|INFORIUM|NTTデータ https://inforium.nttdata.com テクノロジーと未来をつなぐ。わたしたちは、未来につながる予見力と、最新のテクノロジーで、社会の変革に取り組み、さまざまな知恵を紡ぐ共創活動を通じて、新たな価値の創造をめざしています。その源泉は、ひとり一人の「知恵」や「強い想い」です。だからこそ、新たな変革を生み出す最前線で活躍する「人」に焦点をあて、読者のみなさんと、ともに考え、行動し、より良い未来の姿を探求したいと考えています。INFORIUM(インフォリウム)とは、INFORMATION(情報)とATRIUM(人が集まる開かれた空間)を合わせた造語です。情報を伝えるだけでなく、さまざまなイベントの場を通じて、知恵と知恵とのコラボレーションを触媒し、テクノロジーの力で、人や社会にとっての幸せを広げる、わたしたちのプラットフォームです。 Thu, 29 Jun 2017 01:27:02 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.4.7 市場拡大を続ける無人航空機ビジネス https://inforium.nttdata.com/focusedissue/uas_business_idea.html Thu, 15 Jun 2017 02:29:51 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2613 40年以上の知見を活かしUAS市場に挑む

2017年4月。NTTデータが新たに立ち上げた「UASビジネスグループ」は、「UAS」を活用した事業の企画立案を行う部署です。40年以上の長きにわたり、有人機用の航空交通管制システムを提供し続けてきたNTTデータ。その知見とノウハウを活かし、世界的な盛り上がりを見せるUAS市場に参入していきます。

現在このUAS市場には大きく3つの領域があります。ひとつ目は、ドローンをはじめとするUASの機体そのもの、すなわちハードウェアを中心に扱う領域。ふたつ目は、ネットワークを扱う領域。そして3つ目が、運航管理を行うFOSや空域・交通管理を行うUTMといったセンターシステム、すなわちソフトウェアを中心に扱う領域です。

この3つの領域のなかでUASビジネスグループはソフトウェアの領域、とくにFOSやUTMのシステムに注力した事業展開を考えています。その第一歩として、2017年10月には「airpalette UTM」というUAS専用運航管理・交通管理システムの提供を開始する予定。すでに、民間企業や地方自治体での導入が始まっていて、国内市場はもちろん、アメリカやヨーロッパ市場を視野に入れシェアの拡大を目指していきます。

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UAS市場における3つの領域。FOSやUTMのシステムを使用した場合、指示は左から順に伝わる

2020年には世界で1兆円の市場規模にまで成長すると予測されるUASビジネス。
今後、苛烈な競争が待ち構えているであろうこの領域で、NTTデータはどのように戦っていくのか。UASビジネスグループの伊神惠(いかみ・けい)と吉井洋平(よしい・ようへい)に話を聞きました。

拡大を続ける無人機ビジネスの市場

───まず、UAS市場の変遷を教えてください。

吉井 2001年の9.11テロをきっかけに、軍事利用を目的としたUAS開発がさかんになりました。2010年ごろには、エッジコンピューティングの技術革新により、ホビー用のドローンが開発され、市場が一気に盛り上がってきたんです。また搭載機能やWi-Fiの開発が進んだ影響で、操縦に関する特別な訓練なしに誰もが簡単にドローンを扱えるようになりました。

伊神 現在では、さまざまなビジネスに活用される業務用ドローンも増えてきています。ハードウェアが進化したことで、広大な土地の測量や危険な場所の点検など、精緻な技術が求められる分野にも続々とドローンが導入されるようになったんです。今後もかなりのスピードで技術革新が進み、市場規模も成長を続けていくことが予想されます。

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

───現状、市場を席巻している国や企業はあるのでしょうか?

伊神 ハードに関しては中国の「DJI」が世界一のシェアを誇っています。ただ、世界中のスタートアップ企業が参入してきているので、情勢は変化する可能性が大きいです。

一方、ソフトの領域ではいまだ圧倒的な競争力を発揮している国や企業はありません。というのも、FOSやUTMといったシステムの要請が高まったのは、ドローンが業務用に活用されるようになった背景があるからなのです。その歴史はまだ浅いうえ、参入している企業もハードウェアと比較すればさほど多くはなく、シェアや技術力はいまだ横並びいった状況です。

───世界的に見て、NTTデータのような大企業がUASビジネスに参入することは珍しいのでしょうか?

伊神 たしかに、アメリカやヨーロッパでUAS事業に取り組んでいるのはスタートアップ企業がほとんどです。ただ、かなりの額の資金を調達していたり、インテルやマイクロソフトといった世界的企業が支援していたりするので、ひとくちに言える状況ではありません。今後は、スタートアップや大企業を問わず、多くの企業が参入してくることが予想されます。

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

NTTデータが目指すのはUTMのマルチベンダー

───NTTデータはUASビジネスのなかでもソフトウェア、とくにFOS及びUTMに注力して事業を行っていくとのことですが、その背景や理由について教えてください。

伊神 そもそもNTTデータが、ITプラットフォームサービスの提供を主な事業としてきた背景があります。さらに、UASビジネスグループが属している第一公共事業部は、長年有人機の航空交通管制システムを提供してきた実績があります。その知見やノウハウを活かすという面でも、運航を管理するFOSや、空域・交通を管理するUTMの領域でチャレンジしたいと考えました。

吉井 また市場調査を進めるなかで、特定の業務に対してドローンそのものからそれを管理するシステムまで「垂直統合」で提供している企業が多いことが判明しました。そのなかでNTTデータの知見を活かせば、さまざまな業界を横断するマルチベンダーとして事業展開できるのではないかと考えたんです。

───具体的に、有人機のシステムで培った知見やノウハウは、UASビジネスにどのように活かせるのでしょうか?

伊神 NTTデータが海外展開のために立ち上げたソフトウェアブランド「airpalette」では、衛星写真を活用して、地形や障害物を3Dで再現するというソリューションを提供していました。その技術はUASの分野でも活用できると考えています。

───世界中の企業が市場に参入してくるなかで、NTTデータが差別化をはかるポイントはどういった点なのでしょうか?

伊神 最大の差別化ポイントは、効率と安全の両立ができることです。現在市場に参入している企業の多くは効率性やフライトの自由度を最優先している印象があります。しかし我々のように、航空交通管制システムの開発に長年携わっている立場からすると、空域という限られた公共資産をいかに安全に活用するかということが第一なんです。そのための知見やノウハウを持っている企業は、国内外を見てもNTTデータ以外にはほぼありません。

吉井 実は、ドローンが飛行する高度150メートル以下の空域には、ドクターヘリやセスナ機といった有人機も飛び交っています。もしドローンが効率性や自由度ばかりを重視したフライトをすれば、取り返しのつかない大事故につながりかねません。空の安全を守るためにも、NTTデータが率先して空域・交通を管理するUTMの領域に取り組んでいきたいんです。

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている(リンク:airpaletteウェブサイト)

日本はUAS市場でイニシアチブを握れるのか?

───日本はIT分野でのグローバル展開に出遅れていると思うのですが、UASの分野でイニシアチブを発揮できる可能性はあるのでしょうか?

伊神 これまで日本がIT分野で世界に遅れをとってきた最大の原因は、はじめからグローバルな市場を想定していなかったことだと考えています。日本そのものが裕福な国ですから、国内市場で成功するだけでもある程度の利益が得られるわけです。するとどうしても日本市場を軸足に事業を進めてしまい、結果的に海外展開に遅れをとってしまいます。

そこで我々は、一からグローバルな市場で事業展開を進めていこうとしているんです。とてもチャレンジングなことですが、そうでなければ生き残っていけないと思います。

───チャレンジングな状況のなかで、NTTデータが解決しなければならない課題はありますか?

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吉井 国内外問わずさまざまな企業がドローンを開発するなか、種類や形状、機能や飛行速度などは多種多様になっていきます。グローバルなマルチベンダーを目指すNTTデータにとって、それぞれの機体の特性を踏まえたうえで、いかに空の安全を担保するシステムに落とし込んでいくかということが大きな課題です。ただ、NTTデータには有人機の分野でメーカーに依存しないソリューションを提供してきた実績がありますから、その知見を活用して解決できる課題だとも考えています。

無人機の進化が叶える便利な社会

───UASビジネスは今後どのような発展を遂げていくのでしょうか?

伊神 たとえば、詳細な気象情報のデータを集めることでよりピンポイントな天気の予想が可能になるかもしれません。我々の事業で言うと、現在は衛星画像を使って再現している3D画像を、UASが収集してきた地形や障害物のデータを活用して、より詳細で精密なものに進化させることができるのではないかと考えています。

───今後、ハードもソフトもUASの技術が進化し続けていくなかで、どんな社会が実現できると思いますか?

伊神 地方や過疎地にUASで荷物を運搬したり、危険をともなう作業をドローンが代わりに行ったり、さまざまな公益をもたらしてくれるでしょう。また災害発生時に、いち早く被害状況を把握するための手段としても活用できます。今後、さまざまな企業や事業者とパートナーシップを組み、UASが効率的かつ安全に社会のために活用されるようなエコシステムを構築していくのがNTTデータの使命だと考えています。

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地方を支えるシェアリングエコノミー https://inforium.nttdata.com/focusedissue/sharing-economy.html Tue, 09 May 2017 02:43:29 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2525 グローバルに拡大するシェアリングエコノミー市場

「シェアリングエコノミー」とは、スマートフォンの普及やソーシャルメディアの発達によって急速に発展した、モノやサービスなどを交換・共有することで成り立つ新しい経済の仕組み。欧米を中心に目覚ましい進展を遂げ、世界中のライフスタイルに変革をもたらすと言われています。シリコンバレーを起点として、市場規模はグローバルに拡大。2014年度に約233億円だったシェアリングエコノミーの国内市場規模は、2018年までに462億円まで拡大すると予測されています。(出典:平成28年版情報通信白書 P139

シェアするのは、空間やモノから、移動手段、お金、育児・家事といったスキルまで様々。世界では空き家を活用して宿泊場所を提供する民泊や、一般ドライバーの車に相乗りして目的地まで移動するライドシェア、個人の所有するモノや専門的なスキルを提供するサービスなどが活用され、日本でもあらゆる分野で新たなサービスが生まれています。

(引用:シェアリングエコノミー協会資料)

(引用:シェアリングエコノミー協会資料)

こうしたすでにあるモノや人といったリソースの稼働率を上げることが経済全体を活性化する、という効果を期待できます。また、多くのスタートアップ企業によって生まれた新しいソリューションやイノベーションは、超少子高齢化時代を迎える日本の課題を解決に導く可能性も秘めています。シェアリングエコノミーの台頭によって、今まさに産業・社会のパラダイムシフトが起こりつつあるのです。

遊休資産の見える化を新たなビジネスに

日本のシェアリングエコノミーを先導する企業の一つとして、今注目を集めるのが2014年4月に創業した、株式会社スペースマーケットです。「世界中のあらゆるスペースを自由に流通させ、新たな価値を創造する」ことをミッションとし、古民家、映画館、お寺、球場、自治体の公共施設など、多種多様な場所を貸し借りできるプラットフォームサービスを展開。

当初は100件ほどだった掲載施設は、今や1万件を突破し、月間の問い合わせ件数は2,000件以上にのぼります。急成長するこの事業は、どのようにして生まれたのでしょうか。重松大輔社長は、「シェアという概念に大きな可能性を感じたことが起業のきっかけになりました」と話します。

重松大輔(しげまつ・だいすけ) 株式会社スペースマーケット代表取締役。1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画し、新規事業、広報、採用などを担当。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の遊休・空きスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事。

重松大輔(しげまつ・だいすけ) 株式会社スペースマーケット代表取締役。1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画し、新規事業、広報、採用などを担当。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の遊休・空きスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事。

「前職ではウェディングのビジネスを立ち上げましたが、結婚式場に営業に行ってもどこも平日はガラガラ。支配人の方に『お客さん連れてきてよ』とか『平日に利用する会社を紹介してよ』といった相談をよく受けていました。自分たちの会社に目を向けると、結婚式場とは逆で、土日にセミナールームが空いていました。自分自身も外部の会議室やセミナールームを借りて採用活動を行った経験があったので、お金払ってでも借りたい会社はあるはずだと。潜在的な空きスペースが見える化されると商売になるのでは、と思いました」

「一方で、海外のビジネスを研究していると、アメリカで『Airbnb』が伸びていて、そのイベントスペース版やミーティングスペース版もたくさん出てきていました。既存の企業の持ち物だけでなく、個人のモノが貸し借りされるという大きなトレンドがあり、『これは来るな』と思って、スペースを貸す事業を始めたんです」

当時日本ではまだシェアリングエコノミーという言葉は浸透していませんでしたが、重松社長は、サービスを始めた直後から次第に耳にするようになったと言います。それによって「自分がやりたいことはこれだ」と再確認できたそうです。

「当時、会議室の検索サイトはたくさんありましたが、私が求めていたのはちょっと違いました。というのも会議室だけでなく、あらゆるスペースの遊休時間を活用しながら、ITを駆使して検索から予約、決済まで一気通貫でできるようなサービスECがやりたかったんです」

「会議室を検索できるだけでは、誰もときめかないですよね。スペースを探す人は、今まで借りたいけど借りられなかったような場所が簡単に借りられる。スペースを貸す人にとっては、空いていた時間帯が稼働し始める。そっちの方が断然楽しいだろうなと、自分の中ではっきりとしたイメージが見えていました」

シェアの概念が一気に日本に入ってきたことは、スペースマーケットの事業の成長を大きく後押ししました。「この波にうまく乗って、なんとかビジネスを立ち上げることができました」と笑顔を見せる重松社長。日々を過ごす中でも、シェアリングエコノミーの広がりを実感しています。

「ここ最近、メディアでこの言葉を見ない日はないですよね。まさに個人が主役になる新しい経済の仕組みであり、これによって今まで使い道がなかったリソースがどんどん稼働し始めています。身の回りのあらゆるところで効率化や合理化が進んでいることをすごく感じますね」

シェア事業者の連携でスピーディーに課題を解決

まだ発展途上にあるシェアリングエコノミーには、現状の法規制では対応が難しいといった課題もあります。この新たな市場が日本経済を支える仕組みの一つになるためには、事業者同士の連携も必要です。そこで、重松社長と、地域体験シェア事業「TABICA」を展開する株式会社ガイアックスの上田祐司社長が中心となり、2016年1月に一般社団法人シェアリングエコノミー協会が設立されました。32社から始まった会員数は現在約130社と、1年で4倍以上に。日本のシェアリングエコノミーの広がりが、この数字からも見えてきます。

シェアリングエコノミー協会のサイトトップ

シェアリングエコノミー協会のサイトトップ

「新しいビジネス領域なので、どの事業者も手探りでやっているんですが、ぶち当たる課題って同じだったりするんです。また行政サイドとしても、一社ずつ相談に来られるより、まとめて一度に来てもらったほうが、効率がいい。こういうニーズや問題があるというのをとりまとめることで、事業者同士が共有できるだけでなく、一気に解決へとつなげることもできるんです。新たなビジネスゆえに既存の法規制との間にあるギャップが問題になっていますが、スピーディーに解決するためには団体を作ることが不可欠でした」

普及活動の一環として、2016年7月から11月に開催された内閣官房IT総合戦略室、経済産業省、総務省が集まる「シェアリングエコノミー検討会」に同協会も参加。シェアリングエコノミーサービスに関する自主ルール策定の必要性や既存の法律の問題点などについて、直接意見を述べました。このほか、民泊新法に対して意見書を提出したり、環境省との意見交換会に参加したりするなど、政府や官公庁との情報交換や提言に力を注いでいます。

また事業者同士の交流も活発で、同年11月には国内外から有識者を招き、日本初の「シェア経済サミット」を開催。隔月で会員同士の勉強会も実施し、現状や課題を互いに共有しながら企業の垣根を越えて学び合っています。

「シェアリングエコノミー市場は、アメリカは当然のこと、今中国がすさまじい勢いで成長しています。世界的に見ても日本は圧倒的に遅れている。そこをみんな何とかしたいと思っているんです」

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交通系ICカードから電子マネーへ https://inforium.nttdata.com/focusedissue/trafficcard_emoney.html Mon, 10 Apr 2017 05:00:00 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2351 センターサーバー型に進化

椎橋章夫さんは、鉄道に限らないICカードの利用について、構想段階から実現まで携わっています。現在は、JR東日本メカトロニクス株式会社の代表取締役社長を務めています。

JR東日本メカトロニクス株式会社 椎橋章夫代表取締役社長。1953年埼玉県生まれ。1976年埼玉大学工学部機械工学科卒業。同年、日本国有鉄道入社。1987年、民営・分割化により東日本旅客鉄道株式会社入社。本社設備部旅客設備課長、同Suicaシステム推進プロジェクト担当部長、執行役員 IT・Suica事業本部副本部長などを歴任、Suicaプロジェクトの指揮を執る。2012年JR東日本メカトロニクス株式会社入社。2006年、東京工業大学大学院(博士課程)修了。工学博士。

JR東日本メカトロニクス株式会社 椎橋章夫代表取締役社長。1953年埼玉県生まれ。1976年埼玉大学工学部機械工学科卒業。同年、日本国有鉄道入社。1987年、民営・分割化により東日本旅客鉄道株式会社入社。本社設備部旅客設備課長、同Suicaシステム推進プロジェクト担当部長、執行役員 IT・Suica事業本部副本部長などを歴任、Suicaプロジェクトの指揮を執る。2012年JR東日本メカトロニクス株式会社入社。2006年、東京工業大学大学院(博士課程)修了。工学博士。

───Suicaは現在、どれくらい普及しているのでしょうか。

全国での相互利用が開始しましたので、北から南まで、政令指定都市にあるバスや鉄道は基本的にどこでも使えるようになりました。カードの発行枚数は相互利用が可能な全てのカードを含めて、およそ1億枚。その半分以上の約6,500万枚がJR東日本のSuicaです。

このような状況ですから、Suicaはもう社会インフラになったのかな、という気がします。交通機関の利用にプラスして、今では生活サービスに広がっています。最近ではビル入退館システムにおける利用など、以前とは違った「認証」という使い方もされています。

───Suica導入で陣頭指揮を執った椎橋社長は、今新たな構想を描いていると伺いました。

仮称「eMoney(イーマネー)」と呼んでいるものですね。eMoneyの着想に至ったのは、交通系ICカードがこれだけ巨大なインフラになるとサービスを1つ付加するだけでも、非常に大変な作業になるという問題認識からです。多数の端末を改修するだけでなく、センターサーバーもソフトウェアを改修しなければならない。カードも折に触れてセキュリティなどを上げてバージョンアップをしています。

これをもう少し簡単にしないと、新しいサービスが事実上付加できなくなるのではないか、そうした危機感がありました。そこで、処理能力が大きいセンターサーバーにもっと仕事をさせようと思ったのです。

クラウド型ID認証システムの模式図

クラウド型ID認証システムの模式図

端末とカードの負荷をもっと下げて、シンプルで簡素なシステムを目指しています。このため、端末側の処理を全部センター側に持っていってしまおうとするものです。それがeMoneyと呼ぶシステムです。別の言葉に言い換えると、「クラウド型ID認証システム」ということになります。

───センターサーバーに仕事をさせられるようになったのは、何が一番の理由だったのでしょう。

一番の決め手は、ネットワークがかなり進化してきたということです。ネットワークが高速になり、しかもコストが下がってきました。センター側にもクラウドという概念が登場しました。

このようなサーバーが安価に借りられる環境も出てきたのも大きいです。以前はやろうとしてもなかなかできなかったことですから。

新しい社会の姿を見据えて

───著書『ペンギンが空を飛んだ日—IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル』(交通新聞社新書)の中で、交通系ICカードが最初は切符として続いて様々な決済に使われていき、ゆくゆくは社会インフラになる構想が当初からあったと解説がありました。eMoneyもそのビジネスモデルの流れ上にあるものですか。

Suica導入時に示された、三重円のICカード展開図。鉄道事業から始まり、その他の事業を手がけるグループ企業、徐々に社会へと浸透させていく構想が当初から描かれていた

Suica導入時に示された、三重円のICカード展開図。鉄道事業から始まり、その他の事業を手がけるグループ企業、徐々に社会へと浸透させていく構想が当初から描かれていた

そうです。なぜ、こうした三重円のモデルで考えなくてはいけなかったのか。それは「移行期間」があるからです。

Suicaが世に出る前は、磁気券のお客様がほぼ100%でした。そこにICが数%入ってきて、今ではICが93%位まで達している。そういう世界になるまでには、磁気とICの両方を使える環境が必要でした。しかし、両方に使えるということは二重投資になるのです。

新しい社会の姿を語る時は「今ここでICという機能を入れておかないと、こういう未来が訪れませんよ」と二重に投資をする理由を多くの人に示し、理解してもらわなければなりません。

───そのための構想図だったのですね。では今後、eMoneyはどのように普及していくのでしょうか。

私が最初にイメージしているのは、「IDを認証する」だけのシステムです。例えば、決済済みのアミューズメントチケットなど、すでに支払いが済んでいるものとIDを紐付けしておくと、その日、その時間に劇場に行き、端末にタッチ(認証)するだけでいいですから。

その次の段階では、タッチをしたらセンターで支払いと座席指定を同時にする、といった処理をする。こうして徐々にハードルを上げていき、最後はネットワークを通じてセンターで運賃の計算と決済をするようなシステムにつなげられればいいな、と思っています。

今、実験レベルとして、一番難しい改札機で試験しているところです。当社のビル内に仮想の駅を作って、5~6キロ離れた地点にワークステーションを置き、光回線を使い処理が何秒でできるかを試験しました。

現在の新宿駅や東京駅の改札機が約0.2秒で処理しているのですが、この試験の結果は肌感覚的にはそんなに変わりませんでした。ただし、正常処理の場合です。Suicaもそうですが、世の中の一般的なシステムは異常処理にどう対応するかというソフトの作り込みが重要です。

そうは言っても、試行結果から考えると「これはいけそうだ」という感触を得ました。そう遠い世界の話ではなくて、きちんと作り込んでいれば、必ずeMoneyのシステムが実現できると感じています。

───ものすごく大量の処理には対応できるものでしょうか。

アクセスも大量に来ますから、それはこれから色々と検証していかなければならない重要な課題ですね。

物理的な距離がものすごくある場合にも、いわゆるデータ通信だけで時間がかかります。だから端末をある程度まとめて、中継サーバーを置いた方がいいというシステムも考えています。全てがクラウドではなくて、エッジコンピューティングで処理するというのも、今日の潮流としては正解ではないでしょうか。

普及までに見えてきた課題

───鉄道に限らず、クルマにガソリンを入れるとか、船に乗るとか、飛行機とか、eMoneyがいろんな交通やサービスに繋がっていくようになると、どんな未来が訪れるのでしょう。

まず、1回のタッチで複数のサービスを提供できる可能性があると思っています。例えば、スマホの中に入ったeMoneyの特急券で改札をタッチしながら、到着地の観光情報をスマホに送信する、といった具合ですね。

今まで別々にやっていたことが、センターサーバーだとその連携がやりやすいのです。できるかできないかはこれからの取組み次第ですが、「夢」を含めて可能性があると思っています。

───チケットについては以前からeMoneyでコンサート会場での実証実験もされていますね。これから徐々に広がりを見せるものでしょうか。

2016年9月4日に行われたクラシック・コンサート「NTT DATA CONCERT OF CONCERTS」では、ICカードを入場チケットとして活用する実証実験が行われた

2016年9月4日に行われたクラシック・コンサート「NTT DATA CONCERT OF CONCERTS」では、ICカードを入場チケットとして活用する実証実験が行われた

そうなるといいですね。2020年のオリンピック・パラリンピックでは海外から人が大勢来ますから、試験的な形でもいいので、日本発の交通系ICカードによる質の高い社会インフラを見せたいところです。

例えば、選手村とか、役員スタッフが使うものとか、そういった形で実現できないのかなと。おそらく来日したスタッフも東京の中を自由に動き回りたいでしょうから、フリーエリア乗車券付きの入退館証、大会役員用の身分証のようなものを提供させてもらえたらいいと思っています。

───eMoneyに関して、これから乗り越えようとしている壁はありますか。

まずは、IDの登録を簡単にするにはどうすれば良いか、という課題があります。利用者IDをセンターサーバーに登録しておかないとサービスできないですから。

ICカードを発行する前に、IDを事前にセンターサーバーに登録しておくという方法も考えられます。この場合、「お手持ちのICカードが使えます」と言えるのは利点です。

社会インフラに育てるには、もっともっと簡単にして、持ったらすぐにサービスが受けられるというようにしないといけません。少しずつ便利さを実感してもらえれば、段々と広がって行くと思います。

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「ユーザー中心」でサービスを生む https://inforium.nttdata.com/foresight/service-designing.html Fri, 14 Apr 2017 04:59:00 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1920 初心者のデザイン思考の学習に寄与

“エンドユーザーを理解し、その価値観を中心に据えてサービスをつくる必要性が増している。特に、ユーザーが明確に意識できていない潜在的なニーズをつかみ取ることが重要になっている。そのための方法論が「デザイン思考」と呼ばれる考え方だ”

NTTサービスエボリューション研究所が作成した冊子『「ヒトから学ぶ」サービスづくりのためのCo-Creation Method 1時間から始める実践と学習ガイド』の冒頭にはこういった解説があります。

NTTグループによる活用を想定したこの冊子の開発を担当したのは、同研究所のユニバーサルUXデザインプロジェクトのメンバーです。

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 木村篤信 主任研究員

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 木村篤信 主任研究員

───サービスエボリューション研究所では、どのような研究をしているのですか。

木村 私たちはユーザーを中心とした考え方に基づいて「ユーザーに喜んでもらえる価値をつくる方法論」や「イノベーションを生み出す方法論」を研究しています。

これまで、ユーザー中心に関する取り組みは専門家が暗黙的なノウハウを活用しながらサービスづくりを行っていました。そこで研究所では、ユーザー中心の考え方を知らない初心者でも取り組めるように、ノウハウの形式知化を目指して研究開発を行っています。

その成果の一つが、提供を開始した「Co-Creation Method (コ・クリエーションメソッド)」です

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクトが開発した、ユーザー中心の考え方を実践形式で体験できるガイドブック。サービスづくりにまつわる7つの悩みを選択し、1つの悩みに対応したワークが1時間以内で完結するように設計されている

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクトが開発した、ユーザー中心の考え方を実践形式で体験できるガイドブック。サービスづくりにまつわる7つの悩みを選択し、1つの悩みに対応したワークが1時間以内で完結するように設計されている

すでにNTTデータを含む事業会社のビジネスの現場で活用していただいており「世の中にあるほかの手法と比べて、初心者の学習と実践に役立つ」とのフィードバックをいただいています。今後も現場の方々と連携しながらブラッシュアップしていきたいと考えています。

───NTTの研究所が、通信技術に直結しないようなデザインの方法論や手法(ツール)を研究しているのは少し意外でした。

木村 ユニバーサルUXデザインプロジェクトの歴史を辿ると、元は電話交換機の時代にまでさかのぼります。「複雑でミスの起きやすいネットワークオペレーションシステムでの作業時にヒューマンエラーをなくすにはどうしたら良いか」を私たちのチームが研究対象としていました。

インターネットが普及すると、今度はウェブを操作するときのアクセシビリティやユニバーサルデザインが研究対象となり、ガイドラインなどを作成してきました。いずれもユーザーにとってはマイナスだった体験をいかにゼロにするかという発想です。

弊社においても2010年前後から、サービスをつくるときに「ユーザーにとってより良い体験をつくること」が求められるようになりました。その結果、これまでのユーザーを理解するための研究で得た知見を、ユーザー体験の設計に活用する方法論の研究に着手しています。ユーザーにとってはゼロをプラスにするといった発想です。

それが、現在取り組んでいる、ユーザー中心、UXデザイン、サービスデザイン、デザイン思考といった考え方の研究になります。

───UXデザイン、サービスデザイン、デザイン思考といった考え方は、NTTグループにどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

木村 サービス企画部門やオペレーション部門に限らず、つくるサービスやシステム、マニュアルなどを使うユーザーが存在する業務であれば、どのような部門でも役立てられます。

とは言え、NTTは日本のメーカー各社と異なり、デザインという言葉自体に馴染みがない人が多いです。実際、私たちが事業会社のサービス企画の担当者にヒアリングしたところ、デザインの意味を意匠(ビジュアル)デザインだと捉えていて自分たちのビジネスになかなか繋がらない、と感じる方も多くいました。

───具体的に『Co-Creation Method』ではどんな工夫をしましたか。

木村 担当者が、一般的なサービス企画の業務の中で感じる「7つの悩み」がきっかけとなるような設計を行いました。

具体的には、担当者がサービス企画の悩みを感じたとき、その悩みを解決するためのワークから取りかかれる冊子の構成にしました。また、ワークの説明文などの表現にも気を使い、専門家の暗黙的な知識がなくても読めるように精査しています。

この設計によって、初心者でも抵抗感を持たずにユーザー中心のアプローチに取り組んでもらい、デザインの考え方を理解している人を増やしていきたい、という狙いがあります。

ノウハウを棚卸しして利用

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 草野孔希 研究員

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 草野孔希 研究員

草野 ヒューマンインターフェースやユニバーサルデザインだけでなく、ビジネスにもユーザー中心のアプローチを生かす動きが、この5~6年ほどで起こりました。

───サービスエボリューション研究所がNTTデータと具体的にサービスデザインに関連して連携されたのは、いつ頃からでしょう。

草野 2年ほど前に、私たちがNTTデータのCAFISの利用現場を調査したときからです。このときは、カードでの買い物を促進したり、楽しくしたりするためのUXデザインやユーザビリティを設計するための技術的アドバイスを行いました。

NTTデータに同行して都市部の大型ショッピングセンターへ行き、ユーザーの観察やヒアリングを重ね、そこから得られたデータに基づくサービスの企画に対する技術的アドバイスを行いました。

組織が新しい強みを備える

───デザイン思考が現場に入っていくことにどんな意義があると捉えていますか。

草野 例えば、以前の電話は、使うまでにいくつもの手順が必要でした。設置されている場所に行き、ユーザーがあらかじめ電話番号を覚えていなくてはいけなくて、ダイヤルをクルクル回してかけて、という具合に。

いまはユーザーがどういうことを手間だと思うかを把握したうえで、それを解決する製品を世の中に出さなくてはいけない時代です。ユーザーに深く共感して、何に困っているのかを考え、それに合わせてサービスをつくるスタイルに変えなくてはいけません。

つくられたものを使う時代から,その人が使いたいものがつくられる時代になったのだと分析しています。そのとき、デザイン思考が1つの方法論として有効だと考えています。

───NTTグループに開発を依頼する顧客も、同様の課題を持たれているのでしょうね。

草野 私たちはお客様が提供したいサービスを技術力をもって実現させてきました。しかし今は、お客様から良いサービスを提供するために、どのようなサービスを提供すると良いかを一緒に考えて欲しい、といわれる時代になっています。

最終的に使う人は誰で、その人は何を求めていて、サービス提供者はどういうものを提供しなくてはいけないのか。こうした本質的な問いに対して、私たちとお客様が一緒になって考えるための方法論を持っていれば、それが私たちの強みや競争力になり得ると考えています。

NTTグループが、ものづくりを一緒に行うSIer(システムインテグレーター)から、エンドユーザーに提供すべき価値をともに生み出す、ビジネスパートナーに格上げされていくと思うのです。

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セキュリティーは機械学習で強くなる https://inforium.nttdata.com/foresight/coolsign.html Mon, 03 Apr 2017 02:27:54 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2314 機械学習が社会に根づくための条件とは?
(右)早稲田大学 理工学術院  松本隆(まつもと・たかし)名誉教授 1966年、早稲田大学理工学部電気工学科を卒業し、ハーバード大学大学院へ進学。1970年に応用数学修士(ハーバード大学)、1973年に工学博士(早稲田大学)。1977~79年にカリフォルニア大学バークレー工学部電気工学・計算機科学研究員。早稲田大学理工学部の助教授・教授を歴任。IEEE Life Fellow、Proceedings of IEEE編集委員、国際署名認証コンテストSVC2004審査委員、各種学会の委員会委員・委員長なども務める。1999年には早稲田大学の研究室で開発した電子サイン照合技術を特許申請するとともに、クールデザイン社を設立。現在は同社副社長として、同社の研究開発を統括している。 (左)NTTデータ数理システム 取締役 中川慶一郎(なかがわ・けいいちろう) 1992年、早稲田大学大学院理工研究科修士課程修了後にNTTデータに入社。2000年、早稲田大学大学院理工研究科機械工学専攻博士課程満期退学(工学博士)。NTTデータではオペレーションズ・リサーチ、応用統計を専門とする研究に従事したのち、ビジネスデータ・アナリティクスのコンサルティングから技術開発まで幅広く担当。ビジネスインテリジェンス推進センタ センタ長などを歴任し、2013年より現職。途中、大阪大学経済学部非常勤講師、早稲田大学大学院創造理工学部非常勤講師、明治大学商学部特別招聘教授を兼職する。また、日本オペレーションズ・リサーチ学会(副会長)や日本経営工学会などの学会でも積極的に活動している。

(右)早稲田大学 理工学術院  松本隆(まつもと・たかし)名誉教授 1966年、早稲田大学理工学部電気工学科を卒業し、ハーバード大学大学院へ進学。1970年に応用数学修士(ハーバード大学)、1973年に工学博士(早稲田大学)。1977~79年にカリフォルニア大学バークレー工学部電気工学・計算機科学研究員。早稲田大学理工学部の助教授・教授を歴任。IEEE Life Fellow、Proceedings of IEEE編集委員、国際署名認証コンテストSVC2004審査委員、各種学会の委員会委員・委員長なども務める。1999年には早稲田大学の研究室で開発した電子サイン照合技術を特許申請するとともに、クールデザイン社を設立。現在は同社副社長として、同社の研究開発を統括している。
(左)NTTデータ数理システム 取締役 中川慶一郎(なかがわ・けいいちろう) 1992年、早稲田大学大学院理工研究科修士課程修了後にNTTデータに入社。2000年、早稲田大学大学院理工研究科機械工学専攻博士課程満期退学(工学博士)。NTTデータではオペレーションズ・リサーチ、応用統計を専門とする研究に従事したのち、ビジネスデータ・アナリティクスのコンサルティングから技術開発まで幅広く担当。ビジネスインテリジェンス推進センタ センタ長などを歴任し、2013年より現職。途中、大阪大学経済学部非常勤講師、早稲田大学大学院創造理工学部非常勤講師、明治大学商学部特別招聘教授を兼職する。また、日本オペレーションズ・リサーチ学会(副会長)や日本経営工学会などの学会でも積極的に活動している。

───いま世の中では「機械学習」が注目されています。すでに画像処理や言語処理などで目覚ましい成果をもたらすようになり、さまざまなビジネス分野への適用も始まりました。そんな機械学習は、私たちの社会をどのように変えつつあるのでしょうか。

松本 人間が機械に何かをやらせようという試みは、はるか昔から行われてきましたが、機械に学習をさせることはまだ始まったばかりでしょう。

いまのところ機械学習に「これだ」という明確な定義はなく、学問領域としての人工知能、統計学、コンピュータサイエンス、画像・音声認識など、いろいろな領域が機械学習は自分たちの領域の一部だと考えているように見受けます。これら複数の領域の共通部分であるがゆえに、大きな流れになっているのではないかと思います。

しかし、それぞれの領域における共通項を括り出していくと、機械学習とは「与えられたデータから未知の構造を学び取る」ということに集約できると思います。そこから「予測」「認識」「検知」「判別」「制御」といった機械学習の適用分野が見えてきます。すでに応用が進んでいる具体例としては、サーチエンジン、スパムメールや不正アクセスなどの検知、画像・音声・文字の認識、機械翻訳、バイオインフォマティクス(生命情報科学)、自動運転や「AlphaGo」(アルファ碁)などの製品としての人工知能が挙げられます。

徐々に適用が広がる機械学習ですが、今後、私たちの社会に根づいていくには3つの条件が必要と考えています。1つ目は、当然ですが新しいアイディア。2つ目はテクノロジーに対する社会からの要請。そして3つ目がテクノロジーの有用性への理解、つまり新しいアイディアに基づくテクノロジーを見たとき、これは使えると気づくことです。

例えば1776年に英国のエンジニア、ジェームス・ワットが改良型蒸気機関を発明しました。ワット以前にも蒸気機関の改良案はヨーロッパ各地で生まれていましたが、ワットのアイディアは画期的効率を備えており、当時の英国が必要としていた高効率動力源になりうるものでした。その頃の主たる動力源は人力、馬力、風力、水力で、既存の蒸気機関の効率はかなり低いものだったからです。

ワットのアイディアの有用性を直ちに理解したのが、英国の実業家、マシュー・ボールトンです。ボールトンの資金協力と経営協力によって、ワットの改良型蒸気機関は、のちに「産業革命」と呼ばれるようになる時代に大きく寄与しました。

これと同じく機械学習も、3つの条件が揃うことで発展していくと考えられます。

ただし、テクノロジーの文化依存性にも注意すべきです。例えばロシアのエンジニアであるプルサーノフは、ワットよりも前に改良型蒸気機関のアイディアを出していましたが、当時のロシアではまだ奴隷に排水作業などをさせており、日の目を見ませんでした。

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中川 松本先生が例示した産業革命における蒸気機関は、いわば「要素技術」であり、その研究はいろいろなところで行われました。その後、織機や蒸気船、蒸気機関車などの製品が登場し、ボールトンのような実業家が成功を収めることになりました。

一方、20世紀のIT革命は、通信プロトコルといったネットワークの要素技術の研究によってコンピュータの接続が可能になったところから始まり、その表現形としてインターネットが登場しました。しかし成功を手にしたのは、従来からの通信ネットワーク事業者ではなく、GoogleやAmazon、Facebookのようにその後に出現したコンテンツ事業者でした。

機械学習もそうした要素技術であり、その研究開発は過去から脈々と地道に行われ、最近になって花開いたものです。その表現形として、現在は人工知能を活用した自動運転などが注目され始めていますが、“時代の覇者”はまだ見通しが立ちません。

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松本 機械学習が多くの可能性を秘めていることは確かですが、機械学習で社会からの要請に応えようとする際、少なくとも2017年の現在、2つの重要課題があります。1つは、膨大な機械学習アルゴリズム群の中から、どのようなアルゴリズムが相応しいかを見つけることで、これには相当の経験とセンスが必要です。

2つ目は、相応しいアルゴリズムが選べたとして、適切な特徴量をデータから抽出することです。画像認識など特定の問題については特徴量自動抽出も試みられてはいますが、任意の問題の生データに対して可能な方法はまだなく、これもかなりの経験とセンスを備えた人間がやらなければ期待する結果は得られません。

急がば回れなので、このような人財をしっかり育成していくべきでしょう。また異なる仕事歴を持つ人々の出会いの場を作るのがよいと思います。同じような背景を持つ人々で斬新な企画を立ち上げるのはなかなか難しいです。さきほどのワットとボールトンの出会いは分野横断型のユニークな会「Lunar Society of Birmingham」で起きました。

図1:第四次産業革命はだれが時代の覇者になるのか?

図1:第四次産業革命はだれが時代の覇者になるのか?

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“発想力”で変化の時代を生き抜こう https://inforium.nttdata.com/focusedissue/kyotobank_innovation.html Fri, 24 Feb 2017 02:18:36 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2044 デザイン思考で地域の未来を拓く

日本の歴史と伝統が息づく京都に創業し、70年以上にわたり地域とともに発展してきた京都銀行。「地域社会の繁栄に奉仕する」という経営理念を一貫して掲げ、地域密着型の地銀として確固たる基盤を築いてきました。変化し続ける世の中で地域の未来を拓くために、京都銀行がなすべきことは? その問いへのひとつの答えが、NTTデータが提供する「新規ビジネス創発ワークショップ」への取り組みでした。

「新規ビジネス創発ワークショップ」とは、本格的なグループワークを重ねることにより、チーム全体で「デザイン思考」を身に付けられるようになる、という試みです。デザイン思考とは、ビジネスや社会に変革をもたらすサービスや方法論を生み出すための思考法のひとつで、米グーグル社やアップル社など、名だたる企業が取り入れていることでも知られています。

ワークショップでは、NTTデータが長年にわたって培ったデザイン思考の手法と新規ビジネスの開発手法をメソッド化し、京都銀行からの参加者にノウハウを伝えていきました。参加者は2016年6月から12月までの6ヶ月間、全10回のワークショップを通して、顧客にアピールするアイディアを生む技術を学び、柔らかく斬新な発想で新しいビジネス案を作り出していったのです。

メンバーと共に考え “発想力”を磨く

運営事務局の指揮を執る、京都銀行総合企画部の三宅夕祐次長はこう話します。

「京都銀行はこれまで、地域のみなさまとの発展を目指して堅実なサービスを提供してまいりました。しかしその一方、現在の日本経済の流れや世界状況を鑑みるに、地銀もまた、変わらなくてはならない局面に来ているのではないか、という思いがあります。目まぐるしく変わり続ける世の中で、金融業界もまた、新しいことにチャレンジしていかなくてはならない。地域へのさらなる貢献という目標を達成するとき、どのような変化が必要なのか。日々手探りする中、根本的に私たちに必要とされているのは、“発想力”そのものではないか、と考えたのです」

京都銀行 総合企画部 三宅次長

京都銀行 総合企画部 三宅次長

発想力を磨く――この漠然とした目標に対し、「新規ビジネス創発ワークショップ」は次第に効果をもたらしていきました。ワークショップでは様々な部署から行員が参加しました。同僚とはいえ、普段はやりとりをすることがないメンバーと顔を合わせ、話し合う中で、少しずつアイディアの出し方のコツをつかんでいく。参加者の大橋昌浩さん(本部勤務)はこう話します。

「初日はみんな固い雰囲気だったんですよ(笑)。けれども回数を重ねるごとに場の空気が変わり、自由に、気兼ねなく意見交換ができるようになりました。同じ職場に務めてはいても、出会うお客様が違えば持っている情報も違う。会話を重ねながら、次第に私たち行員だから知っているお客様のニーズが見えてきました。一人ひとりが持っている情報をすり合わせていくことで、私たち地銀の行員ならではの目線で、地域密着型の新サービスが発想できるはずだと確信しました」

6月から9月にかけて行われた前期ワークショップでは、チーム内で出されたアイディアをすべて付箋に書き込んでいきました。その数は最終的に1,000枚以上に及びます。参加者は1,000を超える発想をグルーピングし、絞り込み、磨き上げていく作業を続けていきました。

人数は1チームあたり5、6人。左側の手前から2人目が大橋さん

人数は1チームあたり5、6人。左側の手前から2人目が大橋さん

「ワークショップはしっかりとメソッド化されているので漫然とした話し合いには終わらないのが良かったです。毎回、明確な目標とそれに到達するための手段があるので、それに沿って作業していくうちに、自然と発想力が刺激されていくんです」と大橋さんは振り返ります。

「ひとりで考え込むのは、ビジネスアイディアを生み出すには向かないのだと気づかされました。付箋で貼りだされた様々なフレーズを前に全員でディスカッションしていると、メンバーの案を引き出す力が磨かれてくるんです」

発想力の根本は“共感”にあり

前期ワークショップの最大のポイントは、「どんなアイディアも捨てずに、すべてを出し切り、可視化すること」だ、と今回のワークショップのディレクターを務めたNTTデータの角谷恭一(かどや・きょういち)は言います。

「デザイン思考の特徴のひとつは、アイディアを出し合い、話し合って絞り込む、という作業を繰り返すことです。ひとりの天才が生み出すアイディアよりも、平凡な私たち全員が集まって、知恵を寄せ合い、遊ぶように楽しみながら生み出したアイディアのほうが、世界にインパクトを与えられることは往々にしてあります。それは、デザイン思考の根本に“相手への共感”があるからです」

参加者のうちの1グループにつき、アイディア出しのアドバイスをする角谷(右端)

参加者のうちの1グループにつき、アイディア出しのアドバイスをする角谷(右端)

デザイン思考のプロセスは、次の5つのステップからなります。

1「共感」(顧客の問題に寄り添う)
2「定義」(ユーザーにとっての問題を明確化する)
3「発想」(ユーザーの問題の解決法を発見する)
4「試作」(ビジネスアイディアを可視化する)
5「試行」(実際にユーザーとともに検証する)

この5つの手順をチームで行うことにより、いま目の前にある様々な問題を解決する現実的なビジネスアイディアが生み出されていきます。チームでのアイディア出しの現場にもまた、互いへの共感は欠かせません。共感があるからこそ、仲間から言葉を引き出し、自分自身の考えを臆することなく伝えることができるからです。ときに天才の発想を凌駕するアイディアがチームの中から生まれる理由は、チームのメンバーへの、そしてその先にいる顧客への“共感”という出発点にあるのでしょう。

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複数体のロボットが人間に与える変化 https://inforium.nttdata.com/foresight/multiple_robots_conversation.html Tue, 21 Feb 2017 00:57:17 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2153 結婚を決めたカップルを対象に

石黒 ようこそ、大阪大学までいらっしゃいました。企業が行った実証実験の結果が伺えると聞いて楽しみにしていました。

大阪大学 石黒 浩教授。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

大阪大学 石黒 浩教授。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

稲川 石黒教授の研究室にお邪魔するのは、前回の見学会以来ですね。

私たちの部署では、複数体のロボット対話による心理効果がどうマーケティングに活用できるかという強い関心があります。ビジネスの現場での本格活用に向けて、ぜひアドバイスをいただきたいと思います。

NTTデータ テレコム・ユーティリティ事業本部 ビジネス企画室 ロボティクスビジネスチーム 課長 稲川竜一

NTTデータ テレコム・ユーティリティ事業本部 ビジネス企画室 ロボティクスビジネスチーム 課長 稲川竜一

稲川 今回、リクルートテクノロジーズ社と2016年7月に共同で行った実証実験は、先生の論文などを参考にしながら取り組んだものです。まずは、実験の模様をまとめた動画をご覧ください。

石黒 この映像は、どこで撮影されたものですか?

稲川 結婚前のカップルが、プロのアドバイザーに結婚式に関する相談ができる店舗「ゼクシィ相談カウンター」です。ここでは、結婚準備や式場について様々なことを相談できますが、その中の1つとしてブライダルジュエリーもご案内しています。

ブライダルアドバイザーの方が、カップルの2人から結婚式に対する希望を聞いた後、その希望に合う結婚式場をピックアップする時間があるんですね、その7〜8分をいただき、人間の代わりにロボットが指輪の選び方、買い方を説明するシーンです。

(動画内の音声)
Sota(ブルー)「あっ、お客さんだ。ここに来たってことは、ついに結婚するんですね」
Sota(ピンク)「今日は結婚が決まったラブラブなお二人と指輪のお話がしたいな」
Sota(オレンジ)「そこの綺麗なあなた、いま幸せですよね」
Sota(ブルー)「やっぱりね」
Sota(3体)「結婚、おめでとう!」

石黒 それぞれのロボットの役割分担があるのですね。

稲川 ブルーが男性、ピンクが女性、オレンジがいろいろ知っている先生という設定です。

ブルーと対面する形で左側に男性、ピンクと対面する形で右側に女性がいて、挙式のアドバイスを受けに来店した際にブライダルジュエリー(本検証では婚約・結婚指輪)に対する購買意欲を喚起しようと。

ゼクシィ相談カウンターはジュエリーショップと提携しています。顧客の送客につなげられるかを検証するため、本検証ではジュエリーパンフレットの持ち帰り率の向上を検証しました。

ロボットは目線を男性と女性、両方に目配せしながら語りかけています。ロボット同士の対話にカップルが参加していく感じを出していますね。

Sota(オレンジ)「まず指輪には、婚約指輪と結婚指輪があるわよね」
Sota(ブルー)「もう彼氏は、彼女に婚約指輪を買った?」

稲川 ここで、タッチパネルで「いいえ」ボタンを男性が押します。

Sota(ブルー)「これからってことだね」
Sota(ピンク)「婚約指輪って高いけど、一度しかつけないイメージがあるのよね」
Sota(ブルー)「なんだかもったいないな。そこの彼氏もそう思うよね?」

稲川 この後も、タッチパネルでロボットと双方向のインタラクションをしていきます。

石黒 タッチパネルの使い方はテンポが重要ですよね。常にポン、ポンと適度に押せる感覚が大事です。一定周期でやるとリズムに乗ってくる。逆に説明が長すぎると、対話に参加している感覚が失われてしまうんですね。

稲川 相槌を打つような感覚ですね。今回、意思を問うタイミングでのみボタンを押してもらいましたが、もう少し回数を増やしていいのかもしれません。

石黒 そのとき3個以上の選択肢を出さないで、瞬時に選ばせる方がいいです。イエスとノーのフィードバックだけで対話が進んでいくと、結構引き込まれますよ。選択したという行為が残るのも重要なんです

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石黒 女性側のピンクのロボットが、男性に話しかけることはありますか?

稲川 あります。そのときは目線(顔)を男性の方へ向けますし、会話や質問の内容も男性に向けたものだとわかるので、間違えられることはありませんでした。

石黒 音声認識は使わなかったのですね。

稲川 ええ。認識に失敗した際のリカバリーが大変になるのはわかっていましたので。今回は複数体のロボットとのやり取りを経験することが目的なので、タッチパネルにして良かったと思います。加えて、後で確実に分析できるというメリットもありました。

Sota(ピンク)「ところでみんな婚約指輪にどのくらいお金をかけているのかな」
Sota(オレンジ)「30万円から40万円程度が多いみたい」

稲川 金額の話のような、面と向かってだと聞きにくい、角の立つような質問も入れています。

また、前半で婚約・結婚指輪に関する基礎知識の情報を提供して土台をつくり、後半では統計情報で「婚約指輪を買った夫婦は離婚率が低い」といった情報を提供して意思決定を促したのも特徴です。

二人で相談して「どっちかな」と話しながらボタンを押すケースもありましたね。

対話のつくり込みが肝心

石黒 今回のロボットの役割は、ブライダルジュエリーのパンフレットを紹介するだけなのですね。

稲川 実験のKPIを何にするかという議論はありました。その場でブライダルジュエリーを購入して頂くわけではなく、パンフレットを渡す業務なので、部数をいかに持って帰ってもらったかを実験の測定値にしました。

店舗によりますが、結果的には実験前のロボットがいない状態に比べると、4日間(合計8日間)の実証実験を通じて、持ち帰り率は2倍になりました。

石黒 カップルをどこか特定のジュエリーショップに誘導しようという目論見はなかったのですね。

稲川 ファッションスタイルなどの選択肢によって、好みのデザインが載っているカタログを紹介しましたが、今回の目標は「指輪を買いたいと思わせる」ところまでですね。

石黒 なるほど。きっと次は具体的な意思決定をさせるようにしたらいいですよ。こうやってロボットが人間に代わって販売業務をする際、僕は「対話戦略」がすべてだと思っています。

大阪髙島屋の紳士服売り場に設置した「ミナミちゃん」の場合、実際に購入してもらうことにこだわりました。髙島屋でいちばん売り上げがある販売員を数ヶ月かけて観察し、彼女の対話戦略を組み込んだんですね。

大阪髙島屋で接客をするミナミちゃん(提供:大阪大学)

大阪髙島屋で接客をするミナミちゃん(提供:大阪大学)

数日間ならイベントとして非日常的な存在のロボットに関心が向けられるでしょうが、これまでの実験の結果、イベント性の効果の持続はせいぜい3日間だとわかっています。ロボットが人間に代わるためには、ちゃんと対話を通じて人間を説得できるようにしなくては。

年齢、性別、性格、売り場の状況、全部想定して対話の中身をデザインできたらいいですね。

男女も「ケチ」「見栄っ張り」といったタイプ別に場合分けして、それらの相性まで考えると、どちら側を説得すれば買ってくれるのかなど、説得の仕方が全部変わるんですよ。

ストーリーを伝える存在

稲川 ミナミちゃんと違って、今回の実証実験では3台のロボットを使いました。この台数は適正だったと思われますか。

石黒 男女が相談する意思決定ですし、悪くなかったと思いますよ。ただ、3台の関係性は複雑なので、対話の構造に気づく必要が出てきます。

私たちの研究室では複数台のロボットを使って様々な実験を行っているので、共同研究をしていただければ、対話戦略をいくらでも教えられます(笑)。

少しだけヒントを教えると「人はなんのために対話するのか」を考えればいいんです。簡単に言えば、自分の中にないストーリーを取り込んで、共感し、自分の想像の世界を膨らませることにあるんですよね。

ただ、取り込むときに納得できないこと、共感できないこともあるわけです。共感しやすくするため、男性役、女性役のロボットをいかに使うかという枠組みを考えればいい。人はそこに冷静な観察者として引き込まれていくはずです。

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防災で活用が広がる世界最高精度の3D地図 https://inforium.nttdata.com/focusedissue/aw3d.html Thu, 16 Feb 2017 02:20:53 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1996 世界60カ国の幅広い分野で活用されている「AW3D」
NTTデータ 第一公共事業本部 e-コミュニティ事業部 第三開発担当課長 筒井健

NTTデータ 第一公共事業本部 e-コミュニティ事業部 第三開発担当課長 筒井健

───NTTデータと一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)が共同で行っている、全世界デジタル3D地図提供サービスについて教えてください。

独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち」のデータを利用して作った全世界デジタル3D地形データ「AW3D」をユーザーのニーズに合わせて提供するというサービスで、2014年2月より順次、整備が完了したエリアから3D地図データの提供を進め、2016年4月からは全世界での提供ができるようになりました。

「AW3D」の最大の特長は、5m解像度という世界最高精度の地形データが全球分そろっていることだと思います。日本には国土地理院が作っている1/25000の地形図がありますが、私たちの3D地図はそれと同等の精度。これだけ高精度な3D地図データを全世界に向けて提供できるサービスは他にはないと思います。

───提供した3D地図データは、どのような分野で活用されているのですか?

「AW3D」は高精度、高品質の3D地形データなのでさまざまな用途に活用されています。ユーザーは民間企業だけでなく、国の研究機関や国際機関などからの依頼も多くなっています。特にこれまで詳細な地図がなかった新興国におけるインフラ整備や自然災害対策、資源地域の調査、水資源問題への対応などに活用されることが多く、アジアやアフリカ、オセアニアなど60か国以上の国で行なっているプロジェクトに活用されています。

2015年5月からは「AW3D」の高精細版として、アメリカのDigital Globe社の衛星画像を使った0.5m〜2m解像度のデータの提供も始めています。この精度だと建築物レベルの起伏がわかるため、日本国内における通信網の整備などにも活用されています。

通信分野における電波障害の把握などのシミュレーション用途でも活用されている「AW3D」の高精細版

通信分野における電波障害の把握などのシミュレーション用途でも活用されている「AW3D」の高精細版

───そもそも3D地図とはどのように作られているのですか?

普段私たちが使っている平面的な地図に水平位置と高さの3次元座標値を加え、世界中の陸地の起伏を表現したものが3D地図です。これまで3D地図の作成には航空機や人による測量が必要だったため、時間やコストが膨大にかかっていました。でも、人工衛星の登場で3D地図の作成法が大きく変わりました。あらかじめ衛星を使って全球の陸地の起伏を計測しておけば、地球上のどこであっても3D地図を安く、かつ短時間で整備することができるようになったのです。

私たちの「AW3D」は、JAXAの「だいち」に搭載されたPRISMセンサで撮影した衛星画像と高解像度衛星画像、約300万枚を用いて作っています。「だいち」の優れているところは、全方面から撮影できるよう前後・直下の3方向に向けてPRISMセンサを搭載していた点です。私たち人間は左右それぞれの目から見える画像の差(視差)によって高さや遠近感を感じています。「だいち」にはその2つの目=センサに加え、もう一つの目が加わっているため死角がなくなり、完全な3Dが起こすことができました。ただし、「だいち」が運用されていた当時はビッグデータの解析も、全自動で3Dを表現するアルゴリズムもまだできていませんでした。それが可能になったのが、2013〜2014年頃だったのです。

3方向を同時に撮影できる日本の人工衛星「だいち(ALOS)」のイメージ画像(提供:JAXA)

3方向を同時に撮影できる日本の人工衛星「だいち(ALOS)」のイメージ画像(提供:JAXA)

3つの機関の相乗効果で実現した世界最高精度

───筒井さんがこのプロジェクトに携わることになった経緯を教えてください。

私は衛星画像から3Dデータを抽出するのが専門で、NTTデータ入社後は、3D地図の前身となる日本列島の2次元地図の作成や、特定エリアの3D地図化などのプロジェクトに取り組んできました。

2013〜2014年にはコンピューターの計算速度が速くなり、大量の画像処理を行うアルゴリズムの開発が進んできたこともあって、「だいち」の衛星画像を使って世界中を3D地図化するプロジェクトが企画されました。プロジェクトでは、JAXA、RESTEC、NTTデータの3つの機関からそれぞれ3D地図の第一線の研究者や技術者が集まって進めることになり、それが2014年2月のこと。2年間で全地球の3D地図を作ろうと目標が立てられ、2016年3月に完了。無事にその約束を守ることができました。

───従来(アメリカNASAの30〜90m解像度など)に比べて、大幅に精度を向上できたのはなぜですか?

やはり、JAXA、RESTEC、NTTデータ。この3つの機関の相乗効果だと思います。

「だいち」のように3台もカメラ(センサ)を搭載した衛星は、世界でもほとんど打ち上げられていません。しかも、日本の衛星は姿勢や軌道のコントロールがかなりしっかりしています。それはJAXAが地道な衛星開発に心血を注いできたからこそです。

さらに「だいち」の膨大なデータから、世界で一番確かな地球の起伏を再現していくわけですが、その際に必要なキャリブレーションやスタッキングによる衛星データの解析を長年研究してきたのがRESTECです。それをNTTデータのプロセッシングのシステムに組み込み、5m解像度で3D地図を作成しました。

JAXAの人工衛星技術、RESTECのデータ解析技術、そしてNTTデータの画像処理と製品化技術。これらが結集したからこそ、これほど短期間に世界最高精度の全世界デジタル3D地図が実現できたのだと思います。

デジタル3D地図の解像度比較 左:90m解像度(従来の3D地図) 中:AW3Dの5m解像度モデル 右:同2m解像度モデル

デジタル3D地図の解像度比較 左:90m解像度(従来の3D地図) 中:AW3Dの5m解像度モデル 右:同2m解像度モデル

ユーザーのニーズに合わせた形でデータを提供

───「AW3D」は日本の宇宙開発利用の普及啓発に大きく貢献したことが評価され、2016年3月には第2回宇宙開発利用大賞「内閣総理大臣賞」を受賞されました。

そうなんです。まさか受賞するとは思っていなかったので、知らせを受けた時はとても驚きました。正直、内閣総理大臣賞はうれしかったです。研究者や技術者のみんながこれまで地道にやってきたデジタル3D地図が、ビジネスはもちろん、いろんな形で世の中に貢献することができていることはとてもうれしいことですし、誇らしく思っています。それに、この賞を受賞したことで社会的期待が大きくなったことから、ビジネスにおいても動きやすくなったように感じています。

───「AW3D」の今後の展望をお聞かせください。

「だいち」の衛星データを使ってスタートした「AW3D」ですが、高精細版ではDigitalGlobe社の衛星画像を使っています。この衛星にカメラは1台しか設置していませんが、鳥のように飛びながらカメラの向きを自在に動かすことができたり、複数のカメラを組み合わせたりと「だいち」とは違った利点があります。現在、異なる複数の衛星データを組み合わせて、より精度の高い3D地図を作成する技術を開発しています。どこまで精度を高めることが必要なのかというつきない技術課題もありますが、私たちとしてはいろんな衛星からのデータに対応できるよう、画像処理技術の開発を進めていかなければならないと考えています。

さらに、私たちの事業は単に衛星データや地図のプロバイディングだけを行うのではなく、そこにどうやって付加価値をつけていくか、どうやって社会に対して価値を出していくか、という点を重視しています。世界最高精度の全世界デジタル3D地形データを用途別・ユーザー別に最も適した状態で提供していけるようなプラットフォームを整えることがこれからの課題の一つだと思っています。

2m解像度高精細版3D地図(東京)

2m解像度高精細版3D地図(エベレスト)

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稲見昌彦(人間拡張工学研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/inami.html Fri, 17 Mar 2017 03:10:49 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1902 稲見昌彦(いなみ・まさひこ)東京大学先端科学技術研究センター教授、東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻教授。超人スポーツ協会発起人・共同代表。米マサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所客員科学者、JST ERATO五十嵐デザインインターフェースプロジェクト グループリーダー、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授などを経て、2016年4月より現職。光学迷彩、触覚拡張装置、動体視力増強装置など、人の感覚、知覚を拡張するデバイスを多数開発している

稲見昌彦(いなみ・まさひこ)東京大学先端科学技術研究センター教授、東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻教授。超人スポーツ協会発起人・共同代表。米マサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所客員科学者、JST ERATO五十嵐デザインインターフェースプロジェクト グループリーダー、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授などを経て、2016年4月より現職。光学迷彩、触覚拡張装置、動体視力増強装置など、人の感覚、知覚を拡張するデバイスを多数開発している

サイボーグの競技大会「サイバスロン」開催

2016年10月8日(現地時間)、私はスイスの都市クローテンにいました。最先端の「Assistive technology」(身体を補助し、障碍(しょうがい)を克服するための、工学的な技術)を身にまとうアスリート(パイロットと呼ばれる)たちによるスポーツの祭典「サイバスロン」を観戦するためです。

サイバスロンでは6種目のレースが繰り広げられました。無数の電極を頭部に繋ぎ、脳波でビデオゲームの中のアバターをコントロールすることで競い合う「ブレインコンピュータインターフェースレース」。ロボットのような義足をつけたアスリートが、様々な障碍物を乗り越え疾走する「強化義足レース」……。サイバスロンは、私が研究している「人間拡張工学」の目指していること、つまり工学的に「超人(スーパーマン)」をつくりだすことを体現している祭典でした。

稲見さんが開発した、「光学迷彩」技術を用いたマント。再帰性反射材を用い、透明人間のような視覚効果を実現した(写真提供:東京大学稲見研究室)

稲見さんが開発した、「光学迷彩」技術を用いたマント。再帰性反射材を用い、透明人間のような視覚効果を実現した(写真提供:東京大学稲見研究室)

私はいま、身体に関わるテクノロジーが新しい局面を迎えていると感じています。最先端のテクノロジーが、人間の身体をメディア化しつつあるのです。従来の身体に関わるテクノロジーは、主に身体の「補綴(ほてつ)」に用いられることが多かった。つまり義手や義足、車椅子にしても、移動の不可能や困難など、障碍者の方々の身体におけるマイナス要素を補い、いわゆる健常者に近づけるためのものとして研究・開発されてきました。マイナス要素をゼロにしようとするときのアプローチは、例えば義手や義足がわかりやすいのですが、健常者という「ゼロの水準」へいかに近づけるかというものになりますし、最適なアプローチの数は限られています。

しかし最先端のテクノロジーは身体のマイナス要素を補綴しながら、健常者をも超えるプラス要素、ときに超人的ですらある能力に拡張することを可能にしているのです。マイナス要素からプラス要素を生み出そうとするときのアプローチは無限にあります。人によって拡張したい身体部位や、どのように拡張するかが異なるためです。例えば、右足を失った人がより速く走ることのできる右足を獲得することや、手を失った人が、サイボーグのような見た目にも斬新な義手を獲得することはその一例です。それは、エンタテインメント作品をつくるときと同じアプローチといえるでしょう。

従来の身体に関わるテクノロジーは、いわばたった1種類のジャンルしかない音楽のようなものでした。退屈ですよね。音楽はポップスもロックも、ダンスミュージックも民族音楽もあるから多様で面白い。多様性と面白さがエンタテインメントを支える要素であるとするならば、いまの身体拡張には、まさにエンタテインメントと同じことが起こり始めているのです。

障碍者スポーツが健常者を超える時代

この変化を示す例は数多くありますが、顕著な例はスポーツの領域です。例えばリオデジャネイロ・パラリンピックでドイツのマルクス・レーム選手が獲得した金メダルの意義について考えてみることが役に立つでしょう。カーボン義足を身につけるレーム選手はリオデジャネイロ・パラリンピックの種目、走り幅跳びで8m21cmという記録を残し、世界中のスポーツファンを驚嘆の渦に巻き込みました。これは、リオデジャネイロ五輪では5位に相当する記録です。

稲見さんが発起人と共同代表を務める超人スポーツ協会の認定競技のひとつ「ホバークロス」。体重移動で操縦する電動スクーターに乗った選手が攻撃と守備に分かれ、ゴールにボールを入れて得点を競う(写真提供:超人スポーツ協会)

稲見さんが発起人と共同代表を務める超人スポーツ協会の認定競技のひとつ「ホバークロス」。体重移動で操縦する電動スクーターに乗った選手が攻撃と守備に分かれ、ゴールにボールを入れて得点を競う(写真提供:超人スポーツ協会)

こうして障碍者と呼ばれてきた選手が、健常者の選手を記録で超えるようになってきたいま、私たちは新たな議論と向き合わなければなりません。それは、いまの健常者の定義は、果たして時代に即したものなのか、ということです。

この課題はそのまま、オリンピックとパラリンピックの間で線引きを行うべきか否かという議論に直結します。性別や体重によってクラス分けをすることで競技の公平性が保たれていることを考えれば、オリンピックとパラリンピックの区別があることは公平とも考えられます。しかし、障碍者を健常者と公平に扱うべきであるとする社会の要請を踏まえたとき、私たちはどのような解を出すべきなのでしょうか。革新的なテクノロジーがもたらす、身体がエンタテインメント化する時代において、いままで私たちが当たり前だと思ってきた健常者の定義が揺らぎ始めているのです。

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山中俊治(インダストリアルデザイナー) https://inforium.nttdata.com/keyperson/yamanaka.html Wed, 25 Jan 2017 08:06:58 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1787 山中俊治(やまなか・しゅんじ) 1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。87年に独立。94年にリーディング・エッジ・デザイン設立。2008~12年慶應義塾大学教授、13年より東京大学生産技術研究所教授。腕時計、カメラ、乗用車、家具、通信機器など、幅広い工業製品をデザインする一方、これまでデザイナーが関わってこなかった領域の研究に参画し、様々なプロトタイプを製作、発表している。

山中俊治(やまなか・しゅんじ)
1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。87年に独立。94年にリーディング・エッジ・デザイン設立。2008~12年慶應義塾大学教授、13年より東京大学生産技術研究所教授。腕時計、カメラ、乗用車、家具、通信機器など、幅広い工業製品をデザインする一方、これまでデザイナーが関わってこなかった領域の研究に参画し、様々なプロトタイプを製作、発表している。

1人ひとりに合った美しい義足

──────近年、急速な進化を遂げている筋電義手や義足をはじめ、身体能力を拡張するテクノロジーが発展してきています。山中先生らが目指す「未来の身体」には、どんなビジョンがあるのでしょうか。

2008年の北京パラリンピックで、両足義足の陸上選手、オスカー・ピストリウスの映像を目にしたときに衝撃を受けたんです。「ブレードランナー」との異名を持つ彼の身体は、シャープなフォルムの義足と見事に一体化していて、競技中は大地を軽やかに飛んでいるようにも見えました。そのとき、それまで義足に抱いていた「不幸な状況を補完するもの」というイメージが一転して、「新しい美を身体にもたらすもの」と考えるようになったんです。そこから、 私の研究室でも義足のプロジェクトが始まりました。

──────それ以来、義足の開発を進められていますが、この分野がこれまで抱えていた課題は何だったのでしょうか。

実際に障碍(しょうがい)をお持ちの方にお会いしたり、障碍者スポーツの現場を調べたりしてみると、義足の世界には「デザイン」という概念がまるで行き届いていないことがわかったんです。日常用と競技用とでも異なりますが、今日のスタンダードな日常用義足の型がつくられたのは第1次大戦後のこと。それまでの義足はすべて義肢装具士による手づくりで、職人の技術に頼らざるを得なかったんです。

しかし大戦後の急速な義足の需要に応じて、オットー・ボックさんという優れた義肢装具士がパーツの量産化を試み、足に直接触れるソケット以外を量産部品の組み合わせで構成することで、個々の足にフィットさせることができるモジュラーシステムを開発しました。

モジュラーシステムは、安価に様々なサイズの義足を素早く供給するという意味では革命的だったのですが、その一方で、義足全体をデザインする人がいなくなり、 1人ひとりに合った美しい義足をつくるという考え方自体が失われてしまったのです。

陸上競技用下腿義足 Rabbit Ver.4.5 リオ・パラリンピックにも出場した陸上選手の高桑早生選手用のモデルは、度々の改良を重ねて活用されている。山中氏のスケッチをもとに、なめらかな曲面で覆われたソケットは切断された足という痛々しいイメージを払拭し、義足を美しい道具へと転化させた

陸上競技用下腿義足 Rabbit Ver.4.5
リオ・パラリンピックにも出場した陸上選手の高桑早生選手用のモデルは、度々の改良を重ねて活用されている。山中氏のスケッチをもとに、なめらかな曲面で覆われたソケットは切断された足という痛々しいイメージを払拭し、義足を美しい道具へと転化させた

──────従来の義足と最も異なる点はどこにあるのでしょうか。

本来、人間の体は背骨、大腿からふくらはぎにかけて大小のS字カーブで構成され、ダイナミックなリズムを持っています。しかし、モジュラー型の義足は棒状のパイプでつないだだけなので、そのリズムを分断してしまっています。その結果、義足を履いた姿は自然な流れを失い、痛々しく見えてしまうんです。

そこで私たちは、機能的には従来の義足を保ちつつ、 体のラインに沿った美しいフォルムを考案していきました。それまではこんなデザインの義足が無かったものですから、発表時には世間に大きなインパクトを与えられたと思います。同じころに、斬新な義足で世界を魅了したモデルのエイミーなど、同じ問題意識を抱えた人たちが世に現れ始めてもいました。

そうした提案に共感してくれた切断者のひとりが、当時まだ高校生だった高桑早生さんだったのです。 その後パラリンピックアスリートとなった彼女は、私たちの研究室に所属しながら、美しくて高性能な義足の開発に一緒に取り組み、2013年には私たちの開発した義足を実際の競技に活用してもらえるようになりました。

山中氏のラフスケッチ

アスリートの身体観察にもとづいて描かれた山中氏のラフスケッチ。流線型の義足と一体化した、「ダイナミックなリズム」のある身体をイメージしている

──────新しい義足は、実際のアスリートにとってどんな効用があったのでしょうか。

高桑さん曰く、「チームメイトが義足の話をしてくれるようになった」とのこと。これはとても重要なポイントで、それまでは腫れ物に触るかのごとく、日常会話の中でほとんど義足に触れられることはなかったそうなんです。

「デザインされていないもの」を見つけるほうが難しい現代社会で、やむを得ず使っているように見えるプロダクトはどうしてもその異質さが浮かび上がってしまう。しかし、きちんとデザインされたものであれば、体の一部、道具のひとつなんだと周囲にも自然と認識されるようになるんですね。

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作り手や売り手の“思い”をITがユーザーに届ける https://inforium.nttdata.com/focusedissue/inbound_okinawa.html Tue, 24 Jan 2017 08:33:42 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1775 インバウンド対応の手軽な情報インフラ

株式会社Paykeが創業したのは2014年11月。琉球大学入学後、EC事業を立ち上げた古田奎輔(ふるた・けいすけ)社長は、1ヶ月でビジネスを軌道に乗せると、貿易商社と業務提携し、沖縄県産品の貿易業に携わりました。

株式会社Payke 代表取締役 CEOの古田さん

株式会社Payke 代表取締役 CEOの古田さん

「日本の商品は世界的にも優れているので、情報を正しく伝えることができれば、海外の人は喜んで買ってくれます。ところが、沖縄の『もずく』や『ちんすこう』の良さを海外の人に説明するのはとても難しい。そこをなんとかしたいという課題を持ち始めました」

そこで商品のストーリーをデータベース化し、ユーザーが商品のバーコードをスマートフォンやタブレットでスキャンすれば、彼らの母国語で情報を取得できる仕組みを構築しました。2015年10月にサービスを開始し、現在は沖縄県の100社以上のメーカーが利用しているほか、福岡、北海道、そして東京にも進出。インバウンド消費を取り込みたい化粧品や医薬品などの大手メーカーにも導入され、全国展開を進めています。

また小売店向けには、顧客が自由に使える設置型のタブレットの貸し出しを行っています。沖縄だけでなく、都内のドラッグストアや空港内の売店などでも訪日外国人向けの接客ツールとして利用され、インバウンド対応の新しい情報インフラとして注目を集めています。

アプリ「ペイク」のコンセプトムービー

訪日外国人の購買を後押しするアイデア

NTTデータ カード&ペイメント事業部の鈴木親大(すずき・ちかひろ)は、TraTech(Travel×Technology)を発案したNTTデータ経営研究所のコンサルタント、両角真樹(もろずみ・まさき)さんとともに、旅行観光系の領域で新規のビジネス開発を模索していました。鈴木がPaykeを知ったのは、ビジネスの骨格を固めようとしていた最中のことでした。

NTTデータ カード&ペイメント事業部 営業統括部の鈴木

NTTデータ カード&ペイメント事業部 営業統括部の鈴木

2016年2月に開催された「第一回九州・山口ベンチャーアワーズ」で、Paykeが大賞を受賞。審査員として参加していたNTTデータ オープンイノベーション事業創発室のメンバーがPaykeに興味を持ち、古田さんと会うことになりました。その時、鈴木にも声がかかり、初めて二人は顔を合わせます。二人とも20代と、年齢が近いこともあって意気投合。何度か会って話をするうちに、お互いに「一緒にビジネスをやりたい」と思うようになりました。

「一つの商品を買う時は、まず商品を認知して関心を持ち、実際に店に足を運んで確認して、本当にほしいかどうかを見極めるという流れがあります。最後の“買う”という決済の部分が、私たちのカードペイビジネスのメインとなる部分です。インバウンドに目を向けると、海外の観光客には言語の壁があり、いい商品なのに見向きもされないということが起こっています」

「今手に取っている商品の情報が母言語で伝われば、購買につながり、ひいては決済の活性化にも寄与する。海外の観光客の購買を後押しするPaykeさんのサービスは、決済と親和性があると思いました。ビジネスモデルもアイデアもすばらしいし、何より古田さんの熱意と人柄に惹かれましたね」

古田さんに出会った時、ビジネスパートナーとして、すでに複数のベンチャー企業にアプローチしていましたが、最終的にはPayke一本に絞り込みました。その決め手は、決済との親和性だけでなく、スキャンされたデータが蓄積されることで生まれるユーザーの“興味・関心データベース”の存在が大きくありました。これについて両角さんはこう話します。

NTTデータ経営研究所 グローバル金融ビジネスユニットの両角さん

NTTデータ経営研究所 グローバル金融ビジネスユニットの両角さん

「決済だけで他事業者との差別化を図るのは難しいという現状の中で、今後はリアルの世界でも、ECの世界で当たり前に実現できているような、決済前後のお客様の動向をデータとして捉え、そのデータを使って作り手(メーカー)や売り手(加盟店)、お客様自身に直接リコメンドをする、といった新たな世界にビジネスを広げていきたいという思いがあります。Paykeさんに蓄積されるスキャンデータは、買うという行為の前にある“興味・関心”にあたるもの。Paykeさんの商品情報の翻訳というアイデアはもちろんですが、POSレジの情報だけでは捉えられないデータベースそのものに大きな可能性を感じました」

人気のリゾート地・瀬長島で実証実験

パートナーシップを組み、新たなビジネスを進める前段階として、Paykeのサービスがどれだけ必要とされ、店舗の売り上げに貢献するのかというニーズを検証することからスタートしました。実証実験の場となったのが、沖縄県瀬長島の大型リゾートモール「ウミカジテラス」内にある、47都道府県の多様な食品を取りそろえたセレクトショップ「瀬長島47(よんなな)STORE」。

全国から約1500種類の“うまいもの” を集めた瀬長島47STORE。店舗前には無料で利用できる天然温泉の足湯もある

全国から約1500種類の“うまいもの” を集めた瀬長島47STORE。店舗前には無料で利用できる天然温泉の足湯もある

2016年9月15日から約1ヶ月間、スタッフが来店客に自由に使えるタブレットを手渡し、購入または退店の際にレジで返却してもらうという流れをつくりました。タブレットを手に取った人が実際に商品をスキャンするのか、スキャンをすることが購入に結びつくのか、そして、商品情報の精度を高めることで購買数はアップするのか。こうした観点に着目し、来店客の動向を追っていきました。

ウミカジテラスの運営責任者である新里哲佳(にいざと・てつよし)さんはイオン琉球株式会社に17年間務め、2店舗で店長として活躍した小売のプロ。2015年2月に現職に就き、約2ヶ月後の4月29日に瀬長島47STOREをオープンしました。訪日外国人が増加する中、言語の課題を強く感じていたという新里さんは、Paykeとの出会いについてこう話します。

WBFリゾート沖縄株式会社 商業施設運営課の新里さん

WBFリゾート沖縄株式会社 商業施設運営課の新里さん

「この店がオープンした直後にPaykeさんから営業の電話をいただき、サービスの内容を聞いてすぐにピンと来ました。その翌日に訪問してくれて、5月末からタブレットの試験導入を開始しました」

今回の実証実験についても、Paykeからの依頼があってすぐに参画を決断したそうです。

「即決の決め手は将来性を感じたこと。このサービスを導入すれば、手間やコストを削減しながら言語の課題を解決できる。まさにイノベーションですよね。一緒に事例をつくることは、私たちにとってもメリットがあると直感しました」と新里さん。「私たちのサービスに可能性を感じて、チームを組んで、スピード感を持って動いてくださることをとても心強く思っています」と古田さんは話します。

この二者の信頼関係が構築されていたことは、実証実験を進めていく上で大きな推進力となっていきました。

「両者の信頼関係ができていたことは、とても大きかったですね。新里さんと初めてお会いした時、古田さんの時と同じように、ものすごく熱量を感じて、『この人と一緒に仕事をしたい』と素直に思えました」と鈴木は振り返ります。

こうして、4者の中で確かなチームワークが生まれていったのです。

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和田幸子(ブランニュウスタイル 代表取締役) https://inforium.nttdata.com/keyperson/wada.html Mon, 16 Jan 2017 00:26:50 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1670 和田幸子(わだ・さちこ)ブランニュウスタイル株式会社 代表取締役 1999年富士通株式会社に入社し、システムエンジニアとしてERP製品の開発に従事。2005年、企業派遣制度にてMBAを取得した後、ERP製品のウェブプロモーション、中小企業向けクラウドサービスの事業立ち上げのプロジェクトリーダーを務める。2008年、第一子を出産後、フルタイム勤務で復職。2013年10月、自身の課題でもあった共働き家庭の「新しいライフスタイル」実現に必要な社会インフラを「ITを活用して作る」ため、富士通を退職。同年11月、ブランニュウスタイルを設立。2014年7月、家事代行サービスマッチングプラットフォーム「タスカジ」をオープン

和田幸子(わだ・さちこ)ブランニュウスタイル株式会社 代表取締役
1999年富士通株式会社に入社し、システムエンジニアとしてERP製品の開発に従事。2005年、企業派遣制度にてMBAを取得した後、ERP製品のウェブプロモーション、中小企業向けクラウドサービスの事業立ち上げのプロジェクトリーダーを務める。2008年、第一子を出産後、フルタイム勤務で復職。2013年10月、自身の課題でもあった共働き家庭の「新しいライフスタイル」実現に必要な社会インフラを「ITを活用して作る」ため、富士通を退職。同年11月、ブランニュウスタイルを設立。2014年7月、家事代行サービスマッチングプラットフォーム「タスカジ」をオープン

仕事と家事、育児に追い詰められる日々

私のキャリアは新卒で富士通に入社したのがスタートで、最初の約6年間はシステムエンジニアとして主にERP製品の開発に携わっていました。その後、企業派遣制度でMBAを取得する機会に恵まれ、戻ってからはウェブマーケティングや新規事業の立ち上げなどでプロジェクトリーダーをやらせていただきました。

ただ結婚や出産などを経てライフスタイルが変わり、特に育児休暇から復職したあとは、いろいろなことにストレスを感じるようになりました。もちろん仕事はとても楽しく、以前にも増してエネルギッシュに働いていましたし、目の前にはチャレンジしたいテーマがたくさんありました。夫も私のキャリアアップにとても協力的な人で、「家事も育児も2人で分担して一緒にやろうね」と言ってくれて、実際、その言葉どおりに実行してくれています。とはいえ2人とも仕事がとても忙しくて、育児はとりあえずなんとか頑張るのですが、家事まではどうしても手が回らない状態になってしまいました。掃除が滞って家の中が散らかったままになると、次第に精神的に追い詰められていくようで、次の日の活力も沸いてきません。

まわりの友人たちに話を聞いてみても、やはり似たような感じで、家事の役割分担が原因で夫婦喧嘩になったり、やりたい仕事に手を挙げられないと不満をためていたりする人が少なくありませんでした。

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こうした状況を脱出したいと思いついたのが、家事を代行してくれるハウスキーパーを利用することでした。世間の多くの見方と同じように、私もハウスキーパーについては「一部の富裕層だけが利用できるもの」という先入観を持っていたのですが、ある知人から「直接ハウスキーパーと個人間で契約すれば、派遣業者や代理店が間に入らないのでリーズナブルな価格でお願いできる」という話を聞き、それならばぜひ頼んでみようと踏み出したのです。

「私がやるしかない!」と奮起した

インターネット上で募集をかけたところ、とても良い方から応募をいただき、おかげで生活が一変しました。私も夫も家事の負担から解放されたことで、やりたい仕事に思うぞんぶんチャレンジできるようになったのです。そしてこの体験を、できるだけ多くの人と共有して、私たち夫婦と同じようにハッピーになって欲しいと思いました。ただ、その一方で私がとった方法を説明するだけでは、誰にも実践してもらえないだろうとも思いました。なぜなら、プロセスがとても大変だからです。

先に申しましたように、私はとても良いハウスキーパーさんと最終的に巡り会えましたが、それはあくまでも“運”であり、“結果論”でした。実際には当初10人くらいから応募があり、一人ひとりと面接を行ったのですが、平日は私も仕事があるため、週末の休日をそれに費やすしかありませんでした。しかも1時間くらいかけて話を聞いても、結局、その人がどんなスキルを持っているのかを見極めることはできません。ようやく1人に絞り込んでお願いしたにもかかわらず、その人は初日だけで「やはり辞めます」と断られてしまいました。

ハウスキーパーを依頼する側はもちろん、受ける側の条件や希望もさまざまです。人間同士の相性もありますから、なんの事前情報もなしにベストなマッチングに至るのは本当に難しいのです。試行錯誤を繰り返した私だからこそ、もっと簡単にマッチングを行う仕組みを作らないと誰にも続いてもらえないと思いました。また、この先ずっと待っていても、そんな便利な仕組みは出てこないだろうとも思いました。

ならば「私がやるしかない!」と奮起しました。もともとシステムエンジニアをやっていた頃から、ゼロベースで新しい仕組みを作り上げるのが大好きでしたし、事業の立ち上げについてもそれなりのノウハウがありましたから、恥ずかしながら、「私が一番の適任者だ」と思ったのです。こうして富士通を退職し、自分の思いを体現するための会社として「ブランニュウスタイル」を起業しました。

これが、派遣会社や代理店などの業者が間に入らないC2Cによる家事代行サービスの個人間契約を、インターネットやモバイルアプリを介してサポートする「タスカジ」を立ち上げたきっかけです。

『タスカジ』1時間1500円からの家事代行マッチングサービス動画

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高橋智隆(ロボットクリエーター) https://inforium.nttdata.com/keyperson/takahashi.html Fri, 06 Jan 2017 08:31:52 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1463 憧れの原点は『鉄腕アトム』
高橋智隆(たかはし・ともたか) ロボットクリエーター。1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し京大学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。開発したロボットによる3つのギネス世界記録を保持。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定される。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問

高橋智隆(たかはし・ともたか) ロボットクリエーター。1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し京大学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。開発したロボットによる3つのギネス世界記録を保持。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定される。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問

子供のころからものづくりが好きだったのは、祖父の影響だと思います。母方の祖父は、工学部卒で、電気工作や木工作が好きな人でした。家に遊びに行くと、いつも工作部屋を見せてくれ、一緒に竹を切り出しに行って、竹トンボや弓矢を作ったこともあります。父方の祖父は音楽の教師でしたが、引退後は川魚を捕っては庭の池で飼育していました。その血を継いだ父は、生き物好きの延長なのか内科医になり、自宅ではひたすらピアノを弾いています。

ロボットをつくりたいと思い始めたのは、幼稚園のころ。家の押し入れの中に、講談社の『手塚治虫漫画全集』がたくさんあり、それを読んでいたんです。その中にあった『鉄腕アトム』を読んで、天馬博士のようなロボットをつくる科学者になりたいと思ったのが最初です。中でも「地上最大のロボット」のエピソードが好きで、単純明快なストーリーに加え、世界最高のロボットたちが続々登場する豪華な展開やロボットを開発するシーンにわくわくしました。いま振り返ってみると、アトムより、周りのほかのロボットのほうが好きだったのだと思います。アトムはいわゆるステレオタイプ的な優等生ロボットですが、それよりも特徴がある凸凹な感じの脇役のキャラクターたちのほうが魅力的だったのかもしれません。

このころからレゴブロックや画用紙を切り貼りしてロボットをつくっていました。ほかにも欲しいおもちゃは自動車でも飛行機でも何でもレゴでつくっていました。母が、子供を夢中にさせるおもちゃメーカーの戦略にまんまと乗るのが嫌だったのか、超合金を買ってくれず、代わりに与えられたのがレゴだったんです。当時、本当は超合金が欲しかったわけですが、ひたすらレゴで遊んだことで空間認識能力が発達し、のちの大学受験では数学の立体図形問題を解くのに役立ちました。

ひとたび興味を持ったらある期間熱中する性格で、ロボット以外にもプラモデルやラジコンにもハマって改造したりしていましたし、アウトドアも虫捕りや野球、サッカーなど、その年代の子供がする遊びは全部やりました。小学校高学年のころにはブラックバス釣りが流行り始め、当時琵琶湖の目の前に住んでいたので、学校から帰ると毎日釣り三昧の生活になりました。そこから中学、高校までは“釣りバカ”時代。釣るだけでは飽き足らず、ルアーも自分でつくっていました。

立命館高校を卒業すると、そのまま立命館大学に進学。ちょうどバブル景気のころ、理系学部を卒業しても文系就職する人が多かったので、それなら文系学部でいいだろうという理由で産業社会学部を選びました。勉強はほとんどせず、冬になると長野県で仲間と借りた一軒家に住んでスキー三昧の日々。ロボットのことはすっかり忘れ、スキーのトレーニング装置をつくったりしていました。

そんな自由気ままな大学生活を送っていましたが、就職活動を目前にバブルがはじけ、就職氷河期に。もう、楽して儲かる仕事がない以上、好きなことを仕事にするしかない。時代は、コンピューターによってすべてがバーチャルに置き換わるという風潮でした。私は完全にメカ好きで、コンピューターは苦手。今後もちゃんと歯車で動き続けるものは何だろうと考え、思い出したのが釣り具でした。こういうガジェット的な、メカが詰まったコンパクトな工業製品が大好き。そこで、釣り具やスキー用品を作っているダイワ精工(現グローブライド)に行きたいと思い、就職活動を始めました。ちなみに当時愛用していた釣り具は、ダイワ製のリール「ファントムPT−Z」と竿「アモルファスウィスカー」。軽量でギミック満載のこのリールは、無骨な輸入品にはない繊細な美しさを持っていて、私のものづくりに影響を与えた製品のひとつです。なので、何が何でもこの会社に入りたかった。面接にはリールを自作して持参し、最終面接も手応え十分でした。ところが結果は、なんと不採用。

ほかのメーカーからは内定をもらっていましたが、親には「もしダイワに落ちたら京大に行く!」と宣言していたので、不採用通知の夜から早速、京大受験を目指して本格的に勉強を始めました。言ってみれば『電波少年』的なネタ感覚でしたが、京大に行ったらものづくりをしよう、それも子供のころの夢だったロボットをつくろうということは決めていました。運よく1年目で合格しましたが、実はこの話にはおまけがあります。2015年、グローブライド社から連絡があり、社外取締役に就任し、リールのデザインなどにも関わっているんです。縁とは不思議なもので、18年越しで内定をいただいた感じです。

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触覚デバイス「ぶるなび」の展望 https://inforium.nttdata.com/foresight/buru-navi.html Wed, 21 Dec 2016 02:49:43 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1475 「手を引いて」誘導するデバイスの可能性
NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ 雨宮智浩 主任研究員(特別研究員)

NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ 雨宮智浩 主任研究員(特別研究員)

───人間の五感の中でも、特に触覚に注目した理由について教えて下さい。

きっかけの1つになったのは、視覚や聴覚に障碍(しょうがい)を持つ方へ、視聴覚以外の方法で情報を伝える手段の研究でした。建物内で火災に遭った場合、館内放送でサイレンが流れたり、大声で叫んだりするなど、危険を伝える手段として最も多く使われるのは音声、つまり聴覚です。それ以外では、非常口などを記した誘導灯、つまり視覚による避難誘導方法も使われますが、炎や煙で視界を覆われた状況下では役に立ちません。しかし触覚を使えば、こうした環境の中でも文字通り「手を引く」ような自然な感覚で、避難する方向を伝えることができるかもしれないと考えたのです。

また、現状では訪日外国人に対する道案内はその大半が言語などの視覚情報によって行われていますが、日本語の看板をほとんどのアメリカ人旅行者が理解できないように、その効果は記載された文字や図柄の理解力に左右されます。この問題も、もし非言語情報である触覚によって方向を伝えることができれば解決できるはず。つまり触覚による案内誘導が実現すれば、文字を読めない子供から、異なる言葉や文化背景を持つ人々に至るまで、あらゆる人の役に立つはずだと考えたのです。

雨宮さんが開発した「ぶるなび」の歴代機種。左から、機構などを検証するプロトタイプ2点、「ぶるなび」初号機の内部機構モデル、「ぶるなび2」、最新機種の「ぶるなび3」

雨宮さんが開発した「ぶるなび」の歴代機種。左から、機構などを検証するプロトタイプ2点、「ぶるなび」初号機の内部機構モデル、「ぶるなび2」、最新機種の「ぶるなび3」

───それだけ多くの可能性を秘めた感覚領域でありながら、触覚を伝えるデバイスの開発が難しい理由とは、なんでしょうか。

触覚の内、携帯電話のバイブレーションのように振動で何かを伝える手法は今や一般的になっています。ただ、これでは案内誘導に必要な「方向」を伝えることはできません。方向を伝えるためには、その向きに引っ張ったり押したりする力を発生させる必要があります。ただ「作用・反作用の法則」が示すように、こうした力の手応え、つまり力覚(力感覚)を生み出すには地面などに固定された支点が必要です。そのため、牽引力をはじめとする力覚を生成するには空気噴流や磁力を用いるなど大がかりな装置が不可欠で、これまでに持ち運び可能なサイズでそれを実現したものはありませんでした。

もう1つの問題は、視覚や聴覚とは異なり、触覚は体に接していないと伝えることができないということです。しかも、触覚の感じ方は接触の状態だけでなく、その人の皮膚の硬さや感覚の鋭敏さ、刺激への慣れなど、個人差に大きく左右されます。あらゆる人に伝わるようにある程度大きな牽引力を、持ち歩くことのできるポータブルな装置でどのように発生させるか。それが最大の課題でしたね。

人間の錯覚を利用して牽引力を生成

1方向に牽引力感覚を生成するクランクスライダー機構の仕組み。分銅が速く動く方向に、感覚上の「引っ張る力」が生じる(提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

1方向に牽引力感覚を生成するクランクスライダー機構の仕組み。分銅が速く動く方向に、感覚上の「引っ張る力」が生じる(提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

───どのようにして、これらの課題を解決することに成功したのでしょう。

注目したのは、人間は速い動きに対しては敏感である一方、遅い動きは知覚しにくいという感覚特性を持っていることです。つまり、物理的に牽引力を生み出すのではなく、錯覚を利用して「感覚的に牽引力を伝える」ことが可能ではないかと考えました。具体的には、ある方向には速く、逆方向にはゆっくりと分銅(重り)が動く仕組みによって、速く動くほうにのみ牽引力を知覚させるというアイデアです。この動きを繰り返すことによって、物理的には振動しているだけでも、あたかも牽引されているように感じる機構の開発に取り組みました。

「ぶるなび」初号機(重量約250g/2007年)の内部機構モデル。箱の中を往復する分銅によって、単一方向に牽引力感覚を生成する(写真提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

「ぶるなび」初号機(重量約250g/2007年)の内部機構モデル。箱の中を往復する分銅によって、単一方向に牽引力感覚を生成する(写真提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

具体的には、円筒内を分銅が非対称的に往復するクランクスライダー機構の試作を重ねながら、感覚上の牽引力の大きさと、装置自体の小型化のバランスを探っていきました。こうして完成したのが、2007年に発表した「ぶるなび」の初号機です。これはコードレスフォンサイズの箱形のデバイスで、手で握るとあたかも手を引かれるような力が感じられます。この初号機を用いて実際の用途を想定した実験を行いながら、さらなる小型化や、多方向に牽引力感覚を発生させる方法の研究に取り組んでいきました。

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ドローンバード シビックテックによる災害支援 https://inforium.nttdata.com/focusedissue/dronebird.html Thu, 15 Dec 2016 01:31:01 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1401 世界初! ドローンを活用した市民参加型救援隊「ドローンバード」
古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。1975年東京都生まれ。東京都立大学で衛星リモートセンシング、地理情報システムを学ぶ。2001年、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了。05年からマップコンシェルジュ株式会社 代表取締役を務める。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。ここ数年は「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに熱を上げ、GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、地図を作るためにフィールドを駆け巡っている

古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。1975年東京都生まれ。東京都立大学で衛星リモートセンシング、地理情報システムを学ぶ。2001年、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了。05年からマップコンシェルジュ株式会社 代表取締役を務める。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。ここ数年は「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに熱を上げ、GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、地図を作るためにフィールドを駆け巡っている

───古橋さんらが進めている「ドローンバード」は、ドローンとオープンストリートマップ(OSM)の手法を活用したプロジェクトだそうですが、概要を教えてください。

古橋 地震などの自然災害が発生した時、あらかじめ飛行ルートをプログラミングしたドローンを飛ばして現地を空撮。回収したドローンから取り出した画像データを元に、OSMの地図作成機能を使って最新の地図を作る、というプロジェクトです。作成した地図は、被災地で救援活動をする医療機関や政府、自治体、災害ボランティアなどに使ってもらうことになります。

 地震や津波、火山の噴火など大きな自然災害が発生した時に、最初に必要になるのが正確な被害状況を把握できる「地図」です。なぜなら、災害直後の現地の状況がわからなければ、的確な人命救助や支援活動ができないからです。地図の有無が命を左右すると言っても過言ではないのです。

───隊員に広く一般市民を募るのはなぜでしょうか?

古橋 災害はいつどこで起きるか分かりません。特に日本は地震や津波、火山の噴火などが起きる可能性のある災害大国です。もし、自分たちの身近で大きな自然災害が発生した時、生き延びるためには市民自らが自分たちの力で情報を取得し、安全な場所へ逃げることが必要です。

 ドローンを操縦し、危険がどの場所まで及んでいるのかといった情報を取得することができる「ドローンバード」の隊員が、その地域の市民の中に一人でもいたら、ドローンを飛ばして現地の被害状況がわかる地図を迅速に作成できるだけでなく、その情報を元に地域の人たちと一緒に的確な避難ができるでしょう。災害時に生き延びる力を持っている市民を一人でも増やしたいと考え、一般市民から隊員を募っています。

───具体的には、どういう活動をする予定ですか? 

古橋 災害が発生した時、まずドローンを操縦できる「ドローンバードパイロット」が現地に急行、被災地の様子を空撮します。ドローンが撮影してきた画像をもとに、現地の被災状況をOSMに反映するのが「クライシスマッピング部隊」です。他には、飛行中に壊れたパーツや新たに設計された軽量型ドローンを最新のデジタル・ファブリケーションで作る「ドローンバード開発部隊」も計画しています。さらに、平常時に隊員が集い、その技術を磨くことのできる拠点となる「ドローンバード基地」も作っていく予定です。

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世界のどこにいてもリアルタイムで被災地支援が可能

───衛星リモートセンシングが専門の古橋さんが、災害支援活動に関心を持つようになったきっかけは何ですか?

古橋 2010年1月のハイチ地震で体験したクライシスマッピングです。クライシスマッピングで地図の作成に使うシステムがOSMで、僕がエンジニアの仲間とそのプロジェクトに参加し始めたのが2008年から。オンラインであれば世界のどこからでも自由に地図作りに参加できる仕組みがおもしろいと思っていましたが、最初は趣味のような感覚で自分のやっていることが世の中の役に立つとは考えていませんでした。その考えが大きく変わったのが、ハイチ地震の時でした。

 ハイチ地震は20万人以上が亡くなる大規模な災害だったこともあって、世界中から1000人以上のマッパーが参加しました。衛星や航空機等で撮影された画像データをインターネットで共有し、被災後の道路の中心線や建物の形状などの状況をOSMにマッピングしていきます。

 僕も現地には行かず日本から参加したのですが、震源地に近い首都ポルトープランスで、地震が発生した翌日からOSM上の現地の地図情報が入力され始めたんです。世界のどこかにいる誰かが道路の中心線や建物の形状などのデータを入力すると、地図に描画されるんですね。震災前には情報が少なくてスカスカだった現地の地図がみるみるうち緻密な地図になっていく。その様子を目の当たりにしたことでクライシスマッピングの可能性を強く感じました。

地震前のポルトープランスの地図

地震前のポルトープランスの地図

地震後に世界中のマッパーにより更新された同じ場所の地図

地震後に世界中のマッパーにより更新された同じ場所の地図

───その地図はどんなところで活用されたのですか?

古橋 道路や建物の情報だけでなく、避難所の場所や避難している人の数などもアイコンやピンで表示された地図は、国連のOCHA(国際連合人道問題調整事務所)や現地の赤十字などのメンバーが被害状況の把握や物資の配布プランを考える際に使われました。

 救援活動に従事する関係各所が僕たちの作った地図を自由に使えるのは、OSMが著作権フリーの地図だから。著作権がほぼないからこそ自由に世界中にネット配信することもできるし、紙地図として印刷して使ったり、誰にでも配ったりできます。この点が他の地図とは異なる点であり、OSMで作成する地図が災害時の救援活動に大きく貢献できる理由です。

 ハイチ地震以降、OSMがどんどん認知され、現在Humanitarian OpenStreetMap Teamのサイトには、世界中からさまざまなテーマの地図の作成依頼が入ってきています。現在、マッパーは世界中に300万人いると言われていて、その数はどんどん増えています。日本でもその動きを加速させたいと願い立ち上げたのが、「ドローンバード」の運営をするクライシスマッパーズ・ジャパンです。

───2011年3月の東日本大震災をはじめ、国内で起きた自然災害でもクライシスマッピングは行われていたそうですね?

古橋 はい。東日本大震災ではNTTデータにも協力いただき、OpenStreetMap Foundation Japanを中心とした有志でsinsai.infoというウェブサイトを立ち上げました。この時、自国の災害と初めて向き合ったことで多くの学びがありました。その経験は後の活動に生かされ、2015年9月の関東・東北豪雨や2016年4月の熊本地震などで稼働しました。熊本地震の際にOSMで作成した地図は、熊本県社会福祉協議会の災害ボランティアセンターの地図として使われました。

崩落した阿蘇大橋付近の様子が反映された地図

崩落した阿蘇大橋付近の様子が反映された地図

 災害が起きて僕たちの活動を初めて知ったという人の多くが、クライシスマッピングの活動に加わってくれています。実際、熊本地震では熊本市から益城町、大分市にかけての断層沿いにマッパーが増えるという現象が起きています。災害が契機になるのは悲しいことではありますが、市民の中に1人でも多くのマッパーや「ドローンバード」の隊員が増えていくことは、防災対策としてもたいへん心強いことだと思っています。

熊本大地震の断層に沿ってマッパーたちが活動していることがわかる

熊本大地震の断層に沿ってマッパーたちが活動していることがわかる

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多様化するスタジアムのスポーツ観戦 https://inforium.nttdata.com/foresight/smart-stadium.html Tue, 06 Dec 2016 01:35:36 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1338 見る、支えるという2つの側面

サッカーJ1の「大宮アルディージャ」は、2016年7月から本拠地の「NACK5スタジアム大宮」(埼玉県さいたま市大宮区)で、ITをスポーツ観戦に応用した取り組みを始めています。

スタジアムにWi-Fi環境を整備することで、専用アプリをインストールしたスマホから接続して、試合中継や応援番組、選手の追っかけ映像が楽しめるという仕掛け。これらは「スマートスタジアム化構想」の一環です。

───「スマートスタジアム」とは、どんなものですか。

小笠原 ITをきっかけにして、新しいスタジアムの形をつくるというのが大きな定義です。スタジアムだったり、街だったりに対し、ITによる付加価値を付けて、役割を広げていく取り組みです。米国の「リーバイス・スタジアム」などが先行事例として有名ですね。

NTT 新ビジネス推進室 2020レガシー担当 小笠原賀子担当部長

NTT 新ビジネス推進室 2020レガシー担当 小笠原賀子担当部長

───一般的にはITとスポーツはあまり相容れないものと思われがちですが、実は親和性が高いと。

小笠原 ええ。スポーツには、実際に「する」という側面、試合や演技を「見る」という側面、選手や仕組みを「支える」という側面、大きく3つがあります。そのうち、どの側面でもITが活用できるシーンがあると思っています。

NTTグループとしてスマートスタジアムを色付けるものとして、今回のトライアルは「見る」「支える」がテーマです。

───具体的には?

「見る」という側面では、観客の皆さんに対して「サービスとして生の試合をもっとよく見せる」「もっとわかりやすく見せる」という観点でマルチキャストシステムを使う、といった環境づくりをしています。

テレ玉×ひかりTV「Ole!アルディージャPlus」は、スタジアム内限定のオリジナル応援番組。

テレ玉×ひかりTV「Ole!アルディージャPlus」は、スタジアム内限定のオリジナル応援番組。

「支える」という側面はさらに広く、チーム運営を直接支える以外にもファンクラブ会員となって支えるとか、地域の方々が自分たちのクラブを愛する気持ちなどを高めるとか、そういう緩やかなつながりまでを含めて考えられるでしょう。

地域連携の文脈では、マネタイズの方法なども含めた取り組みを、今からやりたいと思っているところです。ITを使ったデジタルマーケティングを使って、地域とクラブ、あるいは地域と選手を繋いでいきたいですね。

スマホの利用には抵抗がない

───専用アプリは大宮のチームカラーであるオレンジをあしらったデザインのほか、動きや機能もよくできているという印象がありました。サポーターやチーム、メディアも含めて反応はどうでしたか?

柿元 2016年10月22日の試合直後、観客の何人かの方々にグループインタビュー形式で集まっていただきました。内訳は、試合観戦に慣れている層と、初めてスタジアムに来ましたというビギナー層です。

NTT 新ビジネス推進室 地域創生担当 柿元宏晃さん

NTT 新ビジネス推進室 地域創生担当 柿元宏晃さん

柿元 年間パスを持って応援に来るようなコア層は、欲しい情報が明確にあります。「普段よりも、もう少し試合データを詳しく見たい」といったニーズにかなった機能に着目していました。

一方、ビギナーは全く違います。初めてスタジアムで見る試合で何もわからないので、選手を紹介しているコンテンツから情報を得たようです。見ているポイント、コンテンツが違うので、同じアプリでも楽しみ方も2通りあることがわかりました。

トレーディングカードのようなデザインのコンテンツ「オリジナル選手カード」では、スタジアムで選手のプロフィールをチェックできるため、応援のビギナーに役立つ。

トレーディングカードのようなデザインのコンテンツ「オリジナル選手カード」では、スタジアムで選手のプロフィールをチェックできるため、応援のビギナーに役立つ。

───それは想定していた通りの使われ方だったのでしょうか。

柿元 あまり使い方の案内をしていなかったのですが、想定以上に使いこなしていただけたようです。ライブ動画は何秒か遅らせて配信しているため、いいプレイがあった時に手元を見るとちょうどリプレイになっています。途中でそれに気づいて、画面を見ていたという意見は多かったですね。

───スタジアム内のWi-Fi速度についてのコメントはありましたか。

柿元 人によって感覚が違うと思いますが、一般家庭のWi-Fiと同等か、少し遅い程度に感じる方が多かったようです。次回も使いたいという意見が多かったのはビギナー層の方でした。

地域を盛り上げる手助けに

───アプリには、スタジアム周辺の地域を盛り上げようという仕掛けがあります。その狙いは。

小笠原 試合がある時、街には1万人くらいの観衆が集まってきます。せっかくなので、その方たちにスタジアムだけではなく、その周辺でもお金を使ってもらえれば、地域がクラブを持っている経済的な価値になりますよね。スタジアムがその役割を果たすきっかけになればと、まずはクーポンのシステムを考案しました。

クーポンの提携先としてお声がけしたのは、20~30店舗くらいです。我々が集めたというより、大宮には元々「大宮ナポリタン会」という、ナポリタンを街の新名物にする、駅前の商店によって立ち上げられたグループがあり、会の参加店にお声がけをさせていただいています。

公式アプリには、地域の飲食店で使えるクーポン機能も搭載。

公式アプリには、地域の飲食店で使えるクーポン機能も搭載。

今後はIT的な仕掛けも含めて、もう少しレベルアップしていかなければと思っています。スタジアムの観客に来て欲しいと思っているお店に、オープンなプラットフォームから登録してもらうところまでいくのが、理想的なケースです。そうすれば、マネタイズが可能になる気がします。

それから、店舗における試合コンテンツの再利用や、パブリックビューイングなども課題ですね。大宮には「大宮公園」や「鉄道博物館」といった、施設がたくさんあるので、そうした施設にお声がけするほか、さいたま市ともうまく連携できればいいかもしれません。

また、Jリーグのような地域に密着したスポーツは地域間のシナジーを生むので、対戦相手の街との、相互の送客まで含めて、お手伝いしていきたいと思っています。

───Jリーグの試合には2つの都市が必ず出てきますから、面白い取り組みになりそうです。

小笠原 大宮のスタジアムが盛り上がっていることが伝われば、アルディージャの対戦相手サポーターに「アウェーのスタジアムへ行きたい」と思ってもらえるでしょうし、さらにお互いに良くなっていけば、もっと新しい取り組みもできると考えています。

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暦本 純一(ヒューマンインターフェース研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/rekimoto.html Mon, 05 Dec 2016 04:39:49 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1302 (※)本稿は、2016年10月27日に東京・豊洲のNTTデータ本社で開催された「Internet of Abilitiesの時代:Augmented RealityからAugmented Humanへ」と題された暦本氏の講演内容をまとめたものです。

【プロフィール】 暦本純一(れきもと じゅんいち) 博士(理学) 1986年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。日本電気、アルバータ大学を経て、1994年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。1999年よりソニーコンピュータサイエンス研究所 インタラクションラボラトリー室長。2007年より東京大学大学院情報学環教授 (兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)。多摩美術大学客員教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 訪問教授。

【プロフィール】
暦本純一(れきもと じゅんいち) 博士(理学)
1986年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。日本電気、アルバータ大学を経て、1994年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。1999年よりソニーコンピュータサイエンス研究所 インタラクションラボラトリー室長。2007年より東京大学大学院情報学環教授 (兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)。多摩美術大学客員教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 訪問教授。

建築をプログラミングする

今日のテーマはヒューマンオーグメンテーションなのですが、その前にIoTの話題をご紹介しましょう。

実は今年、「Squama」という作品がグッドデザイン賞を受賞しました。これは液晶を使ったスマートウィンドウで、5センチ角の窓の透明度を液晶技術によって自由にプログラムできるというものです。

例えば会議室でプレゼンする時、窓からの光がまぶしいからブラインドを下ろしているのに、室内の明かりが煌々とついている風景をよく見かけます。窓や建築をプログラミングできるようになれば、外からどのくらい光を取り入れるかを調整することができます。これも1つのIoTと言えます。

「Squama」(2012年)は、5センチ角の四角(窓)の透明度をコントロールすることができる

「Squama」は、5センチ角の四角(窓)の透明度をコントロールすることができる

これまでの建築はハードウェアとしてつくられてきましたが、これからの建築は機能(ソフト)が変わっていく。その裏にはもちろん情報技術があるわけですが、ディスプレイに情報を表示するだけではなく、室内の明るさや暗さ、見たいものと見たくないものを制御する、といった私たちが日常的に持っている感覚に密着していくと考えられます。

可動要素を取り入れたキネティックファサードや変化する建築というのは既にあります。例えばパリにあるアラブ世界研究所(設計:ジャン・ヌーベル、1987年)の建築は、メカによってシャッターが開閉するようになっています。

ファッションの分野では、汗をかくと水分でフィンが開く特殊なポリマーでできたウェアもあります。自然界であればカメレオンは外界に反応して変化しますね。

私たちが取り組んでいる窓も同じです。液晶材というのは電圧をかけると中の分子が並ぶ性質を使って光をコントロールする仕組みです。今や液晶材はどんどん値段が安くなっており、同じ面積の液晶テレビよりも建築材料としての窓の方が高いという時代なんです。また種類も色々ありますから、今後建築のなかにどんどん入っていくでしょう。

例えば、最近はガラス張りのオフィスをよく見かけますが、モニターに投影している資料の中身を見られたくないという場合がありますね。このスマートウィンドウは空中にモヤがかかっているような状態をつくり、オフィスの外側を歩いている人の視界からモニター部分だけ隠してくれるというものです。

窓には日照を取り込む役割がありますが、一方で直射日光が当たると食べ物が傷んでしまう。そこでスマートウィンドウが食べ物が置いてある部分だけ暗くするのです。この人工的な“影”は太陽の動きに合わせて動くので、一日中そこだけ暗くすることができます。

逆に、温室では植物の光合成が必要な部分だけ日照を確保し、あとは暗くして室温が高くなりすぎないように調整することも可能です。

注目していただきたいのは、IoTとはなにも機器に囲まれてやたらと情報が表示されている世界だけではない、ということ。プライバシーを守ったり生活環境をよくするといったことに情報技術が使われる世界がIoTであると、私はとらえています。

情報を「足す」のではなく「引く」

現在、バーチャルリアリティ(VR:Virtual Reality)やオーグメンテッドリアリティ(AR:Augmented Reality、拡張現実感)が話題になっていますが、私たちが取り組んでいるのはメディエーテッドリアリティ(Mediated Reality)、すなわち調停現実という世界です。

先程のスマートウィンドウのように「あえて見えなくする」のは現実から情報をマイナスすることです。これまでのように情報をどんどん足していくのではなく、逆に引いてちょうどよいところにもっていく。つまり現実を調停するという方向があり得ます。

かつてマーク・ワイザーという研究者がコンピュータが偏在する世界を予言し、ユビキタスコンピューティングという概念を提唱しました。そこからIoTなどの考え方が生まれてきたわけですが、ただコンピュータやデバイスが沢山あればいいということではありません。彼はこう言っています。

「もっとも深い技術というのは見えなくなる。日々の生活と区別がつかなくなるまで溶け込むのが、テクノロジーの最も成熟した姿である」

あるいは京都大学名誉教授の梅棹忠夫氏による『知的生産の技術』(1969年)という本には、「知的生産の技術というのは、秩序と静けさをつくるためにある」と書かれています。私は、この言葉は日本におけるユビキタスの考え方の最初ではないかと思っているのです。

窓を液晶化すれば当然「情報をどんどん出そうよ」ということになるでしょうが、それよりも私たちが生きている生活環境を整えることにテクノロジーの方向があるのではないかと考えています。

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ブロックチェーンは社会基盤となるか https://inforium.nttdata.com/foresight/block-chain.html Fri, 14 Oct 2016 00:58:18 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=967 情報の履歴が記録され続ける

松尾真一郎(まつお しんいちろう) MITメディアラボ研究員・所長リエゾン(金融暗号)。ブロックチェーンの学術研究用国際ネットワーク「BSafe.network」共同設立者。東京大学生産技術研究所・海外研究員および慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授を兼務。暗号プロトコル評価技術コンソーシアム(CELLOS)設立者兼技術WG主査。世界初のブロックチェーン専門学術誌 “LEDGER” エディター。大学院修了後、1996年にNTTデータ通信株式会社に入社、情報セキュリティと暗号の応用に関する研究に従事。2009年NICTに入所。2016年から現職。過去に暗号技術検討会(総務省・経済産業省)構成員、ISO/IEC JTC1 SC27/WG2日本Head of Delegateを歴任。米国在住。博士(工学)。

───ブロックチェーンとはどんな基盤技術で、社会や経済にどう適用が見込まれているのでしょうか。

ブロックチェーンの文脈で実現したいことは、大まかに次の3つです。

1、情報を、悪意ある改ざんのない状態で管理する
2、情報の修正・追加・削除などの変更履歴を、時間的に順序を追って記録する
3、情報を、誰もが公開検証できるようにする

これらは企業ないし組織が厳重に管理されたデータベースを持っていれば実現できることですが、そうした信頼のできる事業者を仮定せずに行える技術なのです。キーワードとなるのは「非中央集権的」という発想です。

ブロックチェーンを構成する数々の技術は今までにもあったものです。厳重に管理するデータベースをつくる技術、時間順に記録する技術、あるいは信頼できる第三者でなくてもあるサービスを構成できる技術です。これらを巧妙に組み合わせて、信頼できる事業者が不要な「お金」の形で紹介したのが、2008〜09年に生まれたビットコインでした。

その後、ビットコインのプロトコルをよく見ると、中央で管理する人がいなくてもいろんなアプリケーションがつくれるのではないか、ということに2014年あたりから大勢の人が気付き出しました。ビットコインのコア技術がブロックチェーンという形で取り出されたのがその頃でした。

───そもそも従来の電子マネーなどの研究は、どれくらいの関連性があるのでしょうか。

1997年からから3年ほどのNTTと日本銀行で取り組んだ電子マネーや日立製作所が取り組んだ電子マネーのプロジェクトがあった頃が、最初の電子マネーブームと言っていい時期でした。「Financial Cryptography」という名前の、暗号技術を金融サービスに応用する技術に関する国際会議も、1997年からスタートしています。

こうした暗号技術の国際学会で議論された暗号技術が、ビットコイン登場の大きな背景になっています。金融における暗号技術の応用に関する研究は、Financial Cryptographyなどで盛んに行われましたし、NTTデータが電子情報の原本性保証を行うサービスとして提供している「SecureSeal」では、ブロックチェーンに近い技術である、ハッシュ値をリンクして非改ざんを証明する技術が使われています。

この方式は、今から26年前の1990年に学会で発表され、「ISO/IEC 18014-3(リンクトークン式タイムスタンプ)」としてちゃんと国際標準化されている技術です。ビットコインは、ISO/IEC 18014-3にある考え方を使い、あるドキュメントの前後関係をハッシュの署名を連鎖させて確認できるサービスです。トランザクションの開始から現在に至るまでのやり取りの一連を確認できるこの仕組みが、ブロックチェーンという技術の中核をなしています。

───ブロックチェーンが「分散型元帳」技術とも呼ばれるのはそういうわけなのですね。

技術的な構造を考えるとビットコインはブロックチェーンの1つの応用形態であり、いわば銀行の残高元帳を分散させたものと考えれば良いわけですね。ブロックチェーンとは、簡単に言うと、公開検証できるオープンデータ(誰もが触れられる情報)に対して、誰もが新たにどんどん情報を登録して確認できる技術なのです。

信頼できる事業者がいなくてもいろんなサービスが実現できるので、スマートコントラクト(契約)分野でのユースケースが考えられています。

最終的には今あるいろんなアプリのみならず、物流のための情報をマッチングする中間業者や証券取引所といったシステムそのものまでを代替するイノベーティブな技術だと私は思っています。

安全性を向上させている段階

───社会へのブロックチェーンの普及が見込まれる中、安全性についてはどうでしょうか。

まだ未成熟な技術のため、セキュリティ要件やセキュリティを確認する手法は固まっていません。実際に2016年6月には、「The DAO」のハッキングという事件が起こりました。

The DAOはプログラム同士が取引をしたり、投資をしたり、自律的に経済活動をする世界観を実証しようとするプロジェクトですが、「Ethereum」というThe DAOが動作するプラットフォームの脆弱性(バグ)を突かれ、思ってもみないお金の流出が起きた事件です。スマートコントラクトは、まだまだ運営も実現も困難だ、と認識させられました。

ブロックチェーンではP2Pのネットワークで繋がったユーザーが、公開管理されたレッジャー(元帳)に変更を加えていく。それらの記録は逐次伝搬され、チェーンのように連鎖することと前後関係を証明する。その過程で電子署名が与えられ悪意ある改ざんを防ぎます。

松尾さん提供

ただ、私の考えとしては、分散システムの考え方を利用し、支配的な権限を持つ人が存在せず、集中管理システムが不要である点というのが、唯一最大のブロックチェーンの売りなので、普及に際してはそのような特性を生かしたユースケースを持ったものに注力することに意義があると考えています。そこを諦めたものには、それほど多くの意味がないと思うのが正直なところです。

すでに世の中で広く使われているビットコインにしても、発行体が存在しない通貨ながら、法定通貨との交換を行うための取引所というものができて、ここに利用者の秘密鍵が保存され、もともと想定していない支配的な権限を持つ人が生まれる可能性があるという意味では不完全です。

「Mt.Gox」の事件も、本来ビットコインが持つ非中央集権という性質を、悪意のある取引所が損なったことが大きなポイントです。だから非中央集権という本来の思想を保ちながら、アプリケーションを増やせるようにするための改良を加えなくてはいけないと思います。

───今後、どのような技術がブロックチェーンの安全性を具体的に向上するのに役立つとお考えですか。

スマートコントラクトでいうと、プログラム言語を堅牢なものにつくり直さなくてはいけないという議論は、まさにMITの中でもされているところです。さらに、まだまだ完全ではありませんが、プログラムのバグを減らすためのデバッガーやチェッカーといった安全性を検証していくツールが出始めています。

プロトコル自体の脆弱性を下げるために、フォーマル・ベリフィケーション(形式検証)、つまり形式的にその設計が安全かどうかを検証することが、まずは必要ではないかと思っています。

トレードオフを見定める

───松尾さんは、セキュリティと性能はトレードオフであるということも主張されていますね。

そもそもブロックチェーンに限らず、普段の情報システムの構築でもさまざまな要素はトレードオフの関係になっていて、適切なバランスを考慮して設計します。

松尾さん提供

セキュリティを強めすぎると運用コストやユーザビリティーのパフォーマンスが落ちるし、反対に「誰それは信用できるから、その部分だけはセキュリティ対策費を抑えてもいいだろう」ということも日常であります。

ブロックチェーンの場合、そのトレードオフの考える評価軸の中で「どれくらい非中央集権を高めるのか?」を考えることは、ブロックチェーンの良さを引き出しつつ、使い勝手がよいシステムをつくるための大きなポイントなのです。

例えば、2015年あたりから、ビットコインのブロックサイズをどれくらいに変えるかという話は世界で大議論になっています。現在のビットコインの仕様では、 1つのブロックのデータサイズには現在1MBの上限があり、1つのブロックは10分に1回つくられています。そのサイズを例えば単純に1GBにすればスケーラビリティが劇的に向上して、1秒あたり7トランザクションしかない現在のブロックチェーンの処理速度を飛躍的に上げられます。

松尾さん提供

ただ、その場合に必要な1時間あたり6GBという大きなデータを保管できるようなノードを運営できるのはお金持ちだけですから、まるで非中央集権的でなくなってしまいます。トレードオフを考えて、どの辺りに落としどころを設けるかという議論が大事になってくるのはこのためです。

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人工知能と通信で進化するクルマ https://inforium.nttdata.com/foresight/connected-car.html Tue, 20 Sep 2016 01:00:48 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=800 知能を持ったクルマの誕生
トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 主幹 玉根靖之さん

トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 主幹 玉根靖之さん

───2016年2月のNTT R&Dフォーラムで、複数台のプリウスの模型車が自由な方向に動きながら衝突をしないという「ぶつからないクルマ」のデモ展示を拝見しました。1月に米国で行ったデモを再現したものだそうですが、そもそも玉根さんの所属する「コネクティッドカンパニー」とは、どのような組織なのですか。

今年の4月に立ち上げた組織で、メンバーは500人ほどの規模です。私たちが目指すのは、一言で言うと「もっといいクルマを作ろう」ということに尽きるのですが、“いいクルマ”の定義はメーカー側が決めることではなく、お客様が決めることだと思っています。

今日の社会でスマートフォンのように、いろいろな外部の端末とクルマが繋がるという環境変化が起こっているなか、“私たちも「繋がる(コネクト)」という観点からクルマを考えなくてはならないのではないか”という判断がありました。

───すべてのクルマが外部とコネクトしていくとともに、ビッグデータも活用していく。

これまで私たちがお付き合いしたことのなかったような組織と連携していき、新たな価値を生み出すために、動き出しています。

───繋がる(コネクト)という概念が描くクルマの未来像とはなんでしょう?

さすがに将来のことを確実に予測することはできませんが、パッセンジャー(乗客)ではなくドライバー(運転手)になり得るのが、電車などの他の乗り物とクルマの違うところです。

では、運転中に何と繋がれば楽しいか。

検索サイトやSNSへのアクセスなど、情報収集の機能を付けるだけでは、スマートフォンの延長で終わってしまいます。より「いいクルマを作る」という目標に向かって、昨年、人工知能を研究する国内企業のPFNに出資する経営判断をしました。

───これは、自動運転が一般化するという将来を見据えてのことでしょうか。

必ずしも、人工知能の技術がそのまま私たちの考えるクルマの技術に直結するかどうか、まだ分かりません。もしかしたら自動運転にも使えるかもしれない、という予感があるという段階でしょうか。

そこで今回はあえて自動運転という言葉は使わずに、毎年出展している米国のCESという展示会で、人工知能、クルマ、通信という3つの技術を掛け合わせた「ぶつからないクルマ」のコンセプトを紹介したのです。

2016年2月18日、19日、NTT R&Dフォーラムに出展した際の展示ブースの様子

エッジコンピューティングが鍵に

───機械学習した「ぶつからないクルマ」は、どのような目的で、またどんな方法でデモンストレーションされたのでしょうか。

人工知能を使ったクルマとはどのようなものか、具体的に一般の消費者の方々に分かるデモにしました。「衝突を予測しながら運転を学習していく」というPFNが持つロジックを使い、それをクルマに具現化しようと考えた企画です。

今回採用した人工知能は、真っさらな状態から3時間くらいかけて賢く成長します。未学習の状態から展示しようとも考えたのですが、5分も滞在しない来場者は、最初のほうを見ても、何が起こっているか分かりません。そのため、だんだんと賢くなっていく様子を映像で見せながら、デモではある程度の学習を積んだ状態のクルマを使いました。

CESで流した映像の絵コンテ

CESで流した映像の絵コンテ

さらに、ぶつからない状態になったクルマだけが動いていると、あらかじめ動きをプログラムしていると思われる可能性もあったので、銀色の車体以外にリモコンで来場者が動かせる赤い車体を導入したのです。赤いクルマを自由に動かしても、銀色のクルマがきちんと自分たちで判断して衝突を避けられることを伝えられました。

───会場の反響はどうだったのでしょう。

YouTubeなどで多くの方に投稿していただいたり、さまざまな声を各方面から頂戴したりしたので、今回のコンセプトをご理解いただけたと考えています。

───CESのデモでは、どのようにNTTグループと連携したのですか。

クルマに搭載される半導体の性能は向上しています。クルマでできる演算処理はクルマで、その他の計算はクラウド側で処理をさせよう。そのための通信の負荷を下げようというのが以前までの考え方です。でも、その構想だけでは不十分でした。遅延によってタイムラグが生じやすいからです。

私たちが着目したのは、ある程度データを並列にして同時に処理しながら、なるべくリーンな(無駄のない)形で高速な情報のやり取りをしていくNTTのエッジコンピューティング技術(2本目で後述)でした。

クラウド上のサーバーにデータの集積や処理が集中するクラウドコンピューティング(左)に対して、エッジコンピューティング(右)ではネットワーク上に複数のエッジサーバーを置いて処理を分散させる

世の中にあるクルマの状態のデータと、クラウド側の状態のやり取りをいかにスムーズにできるか。こうした技術についてNTTの皆さんと相談をしながら、ぶつからないクルマの具現化に漕ぎ着けました。

ただ、最初のデモはWi-Fiで動かしていたのですが、さまざまな電波が飛び交うCESの会場では、通信状態が非常に悪く、そのままでは動かないクルマが出てくる可能性が非常に高かった。

そこでNTTの皆さんには通信が途切れない状態で、クルマがクラウドとやり取りできる仕組みを短期間で仕上げてもらいました。無線のところを作り、それを模型のクルマに組み込み、PFNが学習のチューニングなどを急いでやったという段取りです。

楽しさを保ちつつ、リスクを回避

───コネクティッドカンパニーの今後の目標を教えてください。

私たちの究極の目標は、クルマによる交通事故で亡くなる方をゼロにすること。そのとき非常に大きな影響力を及ぼすのが、人工知能ではないかと私たちは考えています。

でも、それが達成できてもクルマに乗ったときに楽しくなかったら意味がありません。世の中が求める「いいクルマ」を作り、クルマに乗っていただいたときの楽しさを高めながら、どれだけリスクを回避できるかがポイントだと思っています。

───具体的にはどういった方向に進化するのでしょう。

パソコンやスマホではディスプレイ越しに他の人と繋がるわけですが、運転中のドライバーのように、ディスプレイを介さない状態では、どのように便利で安全なインターフェースがあり得るのか。

快適にクルマを運転したいとき、どういう動作をしていただくと苦痛なく動けるのか。やりたいことに対して目的が達成できるのか。

ドライバーやパッセンジャーの行動パターンと人間心理がどんな関係を持つのかまで含め、これから研究していきたいと思います。本当に実現できるか分かりませんが、試みたいことばかりですね。

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スポーツ観戦はITで進化する https://inforium.nttdata.com/foresight/kirari.html Thu, 25 Aug 2016 16:00:00 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=623 パブリックビューイングの新提案

───2016年2月18日と19日に開催された「NTT R&Dフォーラム2016」では、空手演舞(協力:公益財団法人 全日本空手道連盟)の中継がイマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」という技術を使ってデモンストレーションされましたが、浮かび上がる疑似3D映像と迫力のある音が、あたかも目の前で競技が行われているようでした。

木下 会場でご覧いただいた方のご意見を聞くと、本当に目の前に人がいるかのように見えたという声が多いですね。プロスポーツや音楽や伝統芸能などのエンターテインメント分野の方に、実際に使ってみたいという問い合わせをたくさんいただき、すでにトライアルとして取り組んでいるものもあります。

NTTサービスエボリューション研究所 ナチュラルコミュニケーションプロジェクト 主任研究員 木下康儀氏(左)、同 井元麻衣子氏(右)

───イマーシブテレプレゼンス技術Kirari!は、どのような体制で研究開発が進んでいるのですか。

木下 新しいソフトウェアサービスを実現するために必要となる革新的な技術の研究開発を進めているサービスエボリューション研究所(EV研)の1プロジェクトです。メンバーは30 〜40人ほど。各技術を研究しているグループもいれば、プロデュースという形で事業化に向けた活動をするグループもいます。

───プロジェクトの構想が立ち上がった時期を教えてください。

井元 2014年12月に今のプロジェクトが生まれ、ほぼ同時期にKirari!のコンセプトが生まれています。私はその当時からのメンバーです。初めてデモンストレーションをしたのが、翌年2月のNTT R&Dフォーラム2015でした。

───Kirari!は、どんなことを目的に開発された技術なのでしょうか。

井元 昨今ワールドカップやオリンピックといった大きなスポーツの大会では、各地でパブリックビューイングが催されています。高精細化の映像を大型画面に映し出すという方向もありますが、複数の技術を組み合わせて臨場感を高める別の方法があるのではないか、という着想を得ました。

木下 臨場感を高めるために、擬似3D映像を表示する装置など、世の中にある技術と自分たちで開発するメディア処理、符号化、メディア伝送などの新しい技術を組み合わせています。

ステージに置かれた卓球台とオーバーレイ(重ねて投写)するかたちで、二人の卓球選手とボールの動きを再現した、Kirari!のコンセプトモデル。ピンポン球の移動につれて音場も移動し、実際に目の前で行われている試合を鑑賞する感覚になる。

ステージに置かれた卓球台とオーバーレイ(重ねて投写)するかたちで、二人の卓球選手とボールの動きを再現した、Kirari!のコンセプトモデル。ピンポン球の移動につれて音場も移動し、実際に目の前で行われている試合を鑑賞する感覚になる。

映像と音声に関する技術が集合

───具体的にはどんな技術の集合なのでしょうか。

木下 まずは「任意背景リアルタイム被写体抽出技術」です。背景がクロマキースクリーンではないような状況でも、動いている選手だけをリアルタイムで切り出すための技術になります。

───人体の熱だったり、センサーからの距離だったり、それらのデータを全部組み合わせているのですね。

井元 必ずしもそうではありません。あまり背景が変わらない環境ならセンサーは使わず、単純に背景との差分だけで選手を切り出せますから。

木下 実際の競技会場を想定すると、観客席の人が動いたり、後ろで風が吹くと木が揺れたりという状況があるので、そういう時にはセンサー等を使ってうまく被写体を特定できるように取り組んでいるところです。

サッカー競技会場のように横長のフィールドをワイド画面で表示したい時に使うのが「超ワイド合成技術」です。複数台の4Kカメラで競技場全体を分割して撮り、リアルタイムにつなぎ合わせ、高精細なワイド映像を作成するものです。

それによって180度のパノラマ映像を表示したり、16対9を超えた非常にワイドな、自分が包まれているかのような映像表示が可能になります。

井元 私たちが「超高臨場感メディア同期技術」と呼ぶのがAdvanced MMTです。MMTは次世代放送向けに標準化されており、別々のストリームで送った映像音声のデータを、絶対時刻を元に同期して伝送する技術です。

───臨場感のある音声を集音・再生する技術もKirari!には含まれますね。

木下 大きな大会で大歓声が沸き起こっている中ですと、競技の音がかき消されてしまうということがあると思いますが、そんな中でもきちんと競技の音だけを集音する技術が「選択型音響集音技術」です。

その他、映像を高品位で符号化するための「高精細映像符号化技術」(H.265/HEVC)や、音声を高品位で符号化するための「ロスレス音声符号化技術」(MPEG4-ALS)なども使われています。

Kirari!とは、被写体映像を抽出する技術、映像や音声と一緒に空間的な情報を同期・伝送する技術、仮想的な音源を臨場感高く定位させる技術など、NTT研究所で取り組んでいるイマーシブテレプレゼンス技術の総称。

Kirari!とは、被写体映像を抽出する技術、映像や音声と一緒に空間的な情報を同期・伝送する技術、仮想的な音源を臨場感高く定位させる技術など、NTT研究所で取り組んでいるイマーシブテレプレゼンス技術の総称。

───データが遠隔に配信された後、プレゼンテーションする際に使われるのはどんな技術ですか。

木下 「高臨場音像定位技術」を使います。例えば、女性アナウンサーが喋っている映像があったとして、彼女の口元から本当に音が聞こえるかのように超音波スピーカーで仮想的に音源を定位させるといった技術です。

場所に応じた見せ方を考えている

───今後に向けた課題があれば教えてください。

木下 課題の一つとしては、被写体抽出技術の精度向上が挙げられます。今は背景が変わらない状況や、少人数を切り出すという条件でリアルタイムな抽出ができていますが、いろいろな競技に広げていくことを考えると、もう少し複雑な背景や人数が多い状況でも切り出せなくてはいけません。また、臨場感を高めるには、きれいに切り出すことだけではなく、切り出した映像と同期をしてリアルタイムに影をつけるなど、映像の後処理などによる演出も重要です。

───切り出せる大きさについてはどうでしょう。

井元 さまざまな競技に幅広く対応したいという思いがありますし、卓球のように選手と卓球台を含めて全体がステージに収まるサイズの競技でしたら、そのまま切り出すこともありえます。

画像中央の選手が、遠隔で空手の演舞を披露している。人物の影や音が効果的に使われ、あたかも目の前に実在するような印象を与える。

ただ、競技場全体を切り出すのはさすがにできませんし、ステージで再現しようとしてもリアルなサイズで映し切れません。サッカーや野球など競技エリアが広いスポーツでは、例えばピッチャーだけを切り出して等身大で表示するとか、特定の選手をピックアップするなど、どのような演出にすると臨場感が高まるのか、検討していく必要があります。

───これからの目標はなんですか。

木下 もちろん2020年は目標としてあるのですが、一過性のイベントだけではなく、実際のビジネスで使ってもらえるシステムに仕立てていきたいと思っています。

───現状は大型システムのKirari!が、例えば一般の家庭とか、少し大きめの公共空間などに入っていける可能性はあるのでしょうか。

木下 場所に応じた見せ方はあるのではないかと思っています。

例えば、スポーツカフェやスポーツバーといった大型のステージを組めないような場所でも、ワイド映像の技術を使って壁一面でご覧いただく。このような場所に応じた新しいスポーツ観戦スタイルを、検討しているところです。

こうした新しい技術を使って、どのような表現方法があるのか。メディアアーティストなどと組んで、使っていただきながら、Kirari!の価値を創造していきたいと考えています。

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人の生体情報を取得して役立てたい https://inforium.nttdata.com/foresight/hitoe.html Tue, 02 Aug 2016 07:09:46 +0000 http://dev.inforium.nttdata.com/wordpress/?p=232 医学分野での経験が生きる

───塚田さんの所属されるNTT物性科学基礎研究所では、どういう研究がされているのでしょうか。

当研究所では、主に物理学系の研究を行っています。量子コンピューティングや光通信など先端的な基礎研究です。その中で、私は初の医学系出身者です。

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NTT物性科学基礎研究所 機能物質科学研究部 分子生体機能研究ブループ 上席特別研究員(主幹研究員)塚田信吾さん

私たちのグループが取り組んでいるのは、バイオとマテリアルサイエンス、つまり生体と素材の融合領域の研究です。化学の専門家や工学などエンジニアリングの専門家もいれば、私のような医療系の専門家もいて、それぞれバックグラウンドの違う人間が融合的な研究をしています。

───医学分野から物性研究に移られた動機とは、なんだったのですか。

私は元々外科医でした。手術の時はバイタルサインと言って、心拍数などのモニターを見ながら治療します。患者さんの身体に粘着式の電極を貼るのですが、手術場は濡れることが多くて、電極が外れてしまう。すると、アラームが鳴ってヒヤっとすることが結構あるんです。

患者さんの心電図を測る精密検査は、場合によって数日間にわたります。すると電極を貼っている場所がかぶれることが多いのです。生体電極は、判定結果次第で命に関わるほど重要な割に、まだまだ中途半端だと痛感していて、いつか良い電極を作りたいと思っていたのです。

IoTの本命としての衣服型

───それが、低侵襲・非侵襲型の電極である「hitoe」というバイタルセンサーの形になったのですね。

hitoeは、人間のような生体と、金属などの電子系をつなぐ技術を研究する過程で生まれました。人や生物の体は親水性、通信に使われる電子回路の世界は金属やシリコンなどの疎水性ですから、水と油のように完全に相容れないものです。人を知るために重要な技術であるにも関わらず、これまであまり素材の研究が進んでいませんでした。
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生体電極に適した素材を探す基礎的な研究の過程で残ったのが、導電性高分子です。この素材は電気が流れるプラスチックのようなもので、ノーベル化学賞を受賞された白川英樹先生らが発見しました。導電性高分子の中には水を多く含む親水性の特徴を持つものもあり、ちょうど水と油のように異質なものをつなぐ材料として最適なものだったのです。

ただし、導電性高分子は非常に弱い物質でそのままの状態で使用するには不向きな材料なので、繊維にしっかりと固定して、糸や布にすることにしました。
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極細繊維のナノファイバーと、電極に使う柔らかい電気を流す導電性高分子素材を組み合わせて「hitoe」と名付けました。

───東レとの技術開発で「布」にしたことで、一般的に使える素材となったんですね。

そうです。身体に優しくて、肌触りが普通の生地に近く、電気もよく通し、透湿性のある、かぶれにくい電極を作ることができました。

「C3fit IN-pulse」は市販化されたウェアラブルセンサーですが、裏側のパッチ状になった2箇所がhitoeで、それ以外は一般的なストレッチ生地です。

NTTドコモのトランスミッターと組み合わせて使うゴールドウインのC3fit IN-pulse(左)とその仕組みを示した展示用シャツ(右)

NTTドコモのトランスミッターと組み合わせて使うゴールドウインのC3fit IN-pulse(左)とその仕組みを示した展示用シャツ(右)

この製品では、心臓の脈を見ることを中心に設計しています。シンプルな2極(2箇所の電極)で心電位を取ります。

───生体からデータを取る時、現状での課題はなんですか。

フィッティングが重要だと認識しています。身体にシャツがフィットしていないと身体を動かした時に電極がズレてしまったり、浮いてしまったりして雑音が入ってしまうからです。カッティングや立体縫製などの工夫で綺麗な信号を取れるよう、今はアパレルの領域にかなり足を踏み入れていますね(笑)

───今後、どのような応用範囲が考えられますか。

まず、医療用途では「24時間ホルター心電図検査」でも使えるような、着るだけで心電図が測れるものを試作しているところです。他に引き合いがあるのはウェアラブルの分野です。

IoTが進むと、あらゆるものがネットに繋がって新しいビジネスが生まれることが予想されます。人の生体データという、ある意味でユーザーに最も近いデータを取得することは究極の目標ですが、一番難しいテーマです。

腕時計やセンサータイプの製品が先行しましたが、厳しい戦いになっていますね。スポーツ心拍計などもかなり値段が下がっています。半分冗談で「hitoeはウェアラブルじゃなくウェアなんです」と言うのも、そこに巻き込まれないためです。

医療系やハイエンドのスポーツ、工場や建築現場のワーカーズセーフティー(作業者安全)と言われる分野は高い信頼性が要求されるので、まだまだこれからの分野です。障壁の高さも乗り越え、hitoeはそちらに向かって歩みを進めています。

運動習慣を促す技術へ

───予防医療と言われるヘルスケア分野は、国の後押しなどもあって拡大が見込まれます。

医者の経験や医学研究などから、いかに運動が人にとって重要か、いろんなデータからヒシヒシとわかるんです。運動の習慣を持っている人は、どんな医学治療よりも予防的な効果で大きな力を発揮します。

そのため、hitoeの一つの目標として運動習慣というものを設定しました。運動の習慣をつくるためには、自分がどのくらいちゃんと運動しているのかフィードバックされればいいのではないかと思っています。そうしたツールはまだ十分に整備されていません。

hitoeの報道発表以来、スポーツ選手やチームの監督といった方から連絡をいただきました。実際にフィールドで使いながら、さらにいいものを目指すという共同研究のオファーです。スポーツ選手の協力によって、一般ユーザーに対しても健康習慣あるいは運動習慣のいいツールになるのではないかと考えているところです。

───低侵襲、非侵襲の電極で人間の生体データを取れるようにしたいという目標がまずあって、それが短期間で製品化にまで漕ぎ着けたのには、どこかにブレイクスルーがあったのでしょうか。

時代背景というタイミングが良かったこともあるかもしれません。これまで最先端の研究というと、技術そのものに対する関心が高かったんですね。ところが、最近は機械や科学技術への注目が一段落して、今度は「人」に関心が向き始めてきたという気がします。
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その中で、ちょうど社会的な課題として少子高齢化という困難な課題を解決しなければならなくなり、ますます身体をしっかり診なければいけなくなってきました。そのタイミングでhitoeという日本発の新素材が生まれ、周囲の期待を巻き込んで、何かの形にしようという推進力を増しているのが現状です。

技術の生まれるタイミングと社会的ニーズがたまたま合致したとき、こうした動きが一気に起こるのだと思っています。

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谷川浩司(将棋棋士) https://inforium.nttdata.com/keyperson/tanigawa.html Thu, 21 Jul 2016 11:59:36 +0000 http://dev.inforium.nttdata.com/wordpress/?p=228 21歳で名人位に就くまで
谷川浩司(たにがわ・こうじ) 将棋棋士。九段。1962年、兵庫県神戸市生まれ。11歳で若松政和七段に入門、14歳でプロ入り。19歳でA級昇格。21歳で最年少名人となり、以降「光速の寄せ」「光速流」と称される切れ味鋭い攻めの棋風で多くの将棋ファンを魅了する。92年に大山康晴、中原誠、米長邦雄に次いで史上4人目の四冠王となり、97年には十七世名人(永世名人)の資格を取得。2002年7月、公式戦通算1,000勝達成。公式タイトル獲得27期、一般棋戦優勝22回。14年、紫綬褒章。現在、日本将棋連盟会長。著書に『常識外の一手』(新潮新書)、『勝運をつかむ』(致知出版社)、『光速の寄せ 振り飛車編』『光速の寄せ 矢倉編』『光速の寄せ 総集編』(マイナビ出版)などがある。

谷川浩司(たにがわ・こうじ) 将棋棋士。九段。1962年、兵庫県神戸市生まれ。11歳で若松政和七段に入門、14歳でプロ入り。19歳でA級昇格。21歳で最年少名人となり、以降「光速の寄せ」「光速流」と称される切れ味鋭い攻めの棋風で多くの将棋ファンを魅了する。92年に大山康晴、中原誠、米長邦雄に次いで史上4人目の四冠王となり、97年には十七世名人(永世名人)の資格を取得。2002年7月、公式戦通算1,000勝達成。公式タイトル獲得27期、一般棋戦優勝22回。14年、紫綬褒章。現在、日本将棋連盟会長。著書に『常識外の一手』(新潮新書)、『勝運をつかむ』(致知出版社)、『光速の寄せ 振り飛車編』『光速の寄せ 矢倉編』『光速の寄せ 総集編』(マイナビ出版)などがある。

将棋を始めたのは5歳のときです。5つ上の兄と喧嘩が絶えなかったので、見かねた父が将棋だったら静かに遊ぶんじゃないかと、将棋盤と駒を買ってきたのが最初でした。当時は遊びもあまりありませんでしたし、男兄弟2人ですから、勝負がはっきり付く将棋は刺激的で魅力があり、すぐに2人で熱中しました。

私は幼稚園のころから天気図の気圧や時刻表など数字の羅列を見るのが好きで、時刻表を見ながら、この電車はこの駅からこの駅までこれだけ時間がかかるから、その間は時速何キロで走るのかを計算したりしていたので、論理的に物事を考えるのが好きだったのだと思います。性格も将棋に向いていたのかもしれません。どんなことでも最初は初心者で勝てないわけですが、そこで面白くないとやめてしまうか、それとも次は勝ちたいと思って続けるか。特に将棋は勝つか負けるかしかない、厳しい、激しいゲームですから、負けず嫌いでないと続きません。私は負けると駒を噛んで悔しがるほどの負けず嫌いでした。

その後、兄は東京大学の将棋部に入り、全日本のグランドチャンピオンになりました。プロの道に進まなかったのは、私が小学校3年生のころからプロになりたいと言っていたからだと思います。兄弟で同じ世界に、特に勝負の世界に生きるのは大変なことですし、トップを争うくらいになればまだしも、仮に大きく差がついてしまったりするとかなり厳しいですから。将棋を始めた歳も、私が5歳で、兄は10歳。こういうことは早いに越したことはないので、それもあったのかもしれません。

私がプロを目指す1つのきっかけになったのが、小学校3年生のとき、東京で開催された小学生大会での優勝でした。いまなら子供の大会はあちらこちらで開かれているので、それに出れば自分の力が全国的に見てどの程度なのかわかります。でも40数年前はいまとは環境が違いますから、神戸ではそこそこ活躍していたものの、全国レベルで通用するのかどうかわからなかった。そうした中で東京の大会で優勝したことは大きな自信になりました。また、神戸で開かれた将棋イベントで2枚落ちの内藤先生と対局し、初めてプロに勝つことができたという喜びを知ったのもこのころです。

奨励会には小学校5年生で入り、中学2年生で四段になりました。奨励会で付いたあだ名は「ワニガワくん」。序盤が上手くないために、苦しい将棋に食らいついて逆転勝ちすることが多かったので、そこから名づけられたようです。高校を卒業して時間が出来ると「谷川将棋研究会」を作り、仲間と一緒に将棋の勉強をするようになりました。当時は公式戦の棋譜は手で書き写すしかないような時代ですから、研究には恵まれた環境ではありませんでしたし、棋士はアマチュアのときはたくさん将棋を指すんですが、プロになると意外に少なく、実際に将棋を指すことは公式戦の対局以外ではほとんどないんです。ですから、1人で研究するのはもちろん大事なことですが、相撲でいう“ぶつかり稽古”も必要だと思ったのです。実践を多く積むことは、勝負勘を養うことにもなりますから。メンバーは奨励会の人が多かったのですが、かなりの人がプロになってくれたので、主宰者としてはうれしかったですね。

21歳のときに名人になれたことは大きな転機となりました。いろいろなことに恵まれていたと思います。当時は30代、40代が非常に強い時代で、大山先生のように60近い方もいらっしゃった。その中で、そろそろ新しい人に出てきてほしいという空気もあったので、それが追い風となりました。もう1つ、私の10代の10年間は中原先生がずっと名人で、まさに中原時代だったわけですが、私がA級八段になって名人挑戦者になる資格を得たその年に、中原名人から加藤名人に替わったんです。それによって将棋界自体が乱世になったような感じだったので、チャンスが出来たんですね。最年少の名人だったこともあって、いろいろなメディアで取り上げられる機会が増え、貴重な経験をたくさんさせてもらいました。

一方で、自分が名人になってもいいのだろうかという気持ちもありました。それまでの名人はほかのタイトルも獲っている方ばかりで、名人=第一人者という感じでしたが、私は名人が最初のタイトルでしたから、自分より強い人はまだまだたくさんいるとわかっていました。自分の力よりも上の地位に付いたことによって、後から実力が少しずつ追いついていったのかなと思います。

1988年、第46期名人戦。中原誠名人に4勝2敗で勝ち、名人に復位する(写真提供:日本将棋連盟)

1988年、第46期名人戦。中原誠名人に4勝2敗で勝ち、名人に復位する(写真提供:日本将棋連盟)

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石黒 浩(ロボット研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/ishiguro.html Mon, 04 Jul 2016 11:32:46 +0000 http://dev.inforium.nttdata.com/wordpress/?p=220 わたしたちは、今までの枠組みを越え、広く知識・技術・人脈の結集により、新しいビジネスの創発に取り組んでいます。その1つとして、オープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」を定期的に開催しています。2016年3月10日の特別イベントでは、石黒浩教授をお招きし、ロボット研究から見える「人間とは何か」についてお話いただきました。

人間が好きだからロボットを研究する

石黒 浩(いしぐろ・ひろし) 大阪大学教授(特別教授)。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

石黒 浩(いしぐろ・ひろし) 大阪大学教授(特別教授)。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

ロボットをつくることで人間を理解する、ロボット学をやっています。誤解されがちですが、ロボットを好きな先生は人間嫌いの人が多いので、間違っても人間そっくりのロボットはつくらない。

僕の場合は、ロボットよりも人間の方に興味があるので、自分そっくりのロボットをつくっています。最近ではこのロボットが講演してくれるのですごく便利です(笑)。

このロボットがアイデンティティーを持つことで、僕らが日常生活で何げなく口にする「言葉」、「心」、「意識」などの意味について、もう一度、深くその意味を考え直さなければならないのが、この研究の面白いところです。

近い将来、人間型ロボットによるサービスを提供していく社会がやってくると思います。なぜ人間型かというと、人間の脳は人を認識するためにあるので、世の中にはどんどん人間らしいロボットが登場していくのです。

ヴイストン社のSota

ヴイストン社のSota

ロボット社会に必要なのは、安くて簡単に使えるパーソナルロボットです。「Pepper(ペッパー)」(※2)は少し大きいですが、「CommU(コミュー)」や「Sota(ソータ)」(※3)など、人と対話できる少し小さいロボットの方が私は使い勝手がよいと思っていて、2~4年ぐらいでロボットによって世の中が変わると感じさせてくれます。例えば英会話の練習に使えるなど、いろいろな活用方法が考えられます。

ロボットを改良することは人間を理解すること

人間と自然に対話するアンドロイドの研究開発用プラットフォーム「ERICA(エリカ)」(©ERATO石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)

人間と自然に対話するアンドロイドの研究開発用プラットフォーム「ERICA(エリカ)」(©ERATO石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)

ロボットの世界も、商品開発の世界と同様に、人間のニーズに基づいたものづくりが必要です。ロボットをつくるだけではなくて、人間を理解しながらロボットを改良していくことが重要なのです。

アンドロイドは分身にも使えるし、触ると自分の体のように感じることができます。例えば脊髄損傷のような体の動かない人でも、アンドロイドがあれば働くことができます。

また、アンドロイドを研究していると、人とロボットの本質みたいなものが分かってきて、性別も年齢も特定できないようなニュートラルなミニマルデザインのロボットの方が、人間の想像をかきたてるということもわかってきました。

人間は道具を使うサル

人間はこれまでの進化の過程において、「遺伝子」と「技術」の2つの進化する方法を持っています。技術による進化は、遺伝子による進化より速い速度で人間の能力を拡張してきました。

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人間とはそもそも何かと、あらためて考えてみると、基本的には「道具を使うサル」なのです。人間とロボットを比較すること自体がおかしい。

人間は能力を拡張して生き残っていく使命が遺伝子に刻み込まれているので、能力を拡張させる新しい技術に対して、とても魅力を感じる性質をもっていて、それが生活を豊かにしていく経済発展の原理になっています。ゆえに、人類の歴史において技術が衰退したことはほとんどありません。

技術開発を進めるにあたり、「コンピューターは人間を超えるのか」という議論がありますね。アンドロイドがどれくらい人間らしくなっているかというと、人の言うことを推察することができ、さらにその意図を共有することができるようになっています。意図を共有できるというのは、人間とロボットが、親しい関係をつくれるということなのです。

無機物から誕生して再び無機物へ

生命の限界を超えてロボットを進化させるため、障害になりうるのは何か。それは、脳の機能をコンピューターに置き換えられるか。ということだと思います。

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コンピューターは、すでに人間が理解し、定義づけできている物事であれば、その処理や対応能力において、人間をはるかに上回ります。今後、人間が機械に置き換わる場面が増え、最終的には、人類は自身のすべてを機械の体に置き換えることになります。

つまり、人類は無機物から生まれ、また、無機物に戻ろうとしているのです。

地球が誕生して偶然有機物ができて、進化の最終形態として人間があります。その人間はロボット(技術)をつくり出し、すべてを人工物(無機物)の体に置き換えて、生物の制約である120年の寿命を超えようとしている。

人間という有機物の体は、知能を加速させるための一時的な手段と言えます。有機物は適応能力が高いので進化を加速することができたのですが、一方で複雑な構造ゆえに壊れやすく、維持ができない。

だから、最終的にすべて無機物に置き換えることで、有機物の限界(寿命)を超えていくことができるのです。

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空間の共有で起ち上がる世界 https://inforium.nttdata.com/focusedissue/yoshida-theater.html Fri, 10 Jun 2016 11:24:18 +0000 http://dev.inforium.nttdata.com/wordpress/?p=213 観光とは、国の光を見ること

農家民泊をテーマに、2016年の3月12日〜13日には東京・豊洲でのハッカソン、3月23日〜24日に宮崎・西諸地区での実証実験が行われた「宮崎と東京をつなぐハッカソン」。

「宮崎と東京をつなぐハッカソン」のダイジェストムービー

一連の流れに先立って、都内で催されていたのが「NTT DATA Innovation Conference 2016」の「地方創生」セッションにおける、この取り組みの紹介だった。

登壇したのは、NTTデータ イノベーション推進部部長の吉田淳一。テキスト中心のスライドが続く従来のプレゼンテーションではなく、多くの写真や音声、YouTubeのムービーを使っての講演だった。

通称「吉田劇場」と呼ばれるこの講演は、これまでに省庁や自治体、企業など、のべ500団体以上で行われてきたもの。冒頭でショッキングな効果音とともに紹介されたのが、消滅可能性都市を取り上げた「増田レポート」の内容だった。

「自治体で人口が1人減ると、歳入が121万円ほど減ると言われていますよね。外から人を呼び込むとき、お金をいくら落としてもらえばいいでしょう。例えば、昨年は2,000万人のインバウンド(外国人観光客)が来日しました。『爆買い』される中国系の方々は平均11万円ほど使ってくれますが、それでも11人が必要です。大都市はどうぞやってくださいという感じですね」

観光とは「国の光を見るということに他なりません」と吉田は続ける。

「その地域でなければ見られない、会えない、味わえないものに触れる。それが観光の本来のあり方なんです。これは、昭和初期の西諸の写真です。沖縄の学童児童の疎開先は、西諸地区が多かったんですね。この地域は『人』が一番の資源なんです」

「そんな『人』を生かすために、ICTでどうやってお手伝いできるでしょう。外の若者と手を組むと、観光都市としての光が見えてくるのではないか。私たちは住民の皆さんとともに西諸流のスタイルを創造し、交流人口を増やしていこうと考えています」

小林市が制作してネットで話題になった移住促進ムービーについては、こう分析した。

「自分たちの地元はこういうところです、というのは十分に伝わりましたよね。ただその後、実際に来てもらえるかは別です。そのときに『ウェブコミュニケーション』が力を発揮するんです。空間を共有して、訪問前にお互い顔が知れた仲になる。訪問後もクチコミの循環によって、地域としてのブランドが育っていく。こうしたことを一緒にやっていきたいと考えています」

空間の共有で気持ちを伝える

ムービーだけにとどまらない「映像そのものが持つ力」について、こんな例を挙げた。

「どうやって農家民泊を広げていくか。そのヒントが『空間の共有』にあります。中学生や高校性が修学旅行で来ていても、親からすると子供たちが何をやっているのか分かりません」

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「でも、普段は朝起きられなくて遅刻している我が子が、朝4時に起きて牛の世話をしているのが映像で見られたらどうでしょう。きっと親御さんたちは感動しますよね。実際に子供たちが体験するのを見ると土地が近くなる、より理解できる、関係が深まる。これが映像の力なんです」

吉田劇場で現在取り上げるテーマは「インバウンドの需要拡大」と「地方創生」の2つであることが多い。あらためて、ITを活用する狙いを語る。

「日本社会や経済を活発化させる方法として、地方それぞれに特徴を生かした仕組みづくりをITでしたいと、NTTデータは企業や自治体と話し合っているところです。お客様の中に、まだ活用されていない魅力や可能性がたくさんあるんです。そんな気づきを生み出すのも、この『吉田劇場』の目的の1つです」

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「これまでNTTグループでは通信インフラを主に手がけてきました。情報を0と1の世界のパケットという形に分割して、世界中に発信していたんですね。これからは『気持ちをパケットに乗せていく』ということが大事になってくるのではないかと思っています」

離れた場所からの気持ちを伝える。それをバーチャルの世界だけで完結せず、リアルな世界でも実現したい、と今後の計画を披露した。

「大丸有(大手町、丸の内、有楽町)と三菱地所さんの間でコラボレーションして、都会のワーカーの方々と地域をどう結び付けるかを考え始めました。先に行われたアイディアソンでは、半日で111個ものアイデアが集まりました」

それらのアイデアは、4象限に当てはめると「見せる」と「体験」に集中していたという。

それを「つなげる」「貯める」という方向につなげるため、ハッカソンで空間共有の方法を実現していきたい、と語った。

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田川欣哉(デザインエンジニア) https://inforium.nttdata.com/keyperson/tagawa.html Mon, 06 Jun 2016 11:13:55 +0000 http://dev.inforium.nttdata.com/wordpress/?p=206 100個のプランより1回の体験を
田川欣哉(たがわ・きんや) takram代表。ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に 精通するデザインエンジニア。東京大学機械情報工学科卒業。英国RCA(Royal College of Art)修了。LEADING EDGE DESIGNを経て現職。2014年よりRCAのInnovation Design Engineering客員教授を兼務。日本語入力機器「tagtype」はニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されている。

田川欣哉(たがわ・きんや)
takram代表。ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に 精通するデザインエンジニア。東京大学機械情報工学科卒業。英国RCA(Royal College of Art)修了。LEADING EDGE DESIGNを経て現職。2014年よりRCAのInnovation Design Engineering客員教授を兼務。日本語入力機器「tagtype」はニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されている。

インターネットやITの普及により、従来の価値観で定められた領域の垣根が低くなり、さまざまなモノがシャッフルできる情報環境にある現代。商品やサービスそのものの価値から、それを利用することの体験価値に重きを置くユーザーエクスペリエンス(※1)の重要性が高まっている。

田川氏は、従来のエンジニアリング領域にユーザーエクスペリエンスからのアプローチで、今までにない新しいビジネスを生み出す第一人者。そこにはどのような考えがあるのか。

代表的な仕事として、経済産業省の地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」のプロトタイプができ上がるまでを語ってもらった。

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「RESAS」は、地方創生の場面で実行可能な施策やプランをつくるためのオープンなWebサービス。新型交付金(地方創生推進交付金)に基づく計画を立てる際、ファクトベースのマイルストーンとしてKPI(重要経営指標)を設定するときに役立てられている。

「ビッグデータをビジュアライゼーションするためのシステムで、もともと中小企業庁のプロジェクトでした。でも、誰も作ったことのないシステムなので、そもそも仕様が書けない。そのような状況の中で、手探りでもプロジェクトを進めることのできるパートナーとして僕たちが選ばれたんです」

takramはプロジェクト開始から2カ月半後に、RESASのプロトタイプをプレゼンテーションした。

「この段階ではユーザーの目に触れる、体験的に重要な部分だけを仮実装した状態で、中身はがらんどうです。でも、プロタイプをつくるのは『デザイン思考』における基本のキ。考えているプランを100回見せるより、実際に動くものを1回体験してもらった方がコミュニケーションは早い」

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プレゼンテーションが成功して、プロジェクトは経産省の中でも注目を集め、最終的には内閣府の地方創生のプロジェクトの柱のひとつへと成長した。

「誰も見たことのない新しいサービスを進めていくには、プロトタイプを提示することが、合意形成のスピードを早めるうえでの重要な鍵。まさに『百聞は一見にしかず』です」

BTC型の人材を結び付ける

こうした仕事を実践するにあたって、必要となる人材要件とはどのようなものなのか。

「三角形の『BTC型人材モデル』を頭に入れておくと分かりやすいです。ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティブ(C)の三要素を有機的に連動させることで、イノベーションを生み出すアプローチです。BTC型人材・チームでは仮説立案・検証のプロセスを高速回転させ、ビジネスとテクノロジーをマーケットで受け入れられるものに昇華していきます」

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「日本の産業界を見渡せば、どのセクターにもテック系(T)とビジネス系(B)の両方をハイレベルで理解している人材の層があります。彼らはエンジニアとして就職後にマネジメント層へ移って、経営能力を身に着ける。技術と経営の話を俯瞰で見ながら完璧に理解するBT型の優秀な人材が、日本企業を支えていました」

しかし、その能力が有効だったのは、「機能」「性能」「価格」という3要素で競争が決まった20年ほど前までの話だと田川氏は言う。

ポストITの時代になると、無料の検索サイトなどに代表されるように、どんどん「価格」の競争原理は希薄化。変わって台頭した要素が、ユーザーの「経験(エクスペリエンス)」だった。

「しかし、そのエクスペリエンスを扱う人材はBT型にはいません。たとえば最近、米MicrosoftがビジネスチャットのSlackを80億ドルで買収しようとしたという報道がありました。このSlackの立ち上げにもデザイナーたちが濃厚に絡んでいます。Instagramもそうでしたね。クリエイティブ(C)の人たちが存在感を発揮しているのが今日の状況です」

「ただ、クリエイティブ(C)の人材だけでビジネスはできません。先の例でも、デザイナーたちがビジネスのことを理解したり、テクノロジーを理解するなかで新しいものを生み出してきました。いずれにせよ、これから新しいプロダクトやサービスをつくるには、3つの能力を束ねることが重要です」

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田川氏が客員教授を務める英国RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)は、CとTを結ぶ「デザインエンジニア」の育成に力を入れている。

「デザインエンジニアは比較的、新しく出てきたハイブリッド型人材。コンセプトメイクやプロトタイピング能力に優れていて、ゼロから1を起こすイノベーションの能力に優れています。掃除機メーカーのダイソン社の創業者ジェームズ・ダイソン氏などが、デザインエンジニアの代表格です」

「彼は昨年に巨額の私費を投じて、800人にデザインエンジニアリングを教育する『ジェームズ・ダイソン・スクール・オブ・デザイン・エンジニアリング』をRCAに隣接するインペリアルカレッジ・オブ・ロンドンの中に設立したところです」

イノベーションへの行動原理

田川氏によれば、イノベーションを起こせる組織を観察していると、共通する2つの行動原理が見つかるという。

新しいビジネス創出やイノベーションを起こすチーム・個人の特徴は「越境性」と「超越性」の2つにある。©takram

新しいビジネス創出やイノベーションを起こすチーム・個人の特徴は「越境性」と「超越性」の2つにある。
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「1つは『越境性』。自分がBの人材であっても、Tにシンパシーがあるとか、Cの人やユーザー視点に興味があり、そうした専門家と会って話すのが好きでたまらないとか。『専門でないから人に任せよう』とはならず、どんどん人と話をして、その人から学んで自分に取り込もうとする行動。これは領域の間をジャンプする能力で、組織におけるXY軸の移動です」

「もう1つは『超越性』。組織ヒエラルキーの中で、自分を宙に持ち上げて超俯瞰するといった具合に、非常に広い視野で捉えられる人。例えば社長を廊下で捕まえて部屋に10分間引き込んで、自分がやりたいプロジェクトをプレゼンして事業化を果たしたとか、そんな行動。組織人としては怖いことですが、イノベーターはこのZ軸の移動を駆使しています」

組織内でイノベーションを起こすために、この後、田川氏はより具体的なアドバイスを展開していった。

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農家民泊をハックせよ(宮崎・西諸) https://inforium.nttdata.com/focusedissue/nishimoro-hack.html Fri, 13 May 2016 13:44:20 +0000 http://localhost/works/inforium/?p=69 市民4人に1人がメールを受信中

熊本県を中心に2016年4月14日以降に発生している地震災害において、犠牲になられた方に心からお悔やみを申し上げると同時に、被災者のみなさまへ心から謹んでお見舞い申し上げます。

全国に約1,800ある市区町村のうち、およそ半数にあたる896の自治体が2040年には失われてしまう。そんな「消滅可能性都市」に関するレポートが発表されたのは、2014年5月のことだ。

レポートでは、出生率が減少して人口が1万人を切ると自治体の経営そのものが成り立たなくなるとして、具体的な名前を列挙した。

宮崎県の西諸地区にある3市町村(小林市、えびの市、高原町)も、現時点でこの条件に当てはまると予測された。

霧島を挟むように鹿児島県と接する宮崎県南部が西諸地区。「北きりしま」と呼ぶこともある

霧島を挟むように鹿児島県と接する宮崎県南部が西諸地区。「北きりしま」と呼ぶこともある

宮崎県小林市の人口は、約4万6,000人。市役所の入口には、市をあげて養殖に挑戦している淡水魚「チョウザメ」の水槽があった。水が綺麗な土地だという印象が強まる。

卵が「キャビア」として珍重されるチョウザメだが、あっさりとして歯ごたえのある身も美味

卵が「キャビア」として珍重されるチョウザメだが、あっさりとして歯ごたえのある身も美味

出迎えてくれたのは肥後正弘市長。やはり「消滅可能性都市」のレポートは非常にショックだったそうだ。しかし、現実感のある見通しを示されたことで、地元の危機感が感じられるように変わったという。

「宮崎県の出生率は、実は沖縄県に次いで全国2位なんです。小林市は教育に力を入れているので、みんな中央に進学していきます。その後、地方に帰ろうと思っても就職する道がないから、人が流出してしまうんですね。どうやってそれを防ぐかといえば、雇用を増やすしかありません」

新卒で市役所に入庁した肥後正弘市長。かつては海外で教育事業に携わる夢も描いた人物

新卒で市役所に入庁した肥後正弘市長。かつては海外で教育事業に携わる夢も描いた人物

若い世代の定住者や移住者を増やすには、雇用のほかにも、医療や教育など「安心して暮らせる環境を整備する必要がある」と市長は言う。

防災も大きなテーマだ。肥後市長が就任した2008年以降、宮崎県は口蹄疫、鳥インフルエンザ、火山活動といった災害に相次いで見舞われた。特に口蹄疫の流行時は市民一丸となって、小林市への侵入を防いだ経緯がある。

「そのとき痛感したのは、危機管理体制の重要性です。それを市民力の高さでどうカバーするのか。通信体制、情報提供体制をしっかりと構築していかないとなかなか難しいなと感じたんですね」

携帯電話で届いた小林市からのメール画面

携帯電話で届いた小林市からのメール画面

「そこで今、1万人を超える市民の皆さんに、市からの『防災・防犯メール配信サービス』に登録していただいているんです」

折しも取材当日、九州は115年ぶりの大雪に見舞われた。普段なら30分足らずで到着する鹿児島空港からの道のりも大渋滞だった。

「今日のような日は、市役所に災害対策本部が立ち上がります。まずは、入院施設などの確認です。市内には資産や家畜がいっぱいありますので、そこに給水がいってるかも確認します。その報告を今朝からずっと待機して受けています」

インタビューの合間に慌ただしく会議に出席する肥後市長

インタビューの合間に慌ただしく会議に出席する肥後市長

水道管の破裂もあちこちで起こった。そこで市は「断水になる可能性があるので、なるべく蛇口を絞ってください」という節水の呼びかけをメールで行った。

断水にならずに済んだのは、ITの力があると市長は言う。

「こういうお願いごとや火災などの事故が発生した場合、全てメールで伝えられます。ただし、まだ高齢者には届かないです。本当の要支援者に対してどう発信するかは、今後いろんな開発でできるようにならなくてはいけません」

西諸地方は酪農も畜産も盛ん。牛は農家の大切な資産だ

西諸地方は酪農も畜産も盛ん。牛は農家の大切な資産だ

こうした危機対応を踏まえたうえで、観光などの産業にも力を入れていきたいと語る。

「国でも『地方創生』という言葉を使うようになりました。人、水、食、花、星、湯、桜、蛍……火山を望む西諸という土地は本当に恵まれていて、魅力がたくさんあります。今までは発信が非常に下手でしたが、昨年は小林市が注目される出来事があったんですね」

霧島周辺の火山が形成した自然。その地層から50年かけて湧き出る天然水が、西諸の豊かな農作物や畜産物を育んでいる

霧島周辺の火山が形成した自然。その地層から50年かけて湧き出る天然水が、西諸の豊かな農作物や畜産物を育んでいる

話題になった移住促進ムービー

霧島山を望む豊かな自然に囲まれた小林市がにわかに注目を浴びたのは、ネットにアップされた移住促進ムービーの存在だった。

動画には、この地に魅せられたというフランス人男性が登場する。滑らかなフランス語で小林市の魅力を語り続ける……と思いきや、彼の話す言葉が実は、現地の方言「西諸弁」だったというオチだ。

小林市の移住促進PRムービー第1弾「ンダモシタン小林」。んだもしたんとは「驚いた」という意味の西諸弁。地元高校生たちをプランナーに迎えた第2弾も完成し、現在第4弾まで公開されている

きっと2回見てしまうという評判通りのムービーは、SNSを通じて拡散。さまざまなアピール要素が地域にあるなか、あえて「言葉」を中心に据えた意外性も大いに受けた。

西諸という地名の認知度が飛躍的に高まった今、次は実際に来てもらうためにどうすれば良いか。ネット動画に止まらず、さらにITを積極的に使うチャレンジが2015年の秋にスタートした。

アイディアソン×ハッカソン=?

2015年10月、東京・丸の内で「東京と地方を編むアイディアソン」と題したイベントが催された。テーマは西諸地区の魅力をITで引き出し、伝える方法。イベントに登壇した肥後市長は、このように語った。

「地方にはたくさんの魅力的な地域がいっぱいあります。これからITに期待するのは、地方と都会をつなぐ役割。先駆的な事例をまずは小林市でやって、これを広めていけたらと思います」

どうしたら、都会の人々に「地方に行きたい」という機運を広められるだろう。アイディアソンにはおよそ80人が参加して、ウェブコミュニケーションを通じてITコミュニティを育むような111個の案が生まれた。

なかでも大きくピックアップされたのが、西諸地区が2006年から取り組んでいる「農家民泊」だ。現在57件の農家が加入して「北きりしま田舎物語推進協議会」が組織されている。

西諸でしかできない体験を提供するため、各農家の特色を生かしたプログラムを用意するのが特徴だ。農家民泊で地域のファンを増やした後は、農産物のインターネットを通じた販路拡大を図り、最終的にはインバウンドを呼び込むという将来策も構想された。

これからの課題は、受け入れ農家の拡大に加え、研修・講習会の徹底、修学旅行時期以外の集客力アップだという。そこにITがどう活用できるか。アイディアソンで集まった知恵を参考に、今度はハッカソンで実際に動くサービスを形作ることになる。

流通や道路網が発達したことで現代社会の利便性を享受しながら、自然の豊かさに親しめるのが西諸地区の魅力。天文観測やホタル鑑賞ができる土地として知られる

流通や道路網が発達したことで現代社会の利便性を享受しながら、自然の豊かさに親しめるのが西諸地区の魅力。天文観測やホタル鑑賞ができる土地として知られる

最後に、肥後市長はITへの期待をこう語ってくれた。

「ITという言葉に対して、以前は機械的な印象がありました。でも、ITでコミュニティが育まれたり、人と人の触れ合いが生まれたりする事例をNTTデータの方々から聞いて、これは凄いなと直感したんです」

「この地域でITを駆使して新たなコミュニティをつくれるなら、地方と都会の差はなくなります。アイディアソンで上がった案も、全て可能になりそうな予感がしますね。人が頭で思いつくことに対して、ITで実現できないものはないのでは? とワクワクしていますよ」

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テクノロジーフォーサイトに込めた想い https://inforium.nttdata.com/foresight/foresight-vision.html Fri, 13 May 2016 10:48:04 +0000 http://dev.inforium.nttdata.com/wordpress/?p=196 社会のマクロな変化と技術動向

──2012年に始まった「NTT DATA Technology Foresight(テクノロジーフォーサイト)」の発表は、どんな体制で取り組まれ、何を目的とするのでしょう。

技術開発本部にいる4~5人の担当者が、社会の新しい動き、特に技術の動向を常時調査して毎年まとめ、1月に発表しています。

始めた頃は、NTTデータグループの研究開発テーマを決めるための技術調査でした。当初は比較的狭い技術分野を対象にしていましたが、今では「PEST(政治・経済・社会・技術)」に沿って情報を集め、体系化して発信しています。

今ではテクノロジーフォーサイトの知名度が上がり、お客様と一緒に新しいビジネスを考えるきっかけになっています。経営者層や新しい事業を考える組織の皆さんに役立つ内容になっています。

──2015年からは「情報社会トレンド」を4つ、「技術トレンド」を8つに設定しています。

情報社会トレンドは情報社会のマクロな話で、必ずしも技術の話ではありません。例えば、自動運転の自動車が2020年頃から道路を走り始めます。自動車保険が今後どう変わるのかといった話題は、今から考えて備えなくてはなりません。
技術トレンドは、技術動向に特化した予測です。2〜3年先に実現するトレンドもありますが、5年後、10年後を見据えたトレンドが中心です。

社会課題の解決が技術の核心

───2016年の技術トレンドで注目すべきものを3つ挙げてください。

http://www.nttdata.com/jp/ja/insights/foresight/sp/index.html
http://www.nttdata.com/jp/ja/insights/foresight/sp/index.html

まず「プレシジョンライフサイエンス(予測医療)」(TT02)です。

私たちが力を入れていきたいのは、こうした生命科学や医療の分野です。これまでITがあまり貢献できていなかった分野の1つだと捉えています。コンピューターのパワーがどんどん向上してきて、実現できることが増えています。

──なぜ、これまでは貢献できていなかったのですか。

データが非常に少なかったんですね。身体の情報は取りにくいし、個人情報ですから提供も消極的です。さらにその個人情報を特定の組織が抱えていて、アクセスしにくい環境でした。

その状況が随分変わってきて、うまくエコシステムを構築する例も登場しています。利用目的を明確にしてDNAのような個人情報を研究機関に提供してもらう仕組みが出てきて、データが集まりました。その結果、遺伝子情報を活用した医療のように、いろんなサービスが生まれてきています。

2番目は「人工頭脳(AI)との共生」(TT03)という技術トレンドです。

テクノロジーフォーサイトに興味のあるお客様には、AIで新しい事業を考えたいというニーズがあります。8つの技術トレンドにはAI、ロボティクス、IoT(Internet of Things)(※2)の3つがいろんな場面に絡んでいます。

例えばコミュニケーションロボットの「Sota」がそうです。Sotaは人と会話するのですが、音声認識、対話制御、音声合成はクラウドで動いている。Sotaの音声認識にはディープラーニングの技術が使われています。

最初にSotaを試験導入したのは高齢者の介護施設です。超高齢化社会になっているのに介護者が少ないという社会課題を解決しようとするものです。

Sotaは「今日お薬飲みましたか? 何錠飲みましたか?」と繰り返し質問するんですね。これは介護する人が毎日聞く質問です。こうした手間を省いてクラウド上に高齢者の状態を蓄積していける。事前に「ここのお年寄りはこういう状態の人です」と把握できるので、介護側の負担を下げられるんですね。

便利さや楽しさも大事ですが、社会課題を解決するためにトレンドを活用していくことが重要です。

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