これからの時代のサービス業は、提供者側の理論理屈だけでやっていても先がない。ユーザーとともに考え、サービスを開発していくことが必要。金融業はもとより、さまざまな企業が自社だけでは行き詰まりを感じているはず。ハッカソンに相乗りすることで、イノベーションを加速したい」と話します。

本イベントにはFM802やオージス総研などの協力企業も多くついていますが、こうした動きに同調するのは企業ばかりではありません。大阪府もベンチャー創業を支援しており、イノベーション関連のイベントを主催するなど、“イノベーションの本場”としての地位確立に向けた動きを加速しています。府の関係者は「学生と一緒に集中的に取り組むスタイルは面白く新しい動きで、可能性を感じている。どんなアウトプットになるか楽しみ」と、イベントの前後でさまざまな形で支援してくれています。

りそなHDをはじめとした金融機関にシステムを提供しているNTTデータとしても、新しい金融サービスを顧客やユーザーと共創する取り組みは応援したいところ。何よりも顧客との共創とは、「豊洲の港から」が目指す地平そのものです。NTTデータのスタッフも、イベントの準備から運営までお手伝いしました。

<1日目>膨大なインプットの刺激

天神橋筋商店街でお店の方にインタビューする参加者たち

天神橋筋商店街でお店の方にインタビューする参加者たち

プログラムには62名が参加しました。グループ参加もいれば、個人でエントリーし、当日にチーム編成をしたグループもいます。1チーム4~5名で13チーム。過酷ながら学生らしい熱意と活気に溢れた3日間となりました。

初日は講師3人をお招きしてのインプットセミナー、そしてフィールドワークおよび分析などの作業と初日からフルスロットル。講師は「吉田劇場」で知られるNTTデータの吉田淳一がトップバッターを務め、世界の最新FinTechの事例を紹介。

続いて、りそなHD オムニチャネル戦略部長の吉崎智雄さんが同行の取り組みとともに「お金とは何か」「銀行とは何か」という、ハッカソンに必要な情報をインプット。3人目の講師には、オージス総研 行動観察研究所の矢島彩子さんをお迎えし、フィールドワークに向けた心構え、技術についてレクチャーしてもらっています。

その後二手に分かれて天神橋筋商店街を舞台にしたフィールドワークを実施しました。

ミッションは「買い物をする」「街の観察」「街の人にインタビュー」の3つ。天神筋橋商店街でマネーライフを体験し気づきを得ようという狙いにより、買い物の残金を所定の口座に振り込む作業も課されます。

2時間弱の限られた時間ではありましたが、学生たちは商店街で買い物をし、時には店主に、時には街行く人々にインタビューを敢行し、アイディアソンに向けたヒントを探るのでした。

18時過ぎからのフィールドワークのまとめでは、フォトエスノグラフィーや、エスノグラフィーによって得られた発見を記入する発見分析シートの作成を各テーブルで課され、20時のタイムリミットギリギリまでワークに勤しむ学生達の姿が見られました。

※1 豊洲の港から

NTTデータが新規事業の創出を目的に開催しているイベント。毎回テーマをセッティングし、テーマに沿ったベンチャー企業や関係者を招いている。各企業によるプレゼンやディスカッションなどが主なプログラム内容。 http://oi.nttdata.com/

※2 フォトエスノグラフィー

写真を何種類かのカテゴリーに分類する調査方法。分類したものを元に、調査対象の志向や傾向を知る。エスノグラフィーを使った調査は文化人類学で活用されていたが、近年はマーケティングでも使われるようになっている。

ハッカソンで終わらせないために

2

<2日目>拡散、拡散、収束、収束

ロール分析マップに取り組む参加者たち

ロール分析マップに取り組む参加者たち

2日目と3日目はアイディアソンとハッカソンを行います。

2日目は朝一番で昨日の振り返りをした後は、16時までひたすらアイディアソン。アイディアを出す「発散」と出たアイディアを組み合わせる「収束」を繰り返す作業です。ハッカソンのアレンジは、株式会社HackCampの矢吹博和さんが担当しました。

この日実施したのは「ロール分析マップ」「フューチャーランゲージ」「ブレインライティング」3つの手法です。

ロール分析では「お金」をテーマに、お金の役割と社会的・文化的背景をとことん因数分解し、新たな役割の発見に向けてアイディアをつないでいく作業を実施。フューチャーランゲージは「まだないサービスに言葉を与え」ようとするワークで、ありたい未来像と現状の課題をつなぐ「パス」から具体像を描き出していくワーク。ブレインライティングは「沈黙のブレスト」と呼ばれるもので、話すのではなく、書くことでアイディアを拡散していくブレスト方法。

いずれもそのつど、一旦議論をご破産にしてイチから拡散、収束を繰り返すため、学生たちの脳には相当な負荷がかかったかもしれません。

しかし、その後抽出したキーワードやアイディアなどを図にした「アイディアスケッチ」や、サービスを利用することで得られるユーザーの体験を洗い出す「体験スケッチボード」は精度が高く、各チームによるアイディアスケッチの中間発表を聞いた東社長は「まだまだ完全に固まっていないが、金融を面白く、楽しくしてくれるようなアイディアばかり。(最終日の)プレゼンに向けて絞り込んでいってほしい」とエールを贈ります。

その後、アイディアソンからハッカソンへ移った際には、疲れが出ているにも関わらず、学生達のテンションはアップします。ハッカソンに先立ち、プロトタイピングで使用するツール「Prott」を提供するGoodpathの佐宗純さん、RIDE DESIGNの濱田浩嗣さん、エンジニアの松本雅博さんの3人がメンターとして紹介されました。

佐宗さんからはProttの基本的な使い方の説明と、UXが重視される現代において、いかにデザインが重要であるかの解説がありました。佐宗さんは「デザインとは総合的な計画、設計そのものであり、一般的に言われる“見かけ”はごく一部にすぎない」と話しています。

アイディアがまとまったチームはProttに仕込む素材作りやインターフェイスの作成に取り組みますが、まとまり切っていないチームはもう一度アイディア出しを最初から始めるなど、進捗具合はかなりバラつきがあります。

結局20時の閉場までにアイディアが固まらず、「夜を徹して一から考え直します」というチームも複数ありました。矢吹氏は「対立もせず簡単にチーム全員の意見が一致したアイディアは、あまり良いものじゃないことも多い。一度立ち止まって考え直すのは決して悪いことじゃない」と学生たちを励まします。

<3日目>ハッカソンを制したのは……

プレゼンテーションの様子

プレゼンテーションの様子

3日目はそのまま朝からハッカソン続行。正式な3日目オープンは10時でしたが、スタッフが準備を始める9時にはメンバー全員が会場に揃うチームもあり、緊張感が伝わってきます。

作業の終了時間は15時30分。1チームにつき、3分のプレゼンと2分の質疑応答が割り当てられます。プレゼンの3分が経ってしまうと容赦なく中断となるので、プレゼンの練習も欠かせません。緊迫したタイムアップまでの時間を終えて、無事13チームがプレゼンテーションを行うことができました。

荒削りで穴が目立つところもあったり、完成度は高いもののビジネス化へのイメージができないなど、発表されたアイディアはパーフェクトなものではありませんでしたが、「社会を変えたい、良くしたい」という若者らしい情熱に溢れたものばかり。審査員は、株式会社オージス総研常務取締役の出馬弘昭さん、シナジーマーケティング株式会社 代表取締役の谷井等さん、株式会社PALの代表取締役の辻有吾さん、NTTデータ オープンイノベーション事業創発室 室長の残間光太朗です。

プレゼンでは、審査員から、アイディアの良い点、改善点などについてコメントがあり、学生達は焦燥の面持ちながらもどこか誇らしげな様子。審査結果の発表で最優秀賞に輝いたのは、チーム3の「ATM Revolution」、優秀賞はチーム8の「フレンズファンディング FRISENT」が選ばれました。

「ATM Revolution」は自動販売機にATM機能を持たせ、小口現金を引き出すことができるサービスです。「フレンズファンディング FRISENT」は知人・友人へのプレゼントをクラウドファンディングで購入し、贈るサービス。SNSにアドインさせる形を想定しています。

残間は講評で「自分たちの“こんなことをやりたい”というニーズと、社会の現場のニーズをみごとに融合して実現しようとしており、レベルの高さはあっけにとられるほどだった」と高く評価しています。「『ATM Revolution』は、まさにシュンペーターが言うイノベーションそのもの。自動販売機という日本特有の技術、文化が「世界に爆発的に広がっていく可能性を感じた。『FRISENT』については、自費でシリコンバレーに行く価値があると思う。アイディアの実現はスピード勝負。すぐFacebookへ売り込みに行ってください(笑)」と太鼓判を押しました。

チーム3のメンバーは理系の院生を中心に構成されています。メンバーの一人は「自分が研究するテーマでハッカソンを開催してみたい」と、自分とは異なる意見を取り入れられる、ハッカソンの面白さに目覚めたようです。チーム8は、学部のゼミつながりの2回生から4回生がメンバー。「事前のインプットがあったからここまでできた」「今後は、社会に良い影響を与える仕事や活動をしてみたい」という感想が聞かれました。

最優秀賞に輝いたチーム「ATM Revolution」

最優秀賞に輝いたチーム「ATM Revolution」

最後には会場での懇親会も催されました。審査員からはさらに細かな講評とともに、学生たちへの熱いエールが贈られています。また、学生同士でエール、メッセージの交換も熱心に行われ、それぞれが次の一歩に向けた思いを新たにしたようです。

りそな銀行の奥田さんは「学生達が、集中的に取り組めば良いアイディアを出すポテンシャルを持っていることは分かっていた。あとは、このイベントをただのお祭り騒ぎに終わらせずに、次のステージへと上げていきたい」と語ります。

そのために、りそなHDは、審査員に加わったメンバーが所属する企業の協力も仰いでいく予定です。今後、このMEET UP KANSAIがどんなイベントに成長していくのか、ひいては、関西にどんなビジネスの未来を描き出していくのか。興味は尽きません。

※1 Prott

予め取り込んだ画像を使って、画面遷移などの動作を確認できるアプリケーション。直感的に操作でき、複数人で情報を共有できる。 https://prottapp.com/ja/

※2 UX

User Experienceの略。サービスを使用することによってユーザーが得る経験や感覚、反応などのこと。

※3 シュンペーター

ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター。オーストリア出身の経済学者。企業者が導入する新機軸(イノベーション)が経済発展の動力であるというようなイノベーション論を唱えた。1983〜1950年。