|INFORIUM|NTTデータ https://inforium.nttdata.com テクノロジーと未来をつなぐ。わたしたちは、未来につながる予見力と、最新のテクノロジーで、社会の変革に取り組み、さまざまな知恵を紡ぐ共創活動を通じて、新たな価値の創造をめざしています。その源泉は、ひとり一人の「知恵」や「強い想い」です。だからこそ、新たな変革を生み出す最前線で活躍する「人」に焦点をあて、読者のみなさんと、ともに考え、行動し、より良い未来の姿を探求したいと考えています。INFORIUM(インフォリウム)とは、INFORMATION(情報)とATRIUM(人が集まる開かれた空間)を合わせた造語です。情報を伝えるだけでなく、さまざまなイベントの場を通じて、知恵と知恵とのコラボレーションを触媒し、テクノロジーの力で、人や社会にとっての幸せを広げる、わたしたちのプラットフォームです。 Thu, 21 Jun 2018 03:14:28 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.4.7 山田誠二(人工知能研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/yamada.html Thu, 21 Jun 2018 02:21:10 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3725 AIの解釈は十人十色

───AIというと、SF小説や漫画に登場するロボットなどのイメージが先行している印象です。現実におけるAIとは、どのような技術を指すのでしょうか。

AIというのは「Artificial Intelligence」の略語で、「Intelligence」というのは、知性や知能を指します。つまりAIとは人工的(Artificial)に知能・知性(Intelligence)を実現させるための研究、技術のこと。日本では「人工知能」と訳されますね。

ただ、AIをどう解釈するのかは研究者によって千差万別。ソフトウェアで実装すればいいという研究者もいれば、ロボットのような物理的な身体性を備えていなければ、知能は生まれないと主張する研究者もいる。表現や解釈の違いはありますが、概ね「人間の知的な行動を工学的に実現する」というコンセプトが根底にはあります。

山田誠二(やまだ・せいじ)国立情報学研究所教授、総合研究大学院大学教授、一般社団法人人工知能学会 第16代会長。1989年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同年、大阪大学基礎工学部助手に。その後、大阪大学産業科学研究所講師、東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授を経て、2002年、現職に至る。現在、HAI(Human Agent Interaction)や、IIS(Intelligent Interactive Systems)などを主な研究分野とし、様々なプロジェクトを推進中

山田誠二(やまだ・せいじ)国立情報学研究所教授、総合研究大学院大学教授、一般社団法人人工知能学会 第16代会長。1989年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同年、大阪大学基礎工学部助手に。その後、大阪大学産業科学研究所講師、東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授を経て、2002年、現職に至る。現在、HAI(Human Agent Interaction)や、IIS(Intelligent Interactive Systems)などを主な研究分野とし、様々なプロジェクトを推進中

それでは「知的な行動」とはなんでしょうか? いまだ人間の知性や知能は未解明で、曖昧模糊としたものです。突きつめれば哲学的、宗教的テーマにまで及ぶでしょう。しかし、曖昧だからこそ、AIが多様性をもって発展できるという側面もある。

すなわち、思考を伴っているような対応ができれば、ひとまずの目標は達成できるとも言える。要は、人間に「お、なんだか賢いな」と思わせるくらいの能力があればいいわけです。それを実現するのにも高度な技術が必要で、簡単なことではありませんが。

AI研究の遮る、暗黙知の壁

───現在、メディアで扱われるAIの記事を見ると、「ディープラーニング」が話題の中心になっていますね。

やや持ち上げられすぎですが、ディープラーニングが世間からの注目を集めているのは事実です。AI研究の歴史を追うと1950年代の第一次ブーム、1980年代の第二次ブームを経て、現在の第三次ブームに至ります。第二次ブームは、「エキスパートシステム」が主流だった時代。エキスパートシステムによって、AI研究はかなり発展するだろうという期待感があった。

典型的なエキスパートシステムは、特殊な疾患を診断する医師の代わりとして開発されたAIです。しかし、開発を進めていくなかで予期せぬ問題が浮上します。当初、医師は論理的な考えのもと診断していると思われていたのですが、実際は直感的だったり、曖昧な経験則を頼りにしていたりすることがわかったのです。職人のもつ勘や推論は言葉で説明できませんから、コンピュータプログラムに置き換えることもできない。

こうした問題は、医師の診断だけに該当するわけではありません。人間は二足歩行を難なくこなしますが、いざ「どうやって歩いているのか教えて」と言われても説明できませんよね? 学校で教わることなく、自然と二足歩行を体得してしまう。いわゆる暗黙知をAIに取りこむのは非常に困難なのです。

「暗黙知を人間が説明できないなら、コンピューターによってアルゴリズムを割り出してもらおう」。そうして注目を集めた手法が機械学習でした。

機械学習でも先端を行くのが、昨今のブームを起こすきっかけにもなったディープラーニングです。これは、人間の脳の神経回路を模したニューラルネットワークを使い、大量の訓練データを読み込ませ、学習させる手法。イヌ・ネコを判別するAIを開発する場合、コンピューターに「イヌ」もしくは「ネコ」の正解ラベルを設定した画像データを大量に読み込ませていきます。すると、それぞれの画像データの特徴を抽出し、イヌ・ネコが判別できるようになっていくのです。

ディープラーニングのパターン認識の強さは、2012年に開催された画像認識コンペティション「The ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge 2012」で知られるようになりました。トロント大学の研究者らがディープラーニングを取り入れたアルゴリズムで、二位以下に圧倒的な差をつけて優勝したのです。

分類もまた知能のひとつ

───画像データの認識が、知能とどのように結びつくのでしょう。

img-contents_02画像の認識もある種の知能と言っていいと思います。ディープラーニングならイヌ・ネコだけでなく、1千、2千クラス(=カテゴリー)の画像を認識できます。会議室内にあるものなら、ホワイトボードやテーブル、イスなどほとんどの物を認識できるということです。数千を越える認識が可能になれば、人はなんとなく「なんでもできそう」と感じてしまう。AIなりの知能とはそういうものなのではないでしょうか。

物の認識は「分類」へ通じます。生物は生き残るために補食対象を分類する必要がありました。生物の進化から照合しても、物の分類というのは重要なファクターだったわけです。分類することが「知能」の一端を担っていたのではないか、と。

───ディープラーニングが暗黙知を理解する可能性は?

正直なところ、ディープラーニングでは厳しいですね。教育せずとも人間に備わっている膨大な知識が、暗黙知なのではないでしょうか。言い換えるなら「常識」といったところです。

二足歩行を学習するにしても、同じ人でも、坂道なのか車道なのかで歩き方もずいぶん変わってくる。パターンが膨大で、AIが学習できるだけの具体例を集めるのが、すでに非現実的なんです。

また、我々人間は、目の前にコップがあれば、それが紙製であろうがガラス製であろうが即座に「これはコップだ」と認識できる。子どもでも10種類ほどコップを見れば、コップとはどういうものか、を理解できるのではないでしょうか。しかし、AIは、ディープラーニングで学習したとしても何千、何万点もの見方の違うコップの画像を取り込まなくては認識できません。

このテの話題で挙がるのが「うなぎ文」です。電車の中やオフィスで「わたしはうなぎだ」と発したら、ただの変な人になってしまいます。しかし、場所がうなぎ料理を出す飲食店なら「わたしはうなぎだ」と言っても全く問題がない。つまり、おなじ言葉でも状況によって意味は大きく異なる。人間は社会性が備わっているので、ニュアンスを汲み取れるますが、AIではまだ上手くいっていないのが現状です。

AIと人をつなげる技術

───現在、山田先生が研究対象にしているHAI(Human Agent Interaction)について教えてください。

HAIは、人間と擬人化したAI(エージェント)間のインタラクションデザインを目的にした研究分野になります。要は人間とエージェントとの間でやりとりされる、あらゆる情報を設計すること。

AIを擬人化することで、情報への理解が進み、また説得力が上がるという利点が生まれます。AIの外見、話す速度、どの程度の機能を持たせるか、などこれまであまり研究されてきておらず、まだまだ開拓の余地があります。

たとえば、家電量販店に買い物に行った際、買う物は始めから決まっていたはずなのに、店員のすすめで別の商品を買ってしまった、なんてことは誰しも経験があるでしょう。
この店員を擬人化したAIに置き換えたのが、HAIの応用例である「PRVA」(Product Recommendation Virtual Agent)です。この研究の肝は「ユーザーの感情」と「ユーザーによるエージェントの知性の評価」。対話を通じて、ユーザーはAIに知性を感じ、さらにAIの表情やジェスチャーによって感情を高揚させて、購買につなげるというものです。

───HAIと並行して研究しているIISも、AIと人間との関係性を築く技術ということでしょうか?

はい、これまでのAI研究は、AIがスタンドアローンで動いたとき、どれだけの性能が示せるかが主題でした。IIS(Intelligent Interactive Systems)は、人間とAIが得意なタスクを分担して、協調して問題解決するシステムです。

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知的インタラクティブシステムIIS(提供:山田誠二研究室)

IISの要素技術のひとつに「インタラクティブ機械学習」があります。機械学習するには人間が訓練データを手配する必要があり、データひとつひとつに正解のラベルを付けていく。そして、AIはラベル付けされた訓練データを読み込み、学習する。出力された学習結果は人間が理解できるように可視化され、人間は応用したデータを再びAIに読み込ませる。そうしたAIと人間、双方にとって使いやすい枠組がインタラクティブ機械学習と呼ばれます。

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インタラクティブ機械学習(提供:山田誠二研究室)

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100年先の未来を思い描く、先見の明を https://inforium.nttdata.com/report/ishii.html Mon, 04 Jun 2018 03:25:12 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3643 年1回の技術トレンドを公開

MITメディアラボは日本法人19社と共同研究し、NTTデータグループからも3人の社員がMITを拠点として活動しています。こうしたご縁から、来日中の石井 裕教授にINFORIUM豊洲イノベーションセンターまでお越しいただきました。

石井 裕(いしい・ひろし)/1956年東京生まれ。MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ副所長。専門は情報工学。78年北海道大学工学部電子工学科卒業、80年同大学院情報工学専攻修士課程修了後、電電公社(現NTT)入社。86年~87年、GMD研究所(西ドイツ)客員研究員。88年よりNTTヒューマンインターフェース研究所で、コンピューター支援による協調作業(CSCW=Computer Supported Cooperative Work)グループを率いて「チームワーク・ステーション」と「クリアボード」を開発。93~94年トロント大学客員助教授。95年よりMIT準教授。MITメディアラボ日本人初のファカルティ・メンバーに。ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)についての新しいビジョン「タンジブル・ビッツ」を探究するタンジブル・メディア・グループを設立。

石井 裕(いしい・ひろし)/1956年東京生まれ。MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ副所長。専門は情報工学。78年北海道大学工学部電子工学科卒業、80年同大学院情報工学専攻修士課程修了後、電電公社(現NTT)入社。86年~87年、GMD研究所(西ドイツ)客員研究員。88年よりNTTヒューマンインターフェース研究所で、コンピューター支援による協調作業(CSCW=Computer Supported Cooperative Work)グループを率いて「チームワーク・ステーション」と「クリアボード」を開発。93~94年トロント大学客員助教授。95年よりMIT準教授。MITメディアラボ日本人初のファカルティ・メンバーに。ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)についての新しいビジョン「タンジブル・ビッツ」を探究するタンジブル・メディア・グループを設立。

石井:「NTT DATA Technology Foresight」、事前に拝読させていただきました。こうした冊子になっているほかに、オンライン上でも読めるんですね。毎年つくられているということですが、どんな意図で編まれているのでしょうか。

NTTデータでは、年ごとにNTT DATA Technology Foresightを策定している。2018年度版のほか、2012年度までさかのぼったアーカイブを特設サイトで公開している

NTTデータでは、年ごとにNTT DATA Technology Foresightを策定している。2018年度版のほか、2012年度までさかのぼったアーカイブを特設サイトで公開している

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千葉:広報部に所属している千葉です。私たちが公開している意図は、技術がもたらす変化を的確に捉え、進むべき道を示すことで、お客様と共に新しいビジネスを作っていきたいという文脈からです。

そのためには体系立てた発信が必要なので、NTT DATA Technology Foresightとして策定するようになりました。

野村: NTT DATA Technology Foresightの策定やメンバーの取りまとめを担当している野村です。私はAIやデータ分析、ヘルスケア分野などを中心に執筆しています。

NTTデータ 技術開発本部 企画部 VISTECH推進室 シニア・エキスパート 野村雄司

NTTデータ 技術開発本部 企画部 VISTECH推進室 シニア・エキスパート 野村雄司

そもそもの狙いは、IT技術がものの1年ほどで世の中に大きな影響を与えて、ときに破壊的なインパクトをすぐに起こしてしまうので、それをいち早く捉えるというものです。「これから起こることや危機を予見して変化に備えましょう」という趣旨で、トレンド調査や情報発信をする活動でした。その後、お客様とコラボレーションしていく活動を次第に強化していったという流れがあります。

情報にリアルな形を与える研究

千葉:石井教授の「タンジブル・メディア・グループ」は、MITメディアラボで現在どういう研究をされているか、あらためて伺えるでしょうか。

石井:新しい情報の表現、そしてインタラクションを生み出そうという夢の実現のために、タンジブル・メディア・グループを創始したのは、私がMITに行った1995年の秋です。

タンジブル・メディア・グループのサイト ※クリックでリンク先へ

タンジブル・メディア・グループのサイト ※クリックでリンク先へ

当時も今も、コンピューターにおける主な情報表現の方法はピクセルですよね。スクリーン上の光る起点。それがフォトン(光子)となって人間の網膜を打って見える。でも、フォトンには物理的実体がありません。だから、手でつかめないし、抱きしめることもできないし、においも味も香りもないわけです。

情報にタンジブルな(=形ある)実体を与えることにより、自分たちの手を使って、身体を使って、直接操作できるようにしようというビジョンが「タンジブル・ビッツ」です。フィジカル・エンボディメントと言いますが、情報の物理的実体化により、我々の手による直接操作を可能にします。

musicBottles(1999)/透明なガラスの小瓶を音声データのストレージ兼コントローラーにしたこの作品は「SIGGRAPH '99」で発表。ユーザーは「蓋の開け閉め」というインタラクションで操作を行い、まるで「ジャズの小瓶」や「天気予報の小瓶(翌日が晴れなら鳥の鳴き声、雨なら雨音が流れる)」の中にあるコンテンツを外に開放する感覚を得る(提供:石井教授)

musicBottles(1999)/透明なガラスの小瓶を音声データのストレージ兼コントローラーにしたこの作品は「SIGGRAPH ’99」で発表。ユーザーは「蓋の開け閉め」というインタラクションで操作を行い、まるで「ジャズの小瓶」や「天気予報の小瓶(翌日が晴れなら鳥の鳴き声、雨なら雨音が流れる)」の中にあるコンテンツを外に開放する感覚を得る(提供:石井教授)

それによりグループによる共同操作も可能になるので、コミュニケーション・メディアにもなる。こういった研究を1995年から15年ほど続けてきました。

その後に続くのが「ラディカル・アトムズ」というビジョンです。コンピューターのスクリーン、あるいは映画のスクリーンにあるピクセルというのはダイナミックに姿を変えることができます。しかし、私たちが使っている椅子というのは、非常に硬い物理的なマテリアルなので、ずっとそのまま椅子なわけです。色は変わるかもしれませんけれども、形とか堅さは変わらない。

そのアトム(原子)、すなわち物理的マテリアルがその形状や性質を、ダイナミックにコンピューテーションに基づいて変化させることができる、そんな新しい未来を志向しています。そういう新しいマテリアルを使って、どういう世界をデザインできるかという研究に、この10年ほど力を入れています。

メディアアートでは世界最大規模になる「アルス・エレクトロニカ」でも2016年から3年間、「ラディカル・アトムズ」の展覧会をやっていますので、その模様をご覧いただければと思います。

石井教授の率いるタンジブルメディアグループは、2016年からアルス・エレクトロニカ・センターで「ラディカル・アトムズ」の展覧会を公開している

未来がどう変わるか。世の中に新しいビジョンを出すためには、もちろん学術論文も発表しますが、アートやデザインの文脈で、こうした大規模な展覧会を積極的に実現することにも力を入れています。

オリジナルでなければ価値がない

石井:かつてヴァネヴァー・ブッシュがハイパーテキストを構想したとき、マーシャル・マクルーハンがメディア論を世に問うたとき、アイバン・サザランドがVRというコンセプトをデモしたとき、そして僕のヒーロー、ダグラス・エンゲルバートが集合知のビジョンを発表したとき、量子飛躍が起きました。いずれも人々がそれまでにない新しいビジョンに触れ、未来を予見できる瞬間がありました。

新しいビジョンというのは、要するに「独創的な未来像」ということです。ネット検索すれば同じようなものが何万も出てくるビジョンというものでは意味がないんですね。僕ら研究者にとって一番大事なのは、オリジナリティ(独創性)。強烈なオリジナリティがなかったら、生きていけない世界なんです。

野村:NTT DATA Technology Foresightでも、今後そういう「オリジナリティ」のある新しいビジョンを調査やレポートとしていち早く発信し、イノベーションにつなげるのは重要だと認識しています。

石井:ただ、ビジネスに関しては必ずしもそうではなくて、お客様の欲しいものを提供しなくてはいけないという現実的要請もあるでしょう。そういう意味でいくと、今のNTT DATA Technology Foresightがビジネス向けのストーリーにまとめられている理由はとてもよくわかるんです。

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おそらく一番いいスタンスは「私たちは新しいビジョン、違った視点を生み出し、それを発信できる。そして、それをプロトタイプとして具現化する技術や実績を持っている」と自分たちで言えることです。そのためにはどうするのか。今日はそんなアドバイスを皆さんにできたらうれしいです。

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廃棄物処理を変える機械学習ロボット https://inforium.nttdata.com/report/trash-sort-robot.html Thu, 29 Mar 2018 05:23:37 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3552 18人の現場を2人に減らす

───産廃処理工場にロボットを導入された目的を教えてください。

これから人口が減少し、働き手がいなくなるのが分かっていますので、そのために何か手だてはないかと探ったのがきっかけです。解決の一環として結果的にロボットが入りましたが、ロボット以外の選択肢があればそちらでも良かったんですね。

株式会社シタラ興産 設楽竜也 代表取締役社長

株式会社シタラ興産 設楽竜也 代表取締役社長

ただ、工場をロボット化したことで、これまで18人の社員が立っていた現場を今では2人にまで減らせました。人があまりいなくても工場がきちんと回せるという、産業廃棄物業界ではあまり例のなかった事例だと思います。

───全部で21工程ある混合廃棄物の選別過程のうち、この図では5番の工程にあたる「紙くず、木くず、がれき類、廃プラ、石膏ボード、ガラス・陶器くず」の選別にロボットを導入しているのですね。

混合廃棄物の選別を示した図。24時間で2,000トンの処理能力がある

混合廃棄物の選別を示した図。24時間で2,000トンの処理能力がある

われわれの業界は、この工程にすごく苦労しています。あとの工程はロボット以外の機械でもやれる可能性がありますが、ここだけは人海戦術に頼るしかありませんでした。

かつて私も携わっていましたが、ゴミが流れてくるコンベアの横に立って、ある人は木を拾い、ある人はがれきを拾って箱に入れる。それを1日やるんですね。まったく楽しくはないです。

仕事とは面白いかどうかでやるものじゃないですが、とてもじゃないけど「やりがい」がありません。よく選別できたと褒めてあげることもできないのです。箱の中を見ても、誰がどれだけ取ったか分かりませんから。

───18人を2人まで減らせたということですが、人はどのような作業を担当しているのでしょうか。

選別行程の最後にチェックの2人だけを残しています。要はスプレー缶や乾電池などの危険物が流れていないかの確認です。その前の工程にマグネットが設置されていますが、くっつかない場合もありますから。

あとは使い捨てカイロも取り除きます。この後の高速のハンマーで叩く工程で一気に発火する可能性があるからです。そういう危ないものが来たら取る。危険物かそうでないか、を素材の情報だけで判断するのは難しいので、ロボットに拾わせるのは難しいです。

機械にとっては過酷な現場

───これまで混合廃棄物の選別が人間でなくてはいけなかったのは、どういった理由だったのですか。

まずは産業廃棄物向けにロボットをつくるメーカーが圧倒的に少ないということがあります。ロボットやAIの技術は、最初にクルマやエレクトロニクスなどの違う業界に行ってしまいます。あとは倉庫業など、単純でやりやすい仕事の置き換えです。機械的動作ができて、ちょっと考えることができればいいというようなものです。

一定の動作でネジを打ち続けるのとは違って、ゴミを見て、判別して、選び取るというのは難しく、社会にとって大事な産業と言ってくださる方は多いのですが、目を向けてくれる会社がとても少ないです。

シタラ興産のプロモーションビデオ。ロボットの映像は54秒から

コンピューターのクリーンルームなどに比べたら過酷な現場です。ゴミの中に機械を配置するので粉じん対策も必要ですし、熱の排出も考えなくてはいけません。

私たちもいざロボット化を考えたとき、選ぶ余地は少なかったですね。世界中でフィンランドのゼンロボティクス社しかつくっていなかったし、それも未完成の製品なんです。機械としてはでき上がっているけれど、AIの部分が発展途上という意味です。

今、ゼンロボティクスのロボットは世界の15カ国で動いています。アジアでは日本、中国。あとは米国やヨーロッパの都市です。

───度々、社長自身も足を運ばれているというゼンロボティクスとはどういう企業なのでしょう。

私も行って驚いたのですが、ほとんどが博士号を持つ30名ほどのプログラマー集団です。もちろん彼らは全体設計をしていますが、機械の製造は下請けの会社に発注するので、頭脳ばかりつくっている会社ですね。

ロボットのメンテナンスなどに関しては、フィンランドのJTA社という会社がやって来ます。彼らは機械はできるけれど、脳は扱えない。だから2社が一緒になって担当する感じです。

───今日お邪魔しているこのサンライズFUKAYA工場ができたのは、いつ頃ですか。

2016年の5月です。そこからラインを全部引き直して、ロボットを導入する工事が始まりました。私と部下の宮下(智則)がいろいろなところを7年間ぐらいかけて回り、どうやって工程を分けているかを見て設計したラインです。

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同じ年の11月にフィンランドの工場で使っていたデータをうちの方に送ってもらい、AIのトレーニングを開始しました。ただ、始めてみたら実際のゴミが全然違うので、まるで取れないんですね。向こうでは大きな木やブロックなどを選別することが多いようです。

そこから日本独自のゴミについてうちの会社で教えながら、機械学習に取り組んでいきました。

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深層強化学習で超高層ビルの地震に備える https://inforium.nttdata.com/foresight/ai-vibration-control.html Fri, 09 Mar 2018 01:48:03 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3511 ───2017年8月にNTTファシリティーズが発表したのは、超高層ビルにおける地震の振れの制御にAIを活用する技術でした。長周期地震動がもたらす被害は、東日本大震災がきっかけで広く認知されましたね。

鈴木 東日本大震災の発生前にも、建築の構造設計を生業とする人々の間では長周期地震動の危険性が指摘されていました。しかし、大多数の視点は「仕上げの裏に隠れている構造骨組が耐えられるか」というものだったのです。

NTTファシリティーズ ファシリティ部門 建築ソリューション担当 担当課長 鈴木幹夫さん

NTTファシリティーズ ファシリティ部門 建築ソリューション担当 担当課長 鈴木幹夫さん

鈴木 しかし、東日本大震災のときに都心で明らかになったのは、建物の構造骨組は何ともないのに、天井が落ちたり、設備が壊れたり、エレベーターが止まったりした被害です。また、超高層ビル(高さが60mを超える建築物)に住んでいる人が「揺れの怖さで全く身動きが取れなかった」という実態も改めて分かりました。

───超高層ビルの止まったエレベーターは、当時なかなか復旧できなかったことを思い出します。

鈴木 エレベーターは専門の人が来て、チェックしてOKをいただかないと動かせないんですね。あの時「構造骨組が壊れないだけではダメだ」ということが改めて浮き彫りになったと思います。

大型模型試験体を載せたNTTファシリティーズの振動台(広帯域対応大型三次元駆動システム「DUAL FORCE」)。長周期地震動に対応したこのシステムは4代目で、2010年に完成した

大型模型試験体を載せたNTTファシリティーズの振動台(広帯域対応大型三次元駆動システム「DUAL FORCE」)。長周期地震動に対応したこのシステムは4代目で、2010年に完成した

───そうした気づきから、建物の制振にAIを応用しようと思い立ったのはどういう経緯だったのでしょうか。

鈴木 2016年のNTT R&Dフォーラムで自動運転のデモを見たのがきっかけです。そのとき「ダンパーを動かす制御にAIが使えるのではないか」と思い、その後に『NTT技術ジャーナル』の2月号で「NTTグループにおけるAIの取り組み」という特集を読んだのです。その中で「マルチエージェントシミュレーションによる渋滞予測・信号制御について」というNTTデータの論文があったので、NTTグループ内で一緒にやれないかと打診しました。

機械学習と深層学習の組み合わせ

───今回の技術は、「深層強化学習」によって最適な振動制御を学習したAIが、地震の揺れに応じて建物内部のダンパーを電動アクチュエータで制御する一連のシステムです。開発担当者の一人であるNTTデータの稲葉さんに、まずは深層学習(ディープラーニング)と強化学習を組み合わせるとどういうことが達成できるか伺います。

NTTデータ技術開発本部 エボリューショナルITセンタ AIソリューション開発担当 稲葉陽子

NTTデータ技術開発本部 エボリューショナルITセンタ AIソリューション開発担当 稲葉陽子

稲葉 機械学習と言ったときにまず例に挙がるのは「教師あり学習」と呼ぶAIの学習手段です。過去に「こうしたらうまくいった」「こういう風に定義すべきだ」といったデータが正解としてあった場合、それらと実際の状態のデータを結びつけ、理想的なモデルの構築をするというのが一般的な教師あり学習です。

一方で「強化学習」とは、正解がない領域に対して適応するための学習です。教師として正解のデータがあるわけではなく、与えられるのは報酬という手がかりだけなんです。何十万~何百万回もいろんな試行錯誤をする中で「良かったか悪かったか」というところだけを報酬として与えてあげる。すると、報酬を得られる方向に自然とロジックはつくられていくんですね。こうしたAIの強化学習は1990年くらいから開発されています。

───接戦の末にチェス世界王者のガルリ・カスパロフを下したIBMの「ディープ・ブルー」は印象的でした。現代ではゲームの世界で「アルファ碁」やさらに次世代の「アルファ碁ゼロ」といったAIが人間に対して圧倒的な強さを示しています。この理由は、単にコンピューティングパワーが上がっただけではないのですね?

稲葉 強化学習に深層学習を組み合わせたところも大きいです。深層学習では、そのデータの中の「構造」や「因果関係」といった関係性を、学習によって非常に細かくモデル化します。例えば、Googleがネット上の画像から「猫」をちゃんと識別する実験でいい成果を上げ始めたのが有名です。

地震波に対する制御を数十万回繰り返すことにより知能を獲得した「制振AI」が実現するのは、高層ビルの揺れを物理的に制御して抑える「アクティブ制振」。図のように複数の技術を複合させたシステムになる

地震波に対する制御を数十万回繰り返すことにより知能を獲得した「制振AI」が実現するのは、高層ビルの揺れを物理的に制御して抑える「アクティブ制振」。図のように複数の技術を複合させたシステムになる

制振AIは「複雑な揺れ方をしているビルの状態に対し、どういった手を打てばいいか」というものです。中にある複雑な関係を深層強化学習で学習します。複雑な内部構造をかなりの精度でモデル化できるのがメリットです。

数理最適化のプロも開発に投入

───開発する中で、困難な場面はありましたか。

稲葉 最初のシミュレーターをつくるところから苦心惨憺がありました。深層強化学習を最初から適用したわけではなく、もう少し易しいところから適用してみたのですが、なかなか良い結果が得られませんでした。

───どういうところが難しかったのでしょう?

稲葉 制御をかけるということは、今現在の状態に合わせて何らかの制御をしないといけないということです。でも、状態を「今この瞬間だけ」捉えるのか「前のところまで含めて」捉えるのかでも違いますし、加速度や変位といった情報もあるので、それらをどこまで含めるのかという問題もあります。まずは一通りやってみたのですが、かえって揺れが大きくなったという失敗もありました。

当初考えていたよりも、中身にもっと複雑な技術を適用する必要があるのが見えてきたんですね。実際にどこまで揺れを抑えるのか、鈴木さんの方で明確な目標を最初から持っていたので「最適化」という技術を使って検証する流れになりました。

グループ会社のNTTデータ数理システムには、非常にロジックが難しいモデルを構築しなくてはいけない場合にご協力いただいています。交通シミュレーションもその一つです。日本で有数の数理最適化の技術を持っているので、この段階から入っていただきました。

NTTデータ数理システム シュミレーション・アンド・マイニング部 部長 雪島正敏さん

NTTデータ数理システム シュミレーション・アンド・マイニング部 部長 雪島正敏さん

雪島 私たちは数理科学、コンピューターサイエンスを使って世の中の問題を解決することを掲げています。機械学習の専門家というより、どちらかというとモデルをつくる仕事です。今回の制振AIは、深層強化学習によってアルゴリズムを構築してAIになっているのですが、そのモデルをつくる部分を担当しています。

「何らかの問題が与えられたたとき、一番いい答えを探す」という技術が最適化です。地震波の場合には複雑で、次にどのような状態になっているかが分からず、理想的な解を探すのは難しい。でも、シミュレーション上は導かれるので「仮にこう来るのが分かったときに、どこまで揺れを抑えられるか」をベンチマークとして行いました。

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センシング技術で実現するスマート農業 https://inforium.nttdata.com/report/e-sensing.html Mon, 26 Feb 2018 05:52:21 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3437 日本の農業を、IoTが変えていく

温暖湿潤な気候のもとで、豊かな自然の恵みを受ける日本。この国にとって農業は、古くから重要な産業の一つでした。しかし現代の農業は、今後発展を続ける上でさまざまな課題を抱えています。

たとえば耕作放棄地の増加。農業の後継ぎがいない、農業を続けたくても続けられないために、耕作されず放置される田畑もあります。農作物を生み出せる土地が無駄になるだけでなく、放棄地が各地に増えれば国土の荒廃にもつながってしまいます。

もっとたくさんの就業者がいれば、農業が今後も存続し、発展する可能性は高まるでしょう。しかしすでに少子高齢社会となった日本において、単に人手を増やすことで問題を解決しようとするのは難しいと言えます。

人をこれ以上増やせないとしたら、私たちはこれから何に望みを託せるでしょう。ひとつの答えはICT(情報通信技術)です。

「農と食をつなぐICT」というタイトルでまとめられた、作物の生産・加工から流通・販売・消費まで、さまざまなシーンにおけるNTTグループの取り組み

「農と食をつなぐICT」というタイトルでまとめられた、作物の生産・加工から流通・販売・消費まで、さまざまなシーンにおけるNTTグループの取り組み

さまざまなテクノロジーの発展によって、日本の農業を効率化し、生産性を高められる可能性は年々高まっています。近年急速に発達しているAI(人工知能)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などのICTに期待がかかります。

ICTを活用して農業にイノベーションを起こし、農業が抱えるさまざまな問題解決をサポートしようと、NTTグループでは数年前から積極的な研究開発を行なってきました。「農業分野で選ばれるバリューパートナーへ」というテーマを掲げ、農作物の生産から加工、流通、販売、消費まで、農業のあらゆるシーンでICT活用を推進しています。2017年10月に開催された「第4回国際次世代農業 EXPO」でも、その成果を紹介しました。

NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 プロダクトサービス部 プロダクトイノベーショングループ プロダクト戦略担当 主査 五十嵐征司

NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 プロダクトサービス部 プロダクトイノベーショングループ プロダクト戦略担当 主査 五十嵐征司

農業の効率化をサポートするセンシング

───農業のICT活用といえば、圃場の温度や湿度、照度などを感知して数値化する「センシング」が昨今注目を浴びています。NTTグループでは、センサーから収集したさまざまなデータを分析して農業に活用するという取組みがあると聞きました。詳しく教えていただけますか。

私が主管をしている「eセンシング Forアグリ」は、インターネットに接続していれば、どんな場所からでもセンサーを通じて計測された圃場のデータをチェックできます。畑から数キロ離れた事務所や自宅にいても、温度や湿度、照度などがリアルタイムで分かるのです。「今日は天気が悪い」と気になった時でも、現地へ行かずパソコンやスマートフォンでデータを確認できるので、家から遠くにある田畑をいくつも回って調べなくてよくなります。

───つまり農家の方は、圃場へ毎回わざわざ足を運ぶ必要がなくなるのですね。

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はい。「eセンシング Forアグリ」を活用していただければ、これまで圃場と事務所、自宅の行き来にかかっていた時間と労力を減らせます。

また、蓄積された過去のデータを分析し、その結果を農作業に活かしていただけます。「作物に元気がない」と感じられた時、最近の圃場の環境変化を調べて原因を探ることができます。「夜間の湿度が最近高い」というデータ結果が分かれば、夕方にハウスの天窓を開けて帰宅するなど、日々の農作業のヒントになります。農業にセンシング技術を導入することで、人の勘に頼らなくても効率よく質の高い農作業を行えるようになります。

作物の栽培に深刻な被害を与える霜を防ぐため、圃場の温度を監視し、危険値に達したら警告メールを送信するという設定ができます。夏には熱中症の警告メールを送信するような設定もできます。

───農家の皆さんの健康と安全も守ってくれるのですね。ところで、「eセンシング Forアグリ」を利用するためには、圃場にセンサーをたくさん設置します。そうなると、多くのモバイル回線が必要になるのでしょうか。

いいえ。LPWAという無線通信技術を使っていますので、モバイル回線は不要です。1台の受信機があれば、複数のセンサーから送られてきたデータを一括して自動収集します。LPWAは、センシングなどのIoT技術が世の中に普及する上で、大いに期待を集めている通信技術の総称。私たちは、LPWAの主要規格であるEnOcean Long Rangeを採用しました。

無線通信といえば、一般にはWi-FiやBluetoothなどが知られています。Wi-FiやBluetoothは大量のデータ送信ができるものの、通信距離が短く、消費電力も高いというデメリットがあります。それに対してLPWAは消費電力が低く、広範囲で通信できるというメリットがあります。

「第4回国際次世代農業EXPO」で来場者の注目を浴びた「eセンシング For アグリ」のデモンストレーション

「第4回国際次世代農業EXPO」で来場者の注目を浴びた「eセンシング For アグリ」のデモンストレーション

───確かに、「計測データを遠くまで飛ばせない」「消費電力が高い」となると、広大な圃場では利用するのが難しくなりますね。

受信機のある事務所まで数キロ離れていたりするため、広範囲で通信できる技術でないといけません。圃場に電源を引いたり、センサーの電池を定期的に交換したりするのも大変です。そこで、センサーは小型太陽光パネルで動く仕組みにしています。

IoTを活用した新しいソリューションを、これから多くの農業関係者にご利用いただくためには、導入のしやすさや使いやすさも大切なポイントになると考えています。

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斉藤賢爾(計算機科学者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/saito-k.html Mon, 05 Feb 2018 09:22:15 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3297 斉藤賢爾(さいとう・けんじ)1964年生まれ。日立ソフト(現 日立ソリューションズ)などでエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ。2003年、地域通貨「WATシステム」をP2Pデジタル通貨として電子化。著書に『不思議の国のNEO──未来を変えたお金の話』(太郎次郎社エディタス)など。一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事。

斉藤賢爾(さいとう・けんじ)1964年生まれ。日立ソフト(現 日立ソリューションズ)などでエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ。2003年、地域通貨「WATシステム」をP2Pデジタル通貨として電子化。著書に『不思議の国のNEO──未来を変えたお金の話』(太郎次郎社エディタス)『信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来』(インプレスR&D)など。一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事。

お金はすべて「仮想」である

───本来、お金とはどんな役割を持っているのでしょうか。

お金の始まりはおそらく税金だったと言われています。それも、当初は麦や塩などだったのでしょう。例えば国家が農民に大麦を納めさせると、国庫にたくさんの大麦が集まります。それらを国が、例えば公共事業の労働者への給与として配分することで、大麦が循環し始めます。その内に、循環していく大麦自体に、一定の価値を量り、何らかの交換の媒介物となり、そして価値を保存する役割が生まれていきました。そうした国家の経済システムを支えるツールとして貨幣がつくられるようになったのでしょう。これがいまのお金の基本構造です。

いまビットコインが注目されていますが、こうした新しいお金のシステムも、基本的には従来のお金の役割を強化する方向へ進むと思います。しかし、テクノロジーの面白いところは、結果として真逆の変化も起こしうる可能性があること。ビットコインの基本理念はP2P(ピア・トゥ・ピア)ですから、中央銀行を介さずにお金が個人同士でやりとりできるようになります。すると、本来は国家を維持するシステムだったお金の役割が変わってくるかもしれません。

ただひとつ注意したいのは、ビットコインを「仮想通貨」と呼ぶのは間違いだということ。より正しく呼ぶなら「デジタル通貨」でしょうね。なぜなら、お金はすべて「仮想」だからです。私たちはお札の紙きれ一枚にも、価値があると信じている。これ自体が仮想信用なのです。

───そもそもビットコインとはどのようなお金なのでしょうか。

ビットコインは紙幣や硬貨として流通する円やドルなどの法定通貨ではなく、通貨の機能を持つソフトウェアであり、特定の国や地域に限定されません。また、各国の中央銀行の信用下で発行される法定通貨に対して、ビットコインはネットワーク上のプログラムに従って自動的に発行されます。

その誕生はサトシ・ナカモトを名乗る人物または集団によって2008年に発表された論文に遡り、翌年のシステム稼働開始以降、中核を担う開発者グループによって基準となるソフトウェアのメンテナンスと拡張が続けられています。

ビットコインはいわば、「自分のお金を誰にも干渉されず、自由に使うにはどうすればよいか」という発想を具現化したものと考えられます。例えば日本円は日本国という発行主体に信用が依存していますが、ビットコインはお金をその依存から解き放ち、“中心なきネットワーク”で支えていく仕組みを標榜しています。私たちは日ごろ、国家という特権的な存在が定めたお金の仕組みを無条件に受け入れて生活を営んでいますが、ビットコインの登場はお金をつくる仕組みを誰もが持ちうることを広く示した点で画期的と言えるでしょう。

さらに、ビットコインという存在自体に「お金とは何か」という問題提起が内包されており、社会構造を根底から覆しうる以上、国家や銀行はその動向に注視せざるを得ません。しかし計画的なデフレによって滞留を生んでしまっている点など、真に自由なお金と呼ぶにはまだ多くの課題を抱えています。万能視ではなく、分権できる構造の実現に向けた議論などが必要だと思います。

ネットワーク上のプログラムから発行されるビットコイン。その背景には、ネットワークで支える”中心なき通貨システム”の思想がある

ネットワーク上のプログラムから発行されるビットコイン。その背景には、ネットワークで支える“中心なき通貨システム”の思想がある

ブロックチェーンの課題と可能性

───ビットコインを支える技術として注目を集めているブロックチェーンについて、教えてください。

ブロックチェーンとは、ビットコインを支える中核技術としてP2P技術を応用して発明された、分散型の台帳システムの名称です。“中心なきシステム”を前提とするビットコインにおいて、ユーザーそれぞれが履歴を複製管理する仕組みとして設計されました。全世界におけるビットコインの取引情報が「ブロック」と呼ばれる記録の集合に格納され、その連なりがユーザーのコンピューター上で同時にバックアップされていく仕組みを採用しています。暗号技術の応用によって、過去の取引記録を変更するにはネットワーク上で承認作業に参加する全コンピューターの処理能力を超える計算が必要となるため、改ざんは事実上不可能とされています。

ブロックチェーンはその耐改ざん性の高さから、ビットコイン以外の分野でも製造業のサプライチェーンや、戸籍や登記簿など行政の情報基盤への導入が有望視されていますが、技術的にはまだ発展途上。利用規模が大きくなるほどユーザー端末の計算量が増大し、全人類規模での利用は難しいなど、数々の問題が指摘されています。解決に向けた研究コミュニティが数多く立ち上がっており、問題点を解決する技術が今後現れては試されていくと思います。将来を見据え、AIにも改ざんが不可能な台帳技術をいかに確立できるかが焦点になっていくでしょう。

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米良はるか(Readyfor創業者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/mera.html Thu, 21 Dec 2017 05:03:35 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3200 米良はるか(めら・はるか) Readyfor株式会社代表取締役CEO。1987年、東京生まれ。2010年、慶應義塾大学経済学部卒業。2012年、同大大学院メディアデザイン研究科修士課程修了。大学在学中に東京大学と産学連携ベンチャーにて「あのひと検索SPYSEE」の立ち上げに関わり、その後、スタンフォード大学でクラウドファンディングについて学ぶ。大学院在学中の2011年、ウェブベンチャー・オーマ株式会社の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を設立。2014年7月に株式会社化し現職に就く。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェイパーズ2011に選出され、スイスで開催されたダボス会議に日本人として最年少で出席。内閣府「国・行政のあり方に関する懇談会」の委員を務めるほか、国内外の多数の会議に参加している。

米良はるか(めら・はるか) Readyfor株式会社代表取締役CEO。1987年、東京生まれ。2010年、慶應義塾大学経済学部卒業。2012年、同大大学院メディアデザイン研究科修士課程修了。大学在学中に東京大学と産学連携ベンチャーにて「あのひと検索SPYSEE」の立ち上げに関わり、その後、スタンフォード大学でクラウドファンディングについて学ぶ。大学院在学中の2011年、ウェブベンチャー・オーマ株式会社の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を設立。2014年7月に株式会社化し現職に就く。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェイパーズ2011に選出され、スイスで開催されたダボス会議に日本人として最年少で出席。内閣府「国・行政のあり方に関する懇談会」の委員を務めるほか、国内外の多数の会議に参加している。

 祖父は発明家、父はコピーライターという家庭で、私は幼いころからクリエイティブなことを身近に感じて育ちました。特に父は、私が人生で最も影響を受けた人といっても過言ではありません。

 父は資生堂にコピーライターとして20年ほど勤めていました。目の前にあるものにとどまらず、社会全体をクリエイティブの力で変えていきたいという思いが強い人で、独立後は自分で事業を興し、マルチパラレルキャリアを実践していました。そうした父の考え方は、ひとり娘の私に対する教育方針にも通じていたように思います。いわゆる女性としての幸せを得るための道を用意するというのではなく、ひとりの人間として社会に役立つことを自ら考え、選んで生きていけるような環境を与えてくれたのかな、と。だから私が自分で選択したことには絶対にダメとは言わず、何でも心から応援してくれました。

 母は富山の出身で、高校を卒業後、父と同じ資生堂に入社し、地元で販売員をしていました。社交性が非常に高い人で、売り上げ成績も抜群によかったそうです。そのころ資生堂が海外で販売員を募集するという制度があったらしく、母は英語も全然しゃべれない、海外どころか東京にもほとんど行ったことがないにもかかわらず、単身で富山からいきなりニューヨークへ。治安が悪い中、人種差別も受けながら、持ち前の社交性と無知であることをいい意味で利用し、数年間がんばったようです。帰国後は東京で資生堂の広報室に勤務。そこで父と出会い、私が生まれるときに仕事を辞めました。ずいぶん悩んだそうですが、高卒でキャリアアップしている人が誰もいない環境だったため、出産後も働き続けてキャリアを設計していくことは難しかったのでしょう。

 父と母の教育方針は、最終的に自分で選択ができる人生を歩ませたいという点では同じだったと思います。ただ、父が私を自分で物事を考えて判断できる人間にしたいと思っていたのに対し、母は自分が叶えられなかったキャリアをつくってあげたいという思いが強かった。娘を大企業で働くキャリアウーマンにする将来像を描いていたので、私が起業の道を選んだときは反対され大げんかしました。でもいまは、私がこうしてメディアや様々な場で意見を言わせていただいているのを見て、社会に評価される対象になるような仕事なんだということは何となく理解しているようで、母親として何かにつけサポートしてくれます。ありがたいですね。

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楠正憲(ブロックチェーン専門家) https://inforium.nttdata.com/keyperson/kusunoki.html Tue, 12 Dec 2017 13:00:00 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3154 標準化にはあと数年がかかる

───ブロックチェーンは、これから世の中の他の分野に根付くかの段階に見受けられます。標準化を目指す団体も複数あるようですが、どのように定まっていくものでしょうか。

近年ではクラウドなどの技術もそうでしたが、新しい技術の標準化を図る場合、まずは言葉を合わせることから始めます。そもそも「何がブロックチェーンなのか」をみんながよくわかっていないから、使っている言葉がバラバラなんです。こうした言葉合わせだけでも1〜2年は軽くかかってしまいます。

楠正憲(くすのき・まさのり) 神奈川大学在学中から『日経デジタルマネーシステム』編集記者として記事を執筆。インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーを経て2017年10月よりフィンテック分野でUXデザインを手がける三菱UFJ系の新会社、Japan Digital Design株式会社 CTO(最高技術責任者)に就任。ISO/TC307国内委員会 委員長、内閣官房情報化統括責任者補佐官。Linux IPv6 RPMプロジェクトFounder。その他にも多数の役職を兼務。

楠正憲(くすのき・まさのり) 神奈川大学在学中から『日経デジタルマネーシステム』編集記者として記事を執筆。インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーを経て2017年10月よりフィンテック分野でUXデザインを手がける三菱UFJ系の新会社、Japan Digital Design株式会社 CTO(最高技術責任者)に就任。ISO/TC307国内委員会 委員長、内閣官房情報化統括責任者補佐官。Linux IPv6 RPMプロジェクトFounder。その他にも多数の役職を兼務。

ブロックチェーンとビットコインは別物だという説明がある一方、最初のブロックチェーンの実装はビットコインでなされたものですから、影響が非常に大きいです。ビットコインに関連する言葉は「マイニング(採掘)」という基礎的な用語1つをとっても独特ですよね。

また、民間ではブロックチェーンという名前が浸透していますが、規制当局が一貫して使ってきたのは「ディストリビューテッド・レジャー・テクノロジー(分散型台帳技術)」いわゆる「DLT」という呼び名です。その方が幅広いものを指せます。例えば、ブロックチェーンと言えるかはわからない「リップル(Ripple)」のような仮想通貨もここに含むことができます。

標準化に時間がかかるとはいっても、実際はビットコインが日常的に使われているし、インターレッジャー・プロトコル(ILP)のようなブロックチェーン間を繋ぐプロトコルも公開されています。ただ、チェーン同士が連携していく未来がすぐに実現できるわけではないので、インターオペラビリティ(相互運用性)をどう確保するかの議論は始まったばかりです。

クラウドで済むような事例も多い

───ブロックチェーンはいまだ黎明期にあり、仮想通貨以外の分野に一般化するのは確かにこれからかもしれませんが、すでにビジネスの現場では使われだしています。こうした商用利用の実例をどう見ますか。注目されている事例もあれば教えてください。

例えば、ロンドンのダイヤモンド取引の管理台帳である「エバーレッジャー(Everledger)」は有名です。昨年の資金流出事件で問題にはなりましたが、イーサリアム上で動いている「ザ・ダオ」のように投資ファンド的ビジネスも動き出しています。これが法律で保護される有価証券に当たるのかという議論がなされているところです。

エバーレッジャーのホームページ

エバーレッジャーのホームページ(クリックでサイトへ飛びます)

このようにいろんなプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)が出てきているところですが、本当にブロックチェーンにする必然性があってビジネスとして使われているものは、まだそんなに多くないという印象です。

おそらく「ブロックチェーンと引っ掛けた方が資金調達をしやすい」とか「ここでノウハウを貯めていけば今後のビジネスが見えるかもしれない」といった理由なのでしょうね。言ってしまえば「それってクラウドでデータベース共有すれば同じことができるのでは?」というビジネスが多いのです。

裏を返せば、ビットコインの場合には必然性があった。「発行者がいない」というフィクションがあって、初めて「お金が負債を立てなくても生み出せる」ことを実現したからです。ただし、運営者がいないという立て付けを維持するために、「採掘(マイナー)報酬」という特典のような切り口を必要としたわけですけれども。

だからブロックチェーン・ベンチャーには、そもそもの矛盾があると言えます。ベンチャーがサービスを提供しているということは、そこには運営主体があるのですから。ブロックチェーンでなければできないビジネスが見えてこない一番の原因は、こうしたところにあるのだと思います。

───ブロックチェーンを使った方が、クラウドよりも優れたビジネスになるという事例は生まれるものでしょうか。

みんなが必死にそれを探しているところかもしれません。ただ1つ言えるのは、セキュリティやプライバシーへの意識がガラリと変わるでしょう。そもそも最初に発表されたビットコインの論文には「プライバシーに対する考え方を変えるべき」と書いてあります。

これまでクラウドをやる場合には、まず会社でIDを管理して、その閉じた環境の中でシステムを守っていく考え方でした。基本的には、運営者が責任を持ってクラウドを運用し、そこにいろんな人たちが接続しにいく設計です。その中でセキュリティを考え、アクセスコントロールしていこうという発想でした。

km_03ブロックチェーン的なやり方になったら、アクセスコントロールが難しいからそういう訳にはいきません。多様なプレイヤーが繋ぎにいったとき、どうセキュリティを守るかに変わっていく。そうなると、必要とされるセキュリティの技術自体が大きく変わるかもしれません。こうした背景によって、新しい技術ないしアーキテクチャーが生まれてくる可能性もあると思うのです。

これまでのプライバシーは「どうやったら漏らさないか」という考えに立っていました。中身を見られたなら、それはもう「情報漏洩」です。ビットコインで実現しようとしたプライバシーとは、情報の中身は全部が誰でも見られるけれど「それが誰のどういう取引なのか」にたどり着くのを難しくするという発想です。

───オープンなチェーンではなく、クローズドな「プライベートチェーン」でセキュリティを保つという考え方もあるようですが。

プライベートチェーンが本当にブロックチェーンでなければいけないか、私には判断できません。ただ、ビットコインから大きな影響を受けたアーキテクチャーを「簡単に安全性を担保できるかたちでクローズドに使いたい」というニーズもある、ということは理解できます。

オープンのブロックチェーンとも結びつきを持たせつつ、プライベートにデータを管理するアプローチとしては「サイドチェーン」と言う別の技術もあり、サイドチェーン上でポイントシステムなどに取り組まれている方たちがいます。

技術的でなく、政治的な問題も

───セキュリティとともに今後の課題に挙がるのが、ブロックチェーン上の処理スピードだと思います。ビットコインの場合は、取引が確定するまで基本は10分間、長い場合は1時間も待たされることがあります。これは今後、改善されていくものでしょうか。

技術的にはさほど難しい問題ではありません。ブロックサイズを大きくするとか、どこまでをサイズとして数えるようにするとか、パラメーターを調整すればそれだけ大きな取引を乗せることができるからです。その半面、セキュリティとのトレードオフが起こります。また、パラメーターを変えることによって技術的なバランスが損われることもあるでしょう。

純粋な技術的な問題ではなく、かなり政治的な問題があります。ビットコインの場合、実際に使う人、取引所、いろんなステークホルダーがいます。運営者がいないというフィクションの中で、どうやってみんなが合意しながら必要なスケーラビリティーを確保していくかというガバナンスの問題であり、そこにはそれぞれのステークホルダーの損得が関わってきます。

───ビットコインは「お金」だから話がこじれやすいのでしょうか。もし、違う分野だったらうまくいきやすいとか。

確かにビットコインが高騰しているがゆえに難しくなっている面は大きいです。これから白地からつくっていくのであれば、そういった政治的な問題を回避する手立てもあるでしょう。ただ、関係者が少ない期間であれば、それほどのスケーラビリティーは要求されていないとも言えますよね。いずれにしても、使い始めてみないとわからないというのは、新しい技術を異なる分野に応用するとき、どの場合にも同じなのでしょう。

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“神業”を科学する。スポーツ脳科学の世界 https://inforium.nttdata.com/foresight/sbs.html Fri, 10 Nov 2017 09:12:41 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3059 私たちは本当は何を見て聞いているのか?
NTT コミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員 スポーツ脳科学プロジェクトPM 東京工業大学工学院情報通信系特任教授 博士 柏野牧夫さん

NTT コミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員 スポーツ脳科学プロジェクトPM 東京工業大学工学院情報通信系特任教授 博士 柏野牧夫さん

───柏野さんが研究している聴覚のイリュージョン「錯聴(さくちょう)」。視覚のイリュージョンである「錯視」は画家のエッシャーの絵や、「ミュラー・リヤー錯視」などによって多くの人に知られていますが、そもそも錯聴にはどんなものがあるのでしょう?

まずこの音声を聴いてみてください。何と言っているでしょう?

――聴き取るのが難しいですね……。言葉であることは分かりますが、何を意味しているのかは判然としません。

では、続いてこの音声を聴いてみてください。

おそらく言葉が聞き取れたと思います。
ひとつ前の途切れて聞こえる音声は、読み上げられた文章を100〜200ミリ秒程度の間隔ごとに音声信号を削除して無音にしたものです。後の音声はその無音部分に雑音を入れたものです。途切れて聞こえていたはずの音声が滑らかに聞こえたと思います。

――本当ですね……。どうしてこんなことが起きるのでしょうか?

これがまさに音のイリュージョン、錯聴なのです。

私たちの脳は、聞く人が意識していなくても、雑音部分の前後から予測をつくりだし、本来聞こえているはずの音を補います。
不思議な体験ですが、決して欠陥ではありません。錯聴は日常生活、さらには私たちが適切に生存するための脳の巧みな戦略なのです。

たとえば日常生活で誰かと話をしている時、周囲は雑音だらけです。道端であれば車の音がしますし、カフェであれば人の話し声やくしゃみの音がします。こうした雑音を適切に処理できなければ、私たちはおおいに生活に困ります。

さきほどの錯聴の途切れた音声のように、車の音やくしゃみが聞こえるたびに聞きたい音声が途切れて聞こえ、相手が何を言っているのか分からなくなります。緊急事態では命の危険にもさらされることでしょう。

雑音の中であっても、特定の聞きたい音声をきちんと認識する脳の戦略。それが音のイリュージョン、錯聴の正体なのです。

続いてこの画像を見てみてください。黒い部分に何が書かれているか判別できるでしょうか?

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───これも難問ですね……。

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これが答です。単純なアルファベットの文字であっても、多くの部分が「欠けている」黒のイメージではその判別が非常に難しいことがわかります。

私たちの脳は、隠されているイメージのあるべき形状を推測し、補完する働きがあります。赤い円によって、黒いイメージの一部が「欠けている」のではなく「隠されている」という情報が脳に与えられると、すぐに認識できるようになる。これもさきほどの錯聴同様、脳の戦略です。街並みや自然の風景を見てみると、お互いに重なり、隠し合っていますよね? それらを適切に認識できるのは脳の情報処理のおかげなのです。

このように、私たち人間は決して“生”の光や音の信号にアクセスしているわけではありません。それらは私たちの感覚器を最初に刺激しますが、私たちが見たり聞いたりしていると感じていることはすべて、脳の情報処理が終わった後の情報です。目や耳に入ってきた物理情報と、私たちが認識している情報はずれている。その“ずれ”のことを錯覚と呼ぶわけです。

視覚は空間認識に優れ、聴覚は時間認識に優れている

───視覚にも聴覚にも錯覚があるということは、それらは脳内の同じ場所で情報処理されているのですか?

いいえ、基本的にはそれぞれに特化した経路で行われています。経路は異なりますが、動作原理としては共通のものがあります。その中で大きな役割を果たすのが「学習」です。人間は生きながら、この世界で「起こりやすいこと」と「起こりにくいこと」を学習します。たとえばそれまでに体験したことのない事象と出くわした時、人間はこれまで学習したことをつかって予測をつくりだし、「起こりやすいこと」を採用して認識します。その点が視覚でも聴覚でも共通しているということです。

こんな動画を見てみてください。

───目を開けて見ていると、映像の中の人物は「ば」を発声しているように聞こえますが、目を閉じて映像を見ないようにすると「が」に聞こえますね。

音声はずっと同じ「ば」で、映像だけを差し替えている錯聴です。

「読唇術」を習ったことがなくても「ば」を発声する時は口を一旦閉じ、「が」を話す時は口は閉じないものだということを脳は学習して知っているのです。そんな脳が「起こりやすいこと」を選択して認識した結果、視覚情報によって聴覚情報が歪められるという錯覚です。
続いてこの2つの映像を見てください。

 

───後の方の映像では、点滅が2回ですね。

実は両方とも、点滅の回数は1回なのです。

脳は視覚と聴覚の情報を処理し「起こりやすいこと」を選択するのですが、その結果、聴覚情報によって視覚情報が歪められる場合がある。その特性を活かしたのが、この錯覚です。

視覚というものは、聴覚よりも遥かに空間を捉えるのが得意なのですが、時間を捉えるのが苦手なのです。つまり「時間的精度」が低い視覚は、この映像において、光の存在は捉えられても、非常に短い時間間隔での点滅を正確に捉えることができないのです。

その一方で、聴覚は音源の位置などの空間情報を捉えることが不得意ですが、時間を捉えるのは得意です。時間的精度では、聴覚は視覚よりもざっと10倍は高い。それゆえ、この映像で流れるような短い音の切れ目を正確にとらえることができる。

時間的精度が重視されるこの映像において、脳が時間的精度で信頼のおける聴覚情報を重視した結果、視覚情報がゆがめられ、同じ光でも、2回点滅したように見えてしまうのです。このように視覚、聴覚には得意不得意があり、脳の情報処理は得意な方を尊重するようにできているのです。

変化球は脳がつくるイリュージョン

さて、ではイリュージョンがスポーツの野球のどんな部分に見いだせるのか、見ていきましょう。
この動画を見てみてください。まずはボールを目で上から下へと追いかけてみてください。まっすぐに落ちていますよね?

※全画面表示にすると、錯視効果をより明確に体感できます

───ボールは回転しているように見えますが、まっすぐ下に落ちています。

ではこのボールを視野の片隅で捉えるようにして見てみてください。脇目で見るようなイメージです。

───上から下へと追いかけている時に比べると、ずれて落ちていくように見えますね!

そうです。動画自体は終始同じ内容です。もうお分かりですよね。実は「消える魔球」と呼ばれるような変化球も、その多くが視覚のイリュージョンによって、実際以上に変化しているように見えるのです。まさにこれまでお話してきた「人間が見たり聞いたりしたと感じていることは、物理的に目や耳に入ってきている情報とは異なる」ということが、野球でも起きているわけです。つまり、バッターが見ているボールの軌道は物理的な軌道とずれている可能性があるということです。

たとえば、豪速球について考えてみましょう。豪速球というわけですから、当然、球速が速いボールがその本質であり、バッターにとって打ちにくいと思いますよね? しかし物理的に球速が速いだけでは、豪速球と感じられるとは限りません。逆に、「球速が遅いのに速く感じられる」という豪速球もあるのです。

たとえば元プロ野球選手の山本昌選手の投げるボールを、複数のプロ野球選手が口を揃えて「昌さんが一番速い」と評します。しかし実際に山本昌選手の球速を数値だけで見てみると、ほとんどが130 km/h台です。この球速は、他の選手と比較して、決して速いわけではありません。

その他にも、プロ野球選手と「誰の投げる球を速く感じるか」という話をするたび、名前があがるのは、物理的には球速が遅い部類の投手が結構います。さらには150 km/h台の、いわゆる豪速球に相応しい球速のボールを投げているはずなのに、「全く速いと感じない」と評価される投手もいます。豪速球というものは、球速や回転数などの計測値だけでは捉えられない、イリュージョンが選手の能力に大きな影響を及ぼしているのです。

───どうしてそんなことが起きるのでしょう?

網膜の特性と眼球運動です。「カーブボールイリュージョン」で、見方を変えただけでボールの動きが違って見えたように、網膜のどの場所で、どのように見るかによって、ものの見え方はまるっきり変わってくるわけです。
網膜の視野は、中心はものを細かく見ることに長けていて、周辺視野はもの動きを捉えることに長けている。この特徴を活かして普段の私たちは物事を適切に知覚していますが、同時に変化球はその特徴を、まるで手品のように巧妙に転用して生み出されていると考えられます。

たとえば野球において、ボールが行くであろうところを予測し、目をやった時、予測が当たればボールを捉えることができる。しかし予測が外れると、目を向けたはずの場所にボールが無い、消えたように見えるわけです。
魔球と呼ばれるような変化球も、こうした人間の特性を意図的に引き起こし、バッターを騙すようなものだと考えられます。
ちなみに、私たちの目がはっきり見えているのは視野全体の何パーセントくらいだと思いますか?

───80パーセントくらい……でしょうか?

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私たちはこの世界を大パノラマで見ている気でいますが、実は精細に見えているのは視野の1〜2パーセント程度と言われています。私たちはこの、たかだか1〜2パーセントの視野をつかって、あちこち見回し、しかも見回している間は「世界は変わっていないはず」という前提のもとでそれらを脳内で繋げて処理し、大パノラマで“全体が精細に見えている気がしている”わけです。言ってみればこれもイリュージョンです。

このイリュージョンをうまく応用したものが手品です。人間が「世界は変わっていないはず」と思い込んでいる98パーセントのはっきり見えていない視野で、手品師はいろんな作業をしてみなさんを術中に陥れているわけですね。

リアリティとは、感覚間の一貫性で決まる

───私たちは現実感、つまりリアリティをどのように生み出しているのでしょう?

私たちの持つリアリティとは、複数感覚の一貫性によってもたらされるものです。たとえば私たちにとっての「上」と「下」も、感覚的な一貫性があるからそう感じているわけです。

私たちは重力に対する傾きを平衡感覚でとらえ、上にあるべきものと下にあるべきものを視覚でとらえ、床や天井の触覚をとらえ、それらを脳内で複雑な情報処理によって統合し、一貫したリアリティを構築することで、この地球上で生きているのです。

――複数感覚の一貫性をうまくつくることができれば、今と違う現実を生きることも可能ということですか?

そうです。それが「VR(バーチャルリアリティ)」の可能性です。たとえば逆さ眼鏡で生活していると、最初は酔ったりして大変な困難を覚えますが、次第に慣れ、ついには自転車も乗れるようになります。

VRでも同様で、自分の足が今の2倍の長さに感じられるようなVRの中で生きていると、脳はいつしかその足を自分の本物の身体だと認識するようになり、VRの中で違和感なく暮らせるようになります。

運動感覚と視覚情報を一致させるなど、複数の感覚の一貫性を適切につくっていくことができれば、私たちは“この身体”に代わる、新しい身体を見つけることができるのかもしれない。少なくとも、人間の脳は、この身体以上に身体性を拡張できるようにできているのですから。

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全英オープンで見た、ARが拓く未来 https://inforium.nttdata.com/foresight/hololens_all_england.html Tue, 03 Oct 2017 04:56:07 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2941 体験者に、思わず「Wow!」と言わせた
株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 企画部 グローバル戦略担当 部長 本城啓史

株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 企画部 グローバル戦略担当 部長 本城啓史

───さっそく体験させてもらいました。これは、すごいですね。

世界のゴルフメジャー選手権の1つ「全英オープン」に向けて、NTTデータの開発チームが新しく開発したこのAR(拡張現実)アプリは、おかげさまでたくさんのメディアに取り上げていただきました。私たちが提供したかったのは、誰でも思わず「Wow(ワオ)!」と言ってしまう驚きと感動の体験。いわば「Wow Experience(ワオ・エクスペリエンス)」です。

───日本人の私は、思わず「オー!」と言ってしまいました。

全英オープンの会場内に設置したNTTデータのパビリオンで、このARアプリをお披露目し、たくさんの方に体験していただきました。当日はゴルフ業界の関係者もたくさんいらっしゃっていて、本当に「Wow!」と言っていただけたのがうれしかったですね。

全英オープンの会場で数多くの人たちがARアプリを体験。これまでにないゴルフ観戦に「Wow!」と声を上げた(提供:技術革新統括本部)

全英オープンの会場で数多くの人たちがARアプリを体験。これまでにないゴルフ観戦に「Wow!」と声を上げた(提供:技術革新統括本部)

───ゴルフ通もうならせたARアプリですね。どんなものか、詳しく教えてください。

まず、Microsoftが提供しているヘッドマウントディスプレイ型のウェアラブルデバイス「HoloLens」をメガネのように装着します。すると目の前に3Dのゴルフコースが現れます。

───テレビのような2D映像ではなく、立体的な3Dコースが見られると。

そしてその上には、プレー中の選手のいる位置が、選手の写真で示されています。選手がプレーを進めていくと、ボールがコース上をどのように飛んだのか、その弾道データがリアルタイムで表示されます。また、選手ごとの弾道データを比較表示することもできます。たとえば、出場した日本人の松山英樹選手や、優勝したアメリカのジョーダン・スピース選手がどのようにコースを攻めたのかを分析して楽しむこともできるのです。

───ゴルフファンの方には特に喜ばれそうですね。

ゴルフファンの中には、選手のスコアや選手情報を詳しく見て楽しむ方もたくさんいらっしゃいます。HoloLensを通して目の前に表れている情報画面を指で触って操作すると、自分が見たい試合や選手のデータを選んで拡大表示できます。

また、合わせてコースの様子も見るなど、いろいろなデータを同時に表示させることも可能です。複雑な機器操作などは必要なく、目の前にあるバーチャル映像の気になるところを指で動かすだけ。「IT機器を使うのが苦手だ」という方や「最新のゴーグル型端末なんて触ったこともない」という方も意外と簡単に操作できます。

───ゴーグルをつけると目の前に広がる3Dゴルフコース。リアルで迫力がありますね。

これは、NTTデータが持つ独自技術「全世界デジタル3D地図提供サービス」(以下:AW3D)を利用したものです。デジタル3D地図の最新技術を駆使して、会場となったロイヤルバークデールゴルフクラブの1~18番ホールをバーチャルで再現しました。

───まるで鳥になった気分。ゴルフに詳しくない人でも楽しめそうです。

広大な野外のコースの上で行い、かつルールも簡単ではないゴルフ競技は、実際にやったことのない方には、どんなスポーツなのかイメージしにくいことも多いのではないでしょうか。しかしこのARアプリを体験すれば、ゴルフがどんな競技で、何が面白いのかを直感的に理解していただけると考えています。またゴルフファンの方には、ゴルフの面白さをより深く実感していただけます。

HoloLensを装着すると、目の前に広がるゴルフコース。ボールがコースをどう飛んだか一目瞭然(提供:技術革新統括本部)

HoloLensを装着すると、目の前に広がるゴルフコース。ボールがコースをどう飛んだか一目瞭然(提供:技術革新統括本部)

───ゴルフコース全体を見渡しながら観戦できるというのが斬新です。

ゴルフというと、これまではテレビ中継で楽しむのが一般的でした。コアなゴルフファンの方であっても、全英オープンなど海外のメジャー大会は、気軽には見に行けません。テレビではすべての人が同じ映像を見ていて、画面から把握できる情報には限りがあります。「トーナメント中の成績推移をもっと詳しく見たい」「選手のドライバー飛距離を比較したい」というファンがいても、そういった個別のリクエストにリアルタイムで応えるのは困難です。

最新のAR技術によって、映像によるゴルフ観戦の限界にチャレンジしようというのが今回のプロジェクトでした。全英オープンのオフィシャルパトロンであるNTTデータは、毎年何らかの新しいIT技術をトーナメント中に披露してきました。ちなみに昨年はコミュニケーションロボット。一昨年前はWi-Fiマルチキャスト。2017年の今回が、ARでした。

───最新のAR技術で、新しいゴルフ観戦の楽しみ方を実現したわけですね。

「もっと臨場感のあるゴルフ観戦を実現したい」というのが私たちの目標でした。大会期間中のパビリオンには、NTTデータが招待した企業関係者や、ゴルフ業界の関係者に加えて、海外の放送・メディア業界の方も多数訪れ、このARアプリを体験してくださいました。「Wow!」という驚きの一言だけでなく、「ゴルフ観戦の新しい可能性を感じた」「ファンが増えそう」「最新技術でここまでできるのか」といったコメントをいただきました。「テレビ中継の映像と組み合わせても良いのでは」というアイディアもいただいたりして、私たちもインスピレーションを受けました。

───この成功を受け、ARを駆使したゴルフ観戦はさらに進化しそうです。

全英オープン期間中に行った今回のお披露目は、世界初の試行運用でした。ひとまずは無事に成功したものの、今後一般にも公開して世界の人たちに楽しんでいただくには、まだまだ改善すべき点がたくさんあります。技術的な面だけでなく、「ゴルフファンの立場で考えると、選手スコアの表示方法をもっと工夫すべきだった」とか、ユーザビリティの観点からもいろいろと課題点が浮き彫りになりました。

───今後に期待がかかりますね。

今回のプロジェクトでは、ARでコース全体を見渡すという新しい視野を実現しました。しかし逆に、コース上にいる選手にうんと接近し、プレーしている横で観戦できたりしたら、それもまた大変面白いでしょう。今後さらなる研究開発が必要です。とはいえ、日本にいながらにして、全英オープンをARでリアルタイム観戦できるというところまでは、すでに現段階で実現可能となっています。

全英オープンの感動を支えるのは最新のIT技術。スコアや観客からのツイートを表示するなど、インタラクティヴなゴルフ観戦を実現したNTT DATA WALLもその1つ

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近未来を体感するIoT宿泊施設へ https://inforium.nttdata.com/report/and_hostel.html Tue, 29 Aug 2017 01:18:06 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2848 海外からのゲストが訪れる

国内初のスマートホステルを銘打ち、宿泊を通じて最先端のIoTデバイスを体験できる「&AND HOSTEL(アンドホステル)」が福岡に誕生したのが2016年8月です。その第3号店が「&AND HOSTEL UENO」(東京・台東区)。稼働率9割以上を誇る人気施設は、どのようなサービスを提供しているのでしょうか。

AND HOSTEL UENO(東京都台東区東上野6-8-7) ※画像クリックでホームページが開きます

AND HOSTEL UENO(東京都台東区東上野6-8-7) ※画像クリックでホームページが開きます

施設に伺った3人は、NTTデータ技術開発本部の研究者。『絵で見てわかるIoT/センサの仕組みと活用』の著者でもある小島康平、小山武士、河村雅人です。

(左)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 IoT/ロボティクスチーム 主任 小島康平(中)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 小山武士 (右)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 河村雅人

(左)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 IoT/ロボティクスチーム 主任 小島康平(中)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 小山武士 (右)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 河村雅人

建物入口で出迎えてくれたのは&AND HOSTEL UENOのブランド責任者を務める、茶置貴秀(ちゃおき・たかひで)さん。ホステルをプロデュースするand factoryは、もともとエンターテインメント系のアプリ開発を手がけています。そのため、同施設で用いるアプリを独自開発できる強みがあるのです。

and factory IoT Division Real Estate Tech Unit 茶置貴秀 マネージャー

and factory IoT Division Real Estate Tech Unit 茶置貴秀 マネージャー

茶置:ゲストの8割が海外から予約した宿泊客で、そのうちの4割ほどがアジアからの旅行者です。年齢層は20〜30代が多く、男女比は半々くらいですね。

当館に2部屋ある「IoTダブルルーム」に宿泊されるゲストには、チェックインの時に専用アプリをインストールしたスマートフォンを貸し出します。

ゲストのスマホにダウンロードした方が利便性は高いのでしょうが、IoT機器のセキュリティ面を考慮して、まだこの方法を取っています。それでは皆さん、2階へどうぞ。先にこのアプリで部屋のクーラーをオンにしておきましょう。

専用アプリは主に日本語表記(固有名詞などは一部英語)。海外ゲストとのコミュニケーションは、グラフィックをわかりやすくして伝えていく方針をとる

専用アプリは主に日本語表記(固有名詞などは一部英語)。海外ゲストとのコミュニケーションは、グラフィックをわかりやすくして伝えていく方針をとる

プラットフォーマーに乗らない

茶置:こちらがIoTダブルルームです。ここにある機器はAPIコードが開放してもらっていて自分たちで組み直していますので、複数のデバイスの連携を可能にしています。

複数の機器を手元のスマホアプリで一括操作できる室内。温度や湿度などの環境情報も収集している

複数の機器を手元のスマホアプリで一括操作できる室内。温度や湿度などの環境情報も収集している

ワンプッシュで4つの信号を送れます。例えば、アプリの「ナイトモード」を押すと、鍵がかかり、カーテンが閉まり、エアコンが快眠モードになり、照明が豆電球になる。こうした一連の体験を提供しています。

(上)フィリップス「Philips Hue」(左下)ロビット「mornin’」(右下)キュリオ「Qrio Smart Lock」

(上)フィリップス「Philips Hue」(左下)ロビット「mornin’」(右下)キュリオ「Qrio Smart Lock」

小山:部屋の鍵の開閉、鍵管理をアプリ側でできるのは非常に便利ですね。解錠と同時に部屋の中の照明を点けるといったサービスは従来からよく語られるアイディアですが、実際に体験してみると改めて便利なサービスだと感じます。

入室前にエアコンを操作できるのは思いのほか良いですね。一般的なビジネスホテルでは、入室時に熱気がムッとすることがありますし。お客さんが欲しい体験をすぐに用意できているのは、当たり前のようでいながらとても気持ちが良い体験です。

茶置:UIやUXの部分に気を使ってアプリを開発しています。得られる情報は多いに越したことはないのですが、多すぎると使う側が迷ってしまう。部屋のライトは約1,600万色表現できるものの、シーンを6つに切り取っています。体験の本質が下がらないようにするバランスが大事です。

河村:できることが多いと、結局は何もできないと言いますから。お客さんに「この体験をしてほしい」というところに絞り、それを提供することが大事ということですね。

茶置:そうです。これが100%の完成度とは思っていませんので、お客さんの声から改善していきたいですね。

河村:ところで、複数のデバイスに関して、逐次「APIを開放してください」とお願いしていったのは、結構大変だったのではないですか?

茶置:フィリップスは当初からAPIを一般に開放していたと思いますが、駆け出しのベンチャーにAPIを無償で開放する国内メーカーの例はなかなかありませんから、当初ハードルが高かったですね。

IoT機器を入れるごとに個別のアプリが必要になるのはまったくスマートではありません。それらの機器を一元管理できる独自のアプリを開発することは、事業の肝だと考え、APIを組み直してアプリを開発しました。

小山:プラットフォーマーと呼ばれる大手が提供するサービス、例えば、アップルの「HomeKit」や、グーグルの「Google Assistant」系サービス、アマゾンだったら「Alexa」といったものに乗っかって、自前で外側だけつくるようなやり方もあったと思うのですが、あえてそうしなかった理由は何でしょう。

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茶置:鍵を開けて部屋に入ると自動的に電気が点く、朝に目が覚めると自然にカーテンが開いて快適な温度に設定されている、といった一連の体験を設計するには、自社でやるのが一番だと思ったんです。

小島:確かに、IoTのデバイスを一番下に据えながら、全体の空間をデザインすることまで自分でやろうとすると、メーカーと直接やり取りするほうができることの枠が広がるかもしれません。

提供する側のメーカーとしても、プラットフォーマーにAPIを開放してしまったほうが楽かもしれませんが、いったんプラットフォームに乗ってしまうと、その仕様に準拠したものしか使えなくなってしまい、空間における制約条件がどうしても増えてしまう。自前でアプリを用意する手段があるのは、ビジネス面で重要だと思います。

建築空間も変えていく

茶置:現在のIoT機器は一般住宅の規格に合わせて設計されていますから、宿泊施設のような場所に使うのはいわば後付けで、少し無理をして設置している部分もあります。特に電源周りは煩雑になりがちで、独自にボックスをつくるなどで対応しています。

私たちが先陣を切って使って導入していけば、建築もIoTとの関係ありきの設計になって、空間も洗練されていくと思うのです。将来、壁の照明スイッチやドアの鍵穴などがない部屋が生まれたら、とてもスマートではないでしょうか。

ボックスには、室内にあるIoT機器へのアクセスポイントの役割を果たす「iRemocon」と「Philips Hue ブリッジ」が設置されている

ボックスには、室内にあるIoT機器へのアクセスポイントの役割を果たす「iRemocon」と「Philips Hue ブリッジ」が設置されている

小島:IoT機器を他の製品と組み合わせる場合、メーカーごと、デバイスごとにまとまってしまっているケースが多いように感じます。この部屋では体験をデザインするために入口からIoTデバイスを組み合わせている印象を持つので、非常に良い刺激を受けます。

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村井純(インターネット研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/murai.html Fri, 21 Jul 2017 03:48:38 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2774 テレビは隠れた主人公

───IoT(Internet of Things)は「モノのインターネット」という訳語で紹介されることが多いですが、人や企業によって解釈もさまざまです。村井教授は一言でどう定義されているのでしょうか。

「全てのモノがフルスタックのTCP/IPを喋るコンピューターになる」という定義になると思います。あらゆるモノが本当のインターネットノードとなってインターネットと繋がるようになったということです。

これまでインターネットと繋がっていたのはコンピューターでしたが、それがあらゆるモノになる。コンピューターと全く同じ通信機能、責任を持っている時代になったというのが一番短い説明ですね。

村井 純(むらい・じゅん)慶應義塾大学環境情報学部学部長・教授。1955年東京生まれ。1984年慶應義塾大学大学院工学研究科後期博士課程修了。同年、東京工業大学総合情報処理センター助手時代に、東工大と慶應義塾大を接続した日本初のインターネット「JUNET」を設立。以来、インターネットの技術基盤や活用の発展に関わり続け、「日本のインターネットの父」と呼ばれる。英語中心だった初期のインターネットを、日本語を始めとする多言語対応へと導いた。WIDEプロジェクト ファウンダー。1994年より開催されているネットワークコンピューティングに特化したイベント「Interop Tokyo」で実行委員長を務める。内閣高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)有識者本部員。「IoT推進コンソーシアム」会長。

村井 純(むらい・じゅん)慶應義塾大学環境情報学部学部長・教授。1955年東京生まれ。1984年慶應義塾大学大学院工学研究科後期博士課程修了。同年、東京工業大学総合情報処理センター助手時代に、東工大と慶應義塾大を接続した日本初のインターネット「JUNET」を設立。以来、インターネットの技術基盤や活用の発展に関わり続け、「日本のインターネットの父」と呼ばれる。英語中心だった初期のインターネットを、日本語を始めとする多言語対応へと導いた。WIDEプロジェクト ファウンダー。1994年より開催されているネットワークコンピューティングに特化したイベント「Interop Tokyo」で実行委員長を務める。内閣高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)有識者本部員。「IoT推進コンソーシアム」会長。

───具体的にIoTの普及はどこまで現実味を帯びているのでしょう。注目している事例がありましたらお聞かせください。

最もIoTらしい例は、かなり発展してきた「スマートホーム」のようなものですよね。空調などのエネルギー関係は賢い繋がり方をするようになりました。その前提になっているのが家庭におけるWi-Fiの普及です。つまり電気製品がWi-Fiを介して基地局になれる。そこからアプリと繋がって、家庭の中のネットワークの一部になります。

スマホで機器のオンオフや設定ができるようになるし、最近の空調機器はダニやゴミも吸っているから、ヘルスケアにも役立てる。その辺りが身の回りでは発展しているのが現状です。

しかし、本当にフルスタックのTCP/IPのインターネットが乗っている家電機器は日本だとテレビなんです。2011年7月24日までにデジタル化すると決めましたが、これは歴史的にすごいことでした。国が「家のテレビを全部買い換えてください」と言ったんですから(笑)。

今すべてのテレビにはTCP/IPがあり、Ethernetが繋がるスペックが標準です。皆さんあまりインターネットに繋がる機能を使っていないから気付かないでしょうが、デジタルテレビは全部がインターネットに繋がるんですね。裏にEthernetの「RJ45」というコネクタが付いているし、Webブラウザーも搭載されています。

どのように使われるかは未知数の部分もありますが、テレビがインターネットに繋がれば、画面も大きいし、いろんなことができるようになるのではないかという夢があります。テレビはIoTの隠れた主人公なんです。

モノが自然の状態を検出する

───テレビとIoTの可能性について、もう少し詳しく伺えますか。

例えば米国の「Netflix」は、完全にIoT時代に即したビジネスを構築できています。米国ではテレビ本体ではなく、その脇にあるセットトップボックスをインターネットに繋ぎますが、テレビがインターネットに繋がったことを最大限に利用したのですね。

視聴者たちがどんな番組を見ているかをベースに「ハウス・オブ・カード 野望の階段(原題:House of Cards)」というテレビドラマを作り、それが「エミー賞」まで獲りました。視聴データを分析して、視聴者の一番喜びそうなドラマのシナリオを練り上げたのですね。これはビッグデータ分析の成功例ですが、同じ動きが日本でもこれから起こるはずです。

ハウス・オブ・カード 野望の階段 シリーズ予告編 – Netflix(2016/03/04 に公開)

───コンテンツビジネスの設計やサービスデザインに家庭の機器が強く影響するのは、IoTの話題として意外でした。

やはりテレビという機械のそばには、人間のユーザーがいますから。テレビを通じてユーザーの情報がすべて集められ、分析され、良いサービスに繋げていける。こうしたモデルは、IoTに期待される典型的な役割でもあるわけです。

───モノのインターネット化という表現より、「人間のそばにいるモノ」のインターネット化、という表現が相応しい例に思えました。

そういった側面もIoTにはありますね。モノが検出している人間の動きも一つの武器になると思います。あるいはモノが検出する自然の状態なども、何かを調べたいときに大きく役立ちます。

例えば、農作物の発育状態がどういう状態になっているかをセンサーが検知します。そのデータを集めると、その農作物に対してケアができるだけではなくて、地域一帯でどれだけの生産量を見込めるのかといった分析や、作物が病気になった時にどう対処できるのかといった対処が、センサーが繋がっている時と繋がっていない時で全然違います。

産業の成長は、4番目の時代へ

───IoTは社会やビジネスを変えていくということですね。

それ以前にもいくつか変革がありました。アナログの時代、コンピューターの時代、アフター・インターネットの時代。この3段階で、産業は成長を遂げてきました。

アフター・インターネットの時代までに、1つの産業を縦に繋げる動きが加速しました。全部がデジタルで繋がるようになって、データが流通するようになったからです。データサイエンティストも増え、流通するデータをどうやって利用するか、共有できるか、連携できるかという動きが起こりました。

今、これらの次に来ているのがIoTの時代です。この時代の特徴は「横」に繋がって発展できることです。先ほどのNetflixなど、コンピューター以外にデータ利用するためのモノが出てきたので、カバーできる範囲は無限です。

インターネットはすべての分野、すべての人に繋がることを目標にしてきましたが、すべてのモノが繋がるとどうなるか。

典型的な例としては、農作物の栄養素と人間の健康を結びつけることが考えられます。今まで「健康」という分野と「農業生産」という分野は、それぞれの産業として縦に分離していました。これが連携することで、新しいアプローチが生まれます。ハイブリッドな産業を結び付けて、社会全体に新しいインパクトを起こせるところまで来たのです。

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市場拡大を続ける無人航空機ビジネス https://inforium.nttdata.com/report/uas_business_idea.html Thu, 15 Jun 2017 02:29:51 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2613 40年以上の知見を活かしUAS市場に挑む

2017年4月。NTTデータが新たに立ち上げた「UASビジネスグループ」は、「UAS」を活用した事業の企画立案を行う部署です。40年以上の長きにわたり、有人機用の航空交通管制システムを提供し続けてきたNTTデータ。その知見とノウハウを活かし、世界的な盛り上がりを見せるUAS市場に参入していきます。

現在このUAS市場には大きく3つの領域があります。ひとつ目は、ドローンをはじめとするUASの機体そのもの、すなわちハードウェアを中心に扱う領域。ふたつ目は、ネットワークを扱う領域。そして3つ目が、運航管理を行うFOSや空域・交通管理を行うUTMといったセンターシステム、すなわちソフトウェアを中心に扱う領域です。

この3つの領域のなかでUASビジネスグループはソフトウェアの領域、とくにFOSやUTMのシステムに注力した事業展開を考えています。その第一歩として、2017年10月には「airpalette UTM」というUAS専用運航管理・交通管理システムの提供を開始する予定。すでに、民間企業や地方自治体での導入が始まっていて、国内市場はもちろん、アメリカやヨーロッパ市場を視野に入れシェアの拡大を目指していきます。

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UAS市場における3つの領域。FOSやUTMのシステムを使用した場合、指示は左から順に伝わる

2020年には世界で1兆円の市場規模にまで成長すると予測されるUASビジネス。
今後、苛烈な競争が待ち構えているであろうこの領域で、NTTデータはどのように戦っていくのか。UASビジネスグループの伊神惠(いかみ・けい)と吉井洋平(よしい・ようへい)に話を聞きました。

拡大を続ける無人機ビジネスの市場

───まず、UAS市場の変遷を教えてください。

吉井 2001年の9.11テロをきっかけに、軍事利用を目的としたUAS開発がさかんになりました。2010年ごろには、エッジコンピューティングの技術革新により、ホビー用のドローンが開発され、市場が一気に盛り上がってきたんです。また搭載機能やWi-Fiの開発が進んだ影響で、操縦に関する特別な訓練なしに誰もが簡単にドローンを扱えるようになりました。

伊神 現在では、さまざまなビジネスに活用される業務用ドローンも増えてきています。ハードウェアが進化したことで、広大な土地の測量や危険な場所の点検など、精緻な技術が求められる分野にも続々とドローンが導入されるようになったんです。今後もかなりのスピードで技術革新が進み、市場規模も成長を続けていくことが予想されます。

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

───現状、市場を席巻している国や企業はあるのでしょうか?

伊神 ハードに関しては中国の「DJI」が世界一のシェアを誇っています。ただ、世界中のスタートアップ企業が参入してきているので、情勢は変化する可能性が大きいです。

一方、ソフトの領域ではいまだ圧倒的な競争力を発揮している国や企業はありません。というのも、FOSやUTMといったシステムの要請が高まったのは、ドローンが業務用に活用されるようになった背景があるからなのです。その歴史はまだ浅いうえ、参入している企業もハードウェアと比較すればさほど多くはなく、シェアや技術力はいまだ横並びいった状況です。

───世界的に見て、NTTデータのような大企業がUASビジネスに参入することは珍しいのでしょうか?

伊神 たしかに、アメリカやヨーロッパでUAS事業に取り組んでいるのはスタートアップ企業がほとんどです。ただ、かなりの額の資金を調達していたり、インテルやマイクロソフトといった世界的企業が支援していたりするので、ひとくちに言える状況ではありません。今後は、スタートアップや大企業を問わず、多くの企業が参入してくることが予想されます。

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

NTTデータが目指すのはUTMのマルチベンダー

───NTTデータはUASビジネスのなかでもソフトウェア、とくにFOS及びUTMに注力して事業を行っていくとのことですが、その背景や理由について教えてください。

伊神 そもそもNTTデータが、ITプラットフォームサービスの提供を主な事業としてきた背景があります。さらに、UASビジネスグループが属している第一公共事業部は、長年有人機の航空交通管制システムを提供してきた実績があります。その知見やノウハウを活かすという面でも、運航を管理するFOSや、空域・交通を管理するUTMの領域でチャレンジしたいと考えました。

吉井 また市場調査を進めるなかで、特定の業務に対してドローンそのものからそれを管理するシステムまで「垂直統合」で提供している企業が多いことが判明しました。そのなかでNTTデータの知見を活かせば、さまざまな業界を横断するマルチベンダーとして事業展開できるのではないかと考えたんです。

───具体的に、有人機のシステムで培った知見やノウハウは、UASビジネスにどのように活かせるのでしょうか?

伊神 NTTデータが海外展開のために立ち上げたソフトウェアブランド「airpalette」では、衛星写真を活用して、地形や障害物を3Dで再現するというソリューションを提供していました。その技術はUASの分野でも活用できると考えています。

───世界中の企業が市場に参入してくるなかで、NTTデータが差別化をはかるポイントはどういった点なのでしょうか?

伊神 最大の差別化ポイントは、効率と安全の両立ができることです。現在市場に参入している企業の多くは効率性やフライトの自由度を最優先している印象があります。しかし我々のように、航空交通管制システムの開発に長年携わっている立場からすると、空域という限られた公共資産をいかに安全に活用するかということが第一なんです。そのための知見やノウハウを持っている企業は、国内外を見てもNTTデータ以外にはほぼありません。

吉井 実は、ドローンが飛行する高度150メートル以下の空域には、ドクターヘリやセスナ機といった有人機も飛び交っています。もしドローンが効率性や自由度ばかりを重視したフライトをすれば、取り返しのつかない大事故につながりかねません。空の安全を守るためにも、NTTデータが率先して空域・交通を管理するUTMの領域に取り組んでいきたいんです。

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている(リンク:airpaletteウェブサイト)

日本はUAS市場でイニシアチブを握れるのか?

───日本はIT分野でのグローバル展開に出遅れていると思うのですが、UASの分野でイニシアチブを発揮できる可能性はあるのでしょうか?

伊神 これまで日本がIT分野で世界に遅れをとってきた最大の原因は、はじめからグローバルな市場を想定していなかったことだと考えています。日本そのものが裕福な国ですから、国内市場で成功するだけでもある程度の利益が得られるわけです。するとどうしても日本市場を軸足に事業を進めてしまい、結果的に海外展開に遅れをとってしまいます。

そこで我々は、一からグローバルな市場で事業展開を進めていこうとしているんです。とてもチャレンジングなことですが、そうでなければ生き残っていけないと思います。

───チャレンジングな状況のなかで、NTTデータが解決しなければならない課題はありますか?

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吉井 国内外問わずさまざまな企業がドローンを開発するなか、種類や形状、機能や飛行速度などは多種多様になっていきます。グローバルなマルチベンダーを目指すNTTデータにとって、それぞれの機体の特性を踏まえたうえで、いかに空の安全を担保するシステムに落とし込んでいくかということが大きな課題です。ただ、NTTデータには有人機の分野でメーカーに依存しないソリューションを提供してきた実績がありますから、その知見を活用して解決できる課題だとも考えています。

無人機の進化が叶える便利な社会

───UASビジネスは今後どのような発展を遂げていくのでしょうか?

伊神 たとえば、詳細な気象情報のデータを集めることでよりピンポイントな天気の予想が可能になるかもしれません。我々の事業で言うと、現在は衛星画像を使って再現している3D画像を、UASが収集してきた地形や障害物のデータを活用して、より詳細で精密なものに進化させることができるのではないかと考えています。

───今後、ハードもソフトもUASの技術が進化し続けていくなかで、どんな社会が実現できると思いますか?

伊神 地方や過疎地にUASで荷物を運搬したり、危険をともなう作業をドローンが代わりに行ったり、さまざまな公益をもたらしてくれるでしょう。また災害発生時に、いち早く被害状況を把握するための手段としても活用できます。今後、さまざまな企業や事業者とパートナーシップを組み、UASが効率的かつ安全に社会のために活用されるようなエコシステムを構築していくのがNTTデータの使命だと考えています。

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地方を支えるシェアリングエコノミー https://inforium.nttdata.com/report/sharing-economy.html Tue, 09 May 2017 02:43:29 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2525 グローバルに拡大するシェアリングエコノミー市場

「シェアリングエコノミー」とは、スマートフォンの普及やソーシャルメディアの発達によって急速に発展した、モノやサービスなどを交換・共有することで成り立つ新しい経済の仕組み。欧米を中心に目覚ましい進展を遂げ、世界中のライフスタイルに変革をもたらすと言われています。シリコンバレーを起点として、市場規模はグローバルに拡大。2014年度に約233億円だったシェアリングエコノミーの国内市場規模は、2018年までに462億円まで拡大すると予測されています。(出典:平成28年版情報通信白書 P139

シェアするのは、空間やモノから、移動手段、お金、育児・家事といったスキルまで様々。世界では空き家を活用して宿泊場所を提供する民泊や、一般ドライバーの車に相乗りして目的地まで移動するライドシェア、個人の所有するモノや専門的なスキルを提供するサービスなどが活用され、日本でもあらゆる分野で新たなサービスが生まれています。

(引用:シェアリングエコノミー協会資料)

(引用:シェアリングエコノミー協会資料)

こうしたすでにあるモノや人といったリソースの稼働率を上げることが経済全体を活性化する、という効果を期待できます。また、多くのスタートアップ企業によって生まれた新しいソリューションやイノベーションは、超少子高齢化時代を迎える日本の課題を解決に導く可能性も秘めています。シェアリングエコノミーの台頭によって、今まさに産業・社会のパラダイムシフトが起こりつつあるのです。

遊休資産の見える化を新たなビジネスに

日本のシェアリングエコノミーを先導する企業の一つとして、今注目を集めるのが2014年4月に創業した、株式会社スペースマーケットです。「世界中のあらゆるスペースを自由に流通させ、新たな価値を創造する」ことをミッションとし、古民家、映画館、お寺、球場、自治体の公共施設など、多種多様な場所を貸し借りできるプラットフォームサービスを展開。

当初は100件ほどだった掲載施設は、今や1万件を突破し、月間の問い合わせ件数は2,000件以上にのぼります。急成長するこの事業は、どのようにして生まれたのでしょうか。重松大輔社長は、「シェアという概念に大きな可能性を感じたことが起業のきっかけになりました」と話します。

重松大輔(しげまつ・だいすけ) 株式会社スペースマーケット代表取締役。1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画し、新規事業、広報、採用などを担当。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の遊休・空きスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事。

重松大輔(しげまつ・だいすけ) 株式会社スペースマーケット代表取締役。1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画し、新規事業、広報、採用などを担当。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の遊休・空きスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事。

「前職ではウェディングのビジネスを立ち上げましたが、結婚式場に営業に行ってもどこも平日はガラガラ。支配人の方に『お客さん連れてきてよ』とか『平日に利用する会社を紹介してよ』といった相談をよく受けていました。自分たちの会社に目を向けると、結婚式場とは逆で、土日にセミナールームが空いていました。自分自身も外部の会議室やセミナールームを借りて採用活動を行った経験があったので、お金払ってでも借りたい会社はあるはずだと。潜在的な空きスペースが見える化されると商売になるのでは、と思いました」

「一方で、海外のビジネスを研究していると、アメリカで『Airbnb』が伸びていて、そのイベントスペース版やミーティングスペース版もたくさん出てきていました。既存の企業の持ち物だけでなく、個人のモノが貸し借りされるという大きなトレンドがあり、『これは来るな』と思って、スペースを貸す事業を始めたんです」

当時日本ではまだシェアリングエコノミーという言葉は浸透していませんでしたが、重松社長は、サービスを始めた直後から次第に耳にするようになったと言います。それによって「自分がやりたいことはこれだ」と再確認できたそうです。

「当時、会議室の検索サイトはたくさんありましたが、私が求めていたのはちょっと違いました。というのも会議室だけでなく、あらゆるスペースの遊休時間を活用しながら、ITを駆使して検索から予約、決済まで一気通貫でできるようなサービスECがやりたかったんです」

「会議室を検索できるだけでは、誰もときめかないですよね。スペースを探す人は、今まで借りたいけど借りられなかったような場所が簡単に借りられる。スペースを貸す人にとっては、空いていた時間帯が稼働し始める。そっちの方が断然楽しいだろうなと、自分の中ではっきりとしたイメージが見えていました」

シェアの概念が一気に日本に入ってきたことは、スペースマーケットの事業の成長を大きく後押ししました。「この波にうまく乗って、なんとかビジネスを立ち上げることができました」と笑顔を見せる重松社長。日々を過ごす中でも、シェアリングエコノミーの広がりを実感しています。

「ここ最近、メディアでこの言葉を見ない日はないですよね。まさに個人が主役になる新しい経済の仕組みであり、これによって今まで使い道がなかったリソースがどんどん稼働し始めています。身の回りのあらゆるところで効率化や合理化が進んでいることをすごく感じますね」

シェア事業者の連携でスピーディーに課題を解決

まだ発展途上にあるシェアリングエコノミーには、現状の法規制では対応が難しいといった課題もあります。この新たな市場が日本経済を支える仕組みの一つになるためには、事業者同士の連携も必要です。そこで、重松社長と、地域体験シェア事業「TABICA」を展開する株式会社ガイアックスの上田祐司社長が中心となり、2016年1月に一般社団法人シェアリングエコノミー協会が設立されました。32社から始まった会員数は現在約130社と、1年で4倍以上に。日本のシェアリングエコノミーの広がりが、この数字からも見えてきます。

シェアリングエコノミー協会のサイトトップ

シェアリングエコノミー協会のサイトトップ

「新しいビジネス領域なので、どの事業者も手探りでやっているんですが、ぶち当たる課題って同じだったりするんです。また行政サイドとしても、一社ずつ相談に来られるより、まとめて一度に来てもらったほうが、効率がいい。こういうニーズや問題があるというのをとりまとめることで、事業者同士が共有できるだけでなく、一気に解決へとつなげることもできるんです。新たなビジネスゆえに既存の法規制との間にあるギャップが問題になっていますが、スピーディーに解決するためには団体を作ることが不可欠でした」

普及活動の一環として、2016年7月から11月に開催された内閣官房IT総合戦略室、経済産業省、総務省が集まる「シェアリングエコノミー検討会」に同協会も参加。シェアリングエコノミーサービスに関する自主ルール策定の必要性や既存の法律の問題点などについて、直接意見を述べました。このほか、民泊新法に対して意見書を提出したり、環境省との意見交換会に参加したりするなど、政府や官公庁との情報交換や提言に力を注いでいます。

また事業者同士の交流も活発で、同年11月には国内外から有識者を招き、日本初の「シェア経済サミット」を開催。隔月で会員同士の勉強会も実施し、現状や課題を互いに共有しながら企業の垣根を越えて学び合っています。

「シェアリングエコノミー市場は、アメリカは当然のこと、今中国がすさまじい勢いで成長しています。世界的に見ても日本は圧倒的に遅れている。そこをみんな何とかしたいと思っているんです」

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交通系ICカードから電子マネーへ https://inforium.nttdata.com/report/trafficcard_emoney.html Mon, 10 Apr 2017 05:00:00 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2351 センターサーバー型に進化

椎橋章夫さんは、鉄道に限らないICカードの利用について、構想段階から実現まで携わっています。現在は、JR東日本メカトロニクス株式会社の代表取締役社長を務めています。

JR東日本メカトロニクス株式会社 椎橋章夫代表取締役社長。1953年埼玉県生まれ。1976年埼玉大学工学部機械工学科卒業。同年、日本国有鉄道入社。1987年、民営・分割化により東日本旅客鉄道株式会社入社。本社設備部旅客設備課長、同Suicaシステム推進プロジェクト担当部長、執行役員 IT・Suica事業本部副本部長などを歴任、Suicaプロジェクトの指揮を執る。2012年JR東日本メカトロニクス株式会社入社。2006年、東京工業大学大学院(博士課程)修了。工学博士。

JR東日本メカトロニクス株式会社 椎橋章夫代表取締役社長。1953年埼玉県生まれ。1976年埼玉大学工学部機械工学科卒業。同年、日本国有鉄道入社。1987年、民営・分割化により東日本旅客鉄道株式会社入社。本社設備部旅客設備課長、同Suicaシステム推進プロジェクト担当部長、執行役員 IT・Suica事業本部副本部長などを歴任、Suicaプロジェクトの指揮を執る。2012年JR東日本メカトロニクス株式会社入社。2006年、東京工業大学大学院(博士課程)修了。工学博士。

───Suicaは現在、どれくらい普及しているのでしょうか。

全国での相互利用が開始しましたので、北から南まで、政令指定都市にあるバスや鉄道は基本的にどこでも使えるようになりました。カードの発行枚数は相互利用が可能な全てのカードを含めて、およそ1億枚。その半分以上の約6,500万枚がJR東日本のSuicaです。

このような状況ですから、Suicaはもう社会インフラになったのかな、という気がします。交通機関の利用にプラスして、今では生活サービスに広がっています。最近ではビル入退館システムにおける利用など、以前とは違った「認証」という使い方もされています。

───Suica導入で陣頭指揮を執った椎橋社長は、今新たな構想を描いていると伺いました。

仮称「eMoney(イーマネー)」と呼んでいるものですね。eMoneyの着想に至ったのは、交通系ICカードがこれだけ巨大なインフラになるとサービスを1つ付加するだけでも、非常に大変な作業になるという問題認識からです。多数の端末を改修するだけでなく、センターサーバーもソフトウェアを改修しなければならない。カードも折に触れてセキュリティなどを上げてバージョンアップをしています。

これをもう少し簡単にしないと、新しいサービスが事実上付加できなくなるのではないか、そうした危機感がありました。そこで、処理能力が大きいセンターサーバーにもっと仕事をさせようと思ったのです。

クラウド型ID認証システムの模式図

クラウド型ID認証システムの模式図

端末とカードの負荷をもっと下げて、シンプルで簡素なシステムを目指しています。このため、端末側の処理を全部センター側に持っていってしまおうとするものです。それがeMoneyと呼ぶシステムです。別の言葉に言い換えると、「クラウド型ID認証システム」ということになります。

───センターサーバーに仕事をさせられるようになったのは、何が一番の理由だったのでしょう。

一番の決め手は、ネットワークがかなり進化してきたということです。ネットワークが高速になり、しかもコストが下がってきました。センター側にもクラウドという概念が登場しました。

このようなサーバーが安価に借りられる環境も出てきたのも大きいです。以前はやろうとしてもなかなかできなかったことですから。

新しい社会の姿を見据えて

───著書『ペンギンが空を飛んだ日—IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル』(交通新聞社新書)の中で、交通系ICカードが最初は切符として続いて様々な決済に使われていき、ゆくゆくは社会インフラになる構想が当初からあったと解説がありました。eMoneyもそのビジネスモデルの流れ上にあるものですか。

Suica導入時に示された、三重円のICカード展開図。鉄道事業から始まり、その他の事業を手がけるグループ企業、徐々に社会へと浸透させていく構想が当初から描かれていた

Suica導入時に示された、三重円のICカード展開図。鉄道事業から始まり、その他の事業を手がけるグループ企業、徐々に社会へと浸透させていく構想が当初から描かれていた

そうです。なぜ、こうした三重円のモデルで考えなくてはいけなかったのか。それは「移行期間」があるからです。

Suicaが世に出る前は、磁気券のお客様がほぼ100%でした。そこにICが数%入ってきて、今ではICが93%位まで達している。そういう世界になるまでには、磁気とICの両方を使える環境が必要でした。しかし、両方に使えるということは二重投資になるのです。

新しい社会の姿を語る時は「今ここでICという機能を入れておかないと、こういう未来が訪れませんよ」と二重に投資をする理由を多くの人に示し、理解してもらわなければなりません。

───そのための構想図だったのですね。では今後、eMoneyはどのように普及していくのでしょうか。

私が最初にイメージしているのは、「IDを認証する」だけのシステムです。例えば、決済済みのアミューズメントチケットなど、すでに支払いが済んでいるものとIDを紐付けしておくと、その日、その時間に劇場に行き、端末にタッチ(認証)するだけでいいですから。

その次の段階では、タッチをしたらセンターで支払いと座席指定を同時にする、といった処理をする。こうして徐々にハードルを上げていき、最後はネットワークを通じてセンターで運賃の計算と決済をするようなシステムにつなげられればいいな、と思っています。

今、実験レベルとして、一番難しい改札機で試験しているところです。当社のビル内に仮想の駅を作って、5~6キロ離れた地点にワークステーションを置き、光回線を使い処理が何秒でできるかを試験しました。

現在の新宿駅や東京駅の改札機が約0.2秒で処理しているのですが、この試験の結果は肌感覚的にはそんなに変わりませんでした。ただし、正常処理の場合です。Suicaもそうですが、世の中の一般的なシステムは異常処理にどう対応するかというソフトの作り込みが重要です。

そうは言っても、試行結果から考えると「これはいけそうだ」という感触を得ました。そう遠い世界の話ではなくて、きちんと作り込んでいれば、必ずeMoneyのシステムが実現できると感じています。

───ものすごく大量の処理には対応できるものでしょうか。

アクセスも大量に来ますから、それはこれから色々と検証していかなければならない重要な課題ですね。

物理的な距離がものすごくある場合にも、いわゆるデータ通信だけで時間がかかります。だから端末をある程度まとめて、中継サーバーを置いた方がいいというシステムも考えています。全てがクラウドではなくて、エッジコンピューティングで処理するというのも、今日の潮流としては正解ではないでしょうか。

普及までに見えてきた課題

───鉄道に限らず、クルマにガソリンを入れるとか、船に乗るとか、飛行機とか、eMoneyがいろんな交通やサービスに繋がっていくようになると、どんな未来が訪れるのでしょう。

まず、1回のタッチで複数のサービスを提供できる可能性があると思っています。例えば、スマホの中に入ったeMoneyの特急券で改札をタッチしながら、到着地の観光情報をスマホに送信する、といった具合ですね。

今まで別々にやっていたことが、センターサーバーだとその連携がやりやすいのです。できるかできないかはこれからの取組み次第ですが、「夢」を含めて可能性があると思っています。

───チケットについては以前からeMoneyでコンサート会場での実証実験もされていますね。これから徐々に広がりを見せるものでしょうか。

2016年9月4日に行われたクラシック・コンサート「NTT DATA CONCERT OF CONCERTS」では、ICカードを入場チケットとして活用する実証実験が行われた

2016年9月4日に行われたクラシック・コンサート「NTT DATA CONCERT OF CONCERTS」では、ICカードを入場チケットとして活用する実証実験が行われた

そうなるといいですね。2020年のオリンピック・パラリンピックでは海外から人が大勢来ますから、試験的な形でもいいので、日本発の交通系ICカードによる質の高い社会インフラを見せたいところです。

例えば、選手村とか、役員スタッフが使うものとか、そういった形で実現できないのかなと。おそらく来日したスタッフも東京の中を自由に動き回りたいでしょうから、フリーエリア乗車券付きの入退館証、大会役員用の身分証のようなものを提供させてもらえたらいいと思っています。

───eMoneyに関して、これから乗り越えようとしている壁はありますか。

まずは、IDの登録を簡単にするにはどうすれば良いか、という課題があります。利用者IDをセンターサーバーに登録しておかないとサービスできないですから。

ICカードを発行する前に、IDを事前にセンターサーバーに登録しておくという方法も考えられます。この場合、「お手持ちのICカードが使えます」と言えるのは利点です。

社会インフラに育てるには、もっともっと簡単にして、持ったらすぐにサービスが受けられるというようにしないといけません。少しずつ便利さを実感してもらえれば、段々と広がって行くと思います。

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「ユーザー中心」でサービスを生む https://inforium.nttdata.com/foresight/service-designing.html Fri, 14 Apr 2017 04:59:00 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1920 初心者のデザイン思考の学習に寄与

“エンドユーザーを理解し、その価値観を中心に据えてサービスをつくる必要性が増している。特に、ユーザーが明確に意識できていない潜在的なニーズをつかみ取ることが重要になっている。そのための方法論が「デザイン思考」と呼ばれる考え方だ”

NTTサービスエボリューション研究所が作成した冊子『「ヒトから学ぶ」サービスづくりのためのCo-Creation Method 1時間から始める実践と学習ガイド』の冒頭にはこういった解説があります。

NTTグループによる活用を想定したこの冊子の開発を担当したのは、同研究所のユニバーサルUXデザインプロジェクトのメンバーです。

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 木村篤信 主任研究員

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 木村篤信 主任研究員

───サービスエボリューション研究所では、どのような研究をしているのですか。

木村 私たちはユーザーを中心とした考え方に基づいて「ユーザーに喜んでもらえる価値をつくる方法論」や「イノベーションを生み出す方法論」を研究しています。

これまで、ユーザー中心に関する取り組みは専門家が暗黙的なノウハウを活用しながらサービスづくりを行っていました。そこで研究所では、ユーザー中心の考え方を知らない初心者でも取り組めるように、ノウハウの形式知化を目指して研究開発を行っています。

その成果の一つが、提供を開始した「Co-Creation Method (コ・クリエーションメソッド)」です

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクトが開発した、ユーザー中心の考え方を実践形式で体験できるガイドブック。サービスづくりにまつわる7つの悩みを選択し、1つの悩みに対応したワークが1時間以内で完結するように設計されている

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクトが開発した、ユーザー中心の考え方を実践形式で体験できるガイドブック。サービスづくりにまつわる7つの悩みを選択し、1つの悩みに対応したワークが1時間以内で完結するように設計されている

すでにNTTデータを含む事業会社のビジネスの現場で活用していただいており「世の中にあるほかの手法と比べて、初心者の学習と実践に役立つ」とのフィードバックをいただいています。今後も現場の方々と連携しながらブラッシュアップしていきたいと考えています。

───NTTの研究所が、通信技術に直結しないようなデザインの方法論や手法(ツール)を研究しているのは少し意外でした。

木村 ユニバーサルUXデザインプロジェクトの歴史を辿ると、元は電話交換機の時代にまでさかのぼります。「複雑でミスの起きやすいネットワークオペレーションシステムでの作業時にヒューマンエラーをなくすにはどうしたら良いか」を私たちのチームが研究対象としていました。

インターネットが普及すると、今度はウェブを操作するときのアクセシビリティやユニバーサルデザインが研究対象となり、ガイドラインなどを作成してきました。いずれもユーザーにとってはマイナスだった体験をいかにゼロにするかという発想です。

弊社においても2010年前後から、サービスをつくるときに「ユーザーにとってより良い体験をつくること」が求められるようになりました。その結果、これまでのユーザーを理解するための研究で得た知見を、ユーザー体験の設計に活用する方法論の研究に着手しています。ユーザーにとってはゼロをプラスにするといった発想です。

それが、現在取り組んでいる、ユーザー中心、UXデザイン、サービスデザイン、デザイン思考といった考え方の研究になります。

───UXデザイン、サービスデザイン、デザイン思考といった考え方は、NTTグループにどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

木村 サービス企画部門やオペレーション部門に限らず、つくるサービスやシステム、マニュアルなどを使うユーザーが存在する業務であれば、どのような部門でも役立てられます。

とは言え、NTTは日本のメーカー各社と異なり、デザインという言葉自体に馴染みがない人が多いです。実際、私たちが事業会社のサービス企画の担当者にヒアリングしたところ、デザインの意味を意匠(ビジュアル)デザインだと捉えていて自分たちのビジネスになかなか繋がらない、と感じる方も多くいました。

───具体的に『Co-Creation Method』ではどんな工夫をしましたか。

木村 担当者が、一般的なサービス企画の業務の中で感じる「7つの悩み」がきっかけとなるような設計を行いました。

具体的には、担当者がサービス企画の悩みを感じたとき、その悩みを解決するためのワークから取りかかれる冊子の構成にしました。また、ワークの説明文などの表現にも気を使い、専門家の暗黙的な知識がなくても読めるように精査しています。

この設計によって、初心者でも抵抗感を持たずにユーザー中心のアプローチに取り組んでもらい、デザインの考え方を理解している人を増やしていきたい、という狙いがあります。

ノウハウを棚卸しして利用

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 草野孔希 研究員

NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト 草野孔希 研究員

草野 ヒューマンインターフェースやユニバーサルデザインだけでなく、ビジネスにもユーザー中心のアプローチを生かす動きが、この5~6年ほどで起こりました。

───サービスエボリューション研究所がNTTデータと具体的にサービスデザインに関連して連携されたのは、いつ頃からでしょう。

草野 2年ほど前に、私たちがNTTデータのCAFISの利用現場を調査したときからです。このときは、カードでの買い物を促進したり、楽しくしたりするためのUXデザインやユーザビリティを設計するための技術的アドバイスを行いました。

NTTデータに同行して都市部の大型ショッピングセンターへ行き、ユーザーの観察やヒアリングを重ね、そこから得られたデータに基づくサービスの企画に対する技術的アドバイスを行いました。

組織が新しい強みを備える

───デザイン思考が現場に入っていくことにどんな意義があると捉えていますか。

草野 例えば、以前の電話は、使うまでにいくつもの手順が必要でした。設置されている場所に行き、ユーザーがあらかじめ電話番号を覚えていなくてはいけなくて、ダイヤルをクルクル回してかけて、という具合に。

いまはユーザーがどういうことを手間だと思うかを把握したうえで、それを解決する製品を世の中に出さなくてはいけない時代です。ユーザーに深く共感して、何に困っているのかを考え、それに合わせてサービスをつくるスタイルに変えなくてはいけません。

つくられたものを使う時代から,その人が使いたいものがつくられる時代になったのだと分析しています。そのとき、デザイン思考が1つの方法論として有効だと考えています。

───NTTグループに開発を依頼する顧客も、同様の課題を持たれているのでしょうね。

草野 私たちはお客様が提供したいサービスを技術力をもって実現させてきました。しかし今は、お客様から良いサービスを提供するために、どのようなサービスを提供すると良いかを一緒に考えて欲しい、といわれる時代になっています。

最終的に使う人は誰で、その人は何を求めていて、サービス提供者はどういうものを提供しなくてはいけないのか。こうした本質的な問いに対して、私たちとお客様が一緒になって考えるための方法論を持っていれば、それが私たちの強みや競争力になり得ると考えています。

NTTグループが、ものづくりを一緒に行うSIer(システムインテグレーター)から、エンドユーザーに提供すべき価値をともに生み出す、ビジネスパートナーに格上げされていくと思うのです。

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セキュリティーは機械学習で強くなる https://inforium.nttdata.com/foresight/coolsign.html Mon, 03 Apr 2017 02:27:54 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2314 機械学習が社会に根づくための条件とは?
(右)早稲田大学 理工学術院  松本隆(まつもと・たかし)名誉教授 1966年、早稲田大学理工学部電気工学科を卒業し、ハーバード大学大学院へ進学。1970年に応用数学修士(ハーバード大学)、1973年に工学博士(早稲田大学)。1977~79年にカリフォルニア大学バークレー工学部電気工学・計算機科学研究員。早稲田大学理工学部の助教授・教授を歴任。IEEE Life Fellow、Proceedings of IEEE編集委員、国際署名認証コンテストSVC2004審査委員、各種学会の委員会委員・委員長なども務める。1999年には早稲田大学の研究室で開発した電子サイン照合技術を特許申請するとともに、クールデザイン社を設立。現在は同社副社長として、同社の研究開発を統括している。 (左)NTTデータ数理システム 取締役 中川慶一郎(なかがわ・けいいちろう) 1992年、早稲田大学大学院理工研究科修士課程修了後にNTTデータに入社。2000年、早稲田大学大学院理工研究科機械工学専攻博士課程満期退学(工学博士)。NTTデータではオペレーションズ・リサーチ、応用統計を専門とする研究に従事したのち、ビジネスデータ・アナリティクスのコンサルティングから技術開発まで幅広く担当。ビジネスインテリジェンス推進センタ センタ長などを歴任し、2013年より現職。途中、大阪大学経済学部非常勤講師、早稲田大学大学院創造理工学部非常勤講師、明治大学商学部特別招聘教授を兼職する。また、日本オペレーションズ・リサーチ学会(副会長)や日本経営工学会などの学会でも積極的に活動している。

(右)早稲田大学 理工学術院  松本隆(まつもと・たかし)名誉教授 1966年、早稲田大学理工学部電気工学科を卒業し、ハーバード大学大学院へ進学。1970年に応用数学修士(ハーバード大学)、1973年に工学博士(早稲田大学)。1977~79年にカリフォルニア大学バークレー工学部電気工学・計算機科学研究員。早稲田大学理工学部の助教授・教授を歴任。IEEE Life Fellow、Proceedings of IEEE編集委員、国際署名認証コンテストSVC2004審査委員、各種学会の委員会委員・委員長なども務める。1999年には早稲田大学の研究室で開発した電子サイン照合技術を特許申請するとともに、クールデザイン社を設立。現在は同社副社長として、同社の研究開発を統括している。
(左)NTTデータ数理システム 取締役 中川慶一郎(なかがわ・けいいちろう) 1992年、早稲田大学大学院理工研究科修士課程修了後にNTTデータに入社。2000年、早稲田大学大学院理工研究科機械工学専攻博士課程満期退学(工学博士)。NTTデータではオペレーションズ・リサーチ、応用統計を専門とする研究に従事したのち、ビジネスデータ・アナリティクスのコンサルティングから技術開発まで幅広く担当。ビジネスインテリジェンス推進センタ センタ長などを歴任し、2013年より現職。途中、大阪大学経済学部非常勤講師、早稲田大学大学院創造理工学部非常勤講師、明治大学商学部特別招聘教授を兼職する。また、日本オペレーションズ・リサーチ学会(副会長)や日本経営工学会などの学会でも積極的に活動している。

───いま世の中では「機械学習」が注目されています。すでに画像処理や言語処理などで目覚ましい成果をもたらすようになり、さまざまなビジネス分野への適用も始まりました。そんな機械学習は、私たちの社会をどのように変えつつあるのでしょうか。

松本 人間が機械に何かをやらせようという試みは、はるか昔から行われてきましたが、機械に学習をさせることはまだ始まったばかりでしょう。

いまのところ機械学習に「これだ」という明確な定義はなく、学問領域としての人工知能、統計学、コンピュータサイエンス、画像・音声認識など、いろいろな領域が機械学習は自分たちの領域の一部だと考えているように見受けます。これら複数の領域の共通部分であるがゆえに、大きな流れになっているのではないかと思います。

しかし、それぞれの領域における共通項を括り出していくと、機械学習とは「与えられたデータから未知の構造を学び取る」ということに集約できると思います。そこから「予測」「認識」「検知」「判別」「制御」といった機械学習の適用分野が見えてきます。すでに応用が進んでいる具体例としては、サーチエンジン、スパムメールや不正アクセスなどの検知、画像・音声・文字の認識、機械翻訳、バイオインフォマティクス(生命情報科学)、自動運転や「AlphaGo」(アルファ碁)などの製品としての人工知能が挙げられます。

徐々に適用が広がる機械学習ですが、今後、私たちの社会に根づいていくには3つの条件が必要と考えています。1つ目は、当然ですが新しいアイディア。2つ目はテクノロジーに対する社会からの要請。そして3つ目がテクノロジーの有用性への理解、つまり新しいアイディアに基づくテクノロジーを見たとき、これは使えると気づくことです。

例えば1776年に英国のエンジニア、ジェームス・ワットが改良型蒸気機関を発明しました。ワット以前にも蒸気機関の改良案はヨーロッパ各地で生まれていましたが、ワットのアイディアは画期的効率を備えており、当時の英国が必要としていた高効率動力源になりうるものでした。その頃の主たる動力源は人力、馬力、風力、水力で、既存の蒸気機関の効率はかなり低いものだったからです。

ワットのアイディアの有用性を直ちに理解したのが、英国の実業家、マシュー・ボールトンです。ボールトンの資金協力と経営協力によって、ワットの改良型蒸気機関は、のちに「産業革命」と呼ばれるようになる時代に大きく寄与しました。

これと同じく機械学習も、3つの条件が揃うことで発展していくと考えられます。

ただし、テクノロジーの文化依存性にも注意すべきです。例えばロシアのエンジニアであるプルサーノフは、ワットよりも前に改良型蒸気機関のアイディアを出していましたが、当時のロシアではまだ奴隷に排水作業などをさせており、日の目を見ませんでした。

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中川 松本先生が例示した産業革命における蒸気機関は、いわば「要素技術」であり、その研究はいろいろなところで行われました。その後、織機や蒸気船、蒸気機関車などの製品が登場し、ボールトンのような実業家が成功を収めることになりました。

一方、20世紀のIT革命は、通信プロトコルといったネットワークの要素技術の研究によってコンピュータの接続が可能になったところから始まり、その表現形としてインターネットが登場しました。しかし成功を手にしたのは、従来からの通信ネットワーク事業者ではなく、GoogleやAmazon、Facebookのようにその後に出現したコンテンツ事業者でした。

機械学習もそうした要素技術であり、その研究開発は過去から脈々と地道に行われ、最近になって花開いたものです。その表現形として、現在は人工知能を活用した自動運転などが注目され始めていますが、“時代の覇者”はまだ見通しが立ちません。

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松本 機械学習が多くの可能性を秘めていることは確かですが、機械学習で社会からの要請に応えようとする際、少なくとも2017年の現在、2つの重要課題があります。1つは、膨大な機械学習アルゴリズム群の中から、どのようなアルゴリズムが相応しいかを見つけることで、これには相当の経験とセンスが必要です。

2つ目は、相応しいアルゴリズムが選べたとして、適切な特徴量をデータから抽出することです。画像認識など特定の問題については特徴量自動抽出も試みられてはいますが、任意の問題の生データに対して可能な方法はまだなく、これもかなりの経験とセンスを備えた人間がやらなければ期待する結果は得られません。

急がば回れなので、このような人財をしっかり育成していくべきでしょう。また異なる仕事歴を持つ人々の出会いの場を作るのがよいと思います。同じような背景を持つ人々で斬新な企画を立ち上げるのはなかなか難しいです。さきほどのワットとボールトンの出会いは分野横断型のユニークな会「Lunar Society of Birmingham」で起きました。

図1:第四次産業革命はだれが時代の覇者になるのか?

図1:第四次産業革命はだれが時代の覇者になるのか?

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“発想力”で変化の時代を生き抜こう https://inforium.nttdata.com/report/kyotobank_innovation.html Fri, 24 Feb 2017 02:18:36 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2044 デザイン思考で地域の未来を拓く

日本の歴史と伝統が息づく京都に創業し、70年以上にわたり地域とともに発展してきた京都銀行。「地域社会の繁栄に奉仕する」という経営理念を一貫して掲げ、地域密着型の地銀として確固たる基盤を築いてきました。変化し続ける世の中で地域の未来を拓くために、京都銀行がなすべきことは? その問いへのひとつの答えが、NTTデータが提供する「新規ビジネス創発ワークショップ」への取り組みでした。

「新規ビジネス創発ワークショップ」とは、本格的なグループワークを重ねることにより、チーム全体で「デザイン思考」を身に付けられるようになる、という試みです。デザイン思考とは、ビジネスや社会に変革をもたらすサービスや方法論を生み出すための思考法のひとつで、米グーグル社やアップル社など、名だたる企業が取り入れていることでも知られています。

ワークショップでは、NTTデータが長年にわたって培ったデザイン思考の手法と新規ビジネスの開発手法をメソッド化し、京都銀行からの参加者にノウハウを伝えていきました。参加者は2016年6月から12月までの6ヶ月間、全10回のワークショップを通して、顧客にアピールするアイディアを生む技術を学び、柔らかく斬新な発想で新しいビジネス案を作り出していったのです。

メンバーと共に考え “発想力”を磨く

運営事務局の指揮を執る、京都銀行総合企画部の三宅夕祐次長はこう話します。

「京都銀行はこれまで、地域のみなさまとの発展を目指して堅実なサービスを提供してまいりました。しかしその一方、現在の日本経済の流れや世界状況を鑑みるに、地銀もまた、変わらなくてはならない局面に来ているのではないか、という思いがあります。目まぐるしく変わり続ける世の中で、金融業界もまた、新しいことにチャレンジしていかなくてはならない。地域へのさらなる貢献という目標を達成するとき、どのような変化が必要なのか。日々手探りする中、根本的に私たちに必要とされているのは、“発想力”そのものではないか、と考えたのです」

京都銀行 総合企画部 三宅次長

京都銀行 総合企画部 三宅次長

発想力を磨く――この漠然とした目標に対し、「新規ビジネス創発ワークショップ」は次第に効果をもたらしていきました。ワークショップでは様々な部署から行員が参加しました。同僚とはいえ、普段はやりとりをすることがないメンバーと顔を合わせ、話し合う中で、少しずつアイディアの出し方のコツをつかんでいく。参加者の大橋昌浩さん(本部勤務)はこう話します。

「初日はみんな固い雰囲気だったんですよ(笑)。けれども回数を重ねるごとに場の空気が変わり、自由に、気兼ねなく意見交換ができるようになりました。同じ職場に務めてはいても、出会うお客様が違えば持っている情報も違う。会話を重ねながら、次第に私たち行員だから知っているお客様のニーズが見えてきました。一人ひとりが持っている情報をすり合わせていくことで、私たち地銀の行員ならではの目線で、地域密着型の新サービスが発想できるはずだと確信しました」

6月から9月にかけて行われた前期ワークショップでは、チーム内で出されたアイディアをすべて付箋に書き込んでいきました。その数は最終的に1,000枚以上に及びます。参加者は1,000を超える発想をグルーピングし、絞り込み、磨き上げていく作業を続けていきました。

人数は1チームあたり5、6人。左側の手前から2人目が大橋さん

人数は1チームあたり5、6人。左側の手前から2人目が大橋さん

「ワークショップはしっかりとメソッド化されているので漫然とした話し合いには終わらないのが良かったです。毎回、明確な目標とそれに到達するための手段があるので、それに沿って作業していくうちに、自然と発想力が刺激されていくんです」と大橋さんは振り返ります。

「ひとりで考え込むのは、ビジネスアイディアを生み出すには向かないのだと気づかされました。付箋で貼りだされた様々なフレーズを前に全員でディスカッションしていると、メンバーの案を引き出す力が磨かれてくるんです」

発想力の根本は“共感”にあり

前期ワークショップの最大のポイントは、「どんなアイディアも捨てずに、すべてを出し切り、可視化すること」だ、と今回のワークショップのディレクターを務めたNTTデータの角谷恭一(かどや・きょういち)は言います。

「デザイン思考の特徴のひとつは、アイディアを出し合い、話し合って絞り込む、という作業を繰り返すことです。ひとりの天才が生み出すアイディアよりも、平凡な私たち全員が集まって、知恵を寄せ合い、遊ぶように楽しみながら生み出したアイディアのほうが、世界にインパクトを与えられることは往々にしてあります。それは、デザイン思考の根本に“相手への共感”があるからです」

参加者のうちの1グループにつき、アイディア出しのアドバイスをする角谷(右端)

参加者のうちの1グループにつき、アイディア出しのアドバイスをする角谷(右端)

デザイン思考のプロセスは、次の5つのステップからなります。

1「共感」(顧客の問題に寄り添う)
2「定義」(ユーザーにとっての問題を明確化する)
3「発想」(ユーザーの問題の解決法を発見する)
4「試作」(ビジネスアイディアを可視化する)
5「試行」(実際にユーザーとともに検証する)

この5つの手順をチームで行うことにより、いま目の前にある様々な問題を解決する現実的なビジネスアイディアが生み出されていきます。チームでのアイディア出しの現場にもまた、互いへの共感は欠かせません。共感があるからこそ、仲間から言葉を引き出し、自分自身の考えを臆することなく伝えることができるからです。ときに天才の発想を凌駕するアイディアがチームの中から生まれる理由は、チームのメンバーへの、そしてその先にいる顧客への“共感”という出発点にあるのでしょう。

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複数体のロボットが人間に与える変化 https://inforium.nttdata.com/foresight/multiple_robots_conversation.html Tue, 21 Feb 2017 00:57:17 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2153 結婚を決めたカップルを対象に

石黒 ようこそ、大阪大学までいらっしゃいました。企業が行った実証実験の結果が伺えると聞いて楽しみにしていました。

大阪大学 石黒 浩教授。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

大阪大学 石黒 浩教授。1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現をめざし、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

稲川 石黒教授の研究室にお邪魔するのは、前回の見学会以来ですね。

私たちの部署では、複数体のロボット対話による心理効果がどうマーケティングに活用できるかという強い関心があります。ビジネスの現場での本格活用に向けて、ぜひアドバイスをいただきたいと思います。

NTTデータ テレコム・ユーティリティ事業本部 ビジネス企画室 ロボティクスビジネスチーム 課長 稲川竜一

NTTデータ テレコム・ユーティリティ事業本部 ビジネス企画室 ロボティクスビジネスチーム 課長 稲川竜一

稲川 今回、リクルートテクノロジーズ社と2016年7月に共同で行った実証実験は、先生の論文などを参考にしながら取り組んだものです。まずは、実験の模様をまとめた動画をご覧ください。

石黒 この映像は、どこで撮影されたものですか?

稲川 結婚前のカップルが、プロのアドバイザーに結婚式に関する相談ができる店舗「ゼクシィ相談カウンター」です。ここでは、結婚準備や式場について様々なことを相談できますが、その中の1つとしてブライダルジュエリーもご案内しています。

ブライダルアドバイザーの方が、カップルの2人から結婚式に対する希望を聞いた後、その希望に合う結婚式場をピックアップする時間があるんですね、その7〜8分をいただき、人間の代わりにロボットが指輪の選び方、買い方を説明するシーンです。

(動画内の音声)
Sota(ブルー)「あっ、お客さんだ。ここに来たってことは、ついに結婚するんですね」
Sota(ピンク)「今日は結婚が決まったラブラブなお二人と指輪のお話がしたいな」
Sota(オレンジ)「そこの綺麗なあなた、いま幸せですよね」
Sota(ブルー)「やっぱりね」
Sota(3体)「結婚、おめでとう!」

石黒 それぞれのロボットの役割分担があるのですね。

稲川 ブルーが男性、ピンクが女性、オレンジがいろいろ知っている先生という設定です。

ブルーと対面する形で左側に男性、ピンクと対面する形で右側に女性がいて、挙式のアドバイスを受けに来店した際にブライダルジュエリー(本検証では婚約・結婚指輪)に対する購買意欲を喚起しようと。

ゼクシィ相談カウンターはジュエリーショップと提携しています。顧客の送客につなげられるかを検証するため、本検証ではジュエリーパンフレットの持ち帰り率の向上を検証しました。

ロボットは目線を男性と女性、両方に目配せしながら語りかけています。ロボット同士の対話にカップルが参加していく感じを出していますね。

Sota(オレンジ)「まず指輪には、婚約指輪と結婚指輪があるわよね」
Sota(ブルー)「もう彼氏は、彼女に婚約指輪を買った?」

稲川 ここで、タッチパネルで「いいえ」ボタンを男性が押します。

Sota(ブルー)「これからってことだね」
Sota(ピンク)「婚約指輪って高いけど、一度しかつけないイメージがあるのよね」
Sota(ブルー)「なんだかもったいないな。そこの彼氏もそう思うよね?」

稲川 この後も、タッチパネルでロボットと双方向のインタラクションをしていきます。

石黒 タッチパネルの使い方はテンポが重要ですよね。常にポン、ポンと適度に押せる感覚が大事です。一定周期でやるとリズムに乗ってくる。逆に説明が長すぎると、対話に参加している感覚が失われてしまうんですね。

稲川 相槌を打つような感覚ですね。今回、意思を問うタイミングでのみボタンを押してもらいましたが、もう少し回数を増やしていいのかもしれません。

石黒 そのとき3個以上の選択肢を出さないで、瞬時に選ばせる方がいいです。イエスとノーのフィードバックだけで対話が進んでいくと、結構引き込まれますよ。選択したという行為が残るのも重要なんです

ishi03

石黒 女性側のピンクのロボットが、男性に話しかけることはありますか?

稲川 あります。そのときは目線(顔)を男性の方へ向けますし、会話や質問の内容も男性に向けたものだとわかるので、間違えられることはありませんでした。

石黒 音声認識は使わなかったのですね。

稲川 ええ。認識に失敗した際のリカバリーが大変になるのはわかっていましたので。今回は複数体のロボットとのやり取りを経験することが目的なので、タッチパネルにして良かったと思います。加えて、後で確実に分析できるというメリットもありました。

Sota(ピンク)「ところでみんな婚約指輪にどのくらいお金をかけているのかな」
Sota(オレンジ)「30万円から40万円程度が多いみたい」

稲川 金額の話のような、面と向かってだと聞きにくい、角の立つような質問も入れています。

また、前半で婚約・結婚指輪に関する基礎知識の情報を提供して土台をつくり、後半では統計情報で「婚約指輪を買った夫婦は離婚率が低い」といった情報を提供して意思決定を促したのも特徴です。

二人で相談して「どっちかな」と話しながらボタンを押すケースもありましたね。

対話のつくり込みが肝心

石黒 今回のロボットの役割は、ブライダルジュエリーのパンフレットを紹介するだけなのですね。

稲川 実験のKPIを何にするかという議論はありました。その場でブライダルジュエリーを購入して頂くわけではなく、パンフレットを渡す業務なので、部数をいかに持って帰ってもらったかを実験の測定値にしました。

店舗によりますが、結果的には実験前のロボットがいない状態に比べると、4日間(合計8日間)の実証実験を通じて、持ち帰り率は2倍になりました。

石黒 カップルをどこか特定のジュエリーショップに誘導しようという目論見はなかったのですね。

稲川 ファッションスタイルなどの選択肢によって、好みのデザインが載っているカタログを紹介しましたが、今回の目標は「指輪を買いたいと思わせる」ところまでですね。

石黒 なるほど。きっと次は具体的な意思決定をさせるようにしたらいいですよ。こうやってロボットが人間に代わって販売業務をする際、僕は「対話戦略」がすべてだと思っています。

大阪髙島屋の紳士服売り場に設置した「ミナミちゃん」の場合、実際に購入してもらうことにこだわりました。髙島屋でいちばん売り上げがある販売員を数ヶ月かけて観察し、彼女の対話戦略を組み込んだんですね。

大阪髙島屋で接客をするミナミちゃん(提供:大阪大学)

大阪髙島屋で接客をするミナミちゃん(提供:大阪大学)

数日間ならイベントとして非日常的な存在のロボットに関心が向けられるでしょうが、これまでの実験の結果、イベント性の効果の持続はせいぜい3日間だとわかっています。ロボットが人間に代わるためには、ちゃんと対話を通じて人間を説得できるようにしなくては。

年齢、性別、性格、売り場の状況、全部想定して対話の中身をデザインできたらいいですね。

男女も「ケチ」「見栄っ張り」といったタイプ別に場合分けして、それらの相性まで考えると、どちら側を説得すれば買ってくれるのかなど、説得の仕方が全部変わるんですよ。

ストーリーを伝える存在

稲川 ミナミちゃんと違って、今回の実証実験では3台のロボットを使いました。この台数は適正だったと思われますか。

石黒 男女が相談する意思決定ですし、悪くなかったと思いますよ。ただ、3台の関係性は複雑なので、対話の構造に気づく必要が出てきます。

私たちの研究室では複数台のロボットを使って様々な実験を行っているので、共同研究をしていただければ、対話戦略をいくらでも教えられます(笑)。

少しだけヒントを教えると「人はなんのために対話するのか」を考えればいいんです。簡単に言えば、自分の中にないストーリーを取り込んで、共感し、自分の想像の世界を膨らませることにあるんですよね。

ただ、取り込むときに納得できないこと、共感できないこともあるわけです。共感しやすくするため、男性役、女性役のロボットをいかに使うかという枠組みを考えればいい。人はそこに冷静な観察者として引き込まれていくはずです。

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防災で活用が広がる世界最高精度の3D地図 https://inforium.nttdata.com/report/aw3d.html Thu, 16 Feb 2017 02:20:53 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1996 世界60カ国の幅広い分野で活用されている「AW3D」
NTTデータ 第一公共事業本部 e-コミュニティ事業部 第三開発担当課長 筒井健

NTTデータ 第一公共事業本部 e-コミュニティ事業部 第三開発担当課長 筒井健

───NTTデータと一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)が共同で行っている、全世界デジタル3D地図提供サービスについて教えてください。

独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち」のデータを利用して作った全世界デジタル3D地形データ「AW3D」をユーザーのニーズに合わせて提供するというサービスで、2014年2月より順次、整備が完了したエリアから3D地図データの提供を進め、2016年4月からは全世界での提供ができるようになりました。

「AW3D」の最大の特長は、5m解像度という世界最高精度の地形データが全球分そろっていることだと思います。日本には国土地理院が作っている1/25000の地形図がありますが、私たちの3D地図はそれと同等の精度。これだけ高精度な3D地図データを全世界に向けて提供できるサービスは他にはないと思います。

───提供した3D地図データは、どのような分野で活用されているのですか?

「AW3D」は高精度、高品質の3D地形データなのでさまざまな用途に活用されています。ユーザーは民間企業だけでなく、国の研究機関や国際機関などからの依頼も多くなっています。特にこれまで詳細な地図がなかった新興国におけるインフラ整備や自然災害対策、資源地域の調査、水資源問題への対応などに活用されることが多く、アジアやアフリカ、オセアニアなど60か国以上の国で行なっているプロジェクトに活用されています。

2015年5月からは「AW3D」の高精細版として、アメリカのDigital Globe社の衛星画像を使った0.5m〜2m解像度のデータの提供も始めています。この精度だと建築物レベルの起伏がわかるため、日本国内における通信網の整備などにも活用されています。

通信分野における電波障害の把握などのシミュレーション用途でも活用されている「AW3D」の高精細版

通信分野における電波障害の把握などのシミュレーション用途でも活用されている「AW3D」の高精細版

───そもそも3D地図とはどのように作られているのですか?

普段私たちが使っている平面的な地図に水平位置と高さの3次元座標値を加え、世界中の陸地の起伏を表現したものが3D地図です。これまで3D地図の作成には航空機や人による測量が必要だったため、時間やコストが膨大にかかっていました。でも、人工衛星の登場で3D地図の作成法が大きく変わりました。あらかじめ衛星を使って全球の陸地の起伏を計測しておけば、地球上のどこであっても3D地図を安く、かつ短時間で整備することができるようになったのです。

私たちの「AW3D」は、JAXAの「だいち」に搭載されたPRISMセンサで撮影した衛星画像と高解像度衛星画像、約300万枚を用いて作っています。「だいち」の優れているところは、全方面から撮影できるよう前後・直下の3方向に向けてPRISMセンサを搭載していた点です。私たち人間は左右それぞれの目から見える画像の差(視差)によって高さや遠近感を感じています。「だいち」にはその2つの目=センサに加え、もう一つの目が加わっているため死角がなくなり、完全な3Dが起こすことができました。ただし、「だいち」が運用されていた当時はビッグデータの解析も、全自動で3Dを表現するアルゴリズムもまだできていませんでした。それが可能になったのが、2013〜2014年頃だったのです。

3方向を同時に撮影できる日本の人工衛星「だいち(ALOS)」のイメージ画像(提供:JAXA)

3方向を同時に撮影できる日本の人工衛星「だいち(ALOS)」のイメージ画像(提供:JAXA)

3つの機関の相乗効果で実現した世界最高精度

───筒井さんがこのプロジェクトに携わることになった経緯を教えてください。

私は衛星画像から3Dデータを抽出するのが専門で、NTTデータ入社後は、3D地図の前身となる日本列島の2次元地図の作成や、特定エリアの3D地図化などのプロジェクトに取り組んできました。

2013〜2014年にはコンピューターの計算速度が速くなり、大量の画像処理を行うアルゴリズムの開発が進んできたこともあって、「だいち」の衛星画像を使って世界中を3D地図化するプロジェクトが企画されました。プロジェクトでは、JAXA、RESTEC、NTTデータの3つの機関からそれぞれ3D地図の第一線の研究者や技術者が集まって進めることになり、それが2014年2月のこと。2年間で全地球の3D地図を作ろうと目標が立てられ、2016年3月に完了。無事にその約束を守ることができました。

───従来(アメリカNASAの30〜90m解像度など)に比べて、大幅に精度を向上できたのはなぜですか?

やはり、JAXA、RESTEC、NTTデータ。この3つの機関の相乗効果だと思います。

「だいち」のように3台もカメラ(センサ)を搭載した衛星は、世界でもほとんど打ち上げられていません。しかも、日本の衛星は姿勢や軌道のコントロールがかなりしっかりしています。それはJAXAが地道な衛星開発に心血を注いできたからこそです。

さらに「だいち」の膨大なデータから、世界で一番確かな地球の起伏を再現していくわけですが、その際に必要なキャリブレーションやスタッキングによる衛星データの解析を長年研究してきたのがRESTECです。それをNTTデータのプロセッシングのシステムに組み込み、5m解像度で3D地図を作成しました。

JAXAの人工衛星技術、RESTECのデータ解析技術、そしてNTTデータの画像処理と製品化技術。これらが結集したからこそ、これほど短期間に世界最高精度の全世界デジタル3D地図が実現できたのだと思います。

デジタル3D地図の解像度比較 左:90m解像度(従来の3D地図) 中:AW3Dの5m解像度モデル 右:同2m解像度モデル

デジタル3D地図の解像度比較 左:90m解像度(従来の3D地図) 中:AW3Dの5m解像度モデル 右:同2m解像度モデル

ユーザーのニーズに合わせた形でデータを提供

───「AW3D」は日本の宇宙開発利用の普及啓発に大きく貢献したことが評価され、2016年3月には第2回宇宙開発利用大賞「内閣総理大臣賞」を受賞されました。

そうなんです。まさか受賞するとは思っていなかったので、知らせを受けた時はとても驚きました。正直、内閣総理大臣賞はうれしかったです。研究者や技術者のみんながこれまで地道にやってきたデジタル3D地図が、ビジネスはもちろん、いろんな形で世の中に貢献することができていることはとてもうれしいことですし、誇らしく思っています。それに、この賞を受賞したことで社会的期待が大きくなったことから、ビジネスにおいても動きやすくなったように感じています。

───「AW3D」の今後の展望をお聞かせください。

「だいち」の衛星データを使ってスタートした「AW3D」ですが、高精細版ではDigitalGlobe社の衛星画像を使っています。この衛星にカメラは1台しか設置していませんが、鳥のように飛びながらカメラの向きを自在に動かすことができたり、複数のカメラを組み合わせたりと「だいち」とは違った利点があります。現在、異なる複数の衛星データを組み合わせて、より精度の高い3D地図を作成する技術を開発しています。どこまで精度を高めることが必要なのかというつきない技術課題もありますが、私たちとしてはいろんな衛星からのデータに対応できるよう、画像処理技術の開発を進めていかなければならないと考えています。

さらに、私たちの事業は単に衛星データや地図のプロバイディングだけを行うのではなく、そこにどうやって付加価値をつけていくか、どうやって社会に対して価値を出していくか、という点を重視しています。世界最高精度の全世界デジタル3D地形データを用途別・ユーザー別に最も適した状態で提供していけるようなプラットフォームを整えることがこれからの課題の一つだと思っています。

2m解像度高精細版3D地図(東京)

2m解像度高精細版3D地図(エベレスト)

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稲見昌彦(人間拡張工学研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/inami.html Fri, 17 Mar 2017 03:10:49 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1902 稲見昌彦(いなみ・まさひこ)東京大学先端科学技術研究センター教授、東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻教授。超人スポーツ協会発起人・共同代表。米マサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所客員科学者、JST ERATO五十嵐デザインインターフェースプロジェクト グループリーダー、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授などを経て、2016年4月より現職。光学迷彩、触覚拡張装置、動体視力増強装置など、人の感覚、知覚を拡張するデバイスを多数開発している

稲見昌彦(いなみ・まさひこ)東京大学先端科学技術研究センター教授、東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻教授。超人スポーツ協会発起人・共同代表。米マサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所客員科学者、JST ERATO五十嵐デザインインターフェースプロジェクト グループリーダー、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授などを経て、2016年4月より現職。光学迷彩、触覚拡張装置、動体視力増強装置など、人の感覚、知覚を拡張するデバイスを多数開発している

サイボーグの競技大会「サイバスロン」開催

2016年10月8日(現地時間)、私はスイスの都市クローテンにいました。最先端の「Assistive technology」(身体を補助し、障碍(しょうがい)を克服するための、工学的な技術)を身にまとうアスリート(パイロットと呼ばれる)たちによるスポーツの祭典「サイバスロン」を観戦するためです。

サイバスロンでは6種目のレースが繰り広げられました。無数の電極を頭部に繋ぎ、脳波でビデオゲームの中のアバターをコントロールすることで競い合う「ブレインコンピュータインターフェースレース」。ロボットのような義足をつけたアスリートが、様々な障碍物を乗り越え疾走する「強化義足レース」……。サイバスロンは、私が研究している「人間拡張工学」の目指していること、つまり工学的に「超人(スーパーマン)」をつくりだすことを体現している祭典でした。

稲見さんが開発した、「光学迷彩」技術を用いたマント。再帰性反射材を用い、透明人間のような視覚効果を実現した(写真提供:東京大学稲見研究室)

稲見さんが開発した、「光学迷彩」技術を用いたマント。再帰性反射材を用い、透明人間のような視覚効果を実現した(写真提供:東京大学稲見研究室)

私はいま、身体に関わるテクノロジーが新しい局面を迎えていると感じています。最先端のテクノロジーが、人間の身体をメディア化しつつあるのです。従来の身体に関わるテクノロジーは、主に身体の「補綴(ほてつ)」に用いられることが多かった。つまり義手や義足、車椅子にしても、移動の不可能や困難など、障碍者の方々の身体におけるマイナス要素を補い、いわゆる健常者に近づけるためのものとして研究・開発されてきました。マイナス要素をゼロにしようとするときのアプローチは、例えば義手や義足がわかりやすいのですが、健常者という「ゼロの水準」へいかに近づけるかというものになりますし、最適なアプローチの数は限られています。

しかし最先端のテクノロジーは身体のマイナス要素を補綴しながら、健常者をも超えるプラス要素、ときに超人的ですらある能力に拡張することを可能にしているのです。マイナス要素からプラス要素を生み出そうとするときのアプローチは無限にあります。人によって拡張したい身体部位や、どのように拡張するかが異なるためです。例えば、右足を失った人がより速く走ることのできる右足を獲得することや、手を失った人が、サイボーグのような見た目にも斬新な義手を獲得することはその一例です。それは、エンタテインメント作品をつくるときと同じアプローチといえるでしょう。

従来の身体に関わるテクノロジーは、いわばたった1種類のジャンルしかない音楽のようなものでした。退屈ですよね。音楽はポップスもロックも、ダンスミュージックも民族音楽もあるから多様で面白い。多様性と面白さがエンタテインメントを支える要素であるとするならば、いまの身体拡張には、まさにエンタテインメントと同じことが起こり始めているのです。

障碍者スポーツが健常者を超える時代

この変化を示す例は数多くありますが、顕著な例はスポーツの領域です。例えばリオデジャネイロ・パラリンピックでドイツのマルクス・レーム選手が獲得した金メダルの意義について考えてみることが役に立つでしょう。カーボン義足を身につけるレーム選手はリオデジャネイロ・パラリンピックの種目、走り幅跳びで8m21cmという記録を残し、世界中のスポーツファンを驚嘆の渦に巻き込みました。これは、リオデジャネイロ五輪では5位に相当する記録です。

稲見さんが発起人と共同代表を務める超人スポーツ協会の認定競技のひとつ「ホバークロス」。体重移動で操縦する電動スクーターに乗った選手が攻撃と守備に分かれ、ゴールにボールを入れて得点を競う(写真提供:超人スポーツ協会)

稲見さんが発起人と共同代表を務める超人スポーツ協会の認定競技のひとつ「ホバークロス」。体重移動で操縦する電動スクーターに乗った選手が攻撃と守備に分かれ、ゴールにボールを入れて得点を競う(写真提供:超人スポーツ協会)

こうして障碍者と呼ばれてきた選手が、健常者の選手を記録で超えるようになってきたいま、私たちは新たな議論と向き合わなければなりません。それは、いまの健常者の定義は、果たして時代に即したものなのか、ということです。

この課題はそのまま、オリンピックとパラリンピックの間で線引きを行うべきか否かという議論に直結します。性別や体重によってクラス分けをすることで競技の公平性が保たれていることを考えれば、オリンピックとパラリンピックの区別があることは公平とも考えられます。しかし、障碍者を健常者と公平に扱うべきであるとする社会の要請を踏まえたとき、私たちはどのような解を出すべきなのでしょうか。革新的なテクノロジーがもたらす、身体がエンタテインメント化する時代において、いままで私たちが当たり前だと思ってきた健常者の定義が揺らぎ始めているのです。

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山中俊治(インダストリアルデザイナー) https://inforium.nttdata.com/keyperson/yamanaka.html Wed, 25 Jan 2017 08:06:58 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1787 山中俊治(やまなか・しゅんじ) 1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。87年に独立。94年にリーディング・エッジ・デザイン設立。2008~12年慶應義塾大学教授、13年より東京大学生産技術研究所教授。腕時計、カメラ、乗用車、家具、通信機器など、幅広い工業製品をデザインする一方、これまでデザイナーが関わってこなかった領域の研究に参画し、様々なプロトタイプを製作、発表している。

山中俊治(やまなか・しゅんじ)
1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。87年に独立。94年にリーディング・エッジ・デザイン設立。2008~12年慶應義塾大学教授、13年より東京大学生産技術研究所教授。腕時計、カメラ、乗用車、家具、通信機器など、幅広い工業製品をデザインする一方、これまでデザイナーが関わってこなかった領域の研究に参画し、様々なプロトタイプを製作、発表している。

1人ひとりに合った美しい義足

──────近年、急速な進化を遂げている筋電義手や義足をはじめ、身体能力を拡張するテクノロジーが発展してきています。山中先生らが目指す「未来の身体」には、どんなビジョンがあるのでしょうか。

2008年の北京パラリンピックで、両足義足の陸上選手、オスカー・ピストリウスの映像を目にしたときに衝撃を受けたんです。「ブレードランナー」との異名を持つ彼の身体は、シャープなフォルムの義足と見事に一体化していて、競技中は大地を軽やかに飛んでいるようにも見えました。そのとき、それまで義足に抱いていた「不幸な状況を補完するもの」というイメージが一転して、「新しい美を身体にもたらすもの」と考えるようになったんです。そこから、 私の研究室でも義足のプロジェクトが始まりました。

──────それ以来、義足の開発を進められていますが、この分野がこれまで抱えていた課題は何だったのでしょうか。

実際に障碍(しょうがい)をお持ちの方にお会いしたり、障碍者スポーツの現場を調べたりしてみると、義足の世界には「デザイン」という概念がまるで行き届いていないことがわかったんです。日常用と競技用とでも異なりますが、今日のスタンダードな日常用義足の型がつくられたのは第1次大戦後のこと。それまでの義足はすべて義肢装具士による手づくりで、職人の技術に頼らざるを得なかったんです。

しかし大戦後の急速な義足の需要に応じて、オットー・ボックさんという優れた義肢装具士がパーツの量産化を試み、足に直接触れるソケット以外を量産部品の組み合わせで構成することで、個々の足にフィットさせることができるモジュラーシステムを開発しました。

モジュラーシステムは、安価に様々なサイズの義足を素早く供給するという意味では革命的だったのですが、その一方で、義足全体をデザインする人がいなくなり、 1人ひとりに合った美しい義足をつくるという考え方自体が失われてしまったのです。

陸上競技用下腿義足 Rabbit Ver.4.5 リオ・パラリンピックにも出場した陸上選手の高桑早生選手用のモデルは、度々の改良を重ねて活用されている。山中氏のスケッチをもとに、なめらかな曲面で覆われたソケットは切断された足という痛々しいイメージを払拭し、義足を美しい道具へと転化させた

陸上競技用下腿義足 Rabbit Ver.4.5
リオ・パラリンピックにも出場した陸上選手の高桑早生選手用のモデルは、度々の改良を重ねて活用されている。山中氏のスケッチをもとに、なめらかな曲面で覆われたソケットは切断された足という痛々しいイメージを払拭し、義足を美しい道具へと転化させた

──────従来の義足と最も異なる点はどこにあるのでしょうか。

本来、人間の体は背骨、大腿からふくらはぎにかけて大小のS字カーブで構成され、ダイナミックなリズムを持っています。しかし、モジュラー型の義足は棒状のパイプでつないだだけなので、そのリズムを分断してしまっています。その結果、義足を履いた姿は自然な流れを失い、痛々しく見えてしまうんです。

そこで私たちは、機能的には従来の義足を保ちつつ、 体のラインに沿った美しいフォルムを考案していきました。それまではこんなデザインの義足が無かったものですから、発表時には世間に大きなインパクトを与えられたと思います。同じころに、斬新な義足で世界を魅了したモデルのエイミーなど、同じ問題意識を抱えた人たちが世に現れ始めてもいました。

そうした提案に共感してくれた切断者のひとりが、当時まだ高校生だった高桑早生さんだったのです。 その後パラリンピックアスリートとなった彼女は、私たちの研究室に所属しながら、美しくて高性能な義足の開発に一緒に取り組み、2013年には私たちの開発した義足を実際の競技に活用してもらえるようになりました。

山中氏のラフスケッチ

アスリートの身体観察にもとづいて描かれた山中氏のラフスケッチ。流線型の義足と一体化した、「ダイナミックなリズム」のある身体をイメージしている

──────新しい義足は、実際のアスリートにとってどんな効用があったのでしょうか。

高桑さん曰く、「チームメイトが義足の話をしてくれるようになった」とのこと。これはとても重要なポイントで、それまでは腫れ物に触るかのごとく、日常会話の中でほとんど義足に触れられることはなかったそうなんです。

「デザインされていないもの」を見つけるほうが難しい現代社会で、やむを得ず使っているように見えるプロダクトはどうしてもその異質さが浮かび上がってしまう。しかし、きちんとデザインされたものであれば、体の一部、道具のひとつなんだと周囲にも自然と認識されるようになるんですね。

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作り手や売り手の“思い”をITがユーザーに届ける https://inforium.nttdata.com/report/inbound_okinawa.html Tue, 24 Jan 2017 08:33:42 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1775 インバウンド対応の手軽な情報インフラ

株式会社Paykeが創業したのは2014年11月。琉球大学入学後、EC事業を立ち上げた古田奎輔(ふるた・けいすけ)社長は、1ヶ月でビジネスを軌道に乗せると、貿易商社と業務提携し、沖縄県産品の貿易業に携わりました。

株式会社Payke 代表取締役 CEOの古田さん

株式会社Payke 代表取締役 CEOの古田さん

「日本の商品は世界的にも優れているので、情報を正しく伝えることができれば、海外の人は喜んで買ってくれます。ところが、沖縄の『もずく』や『ちんすこう』の良さを海外の人に説明するのはとても難しい。そこをなんとかしたいという課題を持ち始めました」

そこで商品のストーリーをデータベース化し、ユーザーが商品のバーコードをスマートフォンやタブレットでスキャンすれば、彼らの母国語で情報を取得できる仕組みを構築しました。2015年10月にサービスを開始し、現在は沖縄県の100社以上のメーカーが利用しているほか、福岡、北海道、そして東京にも進出。インバウンド消費を取り込みたい化粧品や医薬品などの大手メーカーにも導入され、全国展開を進めています。

また小売店向けには、顧客が自由に使える設置型のタブレットの貸し出しを行っています。沖縄だけでなく、都内のドラッグストアや空港内の売店などでも訪日外国人向けの接客ツールとして利用され、インバウンド対応の新しい情報インフラとして注目を集めています。

アプリ「ペイク」のコンセプトムービー

訪日外国人の購買を後押しするアイデア

NTTデータ カード&ペイメント事業部の鈴木親大(すずき・ちかひろ)は、TraTech(Travel×Technology)を発案したNTTデータ経営研究所のコンサルタント、両角真樹(もろずみ・まさき)さんとともに、旅行観光系の領域で新規のビジネス開発を模索していました。鈴木がPaykeを知ったのは、ビジネスの骨格を固めようとしていた最中のことでした。

NTTデータ カード&ペイメント事業部 営業統括部の鈴木

NTTデータ カード&ペイメント事業部 営業統括部の鈴木

2016年2月に開催された「第一回九州・山口ベンチャーアワーズ」で、Paykeが大賞を受賞。審査員として参加していたNTTデータ オープンイノベーション事業創発室のメンバーがPaykeに興味を持ち、古田さんと会うことになりました。その時、鈴木にも声がかかり、初めて二人は顔を合わせます。二人とも20代と、年齢が近いこともあって意気投合。何度か会って話をするうちに、お互いに「一緒にビジネスをやりたい」と思うようになりました。

「一つの商品を買う時は、まず商品を認知して関心を持ち、実際に店に足を運んで確認して、本当にほしいかどうかを見極めるという流れがあります。最後の“買う”という決済の部分が、私たちのカードペイビジネスのメインとなる部分です。インバウンドに目を向けると、海外の観光客には言語の壁があり、いい商品なのに見向きもされないということが起こっています」

「今手に取っている商品の情報が母言語で伝われば、購買につながり、ひいては決済の活性化にも寄与する。海外の観光客の購買を後押しするPaykeさんのサービスは、決済と親和性があると思いました。ビジネスモデルもアイデアもすばらしいし、何より古田さんの熱意と人柄に惹かれましたね」

古田さんに出会った時、ビジネスパートナーとして、すでに複数のベンチャー企業にアプローチしていましたが、最終的にはPayke一本に絞り込みました。その決め手は、決済との親和性だけでなく、スキャンされたデータが蓄積されることで生まれるユーザーの“興味・関心データベース”の存在が大きくありました。これについて両角さんはこう話します。

NTTデータ経営研究所 グローバル金融ビジネスユニットの両角さん

NTTデータ経営研究所 グローバル金融ビジネスユニットの両角さん

「決済だけで他事業者との差別化を図るのは難しいという現状の中で、今後はリアルの世界でも、ECの世界で当たり前に実現できているような、決済前後のお客様の動向をデータとして捉え、そのデータを使って作り手(メーカー)や売り手(加盟店)、お客様自身に直接リコメンドをする、といった新たな世界にビジネスを広げていきたいという思いがあります。Paykeさんに蓄積されるスキャンデータは、買うという行為の前にある“興味・関心”にあたるもの。Paykeさんの商品情報の翻訳というアイデアはもちろんですが、POSレジの情報だけでは捉えられないデータベースそのものに大きな可能性を感じました」

人気のリゾート地・瀬長島で実証実験

パートナーシップを組み、新たなビジネスを進める前段階として、Paykeのサービスがどれだけ必要とされ、店舗の売り上げに貢献するのかというニーズを検証することからスタートしました。実証実験の場となったのが、沖縄県瀬長島の大型リゾートモール「ウミカジテラス」内にある、47都道府県の多様な食品を取りそろえたセレクトショップ「瀬長島47(よんなな)STORE」。

全国から約1500種類の“うまいもの” を集めた瀬長島47STORE。店舗前には無料で利用できる天然温泉の足湯もある

全国から約1500種類の“うまいもの” を集めた瀬長島47STORE。店舗前には無料で利用できる天然温泉の足湯もある

2016年9月15日から約1ヶ月間、スタッフが来店客に自由に使えるタブレットを手渡し、購入または退店の際にレジで返却してもらうという流れをつくりました。タブレットを手に取った人が実際に商品をスキャンするのか、スキャンをすることが購入に結びつくのか、そして、商品情報の精度を高めることで購買数はアップするのか。こうした観点に着目し、来店客の動向を追っていきました。

ウミカジテラスの運営責任者である新里哲佳(にいざと・てつよし)さんはイオン琉球株式会社に17年間務め、2店舗で店長として活躍した小売のプロ。2015年2月に現職に就き、約2ヶ月後の4月29日に瀬長島47STOREをオープンしました。訪日外国人が増加する中、言語の課題を強く感じていたという新里さんは、Paykeとの出会いについてこう話します。

WBFリゾート沖縄株式会社 商業施設運営課の新里さん

WBFリゾート沖縄株式会社 商業施設運営課の新里さん

「この店がオープンした直後にPaykeさんから営業の電話をいただき、サービスの内容を聞いてすぐにピンと来ました。その翌日に訪問してくれて、5月末からタブレットの試験導入を開始しました」

今回の実証実験についても、Paykeからの依頼があってすぐに参画を決断したそうです。

「即決の決め手は将来性を感じたこと。このサービスを導入すれば、手間やコストを削減しながら言語の課題を解決できる。まさにイノベーションですよね。一緒に事例をつくることは、私たちにとってもメリットがあると直感しました」と新里さん。「私たちのサービスに可能性を感じて、チームを組んで、スピード感を持って動いてくださることをとても心強く思っています」と古田さんは話します。

この二者の信頼関係が構築されていたことは、実証実験を進めていく上で大きな推進力となっていきました。

「両者の信頼関係ができていたことは、とても大きかったですね。新里さんと初めてお会いした時、古田さんの時と同じように、ものすごく熱量を感じて、『この人と一緒に仕事をしたい』と素直に思えました」と鈴木は振り返ります。

こうして、4者の中で確かなチームワークが生まれていったのです。

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和田幸子(ブランニュウスタイル 代表取締役) https://inforium.nttdata.com/keyperson/wada.html Mon, 16 Jan 2017 00:26:50 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1670 和田幸子(わだ・さちこ)ブランニュウスタイル株式会社 代表取締役 1999年富士通株式会社に入社し、システムエンジニアとしてERP製品の開発に従事。2005年、企業派遣制度にてMBAを取得した後、ERP製品のウェブプロモーション、中小企業向けクラウドサービスの事業立ち上げのプロジェクトリーダーを務める。2008年、第一子を出産後、フルタイム勤務で復職。2013年10月、自身の課題でもあった共働き家庭の「新しいライフスタイル」実現に必要な社会インフラを「ITを活用して作る」ため、富士通を退職。同年11月、ブランニュウスタイルを設立。2014年7月、家事代行サービスマッチングプラットフォーム「タスカジ」をオープン

和田幸子(わだ・さちこ)ブランニュウスタイル株式会社 代表取締役
1999年富士通株式会社に入社し、システムエンジニアとしてERP製品の開発に従事。2005年、企業派遣制度にてMBAを取得した後、ERP製品のウェブプロモーション、中小企業向けクラウドサービスの事業立ち上げのプロジェクトリーダーを務める。2008年、第一子を出産後、フルタイム勤務で復職。2013年10月、自身の課題でもあった共働き家庭の「新しいライフスタイル」実現に必要な社会インフラを「ITを活用して作る」ため、富士通を退職。同年11月、ブランニュウスタイルを設立。2014年7月、家事代行サービスマッチングプラットフォーム「タスカジ」をオープン

仕事と家事、育児に追い詰められる日々

私のキャリアは新卒で富士通に入社したのがスタートで、最初の約6年間はシステムエンジニアとして主にERP製品の開発に携わっていました。その後、企業派遣制度でMBAを取得する機会に恵まれ、戻ってからはウェブマーケティングや新規事業の立ち上げなどでプロジェクトリーダーをやらせていただきました。

ただ結婚や出産などを経てライフスタイルが変わり、特に育児休暇から復職したあとは、いろいろなことにストレスを感じるようになりました。もちろん仕事はとても楽しく、以前にも増してエネルギッシュに働いていましたし、目の前にはチャレンジしたいテーマがたくさんありました。夫も私のキャリアアップにとても協力的な人で、「家事も育児も2人で分担して一緒にやろうね」と言ってくれて、実際、その言葉どおりに実行してくれています。とはいえ2人とも仕事がとても忙しくて、育児はとりあえずなんとか頑張るのですが、家事まではどうしても手が回らない状態になってしまいました。掃除が滞って家の中が散らかったままになると、次第に精神的に追い詰められていくようで、次の日の活力も沸いてきません。

まわりの友人たちに話を聞いてみても、やはり似たような感じで、家事の役割分担が原因で夫婦喧嘩になったり、やりたい仕事に手を挙げられないと不満をためていたりする人が少なくありませんでした。

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こうした状況を脱出したいと思いついたのが、家事を代行してくれるハウスキーパーを利用することでした。世間の多くの見方と同じように、私もハウスキーパーについては「一部の富裕層だけが利用できるもの」という先入観を持っていたのですが、ある知人から「直接ハウスキーパーと個人間で契約すれば、派遣業者や代理店が間に入らないのでリーズナブルな価格でお願いできる」という話を聞き、それならばぜひ頼んでみようと踏み出したのです。

「私がやるしかない!」と奮起した

インターネット上で募集をかけたところ、とても良い方から応募をいただき、おかげで生活が一変しました。私も夫も家事の負担から解放されたことで、やりたい仕事に思うぞんぶんチャレンジできるようになったのです。そしてこの体験を、できるだけ多くの人と共有して、私たち夫婦と同じようにハッピーになって欲しいと思いました。ただ、その一方で私がとった方法を説明するだけでは、誰にも実践してもらえないだろうとも思いました。なぜなら、プロセスがとても大変だからです。

先に申しましたように、私はとても良いハウスキーパーさんと最終的に巡り会えましたが、それはあくまでも“運”であり、“結果論”でした。実際には当初10人くらいから応募があり、一人ひとりと面接を行ったのですが、平日は私も仕事があるため、週末の休日をそれに費やすしかありませんでした。しかも1時間くらいかけて話を聞いても、結局、その人がどんなスキルを持っているのかを見極めることはできません。ようやく1人に絞り込んでお願いしたにもかかわらず、その人は初日だけで「やはり辞めます」と断られてしまいました。

ハウスキーパーを依頼する側はもちろん、受ける側の条件や希望もさまざまです。人間同士の相性もありますから、なんの事前情報もなしにベストなマッチングに至るのは本当に難しいのです。試行錯誤を繰り返した私だからこそ、もっと簡単にマッチングを行う仕組みを作らないと誰にも続いてもらえないと思いました。また、この先ずっと待っていても、そんな便利な仕組みは出てこないだろうとも思いました。

ならば「私がやるしかない!」と奮起しました。もともとシステムエンジニアをやっていた頃から、ゼロベースで新しい仕組みを作り上げるのが大好きでしたし、事業の立ち上げについてもそれなりのノウハウがありましたから、恥ずかしながら、「私が一番の適任者だ」と思ったのです。こうして富士通を退職し、自分の思いを体現するための会社として「ブランニュウスタイル」を起業しました。

これが、派遣会社や代理店などの業者が間に入らないC2Cによる家事代行サービスの個人間契約を、インターネットやモバイルアプリを介してサポートする「タスカジ」を立ち上げたきっかけです。

『タスカジ』1時間1500円からの家事代行マッチングサービス動画

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高橋智隆(ロボットクリエーター) https://inforium.nttdata.com/keyperson/takahashi.html Fri, 06 Jan 2017 08:31:52 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1463 憧れの原点は『鉄腕アトム』
高橋智隆(たかはし・ともたか) ロボットクリエーター。1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し京大学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。開発したロボットによる3つのギネス世界記録を保持。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定される。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問

高橋智隆(たかはし・ともたか) ロボットクリエーター。1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し京大学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。開発したロボットによる3つのギネス世界記録を保持。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定される。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問

子供のころからものづくりが好きだったのは、祖父の影響だと思います。母方の祖父は、工学部卒で、電気工作や木工作が好きな人でした。家に遊びに行くと、いつも工作部屋を見せてくれ、一緒に竹を切り出しに行って、竹トンボや弓矢を作ったこともあります。父方の祖父は音楽の教師でしたが、引退後は川魚を捕っては庭の池で飼育していました。その血を継いだ父は、生き物好きの延長なのか内科医になり、自宅ではひたすらピアノを弾いています。

ロボットをつくりたいと思い始めたのは、幼稚園のころ。家の押し入れの中に、講談社の『手塚治虫漫画全集』がたくさんあり、それを読んでいたんです。その中にあった『鉄腕アトム』を読んで、天馬博士のようなロボットをつくる科学者になりたいと思ったのが最初です。中でも「地上最大のロボット」のエピソードが好きで、単純明快なストーリーに加え、世界最高のロボットたちが続々登場する豪華な展開やロボットを開発するシーンにわくわくしました。いま振り返ってみると、アトムより、周りのほかのロボットのほうが好きだったのだと思います。アトムはいわゆるステレオタイプ的な優等生ロボットですが、それよりも特徴がある凸凹な感じの脇役のキャラクターたちのほうが魅力的だったのかもしれません。

このころからレゴブロックや画用紙を切り貼りしてロボットをつくっていました。ほかにも欲しいおもちゃは自動車でも飛行機でも何でもレゴでつくっていました。母が、子供を夢中にさせるおもちゃメーカーの戦略にまんまと乗るのが嫌だったのか、超合金を買ってくれず、代わりに与えられたのがレゴだったんです。当時、本当は超合金が欲しかったわけですが、ひたすらレゴで遊んだことで空間認識能力が発達し、のちの大学受験では数学の立体図形問題を解くのに役立ちました。

ひとたび興味を持ったらある期間熱中する性格で、ロボット以外にもプラモデルやラジコンにもハマって改造したりしていましたし、アウトドアも虫捕りや野球、サッカーなど、その年代の子供がする遊びは全部やりました。小学校高学年のころにはブラックバス釣りが流行り始め、当時琵琶湖の目の前に住んでいたので、学校から帰ると毎日釣り三昧の生活になりました。そこから中学、高校までは“釣りバカ”時代。釣るだけでは飽き足らず、ルアーも自分でつくっていました。

立命館高校を卒業すると、そのまま立命館大学に進学。ちょうどバブル景気のころ、理系学部を卒業しても文系就職する人が多かったので、それなら文系学部でいいだろうという理由で産業社会学部を選びました。勉強はほとんどせず、冬になると長野県で仲間と借りた一軒家に住んでスキー三昧の日々。ロボットのことはすっかり忘れ、スキーのトレーニング装置をつくったりしていました。

そんな自由気ままな大学生活を送っていましたが、就職活動を目前にバブルがはじけ、就職氷河期に。もう、楽して儲かる仕事がない以上、好きなことを仕事にするしかない。時代は、コンピューターによってすべてがバーチャルに置き換わるという風潮でした。私は完全にメカ好きで、コンピューターは苦手。今後もちゃんと歯車で動き続けるものは何だろうと考え、思い出したのが釣り具でした。こういうガジェット的な、メカが詰まったコンパクトな工業製品が大好き。そこで、釣り具やスキー用品を作っているダイワ精工(現グローブライド)に行きたいと思い、就職活動を始めました。ちなみに当時愛用していた釣り具は、ダイワ製のリール「ファントムPT−Z」と竿「アモルファスウィスカー」。軽量でギミック満載のこのリールは、無骨な輸入品にはない繊細な美しさを持っていて、私のものづくりに影響を与えた製品のひとつです。なので、何が何でもこの会社に入りたかった。面接にはリールを自作して持参し、最終面接も手応え十分でした。ところが結果は、なんと不採用。

ほかのメーカーからは内定をもらっていましたが、親には「もしダイワに落ちたら京大に行く!」と宣言していたので、不採用通知の夜から早速、京大受験を目指して本格的に勉強を始めました。言ってみれば『電波少年』的なネタ感覚でしたが、京大に行ったらものづくりをしよう、それも子供のころの夢だったロボットをつくろうということは決めていました。運よく1年目で合格しましたが、実はこの話にはおまけがあります。2015年、グローブライド社から連絡があり、社外取締役に就任し、リールのデザインなどにも関わっているんです。縁とは不思議なもので、18年越しで内定をいただいた感じです。

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触覚デバイス「ぶるなび」の展望 https://inforium.nttdata.com/foresight/buru-navi.html Wed, 21 Dec 2016 02:49:43 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1475 「手を引いて」誘導するデバイスの可能性
NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ 雨宮智浩 主任研究員(特別研究員)

NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ 雨宮智浩 主任研究員(特別研究員)

───人間の五感の中でも、特に触覚に注目した理由について教えて下さい。

きっかけの1つになったのは、視覚や聴覚に障碍(しょうがい)を持つ方へ、視聴覚以外の方法で情報を伝える手段の研究でした。建物内で火災に遭った場合、館内放送でサイレンが流れたり、大声で叫んだりするなど、危険を伝える手段として最も多く使われるのは音声、つまり聴覚です。それ以外では、非常口などを記した誘導灯、つまり視覚による避難誘導方法も使われますが、炎や煙で視界を覆われた状況下では役に立ちません。しかし触覚を使えば、こうした環境の中でも文字通り「手を引く」ような自然な感覚で、避難する方向を伝えることができるかもしれないと考えたのです。

また、現状では訪日外国人に対する道案内はその大半が言語などの視覚情報によって行われていますが、日本語の看板をほとんどのアメリカ人旅行者が理解できないように、その効果は記載された文字や図柄の理解力に左右されます。この問題も、もし非言語情報である触覚によって方向を伝えることができれば解決できるはず。つまり触覚による案内誘導が実現すれば、文字を読めない子供から、異なる言葉や文化背景を持つ人々に至るまで、あらゆる人の役に立つはずだと考えたのです。

雨宮さんが開発した「ぶるなび」の歴代機種。左から、機構などを検証するプロトタイプ2点、「ぶるなび」初号機の内部機構モデル、「ぶるなび2」、最新機種の「ぶるなび3」

雨宮さんが開発した「ぶるなび」の歴代機種。左から、機構などを検証するプロトタイプ2点、「ぶるなび」初号機の内部機構モデル、「ぶるなび2」、最新機種の「ぶるなび3」

───それだけ多くの可能性を秘めた感覚領域でありながら、触覚を伝えるデバイスの開発が難しい理由とは、なんでしょうか。

触覚の内、携帯電話のバイブレーションのように振動で何かを伝える手法は今や一般的になっています。ただ、これでは案内誘導に必要な「方向」を伝えることはできません。方向を伝えるためには、その向きに引っ張ったり押したりする力を発生させる必要があります。ただ「作用・反作用の法則」が示すように、こうした力の手応え、つまり力覚(力感覚)を生み出すには地面などに固定された支点が必要です。そのため、牽引力をはじめとする力覚を生成するには空気噴流や磁力を用いるなど大がかりな装置が不可欠で、これまでに持ち運び可能なサイズでそれを実現したものはありませんでした。

もう1つの問題は、視覚や聴覚とは異なり、触覚は体に接していないと伝えることができないということです。しかも、触覚の感じ方は接触の状態だけでなく、その人の皮膚の硬さや感覚の鋭敏さ、刺激への慣れなど、個人差に大きく左右されます。あらゆる人に伝わるようにある程度大きな牽引力を、持ち歩くことのできるポータブルな装置でどのように発生させるか。それが最大の課題でしたね。

人間の錯覚を利用して牽引力を生成

1方向に牽引力感覚を生成するクランクスライダー機構の仕組み。分銅が速く動く方向に、感覚上の「引っ張る力」が生じる(提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

1方向に牽引力感覚を生成するクランクスライダー機構の仕組み。分銅が速く動く方向に、感覚上の「引っ張る力」が生じる(提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

───どのようにして、これらの課題を解決することに成功したのでしょう。

注目したのは、人間は速い動きに対しては敏感である一方、遅い動きは知覚しにくいという感覚特性を持っていることです。つまり、物理的に牽引力を生み出すのではなく、錯覚を利用して「感覚的に牽引力を伝える」ことが可能ではないかと考えました。具体的には、ある方向には速く、逆方向にはゆっくりと分銅(重り)が動く仕組みによって、速く動くほうにのみ牽引力を知覚させるというアイデアです。この動きを繰り返すことによって、物理的には振動しているだけでも、あたかも牽引されているように感じる機構の開発に取り組みました。

「ぶるなび」初号機(重量約250g/2007年)の内部機構モデル。箱の中を往復する分銅によって、単一方向に牽引力感覚を生成する(写真提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

「ぶるなび」初号機(重量約250g/2007年)の内部機構モデル。箱の中を往復する分銅によって、単一方向に牽引力感覚を生成する(写真提供:NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

具体的には、円筒内を分銅が非対称的に往復するクランクスライダー機構の試作を重ねながら、感覚上の牽引力の大きさと、装置自体の小型化のバランスを探っていきました。こうして完成したのが、2007年に発表した「ぶるなび」の初号機です。これはコードレスフォンサイズの箱形のデバイスで、手で握るとあたかも手を引かれるような力が感じられます。この初号機を用いて実際の用途を想定した実験を行いながら、さらなる小型化や、多方向に牽引力感覚を発生させる方法の研究に取り組んでいきました。

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ドローンバード シビックテックによる災害支援 https://inforium.nttdata.com/report/dronebird.html Thu, 15 Dec 2016 01:31:01 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1401 世界初! ドローンを活用した市民参加型救援隊「ドローンバード」
古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。1975年東京都生まれ。東京都立大学で衛星リモートセンシング、地理情報システムを学ぶ。2001年、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了。05年からマップコンシェルジュ株式会社 代表取締役を務める。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。ここ数年は「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに熱を上げ、GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、地図を作るためにフィールドを駆け巡っている

古橋大地(ふるはし・たいち) 青山学院大学 地球社会共生学部(メディア/空間情報クラスター)教授。特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表。1975年東京都生まれ。東京都立大学で衛星リモートセンシング、地理情報システムを学ぶ。2001年、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了。05年からマップコンシェルジュ株式会社 代表取締役を務める。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。ここ数年は「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに熱を上げ、GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、地図を作るためにフィールドを駆け巡っている

───古橋さんらが進めている「ドローンバード」は、ドローンとオープンストリートマップ(OSM)の手法を活用したプロジェクトだそうですが、概要を教えてください。

古橋 地震などの自然災害が発生した時、あらかじめ飛行ルートをプログラミングしたドローンを飛ばして現地を空撮。回収したドローンから取り出した画像データを元に、OSMの地図作成機能を使って最新の地図を作る、というプロジェクトです。作成した地図は、被災地で救援活動をする医療機関や政府、自治体、災害ボランティアなどに使ってもらうことになります。

 地震や津波、火山の噴火など大きな自然災害が発生した時に、最初に必要になるのが正確な被害状況を把握できる「地図」です。なぜなら、災害直後の現地の状況がわからなければ、的確な人命救助や支援活動ができないからです。地図の有無が命を左右すると言っても過言ではないのです。

───隊員に広く一般市民を募るのはなぜでしょうか?

古橋 災害はいつどこで起きるか分かりません。特に日本は地震や津波、火山の噴火などが起きる可能性のある災害大国です。もし、自分たちの身近で大きな自然災害が発生した時、生き延びるためには市民自らが自分たちの力で情報を取得し、安全な場所へ逃げることが必要です。

 ドローンを操縦し、危険がどの場所まで及んでいるのかといった情報を取得することができる「ドローンバード」の隊員が、その地域の市民の中に一人でもいたら、ドローンを飛ばして現地の被害状況がわかる地図を迅速に作成できるだけでなく、その情報を元に地域の人たちと一緒に的確な避難ができるでしょう。災害時に生き延びる力を持っている市民を一人でも増やしたいと考え、一般市民から隊員を募っています。

───具体的には、どういう活動をする予定ですか? 

古橋 災害が発生した時、まずドローンを操縦できる「ドローンバードパイロット」が現地に急行、被災地の様子を空撮します。ドローンが撮影してきた画像をもとに、現地の被災状況をOSMに反映するのが「クライシスマッピング部隊」です。他には、飛行中に壊れたパーツや新たに設計された軽量型ドローンを最新のデジタル・ファブリケーションで作る「ドローンバード開発部隊」も計画しています。さらに、平常時に隊員が集い、その技術を磨くことのできる拠点となる「ドローンバード基地」も作っていく予定です。

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世界のどこにいてもリアルタイムで被災地支援が可能

───衛星リモートセンシングが専門の古橋さんが、災害支援活動に関心を持つようになったきっかけは何ですか?

古橋 2010年1月のハイチ地震で体験したクライシスマッピングです。クライシスマッピングで地図の作成に使うシステムがOSMで、僕がエンジニアの仲間とそのプロジェクトに参加し始めたのが2008年から。オンラインであれば世界のどこからでも自由に地図作りに参加できる仕組みがおもしろいと思っていましたが、最初は趣味のような感覚で自分のやっていることが世の中の役に立つとは考えていませんでした。その考えが大きく変わったのが、ハイチ地震の時でした。

 ハイチ地震は20万人以上が亡くなる大規模な災害だったこともあって、世界中から1000人以上のマッパーが参加しました。衛星や航空機等で撮影された画像データをインターネットで共有し、被災後の道路の中心線や建物の形状などの状況をOSMにマッピングしていきます。

 僕も現地には行かず日本から参加したのですが、震源地に近い首都ポルトープランスで、地震が発生した翌日からOSM上の現地の地図情報が入力され始めたんです。世界のどこかにいる誰かが道路の中心線や建物の形状などのデータを入力すると、地図に描画されるんですね。震災前には情報が少なくてスカスカだった現地の地図がみるみるうち緻密な地図になっていく。その様子を目の当たりにしたことでクライシスマッピングの可能性を強く感じました。

地震前のポルトープランスの地図

地震前のポルトープランスの地図

地震後に世界中のマッパーにより更新された同じ場所の地図

地震後に世界中のマッパーにより更新された同じ場所の地図

───その地図はどんなところで活用されたのですか?

古橋 道路や建物の情報だけでなく、避難所の場所や避難している人の数などもアイコンやピンで表示された地図は、国連のOCHA(国際連合人道問題調整事務所)や現地の赤十字などのメンバーが被害状況の把握や物資の配布プランを考える際に使われました。

 救援活動に従事する関係各所が僕たちの作った地図を自由に使えるのは、OSMが著作権フリーの地図だから。著作権がほぼないからこそ自由に世界中にネット配信することもできるし、紙地図として印刷して使ったり、誰にでも配ったりできます。この点が他の地図とは異なる点であり、OSMで作成する地図が災害時の救援活動に大きく貢献できる理由です。

 ハイチ地震以降、OSMがどんどん認知され、現在Humanitarian OpenStreetMap Teamのサイトには、世界中からさまざまなテーマの地図の作成依頼が入ってきています。現在、マッパーは世界中に300万人いると言われていて、その数はどんどん増えています。日本でもその動きを加速させたいと願い立ち上げたのが、「ドローンバード」の運営をするクライシスマッパーズ・ジャパンです。

───2011年3月の東日本大震災をはじめ、国内で起きた自然災害でもクライシスマッピングは行われていたそうですね?

古橋 はい。東日本大震災ではNTTデータにも協力いただき、OpenStreetMap Foundation Japanを中心とした有志でsinsai.infoというウェブサイトを立ち上げました。この時、自国の災害と初めて向き合ったことで多くの学びがありました。その経験は後の活動に生かされ、2015年9月の関東・東北豪雨や2016年4月の熊本地震などで稼働しました。熊本地震の際にOSMで作成した地図は、熊本県社会福祉協議会の災害ボランティアセンターの地図として使われました。

崩落した阿蘇大橋付近の様子が反映された地図

崩落した阿蘇大橋付近の様子が反映された地図

 災害が起きて僕たちの活動を初めて知ったという人の多くが、クライシスマッピングの活動に加わってくれています。実際、熊本地震では熊本市から益城町、大分市にかけての断層沿いにマッパーが増えるという現象が起きています。災害が契機になるのは悲しいことではありますが、市民の中に1人でも多くのマッパーや「ドローンバード」の隊員が増えていくことは、防災対策としてもたいへん心強いことだと思っています。

熊本大地震の断層に沿ってマッパーたちが活動していることがわかる

熊本大地震の断層に沿ってマッパーたちが活動していることがわかる

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多様化するスタジアムのスポーツ観戦 https://inforium.nttdata.com/foresight/smart-stadium.html Tue, 06 Dec 2016 01:35:36 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1338 見る、支えるという2つの側面

サッカーJ1の「大宮アルディージャ」は、2016年7月から本拠地の「NACK5スタジアム大宮」(埼玉県さいたま市大宮区)で、ITをスポーツ観戦に応用した取り組みを始めています。

スタジアムにWi-Fi環境を整備することで、専用アプリをインストールしたスマホから接続して、試合中継や応援番組、選手の追っかけ映像が楽しめるという仕掛け。これらは「スマートスタジアム化構想」の一環です。

───「スマートスタジアム」とは、どんなものですか。

小笠原 ITをきっかけにして、新しいスタジアムの形をつくるというのが大きな定義です。スタジアムだったり、街だったりに対し、ITによる付加価値を付けて、役割を広げていく取り組みです。米国の「リーバイス・スタジアム」などが先行事例として有名ですね。

NTT 新ビジネス推進室 2020レガシー担当 小笠原賀子担当部長

NTT 新ビジネス推進室 2020レガシー担当 小笠原賀子担当部長

───一般的にはITとスポーツはあまり相容れないものと思われがちですが、実は親和性が高いと。

小笠原 ええ。スポーツには、実際に「する」という側面、試合や演技を「見る」という側面、選手や仕組みを「支える」という側面、大きく3つがあります。そのうち、どの側面でもITが活用できるシーンがあると思っています。

NTTグループとしてスマートスタジアムを色付けるものとして、今回のトライアルは「見る」「支える」がテーマです。

───具体的には?

「見る」という側面では、観客の皆さんに対して「サービスとして生の試合をもっとよく見せる」「もっとわかりやすく見せる」という観点でマルチキャストシステムを使う、といった環境づくりをしています。

テレ玉×ひかりTV「Ole!アルディージャPlus」は、スタジアム内限定のオリジナル応援番組。

テレ玉×ひかりTV「Ole!アルディージャPlus」は、スタジアム内限定のオリジナル応援番組。

「支える」という側面はさらに広く、チーム運営を直接支える以外にもファンクラブ会員となって支えるとか、地域の方々が自分たちのクラブを愛する気持ちなどを高めるとか、そういう緩やかなつながりまでを含めて考えられるでしょう。

地域連携の文脈では、マネタイズの方法なども含めた取り組みを、今からやりたいと思っているところです。ITを使ったデジタルマーケティングを使って、地域とクラブ、あるいは地域と選手を繋いでいきたいですね。

スマホの利用には抵抗がない

───専用アプリは大宮のチームカラーであるオレンジをあしらったデザインのほか、動きや機能もよくできているという印象がありました。サポーターやチーム、メディアも含めて反応はどうでしたか?

柿元 2016年10月22日の試合直後、観客の何人かの方々にグループインタビュー形式で集まっていただきました。内訳は、試合観戦に慣れている層と、初めてスタジアムに来ましたというビギナー層です。

NTT 新ビジネス推進室 地域創生担当 柿元宏晃さん

NTT 新ビジネス推進室 地域創生担当 柿元宏晃さん

柿元 年間パスを持って応援に来るようなコア層は、欲しい情報が明確にあります。「普段よりも、もう少し試合データを詳しく見たい」といったニーズにかなった機能に着目していました。

一方、ビギナーは全く違います。初めてスタジアムで見る試合で何もわからないので、選手を紹介しているコンテンツから情報を得たようです。見ているポイント、コンテンツが違うので、同じアプリでも楽しみ方も2通りあることがわかりました。

トレーディングカードのようなデザインのコンテンツ「オリジナル選手カード」では、スタジアムで選手のプロフィールをチェックできるため、応援のビギナーに役立つ。

トレーディングカードのようなデザインのコンテンツ「オリジナル選手カード」では、スタジアムで選手のプロフィールをチェックできるため、応援のビギナーに役立つ。

───それは想定していた通りの使われ方だったのでしょうか。

柿元 あまり使い方の案内をしていなかったのですが、想定以上に使いこなしていただけたようです。ライブ動画は何秒か遅らせて配信しているため、いいプレイがあった時に手元を見るとちょうどリプレイになっています。途中でそれに気づいて、画面を見ていたという意見は多かったですね。

───スタジアム内のWi-Fi速度についてのコメントはありましたか。

柿元 人によって感覚が違うと思いますが、一般家庭のWi-Fiと同等か、少し遅い程度に感じる方が多かったようです。次回も使いたいという意見が多かったのはビギナー層の方でした。

地域を盛り上げる手助けに

───アプリには、スタジアム周辺の地域を盛り上げようという仕掛けがあります。その狙いは。

小笠原 試合がある時、街には1万人くらいの観衆が集まってきます。せっかくなので、その方たちにスタジアムだけではなく、その周辺でもお金を使ってもらえれば、地域がクラブを持っている経済的な価値になりますよね。スタジアムがその役割を果たすきっかけになればと、まずはクーポンのシステムを考案しました。

クーポンの提携先としてお声がけしたのは、20~30店舗くらいです。我々が集めたというより、大宮には元々「大宮ナポリタン会」という、ナポリタンを街の新名物にする、駅前の商店によって立ち上げられたグループがあり、会の参加店にお声がけをさせていただいています。

公式アプリには、地域の飲食店で使えるクーポン機能も搭載。

公式アプリには、地域の飲食店で使えるクーポン機能も搭載。

今後はIT的な仕掛けも含めて、もう少しレベルアップしていかなければと思っています。スタジアムの観客に来て欲しいと思っているお店に、オープンなプラットフォームから登録してもらうところまでいくのが、理想的なケースです。そうすれば、マネタイズが可能になる気がします。

それから、店舗における試合コンテンツの再利用や、パブリックビューイングなども課題ですね。大宮には「大宮公園」や「鉄道博物館」といった、施設がたくさんあるので、そうした施設にお声がけするほか、さいたま市ともうまく連携できればいいかもしれません。

また、Jリーグのような地域に密着したスポーツは地域間のシナジーを生むので、対戦相手の街との、相互の送客まで含めて、お手伝いしていきたいと思っています。

───Jリーグの試合には2つの都市が必ず出てきますから、面白い取り組みになりそうです。

小笠原 大宮のスタジアムが盛り上がっていることが伝われば、アルディージャの対戦相手サポーターに「アウェーのスタジアムへ行きたい」と思ってもらえるでしょうし、さらにお互いに良くなっていけば、もっと新しい取り組みもできると考えています。

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暦本 純一(ヒューマンインターフェース研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/rekimoto.html Mon, 05 Dec 2016 04:39:49 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=1302 (※)本稿は、2016年10月27日に東京・豊洲のNTTデータ本社で開催された「Internet of Abilitiesの時代:Augmented RealityからAugmented Humanへ」と題された暦本氏の講演内容をまとめたものです。

【プロフィール】 暦本純一(れきもと じゅんいち) 博士(理学) 1986年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。日本電気、アルバータ大学を経て、1994年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。1999年よりソニーコンピュータサイエンス研究所 インタラクションラボラトリー室長。2007年より東京大学大学院情報学環教授 (兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)。多摩美術大学客員教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 訪問教授。

【プロフィール】
暦本純一(れきもと じゅんいち) 博士(理学)
1986年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。日本電気、アルバータ大学を経て、1994年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。1999年よりソニーコンピュータサイエンス研究所 インタラクションラボラトリー室長。2007年より東京大学大学院情報学環教授 (兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)。多摩美術大学客員教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 訪問教授。

建築をプログラミングする

今日のテーマはヒューマンオーグメンテーションなのですが、その前にIoTの話題をご紹介しましょう。

実は今年、「Squama」という作品がグッドデザイン賞を受賞しました。これは液晶を使ったスマートウィンドウで、5センチ角の窓の透明度を液晶技術によって自由にプログラムできるというものです。

例えば会議室でプレゼンする時、窓からの光がまぶしいからブラインドを下ろしているのに、室内の明かりが煌々とついている風景をよく見かけます。窓や建築をプログラミングできるようになれば、外からどのくらい光を取り入れるかを調整することができます。これも1つのIoTと言えます。

「Squama」(2012年)は、5センチ角の四角(窓)の透明度をコントロールすることができる

「Squama」は、5センチ角の四角(窓)の透明度をコントロールすることができる

これまでの建築はハードウェアとしてつくられてきましたが、これからの建築は機能(ソフト)が変わっていく。その裏にはもちろん情報技術があるわけですが、ディスプレイに情報を表示するだけではなく、室内の明るさや暗さ、見たいものと見たくないものを制御する、といった私たちが日常的に持っている感覚に密着していくと考えられます。

可動要素を取り入れたキネティックファサードや変化する建築というのは既にあります。例えばパリにあるアラブ世界研究所(設計:ジャン・ヌーベル、1987年)の建築は、メカによってシャッターが開閉するようになっています。

ファッションの分野では、汗をかくと水分でフィンが開く特殊なポリマーでできたウェアもあります。自然界であればカメレオンは外界に反応して変化しますね。

私たちが取り組んでいる窓も同じです。液晶材というのは電圧をかけると中の分子が並ぶ性質を使って光をコントロールする仕組みです。今や液晶材はどんどん値段が安くなっており、同じ面積の液晶テレビよりも建築材料としての窓の方が高いという時代なんです。また種類も色々ありますから、今後建築のなかにどんどん入っていくでしょう。

例えば、最近はガラス張りのオフィスをよく見かけますが、モニターに投影している資料の中身を見られたくないという場合がありますね。このスマートウィンドウは空中にモヤがかかっているような状態をつくり、オフィスの外側を歩いている人の視界からモニター部分だけ隠してくれるというものです。

窓には日照を取り込む役割がありますが、一方で直射日光が当たると食べ物が傷んでしまう。そこでスマートウィンドウが食べ物が置いてある部分だけ暗くするのです。この人工的な“影”は太陽の動きに合わせて動くので、一日中そこだけ暗くすることができます。

逆に、温室では植物の光合成が必要な部分だけ日照を確保し、あとは暗くして室温が高くなりすぎないように調整することも可能です。

注目していただきたいのは、IoTとはなにも機器に囲まれてやたらと情報が表示されている世界だけではない、ということ。プライバシーを守ったり生活環境をよくするといったことに情報技術が使われる世界がIoTであると、私はとらえています。

情報を「足す」のではなく「引く」

現在、バーチャルリアリティ(VR:Virtual Reality)やオーグメンテッドリアリティ(AR:Augmented Reality、拡張現実感)が話題になっていますが、私たちが取り組んでいるのはメディエーテッドリアリティ(Mediated Reality)、すなわち調停現実という世界です。

先程のスマートウィンドウのように「あえて見えなくする」のは現実から情報をマイナスすることです。これまでのように情報をどんどん足していくのではなく、逆に引いてちょうどよいところにもっていく。つまり現実を調停するという方向があり得ます。

かつてマーク・ワイザーという研究者がコンピュータが偏在する世界を予言し、ユビキタスコンピューティングという概念を提唱しました。そこからIoTなどの考え方が生まれてきたわけですが、ただコンピュータやデバイスが沢山あればいいということではありません。彼はこう言っています。

「もっとも深い技術というのは見えなくなる。日々の生活と区別がつかなくなるまで溶け込むのが、テクノロジーの最も成熟した姿である」

あるいは京都大学名誉教授の梅棹忠夫氏による『知的生産の技術』(1969年)という本には、「知的生産の技術というのは、秩序と静けさをつくるためにある」と書かれています。私は、この言葉は日本におけるユビキタスの考え方の最初ではないかと思っているのです。

窓を液晶化すれば当然「情報をどんどん出そうよ」ということになるでしょうが、それよりも私たちが生きている生活環境を整えることにテクノロジーの方向があるのではないかと考えています。

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ブロックチェーンは社会基盤となるか https://inforium.nttdata.com/foresight/block-chain.html Fri, 14 Oct 2016 00:58:18 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=967 情報の履歴が記録され続ける

松尾真一郎(まつお しんいちろう) MITメディアラボ研究員・所長リエゾン(金融暗号)。ブロックチェーンの学術研究用国際ネットワーク「BSafe.network」共同設立者。東京大学生産技術研究所・海外研究員および慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授を兼務。暗号プロトコル評価技術コンソーシアム(CELLOS)設立者兼技術WG主査。世界初のブロックチェーン専門学術誌 “LEDGER” エディター。大学院修了後、1996年にNTTデータ通信株式会社に入社、情報セキュリティと暗号の応用に関する研究に従事。2009年NICTに入所。2016年から現職。過去に暗号技術検討会(総務省・経済産業省)構成員、ISO/IEC JTC1 SC27/WG2日本Head of Delegateを歴任。米国在住。博士(工学)。

───ブロックチェーンとはどんな基盤技術で、社会や経済にどう適用が見込まれているのでしょうか。

ブロックチェーンの文脈で実現したいことは、大まかに次の3つです。

1、情報を、悪意ある改ざんのない状態で管理する
2、情報の修正・追加・削除などの変更履歴を、時間的に順序を追って記録する
3、情報を、誰もが公開検証できるようにする

これらは企業ないし組織が厳重に管理されたデータベースを持っていれば実現できることですが、そうした信頼のできる事業者を仮定せずに行える技術なのです。キーワードとなるのは「非中央集権的」という発想です。

ブロックチェーンを構成する数々の技術は今までにもあったものです。厳重に管理するデータベースをつくる技術、時間順に記録する技術、あるいは信頼できる第三者でなくてもあるサービスを構成できる技術です。これらを巧妙に組み合わせて、信頼できる事業者が不要な「お金」の形で紹介したのが、2008〜09年に生まれたビットコインでした。

その後、ビットコインのプロトコルをよく見ると、中央で管理する人がいなくてもいろんなアプリケーションがつくれるのではないか、ということに2014年あたりから大勢の人が気付き出しました。ビットコインのコア技術がブロックチェーンという形で取り出されたのがその頃でした。

───そもそも従来の電子マネーなどの研究は、どれくらいの関連性があるのでしょうか。

1997年からから3年ほどのNTTと日本銀行で取り組んだ電子マネーや日立製作所が取り組んだ電子マネーのプロジェクトがあった頃が、最初の電子マネーブームと言っていい時期でした。「Financial Cryptography」という名前の、暗号技術を金融サービスに応用する技術に関する国際会議も、1997年からスタートしています。

こうした暗号技術の国際学会で議論された暗号技術が、ビットコイン登場の大きな背景になっています。金融における暗号技術の応用に関する研究は、Financial Cryptographyなどで盛んに行われましたし、NTTデータが電子情報の原本性保証を行うサービスとして提供している「SecureSeal」では、ブロックチェーンに近い技術である、ハッシュ値をリンクして非改ざんを証明する技術が使われています。

この方式は、今から26年前の1990年に学会で発表され、「ISO/IEC 18014-3(リンクトークン式タイムスタンプ)」としてちゃんと国際標準化されている技術です。ビットコインは、ISO/IEC 18014-3にある考え方を使い、あるドキュメントの前後関係をハッシュの署名を連鎖させて確認できるサービスです。トランザクションの開始から現在に至るまでのやり取りの一連を確認できるこの仕組みが、ブロックチェーンという技術の中核をなしています。

───ブロックチェーンが「分散型元帳」技術とも呼ばれるのはそういうわけなのですね。

技術的な構造を考えるとビットコインはブロックチェーンの1つの応用形態であり、いわば銀行の残高元帳を分散させたものと考えれば良いわけですね。ブロックチェーンとは、簡単に言うと、公開検証できるオープンデータ(誰もが触れられる情報)に対して、誰もが新たにどんどん情報を登録して確認できる技術なのです。

信頼できる事業者がいなくてもいろんなサービスが実現できるので、スマートコントラクト(契約)分野でのユースケースが考えられています。

最終的には今あるいろんなアプリのみならず、物流のための情報をマッチングする中間業者や証券取引所といったシステムそのものまでを代替するイノベーティブな技術だと私は思っています。

安全性を向上させている段階

───社会へのブロックチェーンの普及が見込まれる中、安全性についてはどうでしょうか。

まだ未成熟な技術のため、セキュリティ要件やセキュリティを確認する手法は固まっていません。実際に2016年6月には、「The DAO」のハッキングという事件が起こりました。

The DAOはプログラム同士が取引をしたり、投資をしたり、自律的に経済活動をする世界観を実証しようとするプロジェクトですが、「Ethereum」というThe DAOが動作するプラットフォームの脆弱性(バグ)を突かれ、思ってもみないお金の流出が起きた事件です。スマートコントラクトは、まだまだ運営も実現も困難だ、と認識させられました。

ブロックチェーンではP2Pのネットワークで繋がったユーザーが、公開管理されたレッジャー(元帳)に変更を加えていく。それらの記録は逐次伝搬され、チェーンのように連鎖することと前後関係を証明する。その過程で電子署名が与えられ悪意ある改ざんを防ぎます。

松尾さん提供

ただ、私の考えとしては、分散システムの考え方を利用し、支配的な権限を持つ人が存在せず、集中管理システムが不要である点というのが、唯一最大のブロックチェーンの売りなので、普及に際してはそのような特性を生かしたユースケースを持ったものに注力することに意義があると考えています。そこを諦めたものには、それほど多くの意味がないと思うのが正直なところです。

すでに世の中で広く使われているビットコインにしても、発行体が存在しない通貨ながら、法定通貨との交換を行うための取引所というものができて、ここに利用者の秘密鍵が保存され、もともと想定していない支配的な権限を持つ人が生まれる可能性があるという意味では不完全です。

「Mt.Gox」の事件も、本来ビットコインが持つ非中央集権という性質を、悪意のある取引所が損なったことが大きなポイントです。だから非中央集権という本来の思想を保ちながら、アプリケーションを増やせるようにするための改良を加えなくてはいけないと思います。

───今後、どのような技術がブロックチェーンの安全性を具体的に向上するのに役立つとお考えですか。

スマートコントラクトでいうと、プログラム言語を堅牢なものにつくり直さなくてはいけないという議論は、まさにMITの中でもされているところです。さらに、まだまだ完全ではありませんが、プログラムのバグを減らすためのデバッガーやチェッカーといった安全性を検証していくツールが出始めています。

プロトコル自体の脆弱性を下げるために、フォーマル・ベリフィケーション(形式検証)、つまり形式的にその設計が安全かどうかを検証することが、まずは必要ではないかと思っています。

トレードオフを見定める

───松尾さんは、セキュリティと性能はトレードオフであるということも主張されていますね。

そもそもブロックチェーンに限らず、普段の情報システムの構築でもさまざまな要素はトレードオフの関係になっていて、適切なバランスを考慮して設計します。

松尾さん提供

セキュリティを強めすぎると運用コストやユーザビリティーのパフォーマンスが落ちるし、反対に「誰それは信用できるから、その部分だけはセキュリティ対策費を抑えてもいいだろう」ということも日常であります。

ブロックチェーンの場合、そのトレードオフの考える評価軸の中で「どれくらい非中央集権を高めるのか?」を考えることは、ブロックチェーンの良さを引き出しつつ、使い勝手がよいシステムをつくるための大きなポイントなのです。

例えば、2015年あたりから、ビットコインのブロックサイズをどれくらいに変えるかという話は世界で大議論になっています。現在のビットコインの仕様では、 1つのブロックのデータサイズには現在1MBの上限があり、1つのブロックは10分に1回つくられています。そのサイズを例えば単純に1GBにすればスケーラビリティが劇的に向上して、1秒あたり7トランザクションしかない現在のブロックチェーンの処理速度を飛躍的に上げられます。

松尾さん提供

ただ、その場合に必要な1時間あたり6GBという大きなデータを保管できるようなノードを運営できるのはお金持ちだけですから、まるで非中央集権的でなくなってしまいます。トレードオフを考えて、どの辺りに落としどころを設けるかという議論が大事になってくるのはこのためです。

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