|INFORIUM|NTTデータ https://inforium.nttdata.com テクノロジーと未来をつなぐ。わたしたちは、未来につながる予見力と、最新のテクノロジーで、社会の変革に取り組み、さまざまな知恵を紡ぐ共創活動を通じて、新たな価値の創造をめざしています。その源泉は、ひとり一人の「知恵」や「強い想い」です。だからこそ、新たな変革を生み出す最前線で活躍する「人」に焦点をあて、読者のみなさんと、ともに考え、行動し、より良い未来の姿を探求したいと考えています。INFORIUM(インフォリウム)とは、INFORMATION(情報)とATRIUM(人が集まる開かれた空間)を合わせた造語です。情報を伝えるだけでなく、さまざまなイベントの場を通じて、知恵と知恵とのコラボレーションを触媒し、テクノロジーの力で、人や社会にとっての幸せを広げる、わたしたちのプラットフォームです。 Thu, 13 Jun 2019 02:00:01 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.4.7 自動運転社会への要「エッジ・コンピューティング」 https://inforium.nttdata.com/foresight/edgecomputing.html Wed, 12 Jun 2019 08:19:24 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4598 (左)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 主任研究員 森航哉さん (右)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 研究員 塩田純さん

(左)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 主任研究員 森航哉さん (右)日本電信電話株式会社NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 研究員 塩田純さん

全ての車がネットワークでつながる社会

───最近、テレビや新聞でも「自動運転」というキーワードを目にする回数が増えています。自動運転技術の実現へ期待が高まる一方で「本当に自動運転は実現するのだろうか」と考えている人も多いと思います。技術的にはどのような分野に力を入れて取組む必要がありますか。

 自動運転を実現するためには、自動車の性能をさらに高めることが重要です。人間と同等以上の運転能力を車自身が持たなければなりません。性能が未熟であれば当然ながら自動運転は成り立たず、たとえ高性能でも、たった一度のミスが人命に関わる重大事故につながる可能性もあります。

自動車のさらなる性能向上に向けて、現在最も注目されているのがAI、人工知能や機械学習とも呼ばれている技術分野です。自動車が周辺環境のあらゆる情報を常時収集して解析し、瞬時に判断して自動走行を安定的に行うためには、不可欠な技術です。

塩田 AIと同様に重要な技術分野として見逃せないのが通信・ネットワーク技術です。自動運転を実現するには、個別の一台一台が周囲の環境を直接認識するだけでなく、より広範囲のエリアから情報を取得した上で運転の判断を行う必要があります。

たとえば今どこで道路工事が行われていて障害物がある、交通事故や渋滞が発生しているという情報を、近隣だけでなく遠隔地からも取得すればより安全で効率的な自動運転を実現できます。それぞれの車がいわば高性能なセンサーとなって周囲のあらゆる情報を収集し、他の車とも情報を共有し合って相互活用することで、自動運転の精度は飛躍的に高まるでしょう。

 先日行った実験では、走行中の周辺環境を認識し、歩行者などの動的オブジェクトを検出するためにカメラを搭載した車を走らせました。それらの情報をAI技術で解析し、通信・ネットワークを介して他の車と共有することで、道路状況をリアルタイムに再現した高精度地図、ダイナミックマップを作成することができます。

カメラを搭載した車から見える風景と、ダイナミックマップ

塩田 2000年代(2000年〜2009年)は、90年代に登場したインターネット技術が進化して飛躍的に普及した時代です。それに続く10年代(2010年〜2019年)のキーワードは、「クラウド」と「スマートデバイス」。巨大なデータセンターであるクラウド上で世界中の人たちが大量のデータを共有できるようになりました。スマートフォンをはじめとするスマートデバイスによって、ビッグデータという巨大な知的財産を個人がいつでもどこでも利用可能な時代となったのです。

自動運転を考える上でキーワードになっているのが、つながりあう車、という意味の「コネクティッド・カー(Connected Car)」です。IoTの概念と同じように、インターネットを通じて世界中の車がつながり、高精度センサーとして自ら取得した情報を共有し合ってビッグデータを活用できれば、高度な自動運転の実現に拍車がかかります。

 インターネットや携帯通信、クラウドをはじめ、これまで様々な通信・ネットワーク技術を担ってきたNTTグループにとって、昨今の重要な研究開発テーマとなっているのがまさにこのコネクティッド・カー。自動運転の実現に向けた新たな通信・ネットワーク技術を提供することが私たちの役目だと言えます。

次世代自動車の新サービス研究開発が多数進行中

───現在、利用されている4G(第4世代移動通信システム)に加えて、超高速、かつ多数同時接続の次世代通信が可能になる5Gが普及すると、コネクティッド・カー社会がさらに身近になりそうです。

塩田 全ての車がネットワークでつながり、高度な自動運転が実現すると、先ほどお話しした交通事故削減や道路渋滞の緩和、運転操作からの解放と言った効果はもちろん、「えっ、こんなことまで」と驚くほど便利なサービスも次々に登場する可能性があります。

たとえば乗車中にオススメのレストランを提案してくれたり、席の予約や道案内までしてくれたりする。ドライバーの好みに合わせて、周囲のレジャー施設や名所などをガイドしてくれる。自動運転中に得られる大量の情報が安全や快適を守ってくれるだけではなく、ドライブをより楽しいものにしてくれる、いわゆる「インフォテイメント」の期待が高まります。

 私たちの想像を超える高精度地図や高性能カーナビが登場する可能性もあります。現段階で市販されているカーナビ上に表示されるのは、道路や建物などの静的な情報が中心となっています。しかし近い将来、近隣を走る他の車や自転車、近くを歩いている歩行者などの動的な情報も表示できるようになるかもしれません。

まだまだその他にも、コネクティッド・カーの研究開発プロジェクトは多数あります。運転中のドライバーの体温や脈拍などの生体情報を感知して、交通事故につながる居眠りなどを防止しようとする運転サポート技術の研究開発などもあります。

自動運転実現に向けて期待が高まるエッジ・コンピューティング

───コネクティッド・カーの実現に向けて、現在注目を浴びている「エッジ・コンピューティング」について詳しく教えてください。

塩田 世界中の車がネットワークでつながり、互いに様々な情報を共有しあうようになると、膨大なビッグデータがネットワーク上を飛び交うことになります。そうなると懸念されるのが、データ量の多さに起因する遅延です。

通信環境が悪くなると私たちも「ネットが重い」と感じるように、大容量データの送受信に遅延はつきものです。近い将来車どうしがネットワークでつながり、運転に必要な情報を常時共有するようになると、たとえ100分の1秒遅延しただけでも、通信の遅れが交通事故などの重大なインシデントにつながる可能性も考えられます。

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 今後5Gが普及することで、ビッグデータ時代にふさわしい超高速・低遅延・大容量の通信環境が整備されていくでしょう。しかし、全てのデータを巨大なデータセンターに集めて処理するというクラウドの仕組みには改善の余地があります。そこで登場してきたのがエッジ・コンピューティングです。

塩田 全てのデータをデータセンターという中央部に集約するのではなく、ネットワークの周縁部分(エッジ)にサーバーを設置して、データセンターに集める前にそこでデータ処理を行います。データセンターとエッジ・サーバーで役割分担を行えばネットワーク全体の通信効率が格段に高まります。

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エッジ・コンピューティングの概念は、まさにクラウドが世の中に普及しようとしていた2010年頃にはすでに提唱されていました。NTTグループでは国内に先んじてエッジ・コンピューティングの研究開発に着手し、早期の商用利用に向け取組んできたという実績があります。

すでにインターネットが、人々の生活の欠かせないインフラとなっているように、近い将来クラウドも社会に不可欠なインフラとなります。コネクティッド・カー社会が到来し、人間だけでなく自動車も大量のビッグデータをやり取りするようになれば、超高速ネットワーク通信とクラウドを支える仕組みとして、エッジ・コンピューティングの技術にますます期待が高まります。

 自動運転は、盤石な通信・ネットワーク環境があってこそ実現するものだと言っても過言ではありません。NTTグループでは、これまで電話やインターネットなどの通信サービスを提供することで社会を支えてきました。今後はビッグデータ通信や、エッジ・コンピューティングといった最新技術の研究開発を推進することで、高度なコネクティッド・カー社会と自動運転技術を進化させ、社会に貢献する役目を担っています。

自動運転がもたらす未来社会の豊かさとは

───自動運転技術の進化によって、どのような未来が実現されるのでしょうか。

 私は車の運転が好きなので、もし完全な自動運転が技術的に実現したとしても、自分で運転することを選ぶのではないかとも思います。私と同じような考えを持っている人は実際にたくさんいらっしゃるはずです。自動運転技術がどこまで進化しても、車を運転する愉しさ自体が失われることはないでしょう。私たちの想像を超える高度な自動運転技術がこの先実現しても、車ではなくヒトが主役であることに変わりはありません。

塩田 自分で車を運転したいという人がいる一方で、運転したくても難しい、できないという人がいるのも事実です。高齢者の方は今後ますます増えていきますし、体が不自由な方もいらっしゃいます。自動運転技術の進化によって、カーライフはもちろん、人生に関する私たちの選択肢や可能性が広がっていくと考えています。

運転が楽しいという人たちも多い一方で、運転が好きではなく苦手な方もいらっしゃいますし、体調によっては運転が辛い、したくないという時もあります。車を利用するならば、これまでは避けては通れなかった運転操作から解放されるというメリットは見逃せません。

 不幸な交通事故に苦しまない社会を実現できることに、まず大きな期待が集まっています。これまでヒトが操作していた車が自動運転になれば、人為的な操作ミスが格段に減って交通事故件数が激減する可能性が高まります。事故が減れば必然的に渋滞も減り、日本社会を長年悩ませてきた不便な道路事情も改善が進み、より快適なカーライフを実現できます。

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塩田 運転は車に任せ、乗っている人はそのあいだ自由に景色を楽しんだり、同乗者とおしゃべりをしたり、食事をしたり、仕事をしたり、眠ったりもできるようになります。まるで自宅ですごすように、様々な制約から解放され、事故や渋滞に巻き込まれる緊張感からも解放されて、車内が常にリラックスして過ごせる空間となるかもしれません。

車の完全なる自動化が実現されたときには、人が移動するための手段というより、動くパーソナルスペースとなる大きな可能性があります。車の自動化によって、これまで以上に、人生を有意義に過ごすことができる大切な場所が増えるのです。

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自分をサイボーグ化していく時代 https://inforium.nttdata.com/report/orihime.html Fri, 08 Mar 2019 01:35:10 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4563 吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)/株式会社オリィ研究所代表取締役。高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。翌2005年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位に。高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学創造理工学部へ進学。自身の不登校の体験をもとに、2010年、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発(この功績から2012年に「人間力大賞」を受賞)。 開発したロボットを多くの人に使ってもらうべく、株式会社オリィ研究所を設立。自身の体験から「ベッドの上にいながら、会いたい人と会い、社会に参加できる未来の実現」を理念に、開発を進めている。ロボットコミュニケーター。趣味は折り紙。 最新著書に『サイボーグ時代 ~リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略~』がある。

吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)/株式会社オリィ研究所代表取締役。高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。翌2005年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位に。
高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学創造理工学部へ進学。自身の不登校の体験をもとに、2010年、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発(この功績から2012年に「人間力大賞」を受賞)。
開発したロボットを多くの人に使ってもらうべく、株式会社オリィ研究所を設立。自身の体験から「ベッドの上にいながら、会いたい人と会い、社会に参加できる未来の実現」を理念に、開発を進めている。ロボットコミュニケーター。趣味は折り紙。
最新著書に『サイボーグ時代 ~リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略~』がある。

テレビ電話との違い

───吉藤さんが分身ロボットOriHimeを開発された動機からお話しいただけますか。

私は分身ロボットを“孤独を解消する”ツールだと思っています。私は小学生から中学生にかけて3年間、不登校でした。もともと学校が好きでなかった上、病気がちでまとめて学校を休んでしまううちに、だんだん学校に行けなくなったのです。引きこもってゲームをしたり、ただただ天井を見つめている長い時間がありました。高専に入った頃はAIの友だちを作ろうと考え、人工知能の勉強をしていました。しかし「孤独」とは何か、「癒やし」とは何かを本気で考えてみたとき、人を本当に癒せるのは人しかいないと思いました。私が欲しいのはAIの友だちではないと気づいたのです。

高専時代、私は病気や怪我で歩けない人のための車椅子の開発に没頭しました。段差も登れる新機構を搭載した車椅子は高い評価をいただきましたが、私はその研究中に、車椅子に乗ることもできない人たち、高齢者や障害者、病気の人たちがこの世界に大勢いることを知りました。身体を外に運べないなら、心だけでも行きたい所に運べないだろうか。それが分身ロボットの開発を始めた動機です。

2010年、大学3年のとき、OriHimeの製作を始めました。コンセプトは「心の車椅子」。OriHimeは行きたい場所があるのに、どうしてもそこに行けない人のための分身です。身体は運べなくても、行きたい所へ行き、人と出会い、友人をつくれたら。孤独の解消につながるかもしれない。それが、私がこの仕事を選んだ理由です。

───スマホで簡単にテレビ電話ができる時代です。行きたい場所に誰かにスマホを持って行ってもらえば、その風景を見たり、話をしたりできます。それと「分身ロボット」の違いは何ですか?

それはよく聞かれる質問です。私は不登校時代、気晴らしに友人に電話をかけたこともあります。ちょうど花火大会の日で、花火の音が電話越しに聞こえてきてワクワクしました。友人は「体調は大丈夫か?」と気遣ってくれたのですが、すぐに「今友だちと花火大会に来てるから電話切るわ、じゃあな!」。私はがっかりしましたが、それは友だちへの失望ではありません。電話への失望です。電話は伝えたい用事があるときは適していますが、自分がその場に参加することに適したツールではないことに気がつきました。

みなさんも経験があると思いますが、テレビ電話って用件もないのにそのまま続けることって案外できないですよね。「もっとその場にいたい」と思っても用件が終わったら切る。それにテレビ電話は顔が見えるだけでなく、部屋の中も見えます。だから電話するときは着替えたり、部屋を片づけたり、準備があって面倒くさい。

その点、OriHimeはその場にいることが目的のツールです。たとえば長期入院中で学校に行けない子が、教室の席に自分の代わりにOriHimeを置いておけば、クラスメイトと同じ時間に同じ授業が受けられ、発言したいときは手を挙げて自分の声で発言できます。でも、自分がベッドの上で寝ている姿はクラスメイトに見られることはありません。

OriHimeでロボット出社

───学校に行けない子や、外に出られない障害や難病の人たちのために開発されたOriHimeが、今、テレワークのツールとしても注目されています。現在どのように活用されていますか?

身近な例では、先日私が出版した本『サイボーグ時代 ~リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略~』は、沖縄在住のライターがOriHimeを使ってつくりました。このオリィ研究所(東京)にライターのOriHimeを1台置いて、ライターは沖縄にいながら私にインタビューし、私はOriHimeに向かって応えました。

今、特に注目しているのは、育児休暇中の女性のテレワーク環境です。現在、NTT東日本の育児休暇中の女性約60名がOriHimeを利用して仕事を継続しています。

育児休暇で1〜3年職場を離れてしまうと、本人に職場復帰する意志があっても職場と距離ができてしまったり、モチベーションが保てなくなったり、なかなか元の状態に戻れない。けっきょく退職してしまう女性が多いそうです。でも、休暇中も本人のデスクにOriHimeを置いておけば、家にいながら職場の雰囲気がわかるし、仕事の状況もわかる。子どもの世話をしながら社内会議にも参加できます。これがテレビ会議だと、顔が映るので化粧して着替えないといけませんが、OriHimeは普段着のままでいいし、キッチンにいてもいい。手の空いた時間にOriHimeで職場に戻ってこられます。

このオリィ研究所では、育児中のお母さんが「ロボット出社」していますよ。本人のデスク上のOriHimeが「おはようございます」とあいさつして出社してきます。OriHimeの起動時間の記録はそのままタイムカードになります。

その人の気配を伝えることが重要

───職場のOriHimeはどのように仕事するのですか?

たとえば会議するならテーブルにOriHimeを載せておけば、会議に出席しているのと同じです。リアルタイムに意見が言えますし、他の出席者の意見に賛同するなら「うんうん」と頷き、反対なら「いいえ」と首を振り、大賛成なら「ぱちぱち」と拍手を送ることができます。このリアクションの動作が重要です。

逆に、しばらく反応がないと、首がこっくりこっくりして寝始めるように設計してあり、本人がOriHimeを操作していないことがわかります。

OriHimeは学校の授業に出られない子のために開発した側面があるので、授業内容に興味がなくて反応しないことを先生に気づいてもらうために「こっくりこっくり」を取り入れました。教室ならこれを見た先生が「***君、起きてますか!?」と声がけできるし、会社の会議中なら「あ、***さん、この企画に興味ないみたい」とわかりますよね。

───OriHimeの顔はツルッとして目があるだけですが、こうしたリアクションによって表情が出ますね。

顔は人形浄瑠璃の能面を参考にしました。使っているうちに、OriHimeが使用者本人に見えてくるデザインをめざしました。分身ですから、使っている人がそこにいる“気配”を伝えたい。まるでその人がそこにいるように感じられることが重要なんです。

能面のように情報量の少ない顔にすることで、逆に、その使用者の表情や存在を想像させることができます。分身ロボットは身体性だけでなく、想像力を拡張するツールなんです。慣れてくると、OriHimeが何台も参加している会議で「ここで“ぱちぱち”するのはアイツだな」と、だれの分身かわかるようになりますよ。

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───現在、OriHimeにはどんな課題がありますか?

技術的にはほぼ完成しています。課題は人間側の意識です。テレワークを導入するにしても、やっぱり生身の人間と話したほうがコミュニケーションしやすいよね、という意見が出てくる。

コミュニケーションの質において、生身の人間とOriHimeの何がそんなに違うのか? 分身ロボットに何が足りず、生身だと何が満ち足りているのか。そこはまだ言語化されていないというか、定量化されていません。生身とロボットの間に位置するもので、生身の人間と近い状態のテレワークを実現できないか。そこが、私が分身ロボットというリアルアバターを開発しつづけている理由です。

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青野慶久(サイボウズCEO)石川貴志(ワークデザインラボ代表) https://inforium.nttdata.com/keyperson/aono_ishikawa.html Mon, 28 Jan 2019 10:42:22 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4491 ——いま、「働き方改革」がどこでも叫ばれる中、企業の担当者の悩みは「一体、何から始めたら良いのか?」ということに尽きると思います。まずサイボウズでは、どのように働き方を改革していったのでしょうか?

青野慶久(以下、青野) 「何から」ではなく、「なぜ」始めたのかをお話すると、離職率があまりにも高かったからです。私が社長になった2005年頃、サイボウズの離職率はなんと28%でした。離職率が高いと採用にもコストがかかりますし、社員の教育も非効率です。どうしようかと悩んで、まずは給料を引き上げました。しかし全く効果がなかったんですね。そこで、社員一人ひとりからじっくり話を聞くことにしたんです。

石川貴志(以下、石川) いま、まさに対話こそが最も重要だと感じます。働き方改革は、制度的なトップダウンのチューニングでは難しいんですね。なぜなら働き方とは、個人のライフスタイルの一部だから。働き方は各々が主体的に模索していくべきなのに、いまは「働き方改革」の言葉が独り歩きし、企業の目指すところと個人の意志にズレを感じます。

青野慶久/サイボウズ株式会社代表取締役社長。1971年、愛媛県生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科を卒業後、松下電工(現パナソニック)株式会社を経て、1997年にサイボウズ株式会社を愛媛県松山市に設立し、取締役副社長に就任。2005年4月に代表取締役社長に就任する。現在は、3児のイクメンとしてバリバリ仕事をこなしつつ、育児も積極的に行っている。

青野慶久/サイボウズ株式会社代表取締役社長。1971年、愛媛県生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科を卒業後、松下電工(現パナソニック)株式会社を経て、1997年にサイボウズ株式会社を愛媛県松山市に設立し、取締役副社長に就任。2005年4月に代表取締役社長に就任する。現在は、3児のイクメンとしてバリバリ仕事をこなしつつ、育児も積極的に行っている。

青野 その通りですね。そもそも経営者の頭で考える働き方改革は社員の共感を得られないことが多い。たとえばいま、東京の保育園待機児童問題は深刻ですよね。そこで私は、「社内に保育園をつくろう!」と提案しましたが、これが全くだめで(笑)。「青野さん、こんな都会のど真ん中のオフィスに赤ちゃんを毎日連れてこれるわけないじゃないですか」と一蹴されました。

――社員の声から社内の文化や制度を変えるとき、具体的にはどんなことをされていますか。

青野 サイボウズには「質問責任」という言葉があります。経営陣も社員も、気になったことは何でも質問すること、それが我が社の責任です。例えば以前、営業部のある若手社員が、社内のグループウェア「サイボウズ Office」の掲示板に「ボーナス制度に不満がある」という書き込みをしてきました。弊社が販売するクラウドサービスは、12月に契約が成立すると、課金が翌年の1月となります。すると、その年の売上成績に反映されず、営業担当のボーナスの査定に大きな影響が出る、と。この声に、社員から数多くの「イイね」が集まりました。その結果、弊社は全社のボーナス体系を変えました。サイボウズでは、言うべきことは、誰でも常に伝え合う。いわば「言った者勝ち」な社風といえますね。

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NTT DATA Global Hackathon 2018「AI Hackathon in Munich」 https://inforium.nttdata.com/report/globalhackathon2018.html Wed, 23 Jan 2019 07:58:50 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4453 グローバル化の進むNTT DATAでは、2017年より、世界中のNTT DATAの全社員を対象にした「NTT DATA Global Hackathon」を開催しています。

その狙いは、社員が先進技術に接する機会を積極的に設け、技術者同士の交流やアイデア共有を促すことで、“イノベーションマインド”を醸成することです。全世界にあるNTT DATAグループ会社で予選を行ったのち、ドイツ・ミュンヘンのイノベーションラボ「ENSO」で本選を実施しました。

会場となった「Ensō – The Space for Creators」

会場となった「Ensō – The Space for Creators」

ハッカソンの会場となるのが、技術者のためのイノベーションスペース「Ensō – The Space for Creators」。「Ensō」とは、そのロゴにも表されているとおり「円のような形」といった意味の日本語で、漢字では「円相」と書きます。

NTTグループメンバーが、お客さまやパートナーと協働して、新しいサービスやソリューション創出をするためのスペースで、利用する人々にインスピレーションを与え、従来の方法を超えた考え方や共創を推進することを目的としています。

全2日間のハッカソンを共にする参加メンバーで記念撮影

全2日間のハッカソンを共にする参加メンバーで記念撮影

さまざまな国の社員と交流しながら行なうハッカソン

2018年は、NTTデータが毎年発表している「NTT DATA Technology Foresight」より、技術トレンドとして掲げられているAIをテーマに設定。2017年の第1回目では、イノベーティブな発想とその実現を重視しましたが、今回は、エンジニアリングや、つくり込みを重視して審査します。

2年続けての開催となった経緯について、NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部 本部長の風間は、こう語ります。

「NTTデータ社内に、革新的なアイデアを社員が協働して生み出す文化を浸透させたい、と2年連続で行なうことを決定しました。前回と今回で一番違うのは、“ものをつくる”ことに軸足を置いている点です。ハッカソンの評価は、『テクノロジー』だけでなく『ビジネス』または『イノベーション』なども観点に含めています。予選でも、アウトプットされたものがどういうふうに社会課題を結びつくのかを含めて評価しました」

本選初日のオリエンテーションで、イベントの主旨を参加者に説明する風間(NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部 本部長)

本選初日のオリエンテーションで、イベントの主旨を参加者に説明する風間(NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部 本部長)

今年のテーマをAIにしたのも、日常生活や社会活動など、さまざまなシーンで活用されはじめている技術であるという理由から。

「これからの技術では、AIをどう使うか、を考えることが必要とされます。今回のハッカソンが、NTTグループ全体にとって、AIの活用法をより幅広い視点から考える機会やきっかけになって欲しいと思います。今回のハッカソンでは、世界各地の予選参加者を含めると374名となりました。全世界にグループ会社を持つNTTデータだからこそ、地球規模でハッカソンを行えます。参加者社員にはぜひ、さまざまな国から集まった他の社員とコミュニケーションをとり、コラボレーションして欲しいですね。そのチャレンジが、NTTデータの力となっていくことと期待しています」

第1回開催の後には、全世界の社員が交流できる場がもっと欲しいという要望があったそうです。多くの視点が集まれば、それだけ生まれるアイデアも多様さと深さが強まります。単に新しいサービスを創出するというだけでなく、NTTデータの今後の拡がりにも深く寄与するイベントなのです。

一方、NTT DATA Germanyの CTO、Oliver Köthはこう言います。

「AIは、インターネットの開発と同じく、社会に大きな変革をもたらす“破壊的イノベーション”の原動力となるテクノロジーのひとつです。本イベントでは、AIの可能性を探求したいと思っています。また、AIはあらゆる産業に適用でき、ソフトウェア開発技術に変化をもたらすだけでなく、社会そのものに多大な変化をも与えます。賛否両論あるからこそ、AIをテーマにし、その技術をうまく使う方法について沢山のアイデアを導き出したいと考えています」

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“どこにでも持ち運べる横断歩道”というアイデア

風間が「とても質の良いハッカソンだった」とコメントした日本予選には、20〜30代の若手技術者が、様々な部署から集まりました。

20チーム、総勢67名の参加者から、優勝したのは、プロジェクションマッピングを題材にしたチーム「STreet OPerator [STOP]」です。

「STreet OPerator [STOP]」は、入社1年目から4年目までの若手で構成されています。「プロジェクションマッピングと今回のお題になっているAIの技術を組み合せて、どこにでも持ち運べる横断歩道をつくろう」というタイトルで、柔軟性の高いアイデアをもとに、デモを発表しました。

優勝メンバーに、ハッカソンへ参加した動機やアイデアについて伺いました。

本選会場にて、「STreet OPerator [STOP]」のメンバー。左から森田さん、高橋さん、市原さん、村上さん

本選会場にて、「STreet OPerator [STOP]」のメンバー。左から森田さん、高橋さん、市原さん、村上さん

───どのような思いで、今回のハッカソンに参加したのでしょうか。

森田 同じ部署の先輩が、前回のハッカソンに参加していたのがきっかけです。自分もこのハッカソンで、スキルを磨きたいと思いました。

───このデモをつくったきっかけを教えてください。

高橋 休日にメンバーでアイデアを出していたとき、議論が夜中になっても終わらず行き詰まってしまったので、リフレッシュのため外を散歩しました。その際、横断歩道のない十字路を通りがかったのですが、暗くて見通しが悪かったため危険な思いをしました。その体験をきっかけに「どこにでも簡単に設置できる横断歩道で、歩行者の安全を守る」というコンセプトが生まれました。もともとプロジェクションマッピングで何かをつくりたいと考えていたこともあり「カメラで道路状況を解析し、その結果に応じてプロジェクタが横断歩道を地面に投影する」システムを開発することにしました。

本選にてデモ実演中。プロジェクタを使って、地面に横断歩道を表示させる機能を紹介

本選にてデモ実演中。プロジェクタを使って、地面に横断歩道を表示させる機能を紹介

横断歩道を表示させるだけでなく、道端で人が倒れたときにも、交通量や周囲の人への注意喚起、救急車の誘導などを行える。シークレットテーマを受け、本選中に開発した機能

横断歩道を表示させるだけでなく、道端で人が倒れたときにも、交通量や周囲の人への注意喚起、救急車の誘導などを行える。シークレットテーマを受け、本選中に開発した機能

───システムを組み上げるとき、難しかったポイントなどはありますか。

市原 街なかで使用する際、実際に人を認識してから信号が切り替わるまでにタイムラグがあると事故がおきてしまいます。情報をリアルタイムで反映させる必要があったため、カメラで撮った静止画をそのままクラウドに上げて解析する方法では難しいことが分かりました。大容量データを通信するだけで時間がかかってしまうからです。結果、エッジコンピューティング技術で画像を処理して、クラウドには処理後の情報のみを上げることで実現しました。

高橋 「ハッカソンに出して、はい終わり」ではなく、「世の中で実際に使われるものをつくりたい」という気持ちがあったので、処理速度は重要なポイントの1つでした。その部分は、普段よりAIの開発経験が豊富な市原さん、村上さんが、エキスパートとして全力を尽くしてくれました。

───本選への意気込みを教えてください。

森田 今回のアイデアは、日本の社会課題を解決するものとして発想しました。ハッカソンに参加した人たちの国で抱える課題は、それぞれ違うと思いますが、本選で優勝するのはもちろん、世界にも受け入れられるものをつくりたいです。

村上 私たち自身も含む一般の方たちをサービスの受け手として考える機会が普段の業務よりも多いので、今は「私たちのつくっているものが、たくさんの人に使ってもらえる!」というワクワクを感じながら楽しんでいます。理想的な形に仕上げていきたいと思います。

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野口悠紀雄(経済学者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/noguchi.html Wed, 26 Dec 2018 13:53:44 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4376 のぐち・ゆきお 1940年、東京生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イエール大学経済学博士号を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、現在早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。大蔵省在職中の67年に政府主催明治100年記念論文最優秀総理大臣賞を受賞。論文『情報の経済理論』で日経・経済図書文化賞、『財政危機の構造を中心として』でサントリー学芸賞、『バブルの経済学』で吉野作造賞。大ベストセラー『「超」整理法』シリーズの著者としても知られ、近著に『ブロックチェーン革命 分散自立型社会の出現』『仮想通貨はどうなるか―バブルが終わり、新しい進化がはじまる』『入門 AIと金融の未来』などがある。

のぐち・ゆきお
1940年、東京生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イエール大学経済学博士号を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、現在早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。大蔵省在職中の67年に政府主催明治100年記念論文最優秀総理大臣賞を受賞。論文『情報の経済理論』で日経・経済図書文化賞、『財政危機の構造を中心として』でサントリー学芸賞、『バブルの経済学』で吉野作造賞。大ベストセラー『「超」整理法』シリーズの著者としても知られ、近著に『ブロックチェーン革命 分散自立型社会の出現』『仮想通貨はどうなるか―バブルが終わり、新しい進化がはじまる』『入門 AIと金融の未来』などがある。

私の記憶は、1945年3月10日の東京大空襲から始まります。私は4歳とちょっとだったので、ふつうならもう少し前の記憶がありそうなものですが、まったくありません。たぶん、この日の記憶があまりに強烈だったために、それ以前の記憶がかき消されたのではないかと思います。猛火で赤く染まった深夜の空を、B-29の大編隊がこちらに向かってくる光景と、それを見たときの気持ちは、いまも鮮明に覚えています。非常に高度な技術に支えられた敵の飛行機が我々を殺しに来る。しかし我々は何も成す術がない。それは極限の恐怖でした。

私たち家族はかろうじて生き延びましたが、同じ防空壕にいた大部分の人は窒息死しました。私たちはたまたまドアの近くにいたので助かったのです。防空壕で一番危険なのは、酸欠による窒息死です。しかし我々はそんな教育は受けていませんでした。それどころか、焼夷弾が落ちたらバケツリレーで消火しろという訓練を受けた。その命令に忠実に従ったために、逃げ遅れて死んだ人は大勢いたはずです。その点、ドイツは教育が徹底していました。「防空壕に入ったら、ろうそくの火を高さの違う場所にいくつか置いておき、床に置いた火が消えたら立ち上がりなさい。机の上の火が消えたら子供を抱き上げ、頭の位置の火が消えたら外がどれほど猛火であっても壕から出なさい」。そう国民に教えていたそうです。

私は長い間、B-29が迫ってくるのを見たというのは、自分の記憶違いだと思っていました。なぜかというと、B-29は高度1万メートルを飛ぶ爆撃機なので、地上から見えるはずがないんです。しかし後でわかったことですが、B-29は低空で侵入してきた。日本軍は高射砲の陣地を早々に爆撃されてしまい、まったく防御できなかったので、B-29は易々と我々の上空に侵入できたわけです。それも我々は知らされていませんでした。日本の政府は国民を無防備な状態で究極の危機にさらし、何ひとつ守ってくれなかったのです。

当時の日本政府がいかに無責任であったか、特にドイツと比較するとよくわかります。ナチスの軍隊が行った残虐行為は、もちろん批判されてしかるべきです。ただ、ドイツの軍隊は国民を守った。特に東部地区はソ連軍の侵入によって壊滅しましたが、住民たちを助けるために、当時のドイツ海軍は全艦艇を動員したのです。つまり日本とドイツでは、軍の国民に対する態度はまったく違った。この大空襲の経験は、国家や政府に対する、私の不信の原点となっています。

大学は工学部を出ましたが、就職したのは大蔵省でした。工学部で応用物理学科に進んだのは、スプートニク※1の影響です。これを題材にした『October Sky』(邦題『遠い空の向こうに』)というアメリカ映画がありましたが、私はこの主人公と同年代で、スプートニク打ち上げのニュースを聞いたとき、世界を動かすのは物理学だと思ったのです。しかし企業の研究所で実習を受け、非常に狭いところに集中しなければならない工学の仕事に自分は向いていないことに気づきました。もう少し広い仕事をしたいと思い、経済学を学び始めたのが大学4年のときです。経済学部への学士入学は時間がかかるので、自分で勉強しました。工学から経済へ分野転換したと見る人も多かったようですが、経済学と工学部の教育は連続しているんですよ。後にアメリカに留学して経済学を学んだときも、まわりにいたのは数学や物理学をやってきた人たちばかりでしたし、経済学を勉強するのであれば、経済学部の勉強だけをしてもダメだと思います。

公務員試験を受けたのは、経済学を学んだことを証明するものが欲しかったから。公務員試験でいい成績をとれば、「私は経済学を勉強しました」と社会に堂々と言えると思ったのです。経済学でいうシグナル※2ですね。そんな理由だったので、公務員になる気はなかったのですが、紆余曲折あり、強引に引きずり込まれる形で大蔵省に入りました。

入省して4年目の68年、アメリカのフォード財団から奨学金を得て、経済学のMA(修士号)を取得するため、大蔵省に籍を置いたままカリフォルニア大学(UCLA)に1年間留学することになりました。ちょうどヒッピーの全盛期で、彼らは裸足で歩くのが特徴なんですが、裸足で歩けるくらいロサンゼルスの街はきれいでした。

当時のロサンゼルスは、一番安いアパートで月の家賃が100ドル。1ドルが360円のころでしたから、3万6千円ですね。大蔵省のころの私の給料は、たしか2万3千円くらいでした。当時の太平洋横断の飛行機代は、片道で私の給料の半年分。一度行ったら途中帰国なんてとてもできないので、それだけ覚悟が必要でした。ロサンゼルスの街には電車がなく、車は必需品でしたが、貧乏学生の私には当然買えません。もっとも朝から晩まで勉強漬けで、車で遊びに出かける時間もありませんでしたが。

アメリカは、日本とは比較にならないほど豊かな国でした。日本人は勤勉に働いているし、アメリカ人に劣らない能力もあるのに、なぜこんなに経済力に差があるのか。それが不思議でなりませんでした。サンディエゴから国境を越え、メキシコのティファナに行ったときも同じ疑問を持ちました。メキシコに入った途端、街も人も貧しくなってしまうのです。地理的条件や自然条件は同じなのに、ただ国境を過ぎただけで、なぜこんなに違うのか。その疑問はいまに至るまで解けません。

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社会貢献度を可視化するトークンとは https://inforium.nttdata.com/report/actcoin.html Fri, 14 Dec 2018 02:46:51 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4350 佐藤正隆(さとう・まさたか)/ソーシャルアクションカンパニー株式会社 代表取締役。2016年から非営利組織向けのWEB制作・運用サービス「Webider」の提供を開始し、クリエイティブ助成プログラム「SOCIALSHIP」の運営やNPO資金調達・支援者管理ツール「congrant」の開始など業界貢献のために様々なサービスを展開。2018年から社会貢献を可視化する新プロジェクト「actcoin」が始動。ブロックチェーン技術の応用を研究しながら、同時にサービス開発も行う。リタワークス株式会社 代表取締役も務める。

佐藤正隆(さとう・まさたか)/ソーシャルアクションカンパニー株式会社 代表取締役。2016年から非営利組織向けのWEB制作・運用サービス「Webider」の提供を開始し、クリエイティブ助成プログラム「SOCIALSHIP」の運営やNPO資金調達・支援者管理ツール「congrant」の開始など業界貢献のために様々なサービスを展開。2018年から社会貢献を可視化する新プロジェクト「actcoin」が始動。ブロックチェーン技術の応用を研究しながら、同時にサービス開発も行う。リタワークス株式会社 代表取締役も務める。

ブロックチェーンで社会貢献活動を可視化

2018年10月10日、東京都港区は日本財団ビルの会議室で、「actcoin」の説明会が実施されました。「actcoin」とは、個人の社会貢献活動に独自コイン(トークン)を付与する無料オンラインサービスのこと。

運用するのは、同年5月22日に設立されたソーシャルアクションカンパニー株式会社。WEB制作やシステム開発を手掛けるリタワークス株式会社の佐藤正隆さんが、代表取締役を務めます。

「actcoinは、“action”と“coin”をひとつにした造語。ブロックチェーン技術を活用して、ユーザーの社会貢献活動に対してコインを付与します。たとえば、ユーザーがボランティア活動をした場合に、1時間の活動に対して1,000コインを付与する、といった運用になります」

ボランティア活動のほか、社会課題解決のための勉強会やセミナーに参加することもコイン付与の対象になります。評価の対象になるのは、ボランティアなどの現場で行なう活動といったソーシャルアクションだけにとどまりません。

「非営利組織(NPO)や企業の慈善活動に現金を寄付してもコインが付与されます。この場合は、寄付金の10%分のコインがユーザーへ還元されます」

アプリによって、活動履歴を他者と共有

「actcoin」は、スマートフォンのアプリによって獲得することができます。アプリ内のメインコンテンツは「プロジェクト」と「寄付」。「プロジェクト」は、ボランティア、イベント、勉強会などが一覧表示され、興味のある活動への参加申し込みができます。また、参加はできなくても「賛同」することでコインが付与されます。

「寄付」では、登録しているNPOの情報・活動が表示され、ユーザーの指定したNPOに直接クレジットカード決済で寄付することができます。

このアプリの特長は、登録しているユーザー間で、これまでのソーシャルアクションやコインの総量を共有できること。

「たとえば、Aさんはこれまでに総数10万コインを獲得し、その内訳は、寄付で得た3万コイン、プロジェクト参加で得た7万コインといったように、ダッシュボードで閲覧できます。SDGsに基づいており、SDGsが掲げる17個の目標のうち、ユーザーのソーシャルアクションがどの目標に貢献しているかも、ひと目でわかるようになっています。個人の社会貢献が可視化されたダッシュボードを提供することで、社会貢献のモチベーションを高め、個人間で情報共有できる機会をつくることで多くの参加を促していきます」

コインが一定の総量に達するとユーザーは「ソーシャルアクター」(社会貢献家)にランクアップします。ユーザーの継続的な活動の評価として、利用者のエンゲージメントを高めていく工夫を今後検討していくとのこと。

(左)ユーザーがソーシャルアクションを通して貢献した目標の一覧(中)獲得したコインの区分(右)ログイン画面。SNSとも連携し、簡単にアカウントが作成できる

(左)ユーザーがソーシャルアクションを通して貢献した目標の一覧(中)獲得したコインの区分(右)ログイン画面。SNSとも連携し、簡単にアカウントが作成できる

ブロックチェーンでユーザー情報を管理

「actcoin」への登録は、NPOだけでなく企業など、社会貢献に結びつく活動をしている団体すべてを受け入れています。NPOの場合、アプリを通して、プロジェクトの参加者や寄付を募集できるのは「CANPAN」のデータベースに登録されている団体が対象になります。CANPANでは、団体の情報開示度を星の個数で評価していて「actcoin」を利用できるのは、星4つ以上の団体になります。

「星の個数は、団体の基礎情報や活動概要、財政など、CANPANで開示した情報のレベルによって決まります。星4つ以上は、活動の方向性や収支の報告に加えて、活動の実績などを開示している団体です。予算がどのように利用されているのか、一年間でどんな活動をしてきたのか、透明性の高いほうがユーザーは安心ですよね」

佐藤さんは、ユーザーのアクションを可視化することで、他のユーザーに各団体の活動が共有され、さらなる寄付や支援者が増加することを期待しています。

個人のソーシャルアクションや団体の活動をプラットフォーム上で証明するうえで、肝になるのがブロックチェーン技術です。

「誰がどんなアクションを起こしたのか、『actcoin』がいくら付与されたのか。そういったアプリ内の情報は、『actcoin』のデータベース、およびブロックチェーンに記録されます。数字と羅列による個人アドレスでユーザーを管理するため、匿名性も保たれる。複数パターンのコイン付与ルールを設定するため、スマートコントラクトの実装が行われます。

現在のアクトコインのサービス全体像

現在のアクトコインのサービス全体像

ソーシャルアクションを開示する時代へ

仮想通貨やトークンは、売買を目的とした投資対象として取り扱われることもめずらしくありません。しかし「actcoin」は売買することも、サービスを決済することもできません。その狙いとは?

「仮想通貨って、採掘や売買によって入手するイメージがありますよね。採掘された量や市場価値によって価格相場が変動する。『actcoin』は最初に2,030億枚のトークンを発行しますが、売買が発生しないトークンの活用方法として、あくまでもソーシャルアクションを可視化するための目安として利用されるのです。『ポイント』という考え方もできますが、新しい概念としてあえて『トークン』という言葉を用いました。はじめは誤解を生むかもしれませんが、じっくり浸透させていければ」

佐藤さんが想定するコインの利用者層は、20代から40代。それ以上の世代は、ソーシャルアクションに対する価値観のギャップを感じる人も少なくないと言います。

「すべての人に当てはまるわけではありませんが、60代、70代の方は社会貢献活動を世間に公開することに抵抗のある方が多いように思います。彼らは戦後の高度経済成長期を支えた功労者です。そのころは、自身の生活そのものが、社会貢献活動につながっていたのだと思います。社会が豊かになった現代では、子どもの貧困や自殺者増加などの社会課題がどんどん顕在化するなど、社会の抱える課題の種類が少しずつ変わってきました。ソーシャルアクションを開示する地盤があれば、それをきっかけに、ムーブメントがどんどん拡がっていくのではないでしょうか」

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歩行を通して見える人とロボットの関係 https://inforium.nttdata.com/report/passive_walking.html Wed, 21 Nov 2018 09:34:23 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4323 佐野明人(さの あきひと)/名古屋工業大学 電気・機械工学専攻教授。 1987年岐阜大学大学院工学研究科修士課程修了。1992年博士(工学)(名古屋大学)。現在、名古屋工業大学大学院工学研究科電気・機械工学専攻教授。2002年スタンフォード大学客員研究員。受動歩行・走行、歩行支援、触覚・触感などの研究に従事。2009年「世界で最も長く歩いた受動歩行ロボット」でギネス世界記録認定。2014年9月、無動力歩行支援機『ACSIVE(アクシブ)』を実用化。ACSIVE・aLQに関連して、第29回中日産業技術賞(特別奨励賞)、グッドデザイン賞、計測自動制御学会システムインテグレーション部門学術業績賞の各賞を2015年度に受賞。また、2018年度全国発明表彰21世紀発明奨励賞を受賞。2010・2011年度日本ロボット学会理事、2015・2016年度計測自動制御学会理事、2016年度科学研究費補助金複合領域委員会委員などを歴任。日本機械学会フェロー、日本ロボット学会フェロー。

佐野明人(さの・あきひと)/名古屋工業大学 電気・機械工学専攻教授。
1987年岐阜大学大学院工学研究科修士課程修了。1992年博士(工学)(名古屋大学)。現在、名古屋工業大学大学院工学研究科電気・機械工学専攻教授。2002年スタンフォード大学客員研究員。受動歩行・走行、歩行支援、触覚・触感などの研究に従事。2009年「世界で最も長く歩いた受動歩行ロボット」でギネス世界記録認定。2014年9月、無動力歩行支援機『ACSIVE(アクシブ)』を実用化。ACSIVE・aLQに関連して、第29回中日産業技術賞(特別奨励賞)、グッドデザイン賞、計測自動制御学会システムインテグレーション部門学術業績賞の各賞を2015年度に受賞。また、2018年度全国発明表彰21世紀発明奨励賞を受賞。2010・2011年度日本ロボット学会理事、2015・2016年度計測自動制御学会理事、2016年度科学研究費補助金複合領域委員会委員などを歴任。日本機械学会フェロー、日本ロボット学会フェロー。

重力だけを利用して歩き続ける「受動歩行ロボット」

───受動歩行ロボットとはなんでしょうか?

受動歩行ロボットとは、人間の歩行と同じように膝を曲げて歩くロボットです。重力を利用して歩き、モーターなどの動力は一切必要としないのが特徴です。ロボットに動きを指示するプログラミングさえ必要としません。私たちが何もせずとも、重力を使って歩き続けるのです。しかもその動き方は、モーターを搭載したロボットよりもきれいです。

受動歩行ロボットの学術研究は、1990年に始まりました。カナダのサイモンフレーザー大学の研究者であるタッド・マクギア博士が受動歩行ロボットを初めて製作したのがきっかけです。

マクギア博士はもともと航空工学を専門としていた研究者で、その発想の根本には飛行機がありました。飛行機は動力を積んで飛びますが、一方でグライダーや紙飛行機はそういったものなしに風に乗って滑空します。この点に注目したマクギア博士は、グライダーのようにシンプルな方法で歩行し続ける仕組みを研究することにしたのです。その実験結果は衝撃的なものでした。なにしろ、動力を搭載しないロボットが、重力だけを使ってスロープを歩き続けることができていたからです。

私は当時、モーターを使ってロボットを歩かせる研究をしていたのですが、マクギア博士の実験映像にはとても感動しました。その実験では、受動歩行ロボットは、四本の足が二組ずつ動くものでした。また、転倒の回数もとても多かった。その後研究が盛んになり、いまでは、私の研究室で開発している受動歩行ロボットは27時間歩き続けることができるまでに進化しています。

提供:名古屋工業大学 佐野明人教授

───ロボットが「歩く」ということについて、大きな発想の転換があったのですね。

そうです。それまでのロボット開発では、「ロボットは人間が動かすもの」という考え方が当たり前で、ロボットをいかに思い通りに動かすかに焦点が置かれていました。それは現在でも変わらず、プログラミング教育はその最たるものです。しかし、マクギア博士の受動歩行ロボットは、ロボットと人間の関係の新たな可能性を示しました。私は、自分自身がロボットをモーターやプログラムで思い通りに動かそうとしていた立場でしたが、以来、「ロボットは、本当はもっと違う歩き方や動き方をしたいのではないか?」という観点を持つようになりました。

受動歩行ロボットは、重力だけを使って私たちが何もしなくても歩きます。ちょうど私たちが歩くときにぼんやりしながらでも自然に歩いているのと同じように。ここで何が重要かというと、往々にして意識的な行動だと考えられる歩行が、実は生命体に限られた現象ではないということを受動歩行ロボットが示している点です。歩行とは行動というよりも、重力によって起きる一種の自然現象だと私は捉えていて、だからこそ歩行を「歩行現象」と呼んでいます。右足を一歩前に出せば左足が地面から離れる歩行現象は、生命・非生命に関係なく起きる単なる物理現象なのです。人間はうまくその物理現象を取り入れて、重力を活用して歩いているとも言えます。

ロボットに肌で触れ、ロボットの声を聞く独特の実験環境

───歩行が物理現象であるという観点は刺激的ですね。研究の現場では具体的にどのような方法をとっていらっしゃいますか。

私たちの研究室の特色のひとつは、ロボットと実際に触れ合う時間が長いことでしょう。受動歩行ロボットにはプログラミングが搭載されていません。なので、最初の一歩を踏み出させるときには、人間が手を添えてやらないといけないのです。学生たちは声をかけながら受動歩行ロボットを歩かせます。最初に手を添えておくのですが、バランスが取れ始めるとロボットはまったく勝手に手元から抜け出て、スタスタと歩き始めるんです。その時、まるで命が吹き込まれているような感じさえするんですよ。転倒するたび学生たちは手を添えてこの作業を繰り返します。そうすると不思議なことに、自身の手肌を通してロボットの調子の良し悪しが感じられてくる。

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私たちはこのようにしてロボットの調子を感じ取りながら、ロボットが動きたいようにサポートしています。無理矢理動かすのではなく、ロボットが「手を放していいよ、もう歩けるから」と言っていると感じられるときに手をすっと放す。私たちはロボットと触覚を通してコミュニケーションをしているわけです。これはプログラムを作って意のままに制御するのとはまったく違うロボットとの接し方です。

人間とロボットの距離がごく近い実験環境をあえて作っているのにも理由があります。これまでの機械工学は人間を排除する形で、機械にのみ注目して進んできたところがあります。しかしこれからは、人間と共存する機械を作っていかねばなりません。そのとき、人間の感覚こそ大切にしなければならないのです。

受動歩行研究を人間の歩行機能の改善に役立てる

───受動歩行ロボットの研究の課題はなんですか。

歩行の安定性をあげることですね。受動歩行ロボットの研究は基礎段階で、現在では一日以上歩き続けることができるようになったとはいえ、まだ条件によっては転倒します。平面を歩くのも得意ではありません。私たちが目下取り組んでいるのは転倒回数を減らすことです。受動歩行ロボットにも、人間とおなじように調子の良し悪しがあって、調子が悪いと転んでしまうのです。

このような側面があるので「ロボットに歩かせる必要はない。移動目的なら胴体の下に車輪をつければよい」という意見ももちろんあります。しかし私は受動歩行の奥深さに惹かれています。というのも受動歩行の研究を通して、物理現象としての歩行にまつわる原理の部分、人間の歩行にも当然共通する部分がより具体的に見えてくるからです。どのようにしてロボットの歩行を改善することができるかがわかれば、今度は人間の歩行機能の改善にフィードバックできるという大きな利点があります。

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忙しい先生こそAIを助手にすればいい https://inforium.nttdata.com/report/blackboard.html Tue, 30 Oct 2018 13:43:25 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4284 100年変わらない黒板業界
坂和寿忠(さかわ・としただ)/株式会社サカワ 常務取締役。100年続く黒板メーカー、株式会社サカワの5代目。2009年の入社以後、「しゃべるくん」「Kocri」「ワイード」「Jyosyu」など、新しい時代の教育で活躍する黒板を開発し続ける。

坂和寿忠(さかわ・としただ)/株式会社サカワ 常務取締役。100年続く黒板メーカー、株式会社サカワの5代目。2009年の入社以後、「しゃべるくん」「Kocri」「ワィード」「Jyosyu」など、新しい時代の教育で活躍する黒板を開発し続ける。

───坂和さんは100年続く黒板メーカー「サカワ」の5代目です。まず、黒板業界について簡単にご説明いただけますか?

日本の黒板は明治時代、学校制度の始まりとともに普及し始めました。児童数も学校の数もどんどん増え、特に戦後は団塊世代の誕生にともない、黒板メーカーも増えつづけました。最盛期には、各都道府県に数社の黒板屋さんがあって、それぞれのエリアで共存していたようです。
ところがこの間、黒板の機能も使い方は全く変わっていません。書いて、消して、また書く。変わらない商品というのは、必然的に価格が下がります。すると仕事の取り合いになって競争が激しくなり、20〜30年前までは100社ぐらいあったのが、現在では30社ぐらいまで減りました。言ってしまえば斜陽産業です。

───それでも坂和さんが黒板メーカーを継ぐ決心をされたのはなぜですか?

ぼくは生まれたときに「こくばん」という名前を付けられそうになったんです。(笑) 家業を継がなくては、という義務感を幼いころから植え付けられていて、今思うと、なんとなくいつも頭の片隅には黒板があったような気がします。ただ、ぼくは大学で理系を専攻していました。入社当時の黒板は理系の要素がゼロだったので、正直、心躍る職業ではありませんでしたが。

ぼくにとってラッキーだったことに、入社した頃ちょうど文部科学省の「スクール・ニューディール構想」で、電子黒板が学校に入り始めていました。ぼくは「東京で電子黒板を売ってこい」と東京支社を任され(支社といってもぼくひとりですが)、『しゃべるくん』という電子黒板を売り始めました。

教室の隅でホコリをかぶっていた電子黒板

当時、電子黒板は1台100万円ぐらいの価格でした。行政から予算が出ていますし、売れることは売れるんです。しかし数か月後に購入してくれた学校へうかがうと、教室の隅でホコリをかぶっている。せっかく生産しても、これじゃ意味がないと思いました。

電子黒板がホコリをかぶってしまう理由をひも解いていくと、案の定、操作方法に問題がある。難しすぎるんですよ。ただでさえ忙しい学校の先生にとって、こんな複雑なモノを覚える時間なんてありません。わざわざ電子黒板を使わなくても授業はできるわけですから、使うメリットが少ないんでしょうね。

───サカワさんは2015年にハイブリッド黒板アプリKocri(コクリ)をリリースしましたが、その開発経緯を教えてください。

転機は急速に普及しだしたスマホです。2014年頃だったか、スマホのアプリを使って何かできないかと思ったのがKocriの始まりです。

当時、当社にはアプリを作れる人はいなかったし、ぼくも何をしたらいいのかわかりません。とにかくインターネットでいろいろ探して、企画・制作集団であるカヤックさんに「黒板を変えたいんですけど、いっしょに何かできませんか」と、お問い合わせフォームから連絡しました。その後すぐにお返事いただいて、Kocriの共同開発が始まりました。

スマホを教室に持ち込もう!

このときぼくが提案したコンセプトは「スマホを教室に持ち込もう」でした。先生がスマホを手に教室に入って、授業のスタートからスマホを操作してポンポン進めていく、そんな授業をイメージしていました。

───先生たちの反応はいかがでしたか?

めちゃくちゃよかったですよ。スマホの画面のなかで教材が作れるので、極端な話、電車に乗っていても授業を準備できます。そのうえ、操作も簡単。パソコンの基本的なソフトを扱うレベルで、誰でも使える。

ところが実際に授業で使うとなると、高いハードルがありました。肝心のスマホに対する抵抗感です。教育現場には、先生がスマホを教室に持ち込んで授業するなんてとんでもないというイメージがあります。

タブレットの使用は文科省の整備指針の計画の中にも入っていますが、先生全員に配布するにはお金がかかりすぎます。ぼくとしては、今できることとして、個人のスマホをどんどん活用すればいいと考えています。一方、インフラの問題もあります。学校にはWi-Fiが飛んでいないし、教室の無線LANの普及率もまだまだです。

普通教室の無線LAN整備率/文部科学省「平成29年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」より

普通教室の無線LAN整備率/文部科学省「平成29年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」より

横長の黒板の良さを生かしたプロジェクター

───電子黒板界ではプロジェクターも進化していますが、サカワさんの「ワイード」も画期的です。開発経緯を教えてください。

「ワイード」はあくまでも黒板サイズいっぱいに大きく映せるというのが特徴のプロジェクターです。既存のプロジェクターのスクリーンサイズは4:3や16:9で、黒板の半分程度の面積にしか投影できません。たとえば、漢文の長い詩は全文書いて教えたいとか、教材で地図とパワーポイントを使うのに同時に映して説明したいとか、そんな先生たちの声を聞いていました。

黒板サイズに投影できるプロジェクターは技術的な難しさもあるようですが、色々と探した末、ある海外メーカーさんと巡り合うことができました。そのメーカーさんは、もともと黒板専用ではなかったものの横長に投影できるプロジェクターを開発されていて、ちょうど日本での販路を探していたところでした。そこで、提携して誕生したのが「ワイード」です。教材はKocri、プロジェクターはワイード、とセットで使っていただければ、理想的です。

───「ワイード」のプロモーションビデオはとても面白いですよね。どういった意図で作成されたのでしょう?

ありがとうございます。教育のIT教材が集まる「教育ITソリューションEXPO」に
出展した時、プロジェクター業界では後発であるぼくらが、お披露目するには、何かインパクトが必要だと考え、知り合いのクリエイターさんに製作してもらいました。商品名が決まる前に、まず歌詞ができて「♪ワイード、ワイード」という歌になったら、なんか面白いし覚えやすいから、商品名も「ワイード」でいいねと(笑)

ワイードのプロモーションサイト ※画像クリックでリンク先へ

ワイードのプロモーションサイト ※画像クリックでリンク先へ

───お話をうかがっていると、製品開発にスピード感があります。

ある意味、うちは日本的じゃないかもしれません。日本企業の製品開発って、検証に次ぐ検証で数年かけて完璧なものをつくり、満を持して製品化します。そのときは、まず既存にある市場でマーケティングしてみて、当たるかどうかも分からない状態でも、売上や利益を数字に出して予測をし、開発コストに見合いそうなら製作に着手します。たぶんその頃には、その製品はもうタイムリーではなくなっているのではないでしょうか。

でも、ぼくらは大手じゃないし、そこはフットワークを軽くして、面白そうなもの、便利なそうなものだったら、なるべく早くでまずモックアップを作って、すぐ展示会などに出します。そこで市場の反応を見つつ、ユーザーに使ってもらいながら修正していって、最終的に使えるものに仕上げていきます。

「とりあえずやってみる」精神でまずは先に形にすることを心掛けてますね。

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生活に溶け込むバンキングアプリ創発 https://inforium.nttdata.com/foresight/yucho_bankingapp.html Fri, 19 Oct 2018 08:42:13 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4251 ユーザー視点を追求するデザイン思考

地方銀行とベンチャー企業とをつなぎ、オープンイノベーションを起こす場として、NTTデータが提供している「BeSTA FinTech Lab」。ここでは主に、デザイン思考を取り入れた独自のプログラム「DCAP」を使用し、新規事業開発をサポートしています。

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先日その活動のひとつとして、国内最大規模の金融機関であるゆうちょ銀行とともに、2日間にわたるワークショップを開催しました。テーマは、銀行利用者のライフサイクルに寄り添ったバンキングアプリのアイデア創出。

参加者は、ゆうちょ銀行の行員とNTTデータの社員、アイリッジのメンバー、そして有志の大学生の計36名。6名ずつ6つのグループに分かれてワークに取り組みました。

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実は、今回のワークショップのテーマは、実際にゆうちょ銀行が抱えている課題から導き出されたもの。人々の日常のあらゆる場面で、スマートフォンが大きな影響を及ぼすようになった昨今、金融事業にもさまざまなIT系プラットフォーマーやベンチャー企業が参入し、従来の金融機関にはなかった革新的なサービスを、スマートフォンを通じて提供しています。

こうした状況も踏まえ、ゆうちょ銀行では、中期経営計画として「お客さまへ“新しいべんり”“安心”の提供」を掲げています。その目的は、スマートフォン等を活用したサービスを強化することにより、お客さまの日常生活を一層便利なものにすることです。そこで、今回のワークショップではユーザー視点をもっとも重視することにしました。そこで活用するのがデザイン思考を用いた手法「DCAP-ID」です。

DCAP

デザイン思考とは、ユーザーが求める価値を追求することで、イノベーションを生み出そうという考え方のこと。現在、世界的に注目を集めているビジネス手法ですが、その背景には、ユーザーが商品の機能や性質ではなく、それによって得られる体験や、自身の生活にどんな意味を与えてくれるかに、価値を見出すようになってきたという変化があります。

今回想定したユーザー像(ペルソナ)は、「20代~30代の働く女性」「20代~30代のワーキングマザー」「10代~20代の大学生や新社会人」の3つ。各ペルソナをそれぞれ2チームが担当し、ユーザーのニーズに即したバンキングアプリのアイデアを模索していきました。

ユーザーについて想像をふくらませる

まず1日目に行ったのは、ペルソナを深掘りし、趣味や交友関係など、さまざまな要素を検討しながらカスタマージャーニーマップを作っていく作業です。

ペルソナには、年収や居住地を始めとした細かい情報が、あらかじめ設定されています。それらに補足する形で、人柄や生い立ち、生活環境などのより細かい情報を、グループ内で話し合います。想像をふくらませることでユーザー像をより具体的にし、彼らが求めている価値を明確化させたり、隠れていたニーズを顕在化させたりしていくのです。

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このユーザー像をより具体化させるプロセスは、デザイン思考を活用するにあたりとくに重要なポイント。なぜなら、ユーザーのことをよく知らなければ、ユーザーファーストのサービス開発はできないからです。自分自身をユーザーと仮定して考えるのはもちろん、チーム内でペルソナと近い特性を持つ人の意見を参考にしたり、スマートフォンで情報を収集しながら、活発な意見交換が行われていました。

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2日目には、できあがったカスタマージャーニーマップからユーザーが抱えている課題を抽出し、それを解決できるバンキングアプリのアイデアを出していきます。

多かったのは、簡単に家計簿がつけられたり、貯金のサポートや資産形成のアドバイスが受けられる、というもの。お金の問題はライフスタイルの根幹に関わることという視点から、なかには、収入や支出の記録とともに写真を思い出アルバムとして管理できたり、他のアプリユーザーの中から相性のいいパートナーを紹介してくれたり、といった画期的なアイデアも生まれました。

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こういったアイデアは、機能や性質、コンセプトを前提に考えていては、なかなか思いつくものではありません。1日目のワークの時間をすべて、ユーザー像を想像し彼らが求める価値を知ることに費やしたように、徹底的にユーザー視点に立ったデザイン思考の手法だからこそ実現できたものでしょう。

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VRの浸透するミライのつくり方 https://inforium.nttdata.com/report/vr_future.html Tue, 25 Sep 2018 03:33:06 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4175 VRを普及させる、という強い使命

山田 近藤さんの著書である『ミライのつくり方 2020-2045』には、「Palm」が「iPhone」に変わって広まったように、VRをどんどん日本に普及させなければならないと書かれていますね。

山田達司(やまだ・たつし)/株式会社NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ サイバーフィジカル技術担当 シニアスペシャリスト。NTTデータでは先進ITデバイス及びセキュリティの専門家として研究開発、製品開発に従事。現在はAR/VRの企業内導入推進に携わる。1996年米国で発表されたモバイルデバイスPalmをいち早く日本に紹介。Palm OSを日本語化するJ-OSの開発、関連書籍の執筆、開発者コミュニティ支援を行う。自称“無認可Palmエバンジェリスト”。Palmユーザーからは"Palmの神様"と呼ばれ、ネット用語「神降臨」の元祖とも言われる。

山田達司(やまだ・たつし)/株式会社NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ サイバーフィジカル技術担当 シニアスペシャリスト。NTTデータでは先進ITデバイス及びセキュリティの専門家として研究開発、製品開発に従事。現在はAR/VRの企業内導入推進に携わる。1996年米国で発表されたモバイルデバイスPalmをいち早く日本に紹介。Palm OSを日本語化するJ-OSの開発、関連書籍の執筆、開発者コミュニティ支援を行う。自称“無認可Palmエバンジェリスト”。Palmユーザーからは”Palmの神様”と呼ばれ、ネット用語「神降臨」の元祖とも言われる。

近藤 Palmのアイデアが、後のiPhoneなどに使われていますし、Palmがあったからこそスマートフォンへの流れにつながったと思っています。

山田 Palmは、パソコンに入力したデータを同期して持ち歩けるようにしていましたが、初期のiPhoneもパソコンに入っている音楽などを同期して持ち歩くという使い方がメインでしたね。

近藤 僕は、1996年頃に「PalmPilot」を初めて買って、手のひら(Palm)に乗るデバイスにむちゃくちゃ可能性を感じていました。山田さんは、Palm OSを日本語化する「J-OS」を作られていますよね。J-OSには僕もお世話になっていました。

近藤義仁(こんどう・よしひと)/株式会社エクシヴィ 代表取締役社長。幼少期にプログラミングを会得。中学1年生からパソコン通信をはじめ、中学2年には自作ホストプログラムでSysopを務める。ゲームプログラマとして大学を中退し上京。PlayStaion1/2/Xbox等のコンシューマタイトル制作に関わり、描画エンジン・アニメーションエンジン等を開発。2012年Oculus Rift DK1に出会い、 自らVRコンテンツの開発を行い、VR普及活動をはじめる。2010年株式会社エクシヴィを立ち上げ代表取締役社長となる。並行して2014年からOculus Japan Teamを立ち上げ、Oculus VR社の親会社であるFacebook Japan株式会社の社員になる。現在はエクシヴィにてVRコンテンツ開発を行っている。個人でも”GOROman”として、VRコンテンツの開発、VRの普及活動を広く行っている。 代表作は Mikulus, Miku Miku Akushu,「初音ミク VR Special LIVE -ALIVE-」ロート デジアイ, DMM GAMES VR × 刀剣乱舞ONLINE 三日月宗近Ver.など多数。2018年配信もできるVRアニメ制作ツールAniCastを発表。東雲めぐ©GugenkaのSHOWROOM生配信に技術提供。

近藤義仁(こんどう・よしひと)/株式会社エクシヴィ 代表取締役社長。幼少期にプログラミングを会得。中学1年生からパソコン通信をはじめ、中学2年には自作ホストプログラムでSysopを務める。ゲームプログラマとして大学を中退し上京。PlayStaion1/2/Xbox等のコンシューマタイトル制作に関わり、描画エンジン・アニメーションエンジン等を開発。2012年Oculus Rift DK1に出会い、 自らVRコンテンツの開発を行い、VR普及活動をはじめる。2010年株式会社エクシヴィを立ち上げ代表取締役社長となる。並行して2014年からOculus Japan Teamを立ち上げ、Oculus VR社の親会社であるFacebook Japan株式会社の社員になる。現在はエクシヴィにてVRコンテンツ開発を行っている。個人でも”GOROman”として、VRコンテンツの開発、VRの普及活動を広く行っている。代表作は Mikulus, Miku Miku Akushu,「初音ミク VR Special LIVE -ALIVE-」ロート デジアイ, DMM GAMES VR × 刀剣乱舞ONLINE 三日月宗近Ver.など多数。2018年配信もできるVRアニメ制作ツールAniCastを発表。東雲めぐ©GugenkaのSHOWROOM生配信に技術提供。

山田 私は、Palmを見た瞬間に、これはすごい、と感じて、何が何でも日本に持って来なきゃと思いました。近藤さんも「Oculus Rift」を見て、同じようなことを感じたそうですね。

近藤 2012年にクラウドファンディングサイトで「Oculus Rift DK1」を見つけて、2013年に入手し、これは日本に持って来ないと、と思いました。山田さんの活動には、かなり影響を受けていますよ。

山田 当時、なぜあれほど強い意志や使命で行動できたのかは理性的に説明できないですけどね。

近藤 僕も、インタビューとかで「絶対来ると思うんですよ」と答えていましたが、何の根拠もありませんでした(笑)。発表されたばかりの頃は、どうしても一部のマニア向けの機器になっていて、よさを伝えきれなくて、悔しい思いをしましたね。

山田 悔しい思いを何度もされながら、VRは何を見せるかが大事だと気付き、Mikulusなどの試みも行ってきたのですね。

近藤 デバイス自体のことを言っても、人には伝わらないと気付いたわけです。それよりも、デバイスによって人々の生活がどう変わるのか、どう便利になるのか、を具体的に示すことで、理解してもらえるのだと考えました。マニア同士なら「このデバイスはすごい!」とすぐに共感してもらえますが、デバイスに興味がない人へ伝えるには、工夫が必要です。コンテンツ化すればよいのではと考えました。

VR遠隔会議のコミュニケーション力

山田 NTTデータでは、「VR遠隔会議」というシステムを構築していて、先日のテレワーク・デイズの期間中に社内トライアルを行ってみました。実際に、このシステムをお使いいただきながら、ぜひ、近藤さんのご意見をお聞かせください。今、右にいる眼鏡をかけているアバターが私です(笑)。リアルタイムに自分が話した会話がテキストで上に出てきます。

山田によるVRミーティングのデモ

近藤 文字起こしがすごく早くて、いいですね。

山田 起こされた会話文は画面の右側のチャットウィンドウにまとめられます。ブラウザなどで、会議をリアルタイムに見ることもできます。さらに、IDに設定された利用言語に基づいて自動翻訳されるので、異なる言語での会議も行えます。さらに、将来的には、たとえば、経営陣がPCの画面で複数の会議に同時に参加できるようにして、意思決定を飛躍的に早くすることなどを考えています。

国内企業でこのようなシステムを使っているところは少ないので、まずは我々が試しに使っていき、さまざまな企業に広げていきたいと思っています。『ミライのつくり方』には、VRの時代になるとコミュニケーションのあり方が変わり、人の移動がなくなると書かれていました。それを、このシステムで実感できるはずです。

VR遠隔会議を開発していると、これまでのテレビ会議や電話会議よりも、本当に人がいるような感覚が強いと感じています。人との距離感や空気感、パーソナリティなど、これまではネットワークに乗せることが難しかったことが、VRによってある程度乗せていけると思っています。

VRの表現で必要なこと

山田 開発中は、VRだと意思疎通がしやすいことがわかりましが、その理由はわかっていませんでした。『ミライのつくり方』を読んで、VR空間では、視線を合わせることができ、話を聞いていることや理解していることを身振りで示せることで、コミュニケーションがよくなることがわかりました。一方で、今後、このVR遠隔会議を、シンプルにとどめたほうが良いのか、よりリアルを目指すべきなのか、非常に悩んでいます。

近藤 本質的に何を伝えたいか、が重要だと思います。僕は、情報の大部分はノイズだと思っているので、リアリティを出すよりも、眉毛の動きなどだけでも十分だと思います。たとえば、「Facebook Spaces」は、リアルではなく、マンガのようなキャラクターですし、身振りもシンプルで、音の定位で誰が喋っているかがわかります。写実的にリアルにしていっても、ノイズが増えるだけだと思いますね。

Facebookが開発したVRアプリ「Facebook Spaces」。Facebookの友達を3名まで招待してコミュニケーションできる

山田 『ミライのつくり方』には、アバターを自分と違うキャラクターにすると、振る舞いが変わっていくことが書かれていました。たとえば、男性が女性のアバターにすると、女性っぽくなるとか。これをうまく利用すれば、“できるビジネスマン”のアバターに影響されて仕事の効率が上がる可能性もあるのでは。

近藤 そうですね。役員がフレンドリーなアバターを使うと、現場の人からも親しまれるようになることも考えられますね。クマのぬいぐるみを使ってVR出社するシステムを作ったのですが、とある会社の社長がこのシステムで喋りだすと、社員もフレンドリーに話しかけていましたよ。

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VR空間の「Oculus Rooms」で仕事の話をするときに、トイレにいたこともありました(笑)。現実ではありえないことですが、トイレにいても、Oculus Rooms内ではフォーマルな身なりでビジネスミーティングができ、フレンドリーに会話できるのです。VR空間では、人に会うためにわざわざお化粧する必要もなく、ヒゲがボーボーで寝癖があってもビジネスミーティングができます。

山田 せっかくテレワークをやって効率的に働こうとしているのに、女性はテレビ会議の前に頑張って化粧する必要があって面倒という話もありますね。VR空間では、意思疎通できる最低限までノイズをそぎ落としたほうがコミュニケーションは成立するのでしょうね。
我々も、VR遠隔会議のシステムをもっと便利なものにしていき、どのくらいの効果があるかを試していきたいと考えているので、また意見交換できるとうれしいですね。

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長尾真(情報工学者)新井紀子(数学者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/nagao_arai.html Wed, 05 Sep 2018 04:00:54 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4098 人間の知能を支えるもの

新井 私が「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトを始めたときに人工知能学、特に言語処理の方面から「何でこんな役に立たないことをするのか」という批判的なご意見を受けました。そんな中、長尾先生が「それは今やるのはなかなか面白かろう」と、言語処理学会の記念大会などに私を講師として呼んでくださったのが印象に残っています。

長尾 でも、それから4~5年のうちに東ロボをおやめになった。「もうちょっとやったら面白いところまで展開するのでは」と思っていたので、それが残念です。

新井 いえ、まだプロジェクトはやめていないのです。毎年11月の発表会をしばらく休んでいるだけで、それぞれの科目でまだ続けています。特に、数学がEnd to Endで偏差値75の成果が出たのは、自分としてはこのプロジェクトの成果だと思います。長尾先生も自動証明の本を翻訳されているので、その困難さをとてもよくご存じだと思います。

(左)長尾真(ながお・まこと)/京都大学名誉教授。元京都大学総長。国立国会図書館元館長。1936年生まれ。1959年京都大学工学部電子工学科卒業。73年京都大学工学部教授、89年日本認知科学会会長、91年機械翻訳国際連盟設立初代会長、94年言語処理学会設立初代会長、97年第23代京都大学総長、98年電子情報通信学会会長、99年情報処理学会会長、01年国立大学協会会長、04年情報通信研究機構初代理事長、07年国立国会図書館館長。 (右)新井紀子(あらい・のりこ)国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長、同 情報社会相関研究系教授、一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学大学院博士課程を経て東京工業大学より博士(理学)取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタ。16年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。

(左)長尾真(ながお・まこと)/京都大学名誉教授。元京都大学総長。国立国会図書館元館長。1936年生まれ。1959年京都大学工学部電子工学科卒業。73年京都大学工学部教授、89年日本認知科学会会長、91年機械翻訳国際連盟設立初代会長、94年言語処理学会設立初代会長、97年第23代京都大学総長、98年電子情報通信学会会長、99年情報処理学会会長、01年国立大学協会会長、04年情報通信研究機構初代理事長、07年国立国会図書館館長。
(右)新井紀子(あらい・のりこ)国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長、同 情報社会相関研究系教授、一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学大学院博士課程を経て東京工業大学より博士(理学)取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタ。16年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。

長尾 自動証明は1960年代初めからアメリカで言われていたものですが、人間の知能と関係していると感じられて面白かったです。私はLISPというプログラム言語が大好きで、いろいろと実験したことがあります。

新井 私も最初に作った自動証明機をLISPで動かしました。

長尾 ああいう言語は、今でも大学できちんと教えたほうがいいと思います。人間の知能を支えているのは、論理的で数学的なものであると思いますから。

新井 ええ。Pythonばっかり教えていないで、ですね。

長尾 LISPで書いた自動証明プログラムを元に、生徒が証明するプロセスをチェックするシステムを作ったことがありました。数学の定理を証明するときや数学の問題を解決するとき、人間はどこかで間違えます。そのとき「定理証明機」が人間のやっている証明プロセスをパラレルにチェックしながら、「あなたはここで間違えましたよ」とか「これはこういう定理の適用の仕方を間違ったのではないですか?」と聞くんです。

この研究をもっと深めていくと、人間の理性的な推論プロセスというものを深く認識できるのではないかという気がしていましたが、残念ながら途中で中止してしまったんですね。

書いて、話している言葉の曖昧さ

新井 「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトは、「今のAIというものが、現実の18歳の人間に比べてどういうところでは凌駕しえて、どういうところは逆に厳しいのか」を一つひとつ浮き彫りにすることができると思って始めたものです。

例えば、数学の問題。自然言語文で書かれたものに関して、機械が読める形式に翻訳するのは、実は機械翻訳と同じですね。ただ、今あるような統計的な機械翻訳ではなく、辞書をかなり大量に書いてやらないといけないタイプの機械翻訳をしたのです。

それに対して構文解析などでは、ある程度の統計的な処理をしないと「こういう構文木ではないか」というものが出てきませんので、一部に統計的手法も用いました。それで辞書を数万の単位で書き、今に至ったんです。こうした辞書を整備しないと、人間には「これくらい当たり前だ」と思われるような文でさえ、AIには正確に翻訳できないのですね。

この例と、長尾先生が提唱されている「産業日本語」には、ある意味で共通するものを感じました。「産業用にすぐプログラミングできるようきちんとした形の自然言語文で書くのであれば、こういう風に書いてくれないと困る」とか「あるシーンだとこういう風に書いてくれないとすぐに仕様にならない」という問題意識と通底すると感じたのです。

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長尾 人間が書いたり喋ったりする言葉は曖昧で解釈の余地もあるし、いろいろ振れるから、正確性を期すためには「明確性を持った表現は何か」ということを、もっとハッキリさせていかねばならないのは事実です。例えば、フランスのアカデミーなどは「フランス語として正しい表現はこういうものであるべきだ」という、ある種の言語に関する規範、モデルを規定しています。

日本語の場合、国立国語研究所などの機関がある程度そういうことを規定してくれると期待していたのですが、実際はそうはならず、「この言葉は現在自由に使われていて、いかようにも解釈できる」とか「いろいろな単語で意味がどんどん拡張したり変遷したりしていく。そのことを是認する」といった世界に留まっています。

果たしてこれが良いのか悪いのか。そういう言葉への姿勢が日本人のキャラクターを表現しているという点では良いかもしれませんが、ロボットにとってこうした曖昧さは一番悩ましい点です。

新井 そうですよね。

長尾 新井さんの本にも、佐藤さんの言葉として「東大入試の問題のほとんどは、うまく定式化すれば数式処理で解ける。ただし、自動で『うまく定式化』できるとは思えない」(『AI vs.教科書が読めない子どもたち』p.60より)と書かれていたけれど、まさにその通りで「いかにクリアにできるか」がロボットにとって必須であるのに対し、人間の言語というのは全く逆です。

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証明は機械にやらせればいい

新井 ご存知の通り、私は元々の専門が数学基礎論なので、フレーゲから始まり、ヒルベルトやラッセル、あるいはタルスキといった流れの中にいたわけです。今、先生がおっしゃったことは、まさにフレーゲやラッセルが持っていた問題意識と非常に近いと感じます。彼らは「数学の基盤をきちんとするために、人間の話す言葉、数学で使う言葉を整理していこう」とする流れを生みました。

それがまさに今日のコンピュータや人工知能、自然言語処理へと繋がったわけです。フレーゲやラッセルは、哲学者であり、数学基礎論の創始者でもあり、現代言語学の始祖でもある。そのような多義性を持って生まれたものが、現在にも通用する議論だったと思います。

長尾 確かにそうです。

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新井 これまでの長尾先生のお仕事を見ていった場合にも、そうした多義性があるという感想を私は持っています。人工知能の初期のことであるとか、第五世代コンピュータというようなロジックの流れは重々承知されていながらも、日本で最初に統計的あるいは確率統計的な方法で、人工知能的な問題解決をなさろうとお思いになったのが長尾先生でした。

例えば、初期に手掛けられた「郵便番号読み取り装置」のお仕事。あれは社会に対して非常にインパクトのあるお仕事でした。手書きの数字の教師データを使ったものだと思うのですが、今の画像認識やパターンマッチングに繋がるような統計的な手法でなされていらっしゃいました。

次に「かな漢字変換システム」を作られましたよね。かな漢字変換のない時代は、大きな箱から植字を探すようなことをしていましたが、キーボードの中で日本語を書けるようになりました。少数民族が使う言語をお救いになったというご功績が先生はおありになる。まさに言語モデルというか、マルコフ過程を上手にお使いになったということですよね。

先生は数学のマルコフ過程というものを大変に勉強されて「あ、これだったらいけるんじゃないか」とお思いになられたと思うのですが、その頃の気持ちはどのようなものでいらしたのですか。つまり「統計」や「確率過程」に注目しようとお思いになった理由を知りたいです。

長尾 公理系があれば、そこからいろいろな形で定理が導き出されるから、これらは「人間が考えなくてもいいことではないか」と思ったのです。数学者の方々に言うと叱られるので、あまり言わないのですけどね(笑)。つまり「証明は機械にやらせればいい」と。それより、世の中には定理証明のプロセスでは解決できないような問題が山ほどあるに違いないから、人間がそれに取り組むためには、機械は何をやったらいいのかと考えたのです。

その着想があって、厳密な定理証明みたいなものでなく、曖昧性のあるものを扱うには、統計とか確率とかマルコフ過程などを用いて物事をモデルにして扱うことが必要ではないかと感じました。かな漢字変換もそういうことです。マルコフ過程で最も確率の頻度の高いところに飛んでいくような仕組みですね。

新井 普通だと変換候補を一から順番に出してしまうところを、マルコフ過程を使って「この直後だったら多分これだろう」とか「この人だったらこれだろう」と出すのは、本当に画期的でした。そういうユーザーインターフェイスに対する勘どころのようなものも先生は押さえていらっしゃる。その落としどころとか勘どころとかが、技術者ぽくないと言ったら変ですが、非常に多義的だと思うのです。

一期一会の状況は、統計にはない

長尾 人工知能という言葉は1950年代くらいに作られたものです。当時、アメリカなどを中心に「コンピュータは万能である」と言われていました。私が一番興味があったのは「コンピュータが人間の頭脳に取って代わるとは言わなくても、人間にどこまで迫れるか」ということでした。

機械翻訳にまず取っ付いたのは、言語というのは人間の特徴を現す最たるものであるから、その頭脳の中で言語はどう操られているかがわかれば「人間がわかった」ということに繋がっていくだろうとチャレンジしたのです。

しかし、工学部の人間としてそのことに取り組んでいるだけでは、20年、30年、40年経っても何の社会貢献もできない。基本的な問題にチャレンジしながら、社会に対してその時々にどのように貢献していけるかを考えていました。

新井 長尾先生は『「わかる」とは何か』という著書で「意味」のお話をお書きになっています。機械翻訳の場合、記号列どうしの直接の対応関係を考えればよいということなので、意味の部分を実はバイパスして(省いて)しまっていますよね。

長尾 そうですね。

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新井 統計的に落としどころのある意味にしていくと、やはり「一期一会」の会話を機械翻訳するのは難しいと思います。例えば、先生と今日お話しさせていただいているのは、おそらく一期一会です。先生もこれより前に似たような内容をどこかでお話しになったかもしれないですけれど、今日は私のためにチューニングして、多分いつもと全く同じことはお話になっていらっしゃらないと思います。私も今日は長尾先生がお相手だと思い、覚悟を決めてお話をさせていただくので、こうやって誰かに一度も話したことがないようなことをお話しするわけです(笑)。

そうした一期一会の会話では「統計の中にはこの文はない」ということがあったとしても、二人だからわかることがあります。フレーゲであったり、マルコフ過程であったり……二人だとわかり合える話題なので、途中を省きますよね。

けれど、Google TranslateやVoiceTraだと翻訳し損ねるかもしれない。それらはスパースですからね。スパースな事象のモデリングに失敗して、どれが固有名詞かどうかもわからないという事態は面白いなと思います。

長尾 ヴィトゲンシュタインなどが言うように「言葉というのは場面に従う」と。あるいは「場面で解釈しなければ言葉の意味は定まらないのだ」という世界を、これからどういう風に築いていけるかですね。そういうことをもっと真剣に考えないとダメじゃないかと思います。

新井 「明けの明星」と「宵の明星」というのは、どちらも同じ金星を指しているわけです。でも、2つが同じ意味かというと違う。そういう「場面と状況における言語」というのが、今はどうしてもコンピュータで処理する際に抜けています。そうしたところが、機械翻訳とか「東ロボ」を通じて残された問題として明確になってきたと思います。

長尾 ロボットの世界でも、言語を解析して翻訳するとか、東大入試の問題の文章を解釈するとか、文字や画像を認識するとか、作業をするロボットとか、いろいろ開発されていますけども、いずれも不十分です。

それをもう少し「人間らしいロボット」にしていこうとするなら、人間の持つ五感にあたるようなものをその都度取り入れ、統合的に解釈して、何かの仕事をするとか、判断するという機能をまず持たせないといけない。言語や画像の認識だけでは解決できない問題が山ほどあるわけです。

これからのロボットの研究というのは「トータルな世界へいかにチャレンジしていけるか」になるでしょう。ドメイン(領域)を広げて、人間が住んでいる世界と同じようなドメインでロボットがどこまで勝負できるかという段階に入って来つつあると思うんですね。

新井 数学の側から言うと、今のコンピュータはどこまで行っても計算機なので、「じゃあ、どうやって私たちが住んでいるこの空間、世界のデータを取りますか」と言ったとき、結局は数値データになってしまうのです。私たちの日常を膨大にセンシングして、IoTと言われているような装置でビッグデータが集まってきたとして、その数値をどう解釈すべきか。「わかる」ということが統計的手法ではまずかろうという感じがします。

一期一会の状況というのは統計にはないと思ったとき、今ある言語としては「論理」と「確率」と「統計」しかないものですから、数学者として申し訳ないです。どうやってセマンティクスに、つまり「わかる」というところに接地させていくのかが難しい。でも、それが間もなく必要になることは皆が気づいている状況だと思います。

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「脳科学×AI」で人間の感性に迫る https://inforium.nttdata.com/foresight/nem_sweets_donuts.html Fri, 10 Aug 2018 06:44:57 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4045 ※本記事において「NeM sweets DONUTs®」および「DONUTs」と記載しているサービスは、2018年10月から「D-Planner」に名称を変更いたしました。

脳科学で感性を解明し、応用するプロジェクト

「NeM sweets DONUTs®」の脳活動計測を前に、fMRI(機能的MRI)内での動画視聴に備えて準備する被験者 ©NICT・CiNet

「NeM sweets DONUTs®」の脳活動計測を前に、fMRI(機能的MRI)内での動画視聴に備えて準備する被験者 ©NICT・CiNet

AIをはじめとするテクノロジーが目覚ましい進展を見せる中、「人間らしさ」のカギを握る要素として注目が集まる感性の領域。人間は1人ひとり異なる感性を持っており、同じ商品や表現を前にしても、その反応は人によってまったく異なります。有史以来、感性は人それぞれの内面性を表すものとして、人間社会や文化の基本的な要素と考えられてきました。
このように「人間らしさ」の聖域と考えられてきた感性のメカニズムを脳科学によって解明し、実用的なサービスとして活用するという、世界でも類を見ないプロジェクトがここ日本で進められています。プロジェクト名は「NeM sweets DONUTs®(以下「DONUTs」)」。脳情報通信融合研究センター(CiNet)の西本伸志博士と、NTTデータ経営研究所、NTTデータの共同研究によって開発された動画解析サービスです。
第1章では、このサービスの仕組みについてCiNet 脳情報通信融合研究室 主任研究員の西本博士に語っていただきます。続く第2、3章ではNTTデータのプロジェクト担当者が、サービスの効果や写真コンテストなどへの応用の試み、今後の展望について語ります。

動画視聴中の脳活動を計測し、自然言語で抽出

CiNetのfMRIと、「NeM sweets DONUTs®」の開発チーム。左から、茨木拓也(NTTデータ経営研究所)、西本伸志博士、矢野亮(NTTデータ) (写真提供:情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター ©Takashi Matsui / DIAMOND Online)

CiNetのfMRIと、「NeM sweets DONUTs®」の開発チーム。左から、茨木拓也(NTTデータ経営研究所)、西本伸志博士、矢野亮(NTTデータ)
(写真提供:情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター ©Takashi Matsui / DIAMOND Online)

───「DONUTs」は西本先生の研究を応用した産学連携のプロジェクトとして2016年にローンチし、実用的なサービスを展開しています。これはどのような原理に基づくものなのでしょうか。

西本 私たちの脳は、外界から受ける刺激を処理して体験内容を生成しています。fMRI(機能的MRI)は、脳活動計測を介してこの処理過程を解明する強力な道具です。私たちはこのfMRIによる計測結果を元に、刺激から脳活動を予測する人工脳モデルと、脳活動から体験内容を予測する解読モデルを作成し、脳の理解や知覚内容の推定などに取り組んできました。例えば、屋外の風景写真を目にした場合であれば、脳が受け取った意味知覚情報を、「sky」「tree」「people」といった自然言語によって抽出することに成功しています。
また、これまでに蓄積してきた両モデルをつなげることによって、必ずしもfMRIによる計測を行わずとも、人が何を感じるかという傾向を予測できる、“ある種のAI技術”を実現できると考えました。

「DONUTs」における、動画視聴中の脳活動解析画面。AIの自然言語モデルを適用し、印象を形容詞で表示している

「DONUTs」における、動画視聴中の脳活動解析画面。AIの自然言語モデルを適用し、印象を形容詞で表示している

───サービスの背景として、fMRIを用いる方法と、用いない方法の2種類があるということですね。

西本 はい。fMRIを用いる場合は、依頼企業の動画広告を被験者に視聴してもらいながら、fMRIで脳活動を計測し、視聴時の印象や感覚を「楽しい」「可愛い」「難しい」といった形容詞でアウトプットしていきます。この方法によって、これまでは定量化が難しかった広告の「質」を評価することができるようになりました。一方、fMRIを用いない場合については、過去に蓄積されたデータから脳活動を予測することで、同様のアウトプットを行う仕組みを独自に開発しています。

───fMRIで解読された脳情報をマーケティングに応用する試みは世界的にも前例がないそうですが、脳科学研究にとってこのプロジェクトで得られるメリットとは何でしょうか。

西本 広告の認知率や購買行動など、通常の研究室では得られない様々なマーケティングデータを活用できることでしょうか。私たち人間はいわば、「自然動画」とも呼ぶべき膨大な視覚刺激の中で生きているとも言えます。その刺激がどのように脳に反映され、心理的な印象や行動に結び付くのか。「DONUTs」で得られるマーケティングデータを活用していくことで、学術的にも大きな進展が見込まれています。

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STEM教育を変える乾電池型IoTデバイス https://inforium.nttdata.com/report/mabeee.html Wed, 29 Aug 2018 01:42:23 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=4019 岡部顕宏(おかべあきひろ)/ノバルス株式会社代表取締役。1995年、株式会社アスキーに入社しWEB広告事業に携わる。その後、ゲーム会社企画部門を経て、2002年にセイコーインスツル株式会社に入社。スマートウォッチの規格策定や新規事業開発を担当する。2015年にノバルス株式会社を起ち上げ、現職に至る。2016年、クラウドファンディングやシードラウンドなどを利用し乾電池型IoTデバイス「MaBeee」を開発

岡部顕宏(おかべあきひろ)/ノバルス株式会社代表取締役。1995年、株式会社アスキーに入社しWEB広告事業に携わる。その後、ゲーム会社企画部門を経て、2002年にセイコーインスツル株式会社に入社。スマートウォッチの規格策定や新規事業開発を担当する。2015年にノバルス株式会社を起ち上げ、現職に至る。2016年、クラウドファンディングやシードラウンドなどを利用し乾電池型IoTデバイス「MaBeee」を開発

専用アプリで乾電池の出力を制御

───現在、御社の主力商品として販売されている「MaBeee(マビー)」について教えてください。

MaBeeeは、乾電池型のIoTデバイスです。本体はちょうど単三乾電池とおなじサイズで、内部に単四電池を装着して使用します。現在、「コントロールモデル」と「モニタリングモデル」、「ビーコンモデル」の3種類で展開していて、それぞれで機能を分けています。

「MaBeee コントロールモデル」は、2016年に販売したモデルです。本体に単四乾電池を装着して単三電池で動く機器に使用すると、本体に内蔵した電子回路によって、電池出力をコントロールすることができるのです。対象機器は玩具や目覚まし時計、電動歯ブラシ、照明機器など。

乾電池型IoTデバイスMaBeee本体と内蔵する回路。左から「コントロールモデル」(青色)、「モニタリングモデル」(ピンク)、量産準備中の「ビーコンモデル」(白色)と各モデルで配色が異なる

乾電池型IoTデバイスMaBeee本体と内蔵する回路。左から「コントロールモデル」(青色)、「モニタリングモデル」(ピンク)、量産準備中の「ビーコンモデル」(白色)と各モデルで配色が異なる

コントローラーは、スマートフォンの専用アプリ「MaBeeeコントロール」。7つの操作モードで出力をコントロールできます。内蔵したBluetoothアンテナを介して通信し、スマホをかたむけて電池出力を制御したり、音に反応させて稼働のON・OFFを切り替えたり、直感的に使える操作方法を採用しています。

たとえば、使用例のひとつにミニ四駆があります。本来であればミニ四駆は一定の速度でしか走行できませんよね。しかし「コントロールモデル」を装着することで、直線コースで急加速したり、カーブで減速したりできるようになります。

コントローラーは、自動車のコントロールパネルのようなUIデザインを採用した「MaBeeeレーシング」やイルミネーションの電飾の操作に特化した「MaBeeeライト」などいくつかのアプリに派生しています。

MaBeeeライト(左)とMaBeeeレーシング(右)の操作画面。MaBeeeライトでは光の点灯や明滅、明暗などを操作。MaBeeeレーシングには、メーターを操作するかスマホの傾きで速度を調整する機能がある

MaBeeeライト(左)とMaBeeeレーシング(右)の操作画面。MaBeeeライトでは光の点灯や明滅、明暗などを操作。MaBeeeレーシングには、メーターを操作するかスマホの傾きで速度を調整する機能がある

───MaBeeeは個々に識別情報を備えているのでしょうか?

はい。ひとつひとつ出荷時に識別IDを付与していて、ユーザーはIDごとに接続を設定します。IDを指定すれば、複数のMaBeeeを一度に操作することもできます。IDではなく「照明用」「ミニ四駆用」など、ユーザーが把握しやすいようにIDを変更することも可能。あとはおまけの機能として、アプリ上で個々の電池残量が確認できます。

乾電池は様々な機器に使用されていますよね。これが良くも悪くも開発者泣かせ。つなぐ乾電池の本数によって電圧なども変わってくるものですから、不特定多数の機器で使用しても滞りなく稼働させるための対処に腐心しました。それもあってMaBeeeが対応できるのは、乾電池の使用本数が最大4本までの機器に限られています。

発売から2年ほど経ちますが、じつは仕様や搭載技術は少しずつ改良されています。ユーザーに提供する機能こそ変わりませんが、内蔵する回路は乾電池で動くデバイスでなくても組み込めるようにしました。これにより、乾電池を使わない製品もIoT化できる。機能としては「コントロールモデル」のような出力の制御だけではなく、家電にセンシング機能を追加したりすることできます。

日用家電が見守り用ツールに

───出力制御以外の機能というと2017年、2018年にリリースされた「モニタリングモデル」、「ビーコンモデル」ですね。

「コントロールモデル」は上位システムであるスマホから、エッジのデバイスにあたる機器に指示を送る構成でした。「モニタリングモデル」はその逆で、エッジのデバイスの状態を通知する機能を持っています。「モニタリングモデル」をテレビのリモコンや玄関のセンサーライトに入れると、稼働状況がクラウド上で可視化できるようになるのです。

この機能に期待できるのは、一人暮らしの高齢者や小さなお子さんを対象とした「見守り」です。ガスコンロが毎日使われているか、毎週楽しみにしているテレビ番組を観ているか、といった状況をもとに安否を確認できます。人感センサーなどを用いた安否確認システムと比較しても仰々しさがなく、見守りの対象者も監視されている、と感じるようなストレスがありません。日用家電の乾電池を替えて、Bluetooth用のゲートウェイをコンセントに差し込めば設置が完了。わずかなステップで見守りシステムが構築できます。こちらは2018年の5月に量産出荷を開始しました。

「MaBeee モニタリングモデル」の構成イメージ

「MaBeee モニタリングモデル」の構成イメージ(提供:ノバルス株式会社)

「ビーコンモデル」は、機器に使用することでビーコン端末の機能を付加できます。乾電池からビーコン信号を発信し、接近したビーコン受信機に位置情報を伝達することができるわけです。落とし物防止や入退室管理、お子さんの見守りなどに活用いただけます。

従来、IoT製品の上位システムは個々に用意され分断されていました。しかし、乾電池にIoT化の機能を持たせれば、多く機器に適応できるし上位システムも一括で管理できる。導入も容易だから、お年寄りや児童など、テクノロジーに馴染みのない人にもその価値を受け取ることができるのです。

「MaBeee ビーコンモデル」の構成イメージ

「MaBeee ビーコンモデル」の構成イメージ(提供:ノバルス株式会社)

有志のアイデアから生まれた「MaBeee」

───「乾電池型IoTデバイス」というコンセプトはどのような経緯で着想を得たのでしょうか。

開発に至るまでの経緯を辿ると、2013年に私が主催したサークル「ヤミ研」がきっかけになっています。ヤミ研は、様々な企業に勤める人たちが集まったサークルのような団体です。自社で埋もれてしまった企画やアイデアを協力しあって実現するのを活動の目的に、企業や業種の垣根を越えて、毎回有意義な議論が重ねられました。

そして有志のひとりから挙がったのが「スマホでプラレールを操作したい」というアイデア。私もそのアイデアに興味を持ち開発を進めた経験から、電池形状のものを組み込めれば、より多くの機器で利用できると考えるようになりました。というのも私は以前から、社会基盤になるようなプラットフォームをつくりたいと考えていたのです。

ノバルスを起業する前、時計の大手メーカーに勤めていた2000年代初頭の話です。受信した電子メールを閲覧できるスマートウォッチの企画に関わりました。時計メーカーや部品メーカーなどが協同で開発を進めるプロジェクトでしたが、結局、実現には至らず。プロジェクトの外部からは「腕時計に通知機能が付いて何かメリットがあるの?」というムードさえあったほどです。今でこそスマートウォッチやウェアラブル端末は当たりまえになっています。しかし、当時はまだ市場が醸成されてなかったのでしょう。

スマートウォッチ事業だけではありません。前々職で関わった映像・音楽コンテンツの配信事業も志し半ばで、頓挫してしまいました。何千億円もの収益を見越した事業は、開発にそれ相応の投資が必要になり、もし計画が流れてしまえば目も当てられない状況に陥ってしまう。ノバルスは2015年に起ち上げましたが、過去の経験を踏まえて素早い製品開発を心がけるようになっています。

「ヤミ研」第1回は2013年10月3日に開催。岡部さんは、製造業だけでなくITやインターネットサービスなどの業界からも参加者を募った

「ヤミ研」第1回は2013年10月3日に開催。岡部さんは、製造業だけでなくITやインターネットサービスなどの業界からも参加者を募った(提供:ノバルス株式会社)

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渡邉英徳(情報アーキテクチャ) https://inforium.nttdata.com/keyperson/watanabe.html Fri, 13 Jul 2018 00:53:16 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3985 渡邉英徳(わたなべひでのり)1974年生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業。筑波大学大学院システム情報工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント、首都大学東京システムデザイン学部准教授を経て、2018年より現職。京都大学地域研究統合情報センター客員准教授、ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所客員研究員などを歴任。研究テーマは「記憶の解凍(情報デザインとデジタルアーカイブ)」。

渡邉英徳(わたなべ・ひでのり)/1974年生まれ。東京大学大学院教授。東京理科大学理工学部建築学科卒業。筑波大学大学院システム情報工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント、首都大学東京システムデザイン学部准教授を経て、2018年より現職。京都大学地域研究統合情報センター客員准教授、ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所客員研究員などを歴任。研究テーマは「記憶の解凍(情報デザインとデジタルアーカイブ)」。

AI技術で自動色づけした瞬間の驚き

───白黒写真をAI技術でカラー化する活動をされています。なぜカラー化に着目されたのですか?

10年ほど前からインターネット上に「ナガサキ・アーカイブ」「ヒロシマ・アーカイブ」といった戦災に関するデジタルコンテンツを制作してきました。被害者の証言や、当時の写真などのコンテンツをデータにし、グーグルアースにマッピングして公開していました。

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広島平和記念資料館、広島女学院同窓会、中国新聞社、国土地理院など14のアーカイブから集めたデータが一括表示される。アーカイブの利用者は、地図上に表示されている人物の体験談を読んだり、風景写真が実際に撮影された具体的な場所を知ることができる。地図上の赤い丸は爆心地

広島平和記念資料館、広島女学院同窓会、中国新聞社、国土地理院など14のアーカイブから集めたデータが一括表示される。アーカイブの利用者は、地図上に表示されている人物の体験談を読んだり、風景写真が実際に撮影された具体的な場所を知ることができる。地図上の赤い丸は爆心地

この作品については、証言のアーカイブとしては高い評価をいただいてきましたが、それに比べて写真への反響はいまひとつでした。ぼく自身、フィードバックを見てみても、これら写真のもつ価値が十分に伝わっていない、“ひとの気持ちに届いていない”といった感覚がありました。

なぜ届かないのか? それは、写真が白黒だったからです。

ぼくらはふだん、カラーでものを見ています。その分、白黒というだけで非現実感を覚え、不自然な世界になるのです。白黒写真は、不自然な形で現実を再現したもの。それが何十年も前、戦時中のものであればなおさら、今の自分とは関係ないと感じ、距離ができてしまいます。

そんなふうに感じていたところ、2016年に早稲田大学の飯塚里志先生、シモセラ・エドガー先生、石川博先生が開発されたAIによる白黒写真の自動色づけ技術を知りました。
さっそく試して、白黒写真がカラーになった瞬間、驚愕しました。それまで、まるで彫像のように見えていた「人物」が、突然生き生きとした、血の通った「ひと」になったように感じたからです。まさに凍っていたものが解凍されたかのように感じました。

───白黒写真の凍った印象が、解凍されるということですか。

はい。ストックされ凍り付いていた白黒写真に込められた「記憶」が、カラー化によってフロー化し、現在の時の流れに合流します。そこからコミュニケーションが創発します。このコンセプトを「記憶の解凍」と呼んでいます。

たとえば、この原爆投下後の広島の市電をカラー化してツイッターに投稿したところ、この時期の広島に詳しい方から連絡があって「この時代の市電はこの色じゃなくて青かった」と教えてくれました。

他にも、1880年に撮影された京都の伏見稲荷大社の写真をカラー化しました。鳥居が木の色に変換されたことから、ぼくは「鳥居の色がこうなるところに、機械の限界を感じる」とコメントを添えてツイッターに投稿しました。ところがすぐに専門家に学ばれている方からリプライが付き、「当時は赤じゃなかったのでは」と。
また別の方からは「当時の(フィルムの)感光剤の特性から赤は黒っぽくなる感じがします」とも。このほかにも昔の鳥居は白木が普通だったとか。次々と情報が寄せられてきました。

凍りついていた情報が“フロー”になる

いずれも見も知らぬひとたちからのリプライです。

元の白黒写真のデータが、たとえインターネット上のどこかにストックされていても、だれからも関心を払われなければ、凍り付いたままです。それがカラー化されることで、いろいろなひとが関心を持ち、コミュニケーションが創発されます。つまり写真にストックされていた情報がフローになって、われわれの生きている時代の時間に合流してくる。これが「記憶の解凍」です。それがこの写真の資料価値を高め、後世に受け継がれていくことにつながっていきます。

ぼくは、「本当は何色だったのか」「AIはどこまで真の色を復元できるのか」といった議論よりも、むしろこのコンセプトを重視しています。最近はさらに、AIが自動色付けしたものをベースに、できるかぎりの考証を加えて、カラー補正を施しています。

───なぜツイッターを利用されるのですか?

フェイスブックのように閉じがちなプラットフォームとは異なり、ツイッターでは、まったく予期しない人々とつながることができるからです。フィルターバブルを超えて、多元的な情報が集まるという点に、大きな可能性を感じます。

例えば、ぼくは日課として「○○年前の今日」という切り口で写真を選び、カラー化したものを投稿しています。

これは、今年の5月26日の投稿です。遠い過去の、見知らぬ人物でしかなかった特攻隊員が、ぼくらの身近にいる、知っている若者たちと同じようなひとに見えてきませんか? このことによって、こうした若者たちが辿った運命を、これまでとは違った視点でみられるようになるはずです。

実際、この写真には、さまざまなコメントが寄せられました。言ってみれば「右」からも「左」からも、多様な立場からの意見が、スレッドにつながっています。このころ話題になっていた、アメリカンフットボール部の部員たちと、この若者たちを重ねて捉えたようなコメントもありました。遠い過去のストーリーがカラー化されることによって、今日性を帯びるのだと思います。

ぼくたちは、遠い昔のことなどより、とにかく今日が大事、明日が大事、自分が大事というような、 “刹那的”な時代を生きています。白黒のカラー化は、過去のできごとに、意識をちょっと投げてもらうためのきっかけになり得ます。

記憶が掘り起こされる瞬間

───「ヒロシマ・アーカイブ」に掲載されている写真もカラー化されました。

パブリック・ドメイン化されている写真はすべてカラー化して、元の写真にマウスオーバーさせるとカラー写真に切り替わるようにしました。この仕組みによって、写真が“タイムマシンのようにはたらく”ようになったと思います。これも「記憶の解凍」のトリガーとして機能することを期待しています。

しかしぼくは最近、こうした「記憶の解凍」の仕組みは、ウェブコンテンツのように多数の人々に向けたものにだけではなく、もっと小さな、顔のみえるコミュニティにこそ活かせると考えています。

たとえば、「ヒロシマ・アーカイブ」の制作過程でこんなことがありました。ヒロシマ・アーカイブ」は、広島女学院高の生徒たちと共同制作したものです。アーカイブの証言収録を、地元の生徒たちが行なっているようすがしばしば報道されますが、最近は、カラー化でもコラボレーションしています。

昨年秋にワークショップを開き、高校生たちにカラー化の手順を教えました。するとその後、彼女たちが、なかなか粋なことをはじめました。

戦時中、広島の中島本町にお住まいだった濵井德三さんは、原爆が投下された日、疎開中で無事でした。しかしご家族はみなさん、亡くなってしまいました。でも、濵井さんの手元には、家族のアルバムが残っていた。その白黒写真を、生徒たちが濵井さんの目の前でカラー化したのです。

その中の一枚、お花見の写真をカラー化したところ、背後の杉並木の青々とした色彩がよみがえりました。それを見た濵井さんは、「杉鉄砲でよう遊んだなあ」と当時を思い出し、「長寿園までの道に弾薬庫があって幼心に怖かった」といった記憶まで語ってくださいました。カラー化がトリガーとなって、濱井さんの胸のうちに凍りついていた記憶が溶かされ、ことばとして流れ出したのです。

その後生徒たちは、カラー化した写真をアルバムにまとめてプレゼントし、濵井さんはたいへん喜ばれたそうです。このように、証言者の目の前でカラー化してみせ、お話のお礼として、実物のアルバム届けるという発想に、ぼくは強い感銘を受けました。地元の若者ならではの活動だと思います。

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IoTプランターが担う、食と農の未来 https://inforium.nttdata.com/report/smart_planter.html Thu, 05 Jul 2018 02:45:36 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3932 芹澤孝悦(せりざわ・たかよし)/プランティオ株式会社共同創業者/CEO。園芸用品「プランター」を開発したセロン工業株式会社の創業者を祖父に持つ。大学卒業後ITのベンチャー企業へ。エンターテインメント系コンテンツのプロデューサーを経て、セロン工業株式会社へ。「フラワーバレンタインプロジェクト」の立ち上げや「国際園芸博覧会フロリアード」の日本国政府スタッフとして参画。2017年、「サステナブルな未来」の実現に向けて、最新型プランター「Smart PlanterTM」の開発に着手。次世代の人と植物との関り方を模索する

芹澤孝悦(せりざわ・たかよし)/プランティオ株式会社共同創業者/CEO。園芸用品「プランター」を開発したセロン工業株式会社の創業者を祖父に持つ。大学卒業後ITのベンチャー企業へ。エンターテインメント系コンテンツのプロデューサーを経て、セロン工業株式会社へ。「フラワーバレンタインプロジェクト」の立ち上げや「国際園芸博覧会フロリアード」の日本国政府スタッフとして参画。2017年、「サステナブルな未来」の実現に向けて、最新型プランター「Smart PlanterTM」の開発に着手。次世代の人と植物との関り方を模索する

センシングとAIで栽培をサポート

───現在開発を進めている「Smart PlanterTM」について、教えていただけますか?

「Smart PlanterTM」は、IoT技術を搭載したプランターです。基本構造は、私の祖父が開発した「プランター」とおなじ。自然環境がプランター内で再現されるように設計しています。一般的な植物ならなんでも育てられますが、私たちは野菜や果物の栽培を前提に展開していきます。

代表的な機能としては、本体に搭載されたセンサーデバイス、視野192度で固定されたカメラが挙げられます。センサーデバイスは土壌水分計、土壌温度計、日照計、外気温計として機能し、土中や周辺の環境を計測します。カメラは60分に一度撮影し、植物の様子を定点観測します。

センシングしたデータや画像データは、Wi-FiとBluetooth、将来的には5Gなどで私たちが管理するクラウドサーバーへ送信。データ解析されたのち、専用アプリを通じてユーザーへフィードバックされます。たとえば、「(土がしめっているので)今日の水まきは少しでいいでしょう」とか「花が咲きました」とか。過去の気象情報や育成情報のログも閲覧できるので、去年の情報を参考にしながら植物を育てることもできます。

Smart PlanterTM本体(右)と拡張ユニット(左)。本体の縁部分には太陽光パネルを搭載し、6時間の太陽光充電で約30日稼働する。本家プランターにならい容量は20L程度、土と水が10対1になる構造を採用している

Smart PlanterTM本体(右)と拡張ユニット(左)。本体の縁部分には太陽光パネルを搭載し、6時間の太陽光充電で約30日稼働する。本家プランターにならい容量は20L程度、土と水が10対1になる構造を採用している

───集積したデータは、どのような技術で解析されているのでしょうか?

センシングデータ、画像データ、また気象予報などの外部のデータを取りこみ、ディープラーニングによってAIが総合的に解析しています。いってみれば栽培特化型AIが働いている。解析したデータはデータレコードとして野菜の品目単位で蓄積されます。これらのデータレコードと、ユーザー個人の生育環境が照合されるわけです。

また、アプリで収穫時期を確認できるのも特徴のひとつ。もちろん、農学に基づいた仕掛けがあります。植物にはそれぞれ「積算温度」という生育に必要な目安があるのをご存知でしょうか。種を植えてから毎日の平均気温を合計し、合計の温度が一定の段階に達すると発芽、開花、収穫……と生育のステージが上がっていくのです。私たちは積載温度とセンシングデータを用いたアルゴリズムを構築し、ユーザーが育てている植物の各ステージを予想することができるのです。

専用アプリで植物の生育状況を予想したり、過去の気象情報などを確認できる

専用アプリで植物の生育状況を予想したり、過去の気象情報などを確認できる

その技術を応用しているのが、アプリの「STORY」機能です。これは野菜、果物の生育ステージをストーリー形式になぞらえて、栽培をナビゲーションするコンテンツ。ユーザーは、ゲームブックの要領で「種をまき、薄く土をかぶせる」「霧吹きで水を与える」などの毎日のクエストをこなしていき、野菜を育てていきます。日々のクエストが滞りなく順調に進んでいれば、一定の積算温度に達したとき「発芽」ステージからステップアップする、と。

腐心しているのは、いかにユーザーを飽きさせずに植物を育ててもらうか。栽培が間延びしないよう、STORYの合間に栽培している野菜にまつわるトリビアや、同じ野菜を育てている方の様子、近隣の飲食店情報なども配信します。

アプリの「STORY」画面。ストーリーに沿って世話をしていけば、最終的に収穫できる

アプリの「STORY」画面。ストーリーに沿って世話をしていけば、最終的に収穫できる

栽培の敷居を下げる多彩な機能

───ナビゲーションに沿っていれば、ビギナーでも野菜や果物を育てられるのですね。どの程度の規模で育てられるのでしょうか。

STORYに対応している野菜、果物はおよそ160種類。イチゴやメロン、小さめのカボチャでも問題なし。拡張ユニットを増設すればゴボウなどの丈の長い野菜も育てられます。

土の替わりに「リターナブルソイル」を使うことも考えています。リターナブルソイルとは、火力発電所から出る灰や廃棄予定のココヤシピートを再利用した新素材です。これなら、用土を手に入れるために野山を削る必要もありません。リターナブルソイルなら、微生物のバイオカプセルを一粒投入すれば、肥沃な土壌ができ上がる。土のブレンドや使う肥料の選択など、土づくりはなにかと面倒でビギナーを遠ざける一因になっていました。しかし、バイオカプセルがあれば、そのわずらわしさからも解放されます。

また、都内で植物を育てた人なら経験があると思いますが、使わなくなった土の処分は結構大変。だから、リターナブルソイルは、半年ごとに新品の土と交換できるサービスも検討中です。

───挙げていただいた機能だけでも、栽培の敷居はかなり下がりそうです。そのほかに特徴的な機能はありますか?

Smart PlanterTMの肝になるのがコミュニティ機能。Smart PlanterTM を利用するにあたって、いっしょに栽培するメンバーでコミュニティをつくる必要があります。ファミリー層なら、お父さん、お母さん、お子さんであるとか。企業の垣根を越えたオフィスワーカーたちで育ててもいいでしょう。

栽培を続ける一番の秘訣は「みんなで楽しむ」こと。一人で始めてもだんだん世話ができなくなり、結局枯らしてしまいがちです。だから、みんなで世話をする。普通は小さなコミュニティでも、みんなでなにかをやろうと計画するのは大変なことですよね。おもしろいことに、生育状況をシェアできるSmart PlanterTMのコミュニティでは、人ではなく植物からのアクションが輪の中心になり、みな自発的に活動するようになる。みんなで植物を育てるという連帯感、開花や収穫の達成感。それらがコミュニティ間の信頼関係が醸成し、これ以上ないUXに昇華されるわけです。

アプリで築くコミュニティの輪

───専用アプリの機能も、コミュニティづくりを意識しているそうですね。

はい。アプリを起動させると、まず表示されるのがMAP画面です。MAPにはユーザーが所属するコミュニティやよそのコミュニティ、連携する飲食店などのアイコンがプロットされています。

アプリのMAP画面。近隣のコミュニティや協力してくれる飲食店、ワークショップ会場などがアイコンで表示される

アプリのMAP画面。近隣のコミュニティや協力してくれる飲食店、ワークショップ会場などがアイコンで表示される

コミュニティ間で連絡を取り合って、収穫物を交換しあったり、栽培について情報交換することも可能です。連携だって充分に考えられますよね。たとえば、複数のコミュニティが野菜を持ち寄って、バーベキューを行うなど楽しそうです。協力しあえば、リレー栽培だってできてしまう。従来の農家なら、リレー栽培は数年かかってやっと習得できる技術です。

連携する飲食店は現在10店舗ほどです。お店に自分たちでつくった収穫物を持ち込めば、それを使った料理を提供してくれます。丹精こめてつくった野菜だから、その美味しさはひとしおです。

───ブロックチェーンも導入するそうですね。システムのどの部分に技術が活かされるのでしょうか。

コミュニティ間で利用できる仮想通貨の管理にはブロックチェーンの活用を検討しています。ビットコインでは、バーチャルな世界での作業でマイニングした作業者に対価が支払われる仕組み。しかし、私たちの仮想通貨はたくさん収穫することがマイニングに値します。当初はポイント制も考えましたが、そうなると私たちが中央集権的にコントロールすることになりかねない。アプリの性格上、「みんなで支えあう」という概念のブロックチェーンはうってつけでした。

収穫だけではなく、だれかの栽培をサポートしても仮想通貨がもらえます。貯まった通貨は、連携する飲食店での支払いやワークショップの参加費に利用できるほか、在来作物などの種子と交換できます。「“食”から発生した対価を“食”に還元する」。それが理想のサイクルですね。

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養老孟司(解剖学者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/yoro.html Fri, 06 Jul 2018 11:46:31 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3897 養老孟司(ようろう・たけし) 1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。東京大学医学部卒業後、解剖学を専攻して医学博士号を取得する。89年『からだの見方』でサントリー学芸賞を受賞。同年、「現代人は脳の中に住んでいる」とする『唯脳論』がベストセラーとなる。95年、東京大学医学部教授を定年前に退官。2006年、京都国際マンガミュージアム館長に就任(2017年4月からは名誉館長)。『形を読む』『解剖学教室へようこそ』『日本人の身体感』『バカの壁』『死の壁』『手入れ文化と日本』『遺言。』など著書多数。2003年に刊行された『バカの壁』は440万部を超える空前のヒットを記録した。無類の昆虫好き、ゲーム好き、マンガ好きとしても知られる。

養老孟司(ようろう・たけし) 1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。東京大学医学部卒業後、解剖学を専攻して医学博士号を取得する。89年『からだの見方』でサントリー学芸賞を受賞。同年、「現代人は脳の中に住んでいる」とする『唯脳論』がベストセラーとなる。95年、東京大学医学部教授を定年前に退官。2006年、京都国際マンガミュージアム館長に就任(2017年4月からは名誉館長)。『形を読む』『解剖学教室へようこそ』『日本人の身体感』『バカの壁』『死の壁』『手入れ文化と日本』『遺言。』など著書多数。2003年に刊行された『バカの壁』は440万部を超える空前のヒットを記録した。無類の昆虫好き、ゲーム好き、マンガ好きとしても知られる。

 戦時中、4歳のときに父を病気で亡くし、以来兄と姉と私の3人は母に育てられました。母は小児科医で、95歳で亡くなるまで現役で診療していました。いわゆるグレートマザー1※で、子供にとっては母親のつくる世界が自分の世界だし、特に男の子は母親の影響を無視できませんからね。いくつになっても壁でした。

 小学2年生のとき、鎌倉で終戦を迎えました。これが人生で最初の大きな転機でした。敗戦を知ったその瞬間、私が思ったのは「だまされた」。それまで先生も親も親戚も、みんな日本が勝つと言っていたし、日本中が「無敵皇軍」を信じていたんですから。それが、教科書の軍国主義的な内容の箇所は黒く塗り潰させられ、昨日まで大事に教え込まれていたことが、たった1日できれいさっぱり消されてしまった。社会が変われば価値観なんて簡単に覆る。だから私の世代は、社会的なことには非常に不信感が強いんですよ。

 大学では、最初は精神科志望でしたが、中井準之助先生※2との出会いを機に解剖学に進みました。助手になり、研究が面白くなり始めた矢先、大学紛争が起こった。研究者としてこれから軌道に乗ろうとしていたのに、研究室が封鎖され、1年間何もできなくなってしまったんです。

 大学の御殿下グラウンドに竹槍を持って集まった全共闘に敵対する民青の学生の姿を見たとき、馬鹿なことをやってるな、日本は変わらないなと思いました。団塊の世代だから完全に戦後生まれなのに、戦中の軍国主義と同じなんですよ。無意識の内に、戦後の民主主義が戦前の皇国思想をそのまま受け継いでいる。それはいまでも変わっていないと思っています。北朝鮮は戦争中の日本がそのまま共産主義になった国ですからね。他人事じゃありません。

 30年前、私は『唯脳論』で、都市は「脳化社会」であると述べました。動物は「感覚」世界が優先するのに対し、人間は「意識」世界が優先する。それによって生じるのが意識的社会です。それは「ああすればこうなる」と計算や理論で予測可能な社会。予測やコントロールができないものは排除する。そうして出来上がったのが脳化社会です。

箱根にある仕事場・養老山荘にて。壁画「バカの壁」は南伸坊画伯の手になるもの

箱根にある仕事場・養老山荘にて。壁画「バカの壁」は南伸坊画伯の手になるもの

 動物や小さい子供は、感覚で「違い」をとらえています。そしてその感覚は、年を取るほど失われていきます。例えば、奥さんが美容院で髪型を変えてきたとしますね。子供は学校から帰ってくると「あ、お母さん美容院に行ったでしょう」と気づく。ところが旦那のほうは、会社から帰ってきても何も言わない。それを世の奥さんは愛情が薄れたとか言うんですが、そうじゃない。大人は視覚的な変化、つまり「違い」を無視してしまうんです。青いペンで「白」と言う字を書いたら、誰でも「シロ」と読むでしょう。それは青という視覚的な感覚を平気で無視しているからです。それが人間なんです。動物はどんな字を書いても青としか認識しませんよ。

 人間の社会には「同じ」つまり「イコール」の概念があります。しかし動物にはイコールがありません。「朝三暮四」という四字熟語がありますね。宋の狙公が飼っていたサルに、どんぐりを朝3つ、夜には4つやると言ったら、サルが少ないと怒った。では朝4つ、夜3つやろうと言うと喜んだという話です。動物には等価交換がわからない。つまりイコールがない。「A=BならばB=Aである」ということが、感覚を優先する動物には理解できないんです。

 「同じ」という機能を獲得したヒトは、言葉やお金、民主主義を生み出し、世界を「意味」で満たそうとしてきました。それを突き詰めたのが都市社会です。オフィスの中では風は吹かない、雨も降らない。屋内はエアコンで一定の温度に保たれ、床は平坦で、堅さはどこも同じ。恒常的な環境をつくるため、違いを主張する感覚所与※3をできる限り遮断する。山に入れば虫がいたり、石ころが転がっていたりするのは当たり前ですが、都会の生活では邪魔以外の何ものでもない。意味のあるものだけに囲まれていると、いつの間にか意味のないものが許せなくなってきます。それは裏を返せば、すべてのものには意味がなければならないということであり、「意味がわからない」ものは「意味がない」と結論づけて切り捨ててしまう。そこにいまの社会が抱える問題の根本があると思います。

 こうした社会が進むと、要求が高くなるのがアートです。殺伐とするから、ふと人間に戻った瞬間、何か足りないなと思うんですね。アートというのは感覚ですから、同じものはひとつもない。アートは、感覚を排除して「同じ」に立脚した社会の解毒剤なんですよ。

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萩原一平(脳科学コンサルタント) https://inforium.nttdata.com/keyperson/hagiwara.html Thu, 28 Jun 2018 09:48:29 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3859 感情から行動まで、そのメカニズムを解き明かす

───なぜ、いま脳科学に注目が集まっているのでしょうか。

いま、世界の名だたる企業は脳科学の知見をビジネスに取り入れるべく、活発に研究を続けています。その背景にあるのは、私たちの意思決定や行動の内、実に9割以上が無意識で行われており、意識によって決定される割合は1割に満たないことが近年の研究でわかってきたこと。その無意識下のメカニズムを解明することで、製品やサービスの開発、さらに人材育成につなげようというのが大きな狙いだと言えます。

萩原一平(はぎわら・いっぺい)NTTデータ経営研究所 研究理事、情報未来イノベーションセンター長。電機メーカー、シンクタンク勤務を経て、1997年より現職。専門分野はニューロコンサルティング、新規事業化支援、マーケティング戦略、環境分野全般、地域情報化、ヘルスケアなど。現在、応用脳科学コンソーシアム事務局長、横浜国立大学大学院環境情報学府客員教授、大阪大学招へい教授。主な著書に『脳科学がビジネスを変える』『ビジネスに活かす脳科学』(日本経済新聞出版社)などがある。

萩原一平(はぎわら・いっぺい)NTTデータ経営研究所 研究理事、情報未来イノベーションセンター長。電機メーカー、シンクタンク勤務を経て、1997年より現職。専門分野はニューロコンサルティング、新規事業化支援、マーケティング戦略、環境分野全般、地域情報化、ヘルスケアなど。現在、応用脳科学コンソーシアム事務局長、横浜国立大学大学院環境情報学府客員教授、大阪大学招へい教授。主な著書に『脳科学がビジネスを変える』『ビジネスに活かす脳科学』(日本経済新聞出版社)などがある。

では、なぜこのタイミングで注目が高まっているのか。背景としては、2つの技術的な発展が挙げられます。1つは、脳活動の計測技術の進歩です。具体的には、fMRI(機能的MRI)※1の登場が何といっても大きいでしょう。MRI(核磁気共鳴画像装置)は通常、身体内の断面構造を画像化する装置として使われていました。そこに進展をもたらしたのは、アメリカのベル研究所に勤務していた小川誠司氏が考案し開発した、脳内の動的な血流変化から部位ごとの活動を計測する技術です。この仕組みを用いたfMRIの登場によって、脳を侵襲する(傷付ける)ことなく高精度に、脳活動を可視化することができるようになりました。

そしてもう1つが、計測で得られた情報を処理する技術です。IT、とりわけAI関連技術の目覚ましい発達によって、脳の3次元構造上における微細な反応を高速で解析することができるようになりました。
これらをはじめとするこの10年ほどの技術の進歩によって、脳科学は医学分野のみならず、産業応用や人材育成などの分野においても有益な、様々な知見を創出し始めています。

───脳科学によって、どのようことがわかるのでしょうか。

ひとことで表すなら、人間の感情や意志決定、行動の仕組みなどを理解できるようになります。
「脳は人間の司令塔」と言われますが、人間の感情や意思決定、その結果である行動はすべて脳の指令によるものです。私たちが生命を維持しているのは、脳が休みなく働き続けているからです。例えば、眠っている間も脳の記憶領域では1日に得た様々な情報を整理しています。こうした脳の機能メカニズムを解明し、社会に役立てることが脳科学の使命です。

一方で、人間の感情や行動を扱う学問としては心理学が有名ですが、脳科学と心理学はコインの裏表、時計と時間のように切り離せない関係にあります。時計は時間がなければ存在し得ず、時間は時計がなければ測れません。同様に、脳科学がなければ心を測ることはできません。脳科学とはいわば、人間の心の変化を定量的に測るための方法論とも言えるのです。

分野を超えたネットワークで脳に迫る

医療・福祉分野に加え、経済や産業分野へと応用脳科学の研究領域が拡大している(出典:応用脳科学コンソーシアム 公式サイト)

医療・福祉分野に加え、経済や産業分野へと応用脳科学の研究領域が拡大している(出典:応用脳科学コンソーシアム 公式サイト

───脳科学でいま最も注目されている研究について、教えて下さい。

人間の脳細胞の数は1千数百億とも言われますが、中でも知覚や記憶、情動などを処理する大脳が発達している点が、他の動物にはない大きな特徴です。近年、その働きが特定の部位だけでなく、それらをつなぐ神経ネットワークの同時多発的な作用で構成されることがわかってきました。

日常の何気ない会話1つを取っても、私たちは相手の言葉を聞いてその意味を理解するだけでなく、口調や表情、仕草、その場の状況の変化などを総合的にとらえ、瞬時に判断を下しています。それゆえ、こうした同時多発的な作用を理解するためには、脳科学に加え、心理学、生理学、行動科学、それに言語学や教育学、社会学、哲学や倫理学など、これまで個別に培われてきた知の統合が求められます。人間の生理現象や行動がすべて脳の指令によって引き起こされる以上、それにまつわる研究はすべて、脳のメカニズムを知ることにつながります。そもそも、脳を知ることは人間について知ること。だからこそ、あらゆる研究分野の連携が必要なのです。

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山田誠二(人工知能研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/yamada.html Thu, 21 Jun 2018 02:21:10 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3725 AIの解釈は十人十色

───AIというと、SF小説や漫画に登場するロボットなどのイメージが先行している印象です。現実におけるAIとは、どのような技術を指すのでしょうか。

AIというのは「Artificial Intelligence」の略語で、「Intelligence」というのは、知性や知能を指します。つまりAIとは人工的(Artificial)に知能・知性(Intelligence)を実現させるための研究、技術のこと。日本では「人工知能」と訳されますね。

ただ、AIをどう解釈するのかは研究者によって千差万別。ソフトウェアで実装すればいいという研究者もいれば、ロボットのような物理的な身体性を備えていなければ、知能は生まれないと主張する研究者もいる。表現や解釈の違いはありますが、概ね「人間の知的な行動を工学的に実現する」というコンセプトが根底にはあります。

山田誠二(やまだ・せいじ)国立情報学研究所教授、総合研究大学院大学教授、一般社団法人人工知能学会 第16代会長。1989年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同年、大阪大学基礎工学部助手に。その後、大阪大学産業科学研究所講師、東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授を経て、2002年、現職に至る。現在、HAI(Human Agent Interaction)や、IIS(Intelligent Interactive Systems)などを主な研究分野とし、様々なプロジェクトを推進中

山田誠二(やまだ・せいじ)国立情報学研究所教授、総合研究大学院大学教授、一般社団法人人工知能学会 第16代会長。1989年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同年、大阪大学基礎工学部助手に。その後、大阪大学産業科学研究所講師、東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授を経て、2002年、現職に至る。現在、HAI(Human Agent Interaction)や、IIS(Intelligent Interactive Systems)などを主な研究分野とし、様々なプロジェクトを推進中

それでは「知的な行動」とはなんでしょうか? いまだ人間の知性や知能は未解明で、曖昧模糊としたものです。突きつめれば哲学的、宗教的テーマにまで及ぶでしょう。しかし、曖昧だからこそ、AIが多様性をもって発展できるという側面もある。

すなわち、思考を伴っているような対応ができれば、ひとまずの目標は達成できるとも言える。要は、人間に「お、なんだか賢いな」と思わせるくらいの能力があればいいわけです。それを実現するのにも高度な技術が必要で、簡単なことではありませんが。

AI研究の遮る、暗黙知の壁

───現在、メディアで扱われるAIの記事を見ると、「ディープラーニング」が話題の中心になっていますね。

やや持ち上げられすぎですが、ディープラーニングが世間からの注目を集めているのは事実です。AI研究の歴史を追うと1950年代の第一次ブーム、1980年代の第二次ブームを経て、現在の第三次ブームに至ります。第二次ブームは、「エキスパートシステム」が主流だった時代。エキスパートシステムによって、AI研究はかなり発展するだろうという期待感があった。

典型的なエキスパートシステムは、特殊な疾患を診断する医師の代わりとして開発されたAIです。しかし、開発を進めていくなかで予期せぬ問題が浮上します。当初、医師は論理的な考えのもと診断していると思われていたのですが、実際は直感的だったり、曖昧な経験則を頼りにしていたりすることがわかったのです。職人のもつ勘や推論は言葉で説明できませんから、コンピュータプログラムに置き換えることもできない。

こうした問題は、医師の診断だけに該当するわけではありません。人間は二足歩行を難なくこなしますが、いざ「どうやって歩いているのか教えて」と言われても説明できませんよね? 学校で教わることなく、自然と二足歩行を体得してしまう。いわゆる暗黙知をAIに取りこむのは非常に困難なのです。

「暗黙知を人間が説明できないなら、コンピューターによってアルゴリズムを割り出してもらおう」。そうして注目を集めた手法が機械学習でした。

機械学習でも先端を行くのが、昨今のブームを起こすきっかけにもなったディープラーニングです。これは、人間の脳の神経回路を模したニューラルネットワークを使い、大量の訓練データを読み込ませ、学習させる手法。イヌ・ネコを判別するAIを開発する場合、コンピューターに「イヌ」もしくは「ネコ」の正解ラベルを設定した画像データを大量に読み込ませていきます。すると、それぞれの画像データの特徴を抽出し、イヌ・ネコが判別できるようになっていくのです。

ディープラーニングのパターン認識の強さは、2012年に開催された画像認識コンペティション「The ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge 2012」で知られるようになりました。トロント大学の研究者らがディープラーニングを取り入れたアルゴリズムで、二位以下に圧倒的な差をつけて優勝したのです。

分類もまた知能のひとつ

───画像データの認識が、知能とどのように結びつくのでしょう。

img-contents_02画像の認識もある種の知能と言っていいと思います。ディープラーニングならイヌ・ネコだけでなく、1千、2千クラス(=カテゴリー)の画像を認識できます。会議室内にあるものなら、ホワイトボードやテーブル、イスなどほとんどの物を認識できるということです。数千を越える認識が可能になれば、人はなんとなく「なんでもできそう」と感じてしまう。AIなりの知能とはそういうものなのではないでしょうか。

物の認識は「分類」へ通じます。生物は生き残るために補食対象を分類する必要がありました。生物の進化から照合しても、物の分類というのは重要なファクターだったわけです。分類することが「知能」の一端を担っていたのではないか、と。

───ディープラーニングが暗黙知を理解する可能性は?

正直なところ、ディープラーニングでは厳しいですね。教育せずとも人間に備わっている膨大な知識が、暗黙知なのではないでしょうか。言い換えるなら「常識」といったところです。

二足歩行を学習するにしても、同じ人でも、坂道なのか車道なのかで歩き方もずいぶん変わってくる。パターンが膨大で、AIが学習できるだけの具体例を集めるのが、すでに非現実的なんです。

また、我々人間は、目の前にコップがあれば、それが紙製であろうがガラス製であろうが即座に「これはコップだ」と認識できる。子どもでも10種類ほどコップを見れば、コップとはどういうものか、を理解できるのではないでしょうか。しかし、AIは、ディープラーニングで学習したとしても何千、何万点もの見方の違うコップの画像を取り込まなくては認識できません。

このテの話題で挙がるのが「うなぎ文」です。電車の中やオフィスで「わたしはうなぎだ」と発したら、ただの変な人になってしまいます。しかし、場所がうなぎ料理を出す飲食店なら「わたしはうなぎだ」と言っても全く問題がない。つまり、おなじ言葉でも状況によって意味は大きく異なる。人間は社会性が備わっているので、ニュアンスを汲み取れるますが、AIではまだ上手くいっていないのが現状です。

AIと人をつなげる技術

───現在、山田先生が研究対象にしているHAI(Human Agent Interaction)について教えてください。

HAIは、人間と擬人化したAI(エージェント)間のインタラクションデザインを目的にした研究分野になります。要は人間とエージェントとの間でやりとりされる、あらゆる情報を設計すること。

AIを擬人化することで、情報への理解が進み、また説得力が上がるという利点が生まれます。AIの外見、話す速度、どの程度の機能を持たせるか、などこれまであまり研究されてきておらず、まだまだ開拓の余地があります。

たとえば、家電量販店に買い物に行った際、買う物は始めから決まっていたはずなのに、店員のすすめで別の商品を買ってしまった、なんてことは誰しも経験があるでしょう。
この店員を擬人化したAIに置き換えたのが、HAIの応用例である「PRVA」(Product Recommendation Virtual Agent)です。この研究の肝は「ユーザーの感情」と「ユーザーによるエージェントの知性の評価」。対話を通じて、ユーザーはAIに知性を感じ、さらにAIの表情やジェスチャーによって感情を高揚させて、購買につなげるというものです。

───HAIと並行して研究しているIISも、AIと人間との関係性を築く技術ということでしょうか?

はい、これまでのAI研究は、AIがスタンドアローンで動いたとき、どれだけの性能が示せるかが主題でした。IIS(Intelligent Interactive Systems)は、人間とAIが得意なタスクを分担して、協調して問題解決するシステムです。

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知的インタラクティブシステムIIS(提供:山田誠二研究室)

IISの要素技術のひとつに「インタラクティブ機械学習」があります。機械学習するには人間が訓練データを手配する必要があり、データひとつひとつに正解のラベルを付けていく。そして、AIはラベル付けされた訓練データを読み込み、学習する。出力された学習結果は人間が理解できるように可視化され、人間は応用したデータを再びAIに読み込ませる。そうしたAIと人間、双方にとって使いやすい枠組がインタラクティブ機械学習と呼ばれます。

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インタラクティブ機械学習(提供:山田誠二研究室)

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100年先の未来を思い描く、先見の明を https://inforium.nttdata.com/report/ishii.html Mon, 04 Jun 2018 03:25:12 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3643 年1回の技術トレンドを公開

MITメディアラボは日本法人19社と共同研究し、NTTデータグループからも3人の社員がMITを拠点として活動しています。こうしたご縁から、来日中の石井 裕教授にINFORIUM豊洲イノベーションセンターまでお越しいただきました。

石井 裕(いしい・ひろし)/1956年東京生まれ。MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ副所長。専門は情報工学。78年北海道大学工学部電子工学科卒業、80年同大学院情報工学専攻修士課程修了後、電電公社(現NTT)入社。86年~87年、GMD研究所(西ドイツ)客員研究員。88年よりNTTヒューマンインターフェース研究所で、コンピューター支援による協調作業(CSCW=Computer Supported Cooperative Work)グループを率いて「チームワーク・ステーション」と「クリアボード」を開発。93~94年トロント大学客員助教授。95年よりMIT準教授。MITメディアラボ日本人初のファカルティ・メンバーに。ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)についての新しいビジョン「タンジブル・ビッツ」を探究するタンジブル・メディア・グループを設立。

石井 裕(いしい・ひろし)/1956年東京生まれ。MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ副所長。専門は情報工学。78年北海道大学工学部電子工学科卒業、80年同大学院情報工学専攻修士課程修了後、電電公社(現NTT)入社。86年~87年、GMD研究所(西ドイツ)客員研究員。88年よりNTTヒューマンインターフェース研究所で、コンピューター支援による協調作業(CSCW=Computer Supported Cooperative Work)グループを率いて「チームワーク・ステーション」と「クリアボード」を開発。93~94年トロント大学客員助教授。95年よりMIT準教授。MITメディアラボ日本人初のファカルティ・メンバーに。ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)についての新しいビジョン「タンジブル・ビッツ」を探究するタンジブル・メディア・グループを設立。

石井 「NTT DATA Technology Foresight」、事前に拝読させていただきました。こうした冊子になっているほかに、オンライン上でも読めるんですね。毎年つくられているということですが、どんな意図で編まれているのでしょうか。

NTTデータでは、年ごとにNTT DATA Technology Foresightを策定している。2018年度版のほか、2012年度までさかのぼったアーカイブを特設サイトで公開している

NTTデータでは、年ごとにNTT DATA Technology Foresightを策定している。2018年度版のほか、2012年度までさかのぼったアーカイブを特設サイトで公開している

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千葉 広報部に所属している千葉です。私たちが公開している意図は、技術がもたらす変化を的確に捉え、進むべき道を示すことで、お客様と共に新しいビジネスを作っていきたいという文脈からです。

そのためには体系立てた発信が必要なので、NTT DATA Technology Foresightとして策定するようになりました。

野村 NTT DATA Technology Foresightの策定やメンバーの取りまとめを担当している野村です。私はAIやデータ分析、ヘルスケア分野などを中心に執筆しています。

NTTデータ 技術開発本部 企画部 VISTECH推進室 シニア・エキスパート 野村雄司

NTTデータ 技術開発本部 企画部 VISTECH推進室 シニア・エキスパート 野村雄司

そもそもの狙いは、IT技術がものの1年ほどで世の中に大きな影響を与えて、ときに破壊的なインパクトをすぐに起こしてしまうので、それをいち早く捉えるというものです。「これから起こることや危機を予見して変化に備えましょう」という趣旨で、トレンド調査や情報発信をする活動でした。その後、お客様とコラボレーションしていく活動を次第に強化していったという流れがあります。

情報にリアルな形を与える研究

千葉 石井教授の「タンジブル・メディア・グループ」は、MITメディアラボで現在どういう研究をされているか、あらためて伺えるでしょうか。

石井 新しい情報の表現、そしてインタラクションを生み出そうという夢の実現のために、タンジブル・メディア・グループを創始したのは、私がMITに行った1995年の秋です。

タンジブル・メディア・グループのサイト ※クリックでリンク先へ

タンジブル・メディア・グループのサイト ※クリックでリンク先へ

当時も今も、コンピューターにおける主な情報表現の方法はピクセルですよね。スクリーン上の光る起点。それがフォトン(光子)となって人間の網膜を打って見える。でも、フォトンには物理的実体がありません。だから、手でつかめないし、抱きしめることもできないし、においも味も香りもないわけです。

情報にタンジブルな(=形ある)実体を与えることにより、自分たちの手を使って、身体を使って、直接操作できるようにしようというビジョンが「タンジブル・ビッツ」です。フィジカル・エンボディメントと言いますが、情報の物理的実体化により、我々の手による直接操作を可能にします。

musicBottles(1999)/透明なガラスの小瓶を音声データのストレージ兼コントローラーにしたこの作品は「SIGGRAPH '99」で発表。ユーザーは「蓋の開け閉め」というインタラクションで操作を行い、まるで「ジャズの小瓶」や「天気予報の小瓶(翌日が晴れなら鳥の鳴き声、雨なら雨音が流れる)」の中にあるコンテンツを外に開放する感覚を得る(提供:石井教授)

musicBottles(1999)/透明なガラスの小瓶を音声データのストレージ兼コントローラーにしたこの作品は「SIGGRAPH ’99」で発表。ユーザーは「蓋の開け閉め」というインタラクションで操作を行い、まるで「ジャズの小瓶」や「天気予報の小瓶(翌日が晴れなら鳥の鳴き声、雨なら雨音が流れる)」の中にあるコンテンツを外に開放する感覚を得る(提供:石井教授)

それによりグループによる共同操作も可能になるので、コミュニケーション・メディアにもなる。こういった研究を1995年から15年ほど続けてきました。

その後に続くのが「ラディカル・アトムズ」というビジョンです。コンピューターのスクリーン、あるいは映画のスクリーンにあるピクセルというのはダイナミックに姿を変えることができます。しかし、私たちが使っている椅子というのは、非常に硬い物理的なマテリアルなので、ずっとそのまま椅子なわけです。色は変わるかもしれませんけれども、形とか堅さは変わらない。

そのアトム(原子)、すなわち物理的マテリアルがその形状や性質を、ダイナミックにコンピューテーションに基づいて変化させることができる、そんな新しい未来を志向しています。そういう新しいマテリアルを使って、どういう世界をデザインできるかという研究に、この10年ほど力を入れています。

メディアアートでは世界最大規模になる「アルス・エレクトロニカ」でも2016年から3年間、「ラディカル・アトムズ」の展覧会をやっていますので、その模様をご覧いただければと思います。

石井教授の率いるタンジブルメディアグループは、2016年からアルス・エレクトロニカ・センターで「ラディカル・アトムズ」の展覧会を公開している

未来がどう変わるか。世の中に新しいビジョンを出すためには、もちろん学術論文も発表しますが、アートやデザインの文脈で、こうした大規模な展覧会を積極的に実現することにも力を入れています。

オリジナルでなければ価値がない

石井 かつてヴァネヴァー・ブッシュがハイパーテキストを構想したとき、マーシャル・マクルーハンがメディア論を世に問うたとき、アイバン・サザランドがVRというコンセプトをデモしたとき、そして僕のヒーロー、ダグラス・エンゲルバートが集合知のビジョンを発表したとき、量子飛躍が起きました。いずれも人々がそれまでにない新しいビジョンに触れ、未来を予見できる瞬間がありました。

新しいビジョンというのは、要するに「独創的な未来像」ということです。ネット検索すれば同じようなものが何万も出てくるビジョンというものでは意味がないんですね。僕ら研究者にとって一番大事なのは、オリジナリティ(独創性)。強烈なオリジナリティがなかったら、生きていけない世界なんです。

野村 NTT DATA Technology Foresightでも、今後そういう「オリジナリティ」のある新しいビジョンを調査やレポートとしていち早く発信し、イノベーションにつなげるのは重要だと認識しています。

石井 ただ、ビジネスに関しては必ずしもそうではなくて、お客様の欲しいものを提供しなくてはいけないという現実的要請もあるでしょう。そういう意味でいくと、今のNTT DATA Technology Foresightがビジネス向けのストーリーにまとめられている理由はとてもよくわかるんです。

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おそらく一番いいスタンスは「私たちは新しいビジョン、違った視点を生み出し、それを発信できる。そして、それをプロトタイプとして具現化する技術や実績を持っている」と自分たちで言えることです。そのためにはどうするのか。今日はそんなアドバイスを皆さんにできたらうれしいです。

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廃棄物処理を変える機械学習ロボット https://inforium.nttdata.com/report/trash-sort-robot.html Thu, 29 Mar 2018 05:23:37 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3552 18人の現場を2人に減らす

───産廃処理工場にロボットを導入された目的を教えてください。

これから人口が減少し、働き手がいなくなるのが分かっていますので、そのために何か手だてはないかと探ったのがきっかけです。解決の一環として結果的にロボットが入りましたが、ロボット以外の選択肢があればそちらでも良かったんですね。

株式会社シタラ興産 設楽竜也 代表取締役社長

株式会社シタラ興産 設楽竜也 代表取締役社長

ただ、工場をロボット化したことで、これまで18人の社員が立っていた現場を今では2人にまで減らせました。人があまりいなくても工場がきちんと回せるという、産業廃棄物業界ではあまり例のなかった事例だと思います。

───全部で21工程ある混合廃棄物の選別過程のうち、この図では5番の工程にあたる「紙くず、木くず、がれき類、廃プラ、石膏ボード、ガラス・陶器くず」の選別にロボットを導入しているのですね。

混合廃棄物の選別を示した図。24時間で2,000トンの処理能力がある

混合廃棄物の選別を示した図。24時間で2,000トンの処理能力がある

われわれの業界は、この工程にすごく苦労しています。あとの工程はロボット以外の機械でもやれる可能性がありますが、ここだけは人海戦術に頼るしかありませんでした。

かつて私も携わっていましたが、ゴミが流れてくるコンベアの横に立って、ある人は木を拾い、ある人はがれきを拾って箱に入れる。それを1日やるんですね。まったく楽しくはないです。

仕事とは面白いかどうかでやるものじゃないですが、とてもじゃないけど「やりがい」がありません。よく選別できたと褒めてあげることもできないのです。箱の中を見ても、誰がどれだけ取ったか分かりませんから。

───18人を2人まで減らせたということですが、人はどのような作業を担当しているのでしょうか。

選別行程の最後にチェックの2人だけを残しています。要はスプレー缶や乾電池などの危険物が流れていないかの確認です。その前の工程にマグネットが設置されていますが、くっつかない場合もありますから。

あとは使い捨てカイロも取り除きます。この後の高速のハンマーで叩く工程で一気に発火する可能性があるからです。そういう危ないものが来たら取る。危険物かそうでないか、を素材の情報だけで判断するのは難しいので、ロボットに拾わせるのは難しいです。

機械にとっては過酷な現場

───これまで混合廃棄物の選別が人間でなくてはいけなかったのは、どういった理由だったのですか。

まずは産業廃棄物向けにロボットをつくるメーカーが圧倒的に少ないということがあります。ロボットやAIの技術は、最初にクルマやエレクトロニクスなどの違う業界に行ってしまいます。あとは倉庫業など、単純でやりやすい仕事の置き換えです。機械的動作ができて、ちょっと考えることができればいいというようなものです。

一定の動作でネジを打ち続けるのとは違って、ゴミを見て、判別して、選び取るというのは難しく、社会にとって大事な産業と言ってくださる方は多いのですが、目を向けてくれる会社がとても少ないです。

シタラ興産のプロモーションビデオ。ロボットの映像は54秒から

コンピューターのクリーンルームなどに比べたら過酷な現場です。ゴミの中に機械を配置するので粉じん対策も必要ですし、熱の排出も考えなくてはいけません。

私たちもいざロボット化を考えたとき、選ぶ余地は少なかったですね。世界中でフィンランドのゼンロボティクス社しかつくっていなかったし、それも未完成の製品なんです。機械としてはでき上がっているけれど、AIの部分が発展途上という意味です。

今、ゼンロボティクスのロボットは世界の15カ国で動いています。アジアでは日本、中国。あとは米国やヨーロッパの都市です。

───度々、社長自身も足を運ばれているというゼンロボティクスとはどういう企業なのでしょう。

私も行って驚いたのですが、ほとんどが博士号を持つ30名ほどのプログラマー集団です。もちろん彼らは全体設計をしていますが、機械の製造は下請けの会社に発注するので、頭脳ばかりつくっている会社ですね。

ロボットのメンテナンスなどに関しては、フィンランドのJTA社という会社がやって来ます。彼らは機械はできるけれど、脳は扱えない。だから2社が一緒になって担当する感じです。

───今日お邪魔しているこのサンライズFUKAYA工場ができたのは、いつ頃ですか。

2016年の5月です。そこからラインを全部引き直して、ロボットを導入する工事が始まりました。私と部下の宮下(智則)がいろいろなところを7年間ぐらいかけて回り、どうやって工程を分けているかを見て設計したラインです。

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同じ年の11月にフィンランドの工場で使っていたデータをうちの方に送ってもらい、AIのトレーニングを開始しました。ただ、始めてみたら実際のゴミが全然違うので、まるで取れないんですね。向こうでは大きな木やブロックなどを選別することが多いようです。

そこから日本独自のゴミについてうちの会社で教えながら、機械学習に取り組んでいきました。

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深層強化学習で超高層ビルの地震に備える https://inforium.nttdata.com/foresight/ai-vibration-control.html Fri, 09 Mar 2018 01:48:03 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3511 ───2017年8月にNTTファシリティーズが発表したのは、超高層ビルにおける地震の振れの制御にAIを活用する技術でした。長周期地震動がもたらす被害は、東日本大震災がきっかけで広く認知されましたね。

鈴木 東日本大震災の発生前にも、建築の構造設計を生業とする人々の間では長周期地震動の危険性が指摘されていました。しかし、大多数の視点は「仕上げの裏に隠れている構造骨組が耐えられるか」というものだったのです。

NTTファシリティーズ ファシリティ部門 建築ソリューション担当 担当課長 鈴木幹夫さん

NTTファシリティーズ ファシリティ部門 建築ソリューション担当 担当課長 鈴木幹夫さん

鈴木 しかし、東日本大震災のときに都心で明らかになったのは、建物の構造骨組は何ともないのに、天井が落ちたり、設備が壊れたり、エレベーターが止まったりした被害です。また、超高層ビル(高さが60mを超える建築物)に住んでいる人が「揺れの怖さで全く身動きが取れなかった」という実態も改めて分かりました。

───超高層ビルの止まったエレベーターは、当時なかなか復旧できなかったことを思い出します。

鈴木 エレベーターは専門の人が来て、チェックしてOKをいただかないと動かせないんですね。あの時「構造骨組が壊れないだけではダメだ」ということが改めて浮き彫りになったと思います。

大型模型試験体を載せたNTTファシリティーズの振動台(広帯域対応大型三次元駆動システム「DUAL FORCE」)。長周期地震動に対応したこのシステムは4代目で、2010年に完成した

大型模型試験体を載せたNTTファシリティーズの振動台(広帯域対応大型三次元駆動システム「DUAL FORCE」)。長周期地震動に対応したこのシステムは4代目で、2010年に完成した

───そうした気づきから、建物の制振にAIを応用しようと思い立ったのはどういう経緯だったのでしょうか。

鈴木 2016年のNTT R&Dフォーラムで自動運転のデモを見たのがきっかけです。そのとき「ダンパーを動かす制御にAIが使えるのではないか」と思い、その後に『NTT技術ジャーナル』の2月号で「NTTグループにおけるAIの取り組み」という特集を読んだのです。その中で「マルチエージェントシミュレーションによる渋滞予測・信号制御について」というNTTデータの論文があったので、NTTグループ内で一緒にやれないかと打診しました。

機械学習と深層学習の組み合わせ

───今回の技術は、「深層強化学習」によって最適な振動制御を学習したAIが、地震の揺れに応じて建物内部のダンパーを電動アクチュエータで制御する一連のシステムです。開発担当者の一人であるNTTデータの稲葉さんに、まずは深層学習(ディープラーニング)と強化学習を組み合わせるとどういうことが達成できるか伺います。

NTTデータ技術開発本部 エボリューショナルITセンタ AIソリューション開発担当 稲葉陽子

NTTデータ技術開発本部 エボリューショナルITセンタ AIソリューション開発担当 稲葉陽子

稲葉 機械学習と言ったときにまず例に挙がるのは「教師あり学習」と呼ぶAIの学習手段です。過去に「こうしたらうまくいった」「こういう風に定義すべきだ」といったデータが正解としてあった場合、それらと実際の状態のデータを結びつけ、理想的なモデルの構築をするというのが一般的な教師あり学習です。

一方で「強化学習」とは、正解がない領域に対して適応するための学習です。教師として正解のデータがあるわけではなく、与えられるのは報酬という手がかりだけなんです。何十万~何百万回もいろんな試行錯誤をする中で「良かったか悪かったか」というところだけを報酬として与えてあげる。すると、報酬を得られる方向に自然とロジックはつくられていくんですね。こうしたAIの強化学習は1990年くらいから開発されています。

───接戦の末にチェス世界王者のガルリ・カスパロフを下したIBMの「ディープ・ブルー」は印象的でした。現代ではゲームの世界で「アルファ碁」やさらに次世代の「アルファ碁ゼロ」といったAIが人間に対して圧倒的な強さを示しています。この理由は、単にコンピューティングパワーが上がっただけではないのですね?

稲葉 強化学習に深層学習を組み合わせたところも大きいです。深層学習では、そのデータの中の「構造」や「因果関係」といった関係性を、学習によって非常に細かくモデル化します。例えば、Googleがネット上の画像から「猫」をちゃんと識別する実験でいい成果を上げ始めたのが有名です。

地震波に対する制御を数十万回繰り返すことにより知能を獲得した「制振AI」が実現するのは、高層ビルの揺れを物理的に制御して抑える「アクティブ制振」。図のように複数の技術を複合させたシステムになる

地震波に対する制御を数十万回繰り返すことにより知能を獲得した「制振AI」が実現するのは、高層ビルの揺れを物理的に制御して抑える「アクティブ制振」。図のように複数の技術を複合させたシステムになる

制振AIは「複雑な揺れ方をしているビルの状態に対し、どういった手を打てばいいか」というものです。中にある複雑な関係を深層強化学習で学習します。複雑な内部構造をかなりの精度でモデル化できるのがメリットです。

数理最適化のプロも開発に投入

───開発する中で、困難な場面はありましたか。

稲葉 最初のシミュレーターをつくるところから苦心惨憺がありました。深層強化学習を最初から適用したわけではなく、もう少し易しいところから適用してみたのですが、なかなか良い結果が得られませんでした。

───どういうところが難しかったのでしょう?

稲葉 制御をかけるということは、今現在の状態に合わせて何らかの制御をしないといけないということです。でも、状態を「今この瞬間だけ」捉えるのか「前のところまで含めて」捉えるのかでも違いますし、加速度や変位といった情報もあるので、それらをどこまで含めるのかという問題もあります。まずは一通りやってみたのですが、かえって揺れが大きくなったという失敗もありました。

当初考えていたよりも、中身にもっと複雑な技術を適用する必要があるのが見えてきたんですね。実際にどこまで揺れを抑えるのか、鈴木さんの方で明確な目標を最初から持っていたので「最適化」という技術を使って検証する流れになりました。

グループ会社のNTTデータ数理システムには、非常にロジックが難しいモデルを構築しなくてはいけない場合にご協力いただいています。交通シミュレーションもその一つです。日本で有数の数理最適化の技術を持っているので、この段階から入っていただきました。

NTTデータ数理システム シュミレーション・アンド・マイニング部 部長 雪島正敏さん

NTTデータ数理システム シュミレーション・アンド・マイニング部 部長 雪島正敏さん

雪島 私たちは数理科学、コンピューターサイエンスを使って世の中の問題を解決することを掲げています。機械学習の専門家というより、どちらかというとモデルをつくる仕事です。今回の制振AIは、深層強化学習によってアルゴリズムを構築してAIになっているのですが、そのモデルをつくる部分を担当しています。

「何らかの問題が与えられたたとき、一番いい答えを探す」という技術が最適化です。地震波の場合には複雑で、次にどのような状態になっているかが分からず、理想的な解を探すのは難しい。でも、シミュレーション上は導かれるので「仮にこう来るのが分かったときに、どこまで揺れを抑えられるか」をベンチマークとして行いました。

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センシング技術で実現するスマート農業 https://inforium.nttdata.com/report/e-sensing.html Mon, 26 Feb 2018 05:52:21 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3437 日本の農業を、IoTが変えていく

温暖湿潤な気候のもとで、豊かな自然の恵みを受ける日本。この国にとって農業は、古くから重要な産業の一つでした。しかし現代の農業は、今後発展を続ける上でさまざまな課題を抱えています。

たとえば耕作放棄地の増加。農業の後継ぎがいない、農業を続けたくても続けられないために、耕作されず放置される田畑もあります。農作物を生み出せる土地が無駄になるだけでなく、放棄地が各地に増えれば国土の荒廃にもつながってしまいます。

もっとたくさんの就業者がいれば、農業が今後も存続し、発展する可能性は高まるでしょう。しかしすでに少子高齢社会となった日本において、単に人手を増やすことで問題を解決しようとするのは難しいと言えます。

人をこれ以上増やせないとしたら、私たちはこれから何に望みを託せるでしょう。ひとつの答えはICT(情報通信技術)です。

「農と食をつなぐICT」というタイトルでまとめられた、作物の生産・加工から流通・販売・消費まで、さまざまなシーンにおけるNTTグループの取り組み

「農と食をつなぐICT」というタイトルでまとめられた、作物の生産・加工から流通・販売・消費まで、さまざまなシーンにおけるNTTグループの取り組み

さまざまなテクノロジーの発展によって、日本の農業を効率化し、生産性を高められる可能性は年々高まっています。近年急速に発達しているAI(人工知能)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などのICTに期待がかかります。

ICTを活用して農業にイノベーションを起こし、農業が抱えるさまざまな問題解決をサポートしようと、NTTグループでは数年前から積極的な研究開発を行なってきました。「農業分野で選ばれるバリューパートナーへ」というテーマを掲げ、農作物の生産から加工、流通、販売、消費まで、農業のあらゆるシーンでICT活用を推進しています。2017年10月に開催された「第4回国際次世代農業 EXPO」でも、その成果を紹介しました。

NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 プロダクトサービス部 プロダクトイノベーショングループ プロダクト戦略担当 主査 五十嵐征司

NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 プロダクトサービス部 プロダクトイノベーショングループ プロダクト戦略担当 主査 五十嵐征司

農業の効率化をサポートするセンシング

───農業のICT活用といえば、圃場の温度や湿度、照度などを感知して数値化する「センシング」が昨今注目を浴びています。NTTグループでは、センサーから収集したさまざまなデータを分析して農業に活用するという取組みがあると聞きました。詳しく教えていただけますか。

私が主管をしている「eセンシング Forアグリ」は、インターネットに接続していれば、どんな場所からでもセンサーを通じて計測された圃場のデータをチェックできます。畑から数キロ離れた事務所や自宅にいても、温度や湿度、照度などがリアルタイムで分かるのです。「今日は天気が悪い」と気になった時でも、現地へ行かずパソコンやスマートフォンでデータを確認できるので、家から遠くにある田畑をいくつも回って調べなくてよくなります。

───つまり農家の方は、圃場へ毎回わざわざ足を運ぶ必要がなくなるのですね。

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はい。「eセンシング Forアグリ」を活用していただければ、これまで圃場と事務所、自宅の行き来にかかっていた時間と労力を減らせます。

また、蓄積された過去のデータを分析し、その結果を農作業に活かしていただけます。「作物に元気がない」と感じられた時、最近の圃場の環境変化を調べて原因を探ることができます。「夜間の湿度が最近高い」というデータ結果が分かれば、夕方にハウスの天窓を開けて帰宅するなど、日々の農作業のヒントになります。農業にセンシング技術を導入することで、人の勘に頼らなくても効率よく質の高い農作業を行えるようになります。

作物の栽培に深刻な被害を与える霜を防ぐため、圃場の温度を監視し、危険値に達したら警告メールを送信するという設定ができます。夏には熱中症の警告メールを送信するような設定もできます。

───農家の皆さんの健康と安全も守ってくれるのですね。ところで、「eセンシング Forアグリ」を利用するためには、圃場にセンサーをたくさん設置します。そうなると、多くのモバイル回線が必要になるのでしょうか。

いいえ。LPWAという無線通信技術を使っていますので、モバイル回線は不要です。1台の受信機があれば、複数のセンサーから送られてきたデータを一括して自動収集します。LPWAは、センシングなどのIoT技術が世の中に普及する上で、大いに期待を集めている通信技術の総称。私たちは、LPWAの主要規格であるEnOcean Long Rangeを採用しました。

無線通信といえば、一般にはWi-FiやBluetoothなどが知られています。Wi-FiやBluetoothは大量のデータ送信ができるものの、通信距離が短く、消費電力も高いというデメリットがあります。それに対してLPWAは消費電力が低く、広範囲で通信できるというメリットがあります。

「第4回国際次世代農業EXPO」で来場者の注目を浴びた「eセンシング For アグリ」のデモンストレーション

「第4回国際次世代農業EXPO」で来場者の注目を浴びた「eセンシング For アグリ」のデモンストレーション

───確かに、「計測データを遠くまで飛ばせない」「消費電力が高い」となると、広大な圃場では利用するのが難しくなりますね。

受信機のある事務所まで数キロ離れていたりするため、広範囲で通信できる技術でないといけません。圃場に電源を引いたり、センサーの電池を定期的に交換したりするのも大変です。そこで、センサーは小型太陽光パネルで動く仕組みにしています。

IoTを活用した新しいソリューションを、これから多くの農業関係者にご利用いただくためには、導入のしやすさや使いやすさも大切なポイントになると考えています。

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斉藤賢爾(計算機科学者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/saito-k.html Mon, 05 Feb 2018 09:22:15 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3297 斉藤賢爾(さいとう・けんじ)1964年生まれ。日立ソフト(現 日立ソリューションズ)などでエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ。2003年、地域通貨「WATシステム」をP2Pデジタル通貨として電子化。著書に『不思議の国のNEO──未来を変えたお金の話』(太郎次郎社エディタス)など。一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事。

斉藤賢爾(さいとう・けんじ)1964年生まれ。日立ソフト(現 日立ソリューションズ)などでエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ。2003年、地域通貨「WATシステム」をP2Pデジタル通貨として電子化。著書に『不思議の国のNEO──未来を変えたお金の話』(太郎次郎社エディタス)『信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来』(インプレスR&D)など。一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事。

お金はすべて「仮想」である

───本来、お金とはどんな役割を持っているのでしょうか。

お金の始まりはおそらく税金だったと言われています。それも、当初は麦や塩などだったのでしょう。例えば国家が農民に大麦を納めさせると、国庫にたくさんの大麦が集まります。それらを国が、例えば公共事業の労働者への給与として配分することで、大麦が循環し始めます。その内に、循環していく大麦自体に、一定の価値を量り、何らかの交換の媒介物となり、そして価値を保存する役割が生まれていきました。そうした国家の経済システムを支えるツールとして貨幣がつくられるようになったのでしょう。これがいまのお金の基本構造です。

いまビットコインが注目されていますが、こうした新しいお金のシステムも、基本的には従来のお金の役割を強化する方向へ進むと思います。しかし、テクノロジーの面白いところは、結果として真逆の変化も起こしうる可能性があること。ビットコインの基本理念はP2P(ピア・トゥ・ピア)ですから、中央銀行を介さずにお金が個人同士でやりとりできるようになります。すると、本来は国家を維持するシステムだったお金の役割が変わってくるかもしれません。

ただひとつ注意したいのは、ビットコインを「仮想通貨」と呼ぶのは間違いだということ。より正しく呼ぶなら「デジタル通貨」でしょうね。なぜなら、お金はすべて「仮想」だからです。私たちはお札の紙きれ一枚にも、価値があると信じている。これ自体が仮想信用なのです。

───そもそもビットコインとはどのようなお金なのでしょうか。

ビットコインは紙幣や硬貨として流通する円やドルなどの法定通貨ではなく、通貨の機能を持つソフトウェアであり、特定の国や地域に限定されません。また、各国の中央銀行の信用下で発行される法定通貨に対して、ビットコインはネットワーク上のプログラムに従って自動的に発行されます。

その誕生はサトシ・ナカモトを名乗る人物または集団によって2008年に発表された論文に遡り、翌年のシステム稼働開始以降、中核を担う開発者グループによって基準となるソフトウェアのメンテナンスと拡張が続けられています。

ビットコインはいわば、「自分のお金を誰にも干渉されず、自由に使うにはどうすればよいか」という発想を具現化したものと考えられます。例えば日本円は日本国という発行主体に信用が依存していますが、ビットコインはお金をその依存から解き放ち、“中心なきネットワーク”で支えていく仕組みを標榜しています。私たちは日ごろ、国家という特権的な存在が定めたお金の仕組みを無条件に受け入れて生活を営んでいますが、ビットコインの登場はお金をつくる仕組みを誰もが持ちうることを広く示した点で画期的と言えるでしょう。

さらに、ビットコインという存在自体に「お金とは何か」という問題提起が内包されており、社会構造を根底から覆しうる以上、国家や銀行はその動向に注視せざるを得ません。しかし計画的なデフレによって滞留を生んでしまっている点など、真に自由なお金と呼ぶにはまだ多くの課題を抱えています。万能視ではなく、分権できる構造の実現に向けた議論などが必要だと思います。

ネットワーク上のプログラムから発行されるビットコイン。その背景には、ネットワークで支える”中心なき通貨システム”の思想がある

ネットワーク上のプログラムから発行されるビットコイン。その背景には、ネットワークで支える“中心なき通貨システム”の思想がある

ブロックチェーンの課題と可能性

───ビットコインを支える技術として注目を集めているブロックチェーンについて、教えてください。

ブロックチェーンとは、ビットコインを支える中核技術としてP2P技術を応用して発明された、分散型の台帳システムの名称です。“中心なきシステム”を前提とするビットコインにおいて、ユーザーそれぞれが履歴を複製管理する仕組みとして設計されました。全世界におけるビットコインの取引情報が「ブロック」と呼ばれる記録の集合に格納され、その連なりがユーザーのコンピューター上で同時にバックアップされていく仕組みを採用しています。暗号技術の応用によって、過去の取引記録を変更するにはネットワーク上で承認作業に参加する全コンピューターの処理能力を超える計算が必要となるため、改ざんは事実上不可能とされています。

ブロックチェーンはその耐改ざん性の高さから、ビットコイン以外の分野でも製造業のサプライチェーンや、戸籍や登記簿など行政の情報基盤への導入が有望視されていますが、技術的にはまだ発展途上。利用規模が大きくなるほどユーザー端末の計算量が増大し、全人類規模での利用は難しいなど、数々の問題が指摘されています。解決に向けた研究コミュニティが数多く立ち上がっており、問題点を解決する技術が今後現れては試されていくと思います。将来を見据え、AIにも改ざんが不可能な台帳技術をいかに確立できるかが焦点になっていくでしょう。

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米良はるか(Readyfor創業者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/mera.html Thu, 21 Dec 2017 05:03:35 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3200 米良はるか(めら・はるか) Readyfor株式会社代表取締役CEO。1987年、東京生まれ。2010年、慶應義塾大学経済学部卒業。2012年、同大大学院メディアデザイン研究科修士課程修了。大学在学中に東京大学と産学連携ベンチャーにて「あのひと検索SPYSEE」の立ち上げに関わり、その後、スタンフォード大学でクラウドファンディングについて学ぶ。大学院在学中の2011年、ウェブベンチャー・オーマ株式会社の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を設立。2014年7月に株式会社化し現職に就く。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェイパーズ2011に選出され、スイスで開催されたダボス会議に日本人として最年少で出席。内閣府「国・行政のあり方に関する懇談会」の委員を務めるほか、国内外の多数の会議に参加している。

米良はるか(めら・はるか) Readyfor株式会社代表取締役CEO。1987年、東京生まれ。2010年、慶應義塾大学経済学部卒業。2012年、同大大学院メディアデザイン研究科修士課程修了。大学在学中に東京大学と産学連携ベンチャーにて「あのひと検索SPYSEE」の立ち上げに関わり、その後、スタンフォード大学でクラウドファンディングについて学ぶ。大学院在学中の2011年、ウェブベンチャー・オーマ株式会社の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を設立。2014年7月に株式会社化し現職に就く。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェイパーズ2011に選出され、スイスで開催されたダボス会議に日本人として最年少で出席。内閣府「国・行政のあり方に関する懇談会」の委員を務めるほか、国内外の多数の会議に参加している。

祖父は発明家、父はコピーライターという家庭で、私は幼いころからクリエイティブなことを身近に感じて育ちました。特に父は、私が人生で最も影響を受けた人といっても過言ではありません。

父は資生堂にコピーライターとして20年ほど勤めていました。目の前にあるものにとどまらず、社会全体をクリエイティブの力で変えていきたいという思いが強い人で、独立後は自分で事業を興し、マルチパラレルキャリアを実践していました。そうした父の考え方は、ひとり娘の私に対する教育方針にも通じていたように思います。いわゆる女性としての幸せを得るための道を用意するというのではなく、ひとりの人間として社会に役立つことを自ら考え、選んで生きていけるような環境を与えてくれたのかな、と。だから私が自分で選択したことには絶対にダメとは言わず、何でも心から応援してくれました。

母は富山の出身で、高校を卒業後、父と同じ資生堂に入社し、地元で販売員をしていました。社交性が非常に高い人で、売り上げ成績も抜群によかったそうです。そのころ資生堂が海外で販売員を募集するという制度があったらしく、母は英語も全然しゃべれない、海外どころか東京にもほとんど行ったことがないにもかかわらず、単身で富山からいきなりニューヨークへ。治安が悪い中、人種差別も受けながら、持ち前の社交性と無知であることをいい意味で利用し、数年間がんばったようです。帰国後は東京で資生堂の広報室に勤務。そこで父と出会い、私が生まれるときに仕事を辞めました。ずいぶん悩んだそうですが、高卒でキャリアアップしている人が誰もいない環境だったため、出産後も働き続けてキャリアを設計していくことは難しかったのでしょう。

父と母の教育方針は、最終的に自分で選択ができる人生を歩ませたいという点では同じだったと思います。ただ、父が私を自分で物事を考えて判断できる人間にしたいと思っていたのに対し、母は自分が叶えられなかったキャリアをつくってあげたいという思いが強かった。娘を大企業で働くキャリアウーマンにする将来像を描いていたので、私が起業の道を選んだときは反対され大げんかしました。でもいまは、私がこうしてメディアや様々な場で意見を言わせていただいているのを見て、社会に評価される対象になるような仕事なんだということは何となく理解しているようで、母親として何かにつけサポートしてくれます。ありがたいですね。

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楠正憲(ブロックチェーン専門家) https://inforium.nttdata.com/keyperson/kusunoki.html Tue, 12 Dec 2017 13:00:00 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3154 標準化にはあと数年がかかる

───ブロックチェーンは、これから世の中の他の分野に根付くかの段階に見受けられます。標準化を目指す団体も複数あるようですが、どのように定まっていくものでしょうか。

近年ではクラウドなどの技術もそうでしたが、新しい技術の標準化を図る場合、まずは言葉を合わせることから始めます。そもそも「何がブロックチェーンなのか」をみんながよくわかっていないから、使っている言葉がバラバラなんです。こうした言葉合わせだけでも1〜2年は軽くかかってしまいます。

楠正憲(くすのき・まさのり) 神奈川大学在学中から『日経デジタルマネーシステム』編集記者として記事を執筆。インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーを経て2017年10月よりフィンテック分野でUXデザインを手がける三菱UFJ系の新会社、Japan Digital Design株式会社 CTO(最高技術責任者)に就任。ISO/TC307国内委員会 委員長、内閣官房情報化統括責任者補佐官。Linux IPv6 RPMプロジェクトFounder。その他にも多数の役職を兼務。

楠正憲(くすのき・まさのり) 神奈川大学在学中から『日経デジタルマネーシステム』編集記者として記事を執筆。インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーを経て2017年10月よりフィンテック分野でUXデザインを手がける三菱UFJ系の新会社、Japan Digital Design株式会社 CTO(最高技術責任者)に就任。ISO/TC307国内委員会 委員長、内閣官房情報化統括責任者補佐官。Linux IPv6 RPMプロジェクトFounder。その他にも多数の役職を兼務。

ブロックチェーンとビットコインは別物だという説明がある一方、最初のブロックチェーンの実装はビットコインでなされたものですから、影響が非常に大きいです。ビットコインに関連する言葉は「マイニング(採掘)」という基礎的な用語1つをとっても独特ですよね。

また、民間ではブロックチェーンという名前が浸透していますが、規制当局が一貫して使ってきたのは「ディストリビューテッド・レジャー・テクノロジー(分散型台帳技術)」いわゆる「DLT」という呼び名です。その方が幅広いものを指せます。例えば、ブロックチェーンと言えるかはわからない「リップル(Ripple)」のような仮想通貨もここに含むことができます。

標準化に時間がかかるとはいっても、実際はビットコインが日常的に使われているし、インターレッジャー・プロトコル(ILP)のようなブロックチェーン間を繋ぐプロトコルも公開されています。ただ、チェーン同士が連携していく未来がすぐに実現できるわけではないので、インターオペラビリティ(相互運用性)をどう確保するかの議論は始まったばかりです。

クラウドで済むような事例も多い

───ブロックチェーンはいまだ黎明期にあり、仮想通貨以外の分野に一般化するのは確かにこれからかもしれませんが、すでにビジネスの現場では使われだしています。こうした商用利用の実例をどう見ますか。注目されている事例もあれば教えてください。

例えば、ロンドンのダイヤモンド取引の管理台帳である「エバーレッジャー(Everledger)」は有名です。昨年の資金流出事件で問題にはなりましたが、イーサリアム上で動いている「ザ・ダオ」のように投資ファンド的ビジネスも動き出しています。これが法律で保護される有価証券に当たるのかという議論がなされているところです。

エバーレッジャーのホームページ

エバーレッジャーのホームページ(クリックでサイトへ飛びます)

このようにいろんなプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)が出てきているところですが、本当にブロックチェーンにする必然性があってビジネスとして使われているものは、まだそんなに多くないという印象です。

おそらく「ブロックチェーンと引っ掛けた方が資金調達をしやすい」とか「ここでノウハウを貯めていけば今後のビジネスが見えるかもしれない」といった理由なのでしょうね。言ってしまえば「それってクラウドでデータベース共有すれば同じことができるのでは?」というビジネスが多いのです。

裏を返せば、ビットコインの場合には必然性があった。「発行者がいない」というフィクションがあって、初めて「お金が負債を立てなくても生み出せる」ことを実現したからです。ただし、運営者がいないという立て付けを維持するために、「採掘(マイナー)報酬」という特典のような切り口を必要としたわけですけれども。

だからブロックチェーン・ベンチャーには、そもそもの矛盾があると言えます。ベンチャーがサービスを提供しているということは、そこには運営主体があるのですから。ブロックチェーンでなければできないビジネスが見えてこない一番の原因は、こうしたところにあるのだと思います。

───ブロックチェーンを使った方が、クラウドよりも優れたビジネスになるという事例は生まれるものでしょうか。

みんなが必死にそれを探しているところかもしれません。ただ1つ言えるのは、セキュリティやプライバシーへの意識がガラリと変わるでしょう。そもそも最初に発表されたビットコインの論文には「プライバシーに対する考え方を変えるべき」と書いてあります。

これまでクラウドをやる場合には、まず会社でIDを管理して、その閉じた環境の中でシステムを守っていく考え方でした。基本的には、運営者が責任を持ってクラウドを運用し、そこにいろんな人たちが接続しにいく設計です。その中でセキュリティを考え、アクセスコントロールしていこうという発想でした。

km_03ブロックチェーン的なやり方になったら、アクセスコントロールが難しいからそういう訳にはいきません。多様なプレイヤーが繋ぎにいったとき、どうセキュリティを守るかに変わっていく。そうなると、必要とされるセキュリティの技術自体が大きく変わるかもしれません。こうした背景によって、新しい技術ないしアーキテクチャーが生まれてくる可能性もあると思うのです。

これまでのプライバシーは「どうやったら漏らさないか」という考えに立っていました。中身を見られたなら、それはもう「情報漏洩」です。ビットコインで実現しようとしたプライバシーとは、情報の中身は全部が誰でも見られるけれど「それが誰のどういう取引なのか」にたどり着くのを難しくするという発想です。

───オープンなチェーンではなく、クローズドな「プライベートチェーン」でセキュリティを保つという考え方もあるようですが。

プライベートチェーンが本当にブロックチェーンでなければいけないか、私には判断できません。ただ、ビットコインから大きな影響を受けたアーキテクチャーを「簡単に安全性を担保できるかたちでクローズドに使いたい」というニーズもある、ということは理解できます。

オープンのブロックチェーンとも結びつきを持たせつつ、プライベートにデータを管理するアプローチとしては「サイドチェーン」と言う別の技術もあり、サイドチェーン上でポイントシステムなどに取り組まれている方たちがいます。

技術的でなく、政治的な問題も

───セキュリティとともに今後の課題に挙がるのが、ブロックチェーン上の処理スピードだと思います。ビットコインの場合は、取引が確定するまで基本は10分間、長い場合は1時間も待たされることがあります。これは今後、改善されていくものでしょうか。

技術的にはさほど難しい問題ではありません。ブロックサイズを大きくするとか、どこまでをサイズとして数えるようにするとか、パラメーターを調整すればそれだけ大きな取引を乗せることができるからです。その半面、セキュリティとのトレードオフが起こります。また、パラメーターを変えることによって技術的なバランスが損われることもあるでしょう。

純粋な技術的な問題ではなく、かなり政治的な問題があります。ビットコインの場合、実際に使う人、取引所、いろんなステークホルダーがいます。運営者がいないというフィクションの中で、どうやってみんなが合意しながら必要なスケーラビリティーを確保していくかというガバナンスの問題であり、そこにはそれぞれのステークホルダーの損得が関わってきます。

───ビットコインは「お金」だから話がこじれやすいのでしょうか。もし、違う分野だったらうまくいきやすいとか。

確かにビットコインが高騰しているがゆえに難しくなっている面は大きいです。これから白地からつくっていくのであれば、そういった政治的な問題を回避する手立てもあるでしょう。ただ、関係者が少ない期間であれば、それほどのスケーラビリティーは要求されていないとも言えますよね。いずれにしても、使い始めてみないとわからないというのは、新しい技術を異なる分野に応用するとき、どの場合にも同じなのでしょう。

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“神業”を科学する。スポーツ脳科学の世界 https://inforium.nttdata.com/foresight/sbs.html Fri, 10 Nov 2017 09:12:41 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=3059 私たちは本当は何を見て聞いているのか?
NTT コミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員 スポーツ脳科学プロジェクトPM 東京工業大学工学院情報通信系特任教授 博士 柏野牧夫さん

NTT コミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員 スポーツ脳科学プロジェクトPM 東京工業大学工学院情報通信系特任教授 博士 柏野牧夫さん

───柏野さんが研究している聴覚のイリュージョン「錯聴(さくちょう)」。視覚のイリュージョンである「錯視」は画家のエッシャーの絵や、「ミュラー・リヤー錯視」などによって多くの人に知られていますが、そもそも錯聴にはどんなものがあるのでしょう?

まずこの音声を聴いてみてください。何と言っているでしょう?

───聴き取るのが難しいですね……。言葉であることは分かりますが、何を意味しているのかは判然としません。

では、続いてこの音声を聴いてみてください。

おそらく言葉が聞き取れたと思います。
ひとつ前の途切れて聞こえる音声は、読み上げられた文章を100〜200ミリ秒程度の間隔ごとに音声信号を削除して無音にしたものです。後の音声はその無音部分に雑音を入れたものです。途切れて聞こえていたはずの音声が滑らかに聞こえたと思います。

───本当ですね……。どうしてこんなことが起きるのでしょうか?

これがまさに音のイリュージョン、錯聴なのです。

私たちの脳は、聞く人が意識していなくても、雑音部分の前後から予測をつくりだし、本来聞こえているはずの音を補います。
不思議な体験ですが、決して欠陥ではありません。錯聴は日常生活、さらには私たちが適切に生存するための脳の巧みな戦略なのです。

たとえば日常生活で誰かと話をしている時、周囲は雑音だらけです。道端であれば車の音がしますし、カフェであれば人の話し声やくしゃみの音がします。こうした雑音を適切に処理できなければ、私たちはおおいに生活に困ります。

さきほどの錯聴の途切れた音声のように、車の音やくしゃみが聞こえるたびに聞きたい音声が途切れて聞こえ、相手が何を言っているのか分からなくなります。緊急事態では命の危険にもさらされることでしょう。

雑音の中であっても、特定の聞きたい音声をきちんと認識する脳の戦略。それが音のイリュージョン、錯聴の正体なのです。

続いてこの画像を見てみてください。黒い部分に何が書かれているか判別できるでしょうか?

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───これも難問ですね……。

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これが答えです。単純なアルファベットの文字であっても、多くの部分が「欠けている」黒のイメージではその判別が非常に難しいことがわかります。

私たちの脳は、隠されているイメージのあるべき形状を推測し、補完する働きがあります。赤い円によって、黒いイメージの一部が「欠けている」のではなく「隠されている」という情報が脳に与えられると、すぐに認識できるようになる。これもさきほどの錯聴同様、脳の戦略です。街並みや自然の風景を見てみると、お互いに重なり、隠し合っていますよね? それらを適切に認識できるのは脳の情報処理のおかげなのです。

このように、私たち人間は決して“生”の光や音の信号にアクセスしているわけではありません。それらは私たちの感覚器を最初に刺激しますが、私たちが見たり聞いたりしていると感じていることはすべて、脳の情報処理が終わった後の情報です。目や耳に入ってきた物理情報と、私たちが認識している情報はずれている。その“ずれ”のことを錯覚と呼ぶわけです。

視覚は空間認識に優れ、聴覚は時間認識に優れている

───視覚にも聴覚にも錯覚があるということは、それらは脳内の同じ場所で情報処理されているのですか?

いいえ、基本的にはそれぞれに特化した経路で行われています。経路は異なりますが、動作原理としては共通のものがあります。その中で大きな役割を果たすのが「学習」です。人間は生きながら、この世界で「起こりやすいこと」と「起こりにくいこと」を学習します。たとえばそれまでに体験したことのない事象と出くわした時、人間はこれまで学習したことをつかって予測をつくりだし、「起こりやすいこと」を採用して認識します。その点が視覚でも聴覚でも共通しているということです。

こんな動画を見てみてください。

───目を開けて見ていると、映像の中の人物は「ば」を発声しているように聞こえますが、目を閉じて映像を見ないようにすると「が」に聞こえますね。

音声はずっと同じ「ば」で、映像だけを差し替えている錯聴です。

「読唇術」を習ったことがなくても「ば」を発声する時は口を一旦閉じ、「が」を話す時は口は閉じないものだということを脳は学習して知っているのです。そんな脳が「起こりやすいこと」を選択して認識した結果、視覚情報によって聴覚情報が歪められるという錯覚です。
続いてこの2つの映像を見てください。

 

───後の方の映像では、点滅が2回ですね。

実は両方とも、点滅の回数は1回なのです。

脳は視覚と聴覚の情報を処理し「起こりやすいこと」を選択するのですが、その結果、聴覚情報によって視覚情報が歪められる場合がある。その特性を活かしたのが、この錯覚です。

視覚というものは、聴覚よりも遥かに空間を捉えるのが得意なのですが、時間を捉えるのが苦手なのです。つまり「時間的精度」が低い視覚は、この映像において、光の存在は捉えられても、非常に短い時間間隔での点滅を正確に捉えることができないのです。

その一方で、聴覚は音源の位置などの空間情報を捉えることが不得意ですが、時間を捉えるのは得意です。時間的精度では、聴覚は視覚よりもざっと10倍は高い。それゆえ、この映像で流れるような短い音の切れ目を正確にとらえることができる。

時間的精度が重視されるこの映像において、脳が時間的精度で信頼のおける聴覚情報を重視した結果、視覚情報がゆがめられ、同じ光でも、2回点滅したように見えてしまうのです。このように視覚、聴覚には得意不得意があり、脳の情報処理は得意な方を尊重するようにできているのです。

変化球は脳がつくるイリュージョン

さて、ではイリュージョンがスポーツの野球のどんな部分に見いだせるのか、見ていきましょう。
この動画を見てみてください。まずはボールを目で上から下へと追いかけてみてください。まっすぐに落ちていますよね?

※全画面表示にすると、錯視効果をより明確に体感できます

───ボールは回転しているように見えますが、まっすぐ下に落ちています。

ではこのボールを視野の片隅で捉えるようにして見てみてください。脇目で見るようなイメージです。

───上から下へと追いかけている時に比べると、ずれて落ちていくように見えますね!

そうです。動画自体は終始同じ内容です。もうお分かりですよね。実は「消える魔球」と呼ばれるような変化球も、その多くが視覚のイリュージョンによって、実際以上に変化しているように見えるのです。まさにこれまでお話してきた「人間が見たり聞いたりしたと感じていることは、物理的に目や耳に入ってきている情報とは異なる」ということが、野球でも起きているわけです。つまり、バッターが見ているボールの軌道は物理的な軌道とずれている可能性があるということです。

たとえば、豪速球について考えてみましょう。豪速球というわけですから、当然、球速が速いボールがその本質であり、バッターにとって打ちにくいと思いますよね? しかし物理的に球速が速いだけでは、豪速球と感じられるとは限りません。逆に、「球速が遅いのに速く感じられる」という豪速球もあるのです。

たとえば元プロ野球選手の山本昌選手の投げるボールを、複数のプロ野球選手が口を揃えて「昌さんが一番速い」と評します。しかし実際に山本昌選手の球速を数値だけで見てみると、ほとんどが130 km/h台です。この球速は、他の選手と比較して、決して速いわけではありません。

その他にも、プロ野球選手と「誰の投げる球を速く感じるか」という話をするたび、名前があがるのは、物理的には球速が遅い部類の投手が結構います。さらには150 km/h台の、いわゆる豪速球に相応しい球速のボールを投げているはずなのに、「全く速いと感じない」と評価される投手もいます。豪速球というものは、球速や回転数などの計測値だけでは捉えられない、イリュージョンが選手の能力に大きな影響を及ぼしているのです。

───どうしてそんなことが起きるのでしょう?

網膜の特性と眼球運動です。「カーブボールイリュージョン」で、見方を変えただけでボールの動きが違って見えたように、網膜のどの場所で、どのように見るかによって、ものの見え方はまるっきり変わってくるわけです。
網膜の視野は、中心はものを細かく見ることに長けていて、周辺視野はもの動きを捉えることに長けている。この特徴を活かして普段の私たちは物事を適切に知覚していますが、同時に変化球はその特徴を、まるで手品のように巧妙に転用して生み出されていると考えられます。

たとえば野球において、ボールが行くであろうところを予測し、目をやった時、予測が当たればボールを捉えることができる。しかし予測が外れると、目を向けたはずの場所にボールが無い、消えたように見えるわけです。
魔球と呼ばれるような変化球も、こうした人間の特性を意図的に引き起こし、バッターを騙すようなものだと考えられます。
ちなみに、私たちの目がはっきり見えているのは視野全体の何パーセントくらいだと思いますか?

───80パーセントくらい……でしょうか?

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私たちはこの世界を大パノラマで見ている気でいますが、実は精細に見えているのは視野の1〜2パーセント程度と言われています。私たちはこの、たかだか1〜2パーセントの視野をつかって、あちこち見回し、しかも見回している間は「世界は変わっていないはず」という前提のもとでそれらを脳内で繋げて処理し、大パノラマで“全体が精細に見えている気がしている”わけです。言ってみればこれもイリュージョンです。

このイリュージョンをうまく応用したものが手品です。人間が「世界は変わっていないはず」と思い込んでいる98パーセントのはっきり見えていない視野で、手品師はいろんな作業をしてみなさんを術中に陥れているわけですね。

リアリティとは、感覚間の一貫性で決まる

───私たちは現実感、つまりリアリティをどのように生み出しているのでしょう?

私たちの持つリアリティとは、複数感覚の一貫性によってもたらされるものです。たとえば私たちにとっての「上」と「下」も、感覚的な一貫性があるからそう感じているわけです。

私たちは重力に対する傾きを平衡感覚でとらえ、上にあるべきものと下にあるべきものを視覚でとらえ、床や天井の触覚をとらえ、それらを脳内で複雑な情報処理によって統合し、一貫したリアリティを構築することで、この地球上で生きているのです。

――複数感覚の一貫性をうまくつくることができれば、今と違う現実を生きることも可能ということですか?

そうです。それが「VR(バーチャルリアリティ)」の可能性です。たとえば逆さ眼鏡で生活していると、最初は酔ったりして大変な困難を覚えますが、次第に慣れ、ついには自転車も乗れるようになります。

VRでも同様で、自分の足が今の2倍の長さに感じられるようなVRの中で生きていると、脳はいつしかその足を自分の本物の身体だと認識するようになり、VRの中で違和感なく暮らせるようになります。

運動感覚と視覚情報を一致させるなど、複数の感覚の一貫性を適切につくっていくことができれば、私たちは“この身体”に代わる、新しい身体を見つけることができるのかもしれない。少なくとも、人間の脳は、この身体以上に身体性を拡張できるようにできているのですから。

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全英オープンで見た、ARが拓く未来 https://inforium.nttdata.com/foresight/hololens_all_england.html Tue, 03 Oct 2017 04:56:07 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2941 体験者に、思わず「Wow!」と言わせた
株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 企画部 グローバル戦略担当 部長 本城啓史

株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 企画部 グローバル戦略担当 部長 本城啓史

───さっそく体験させてもらいました。これは、すごいですね。

世界のゴルフメジャー選手権の1つ「全英オープン」に向けて、NTTデータの開発チームが新しく開発したこのAR(拡張現実)アプリは、おかげさまでたくさんのメディアに取り上げていただきました。私たちが提供したかったのは、誰でも思わず「Wow(ワオ)!」と言ってしまう驚きと感動の体験。いわば「Wow Experience(ワオ・エクスペリエンス)」です。

───日本人の私は、思わず「オー!」と言ってしまいました。

全英オープンの会場内に設置したNTTデータのパビリオンで、このARアプリをお披露目し、たくさんの方に体験していただきました。当日はゴルフ業界の関係者もたくさんいらっしゃっていて、本当に「Wow!」と言っていただけたのがうれしかったですね。

全英オープンの会場で数多くの人たちがARアプリを体験。これまでにないゴルフ観戦に「Wow!」と声を上げた(提供:技術革新統括本部)

全英オープンの会場で数多くの人たちがARアプリを体験。これまでにないゴルフ観戦に「Wow!」と声を上げた(提供:技術革新統括本部)

───ゴルフ通もうならせたARアプリですね。どんなものか、詳しく教えてください。

まず、Microsoftが提供しているヘッドマウントディスプレイ型のウェアラブルデバイス「HoloLens」をメガネのように装着します。すると目の前に3Dのゴルフコースが現れます。

───テレビのような2D映像ではなく、立体的な3Dコースが見られると。

そしてその上には、プレー中の選手のいる位置が、選手の写真で示されています。選手がプレーを進めていくと、ボールがコース上をどのように飛んだのか、その弾道データがリアルタイムで表示されます。また、選手ごとの弾道データを比較表示することもできます。たとえば、出場した日本人の松山英樹選手や、優勝したアメリカのジョーダン・スピース選手がどのようにコースを攻めたのかを分析して楽しむこともできるのです。

───ゴルフファンの方には特に喜ばれそうですね。

ゴルフファンの中には、選手のスコアや選手情報を詳しく見て楽しむ方もたくさんいらっしゃいます。HoloLensを通して目の前に表れている情報画面を指で触って操作すると、自分が見たい試合や選手のデータを選んで拡大表示できます。

また、合わせてコースの様子も見るなど、いろいろなデータを同時に表示させることも可能です。複雑な機器操作などは必要なく、目の前にあるバーチャル映像の気になるところを指で動かすだけ。「IT機器を使うのが苦手だ」という方や「最新のゴーグル型端末なんて触ったこともない」という方も意外と簡単に操作できます。

───ゴーグルをつけると目の前に広がる3Dゴルフコース。リアルで迫力がありますね。

これは、NTTデータが持つ独自技術「全世界デジタル3D地図提供サービス」(以下:AW3D)を利用したものです。デジタル3D地図の最新技術を駆使して、会場となったロイヤルバークデールゴルフクラブの1~18番ホールをバーチャルで再現しました。

───まるで鳥になった気分。ゴルフに詳しくない人でも楽しめそうです。

広大な野外のコースの上で行い、かつルールも簡単ではないゴルフ競技は、実際にやったことのない方には、どんなスポーツなのかイメージしにくいことも多いのではないでしょうか。しかしこのARアプリを体験すれば、ゴルフがどんな競技で、何が面白いのかを直感的に理解していただけると考えています。またゴルフファンの方には、ゴルフの面白さをより深く実感していただけます。

HoloLensを装着すると、目の前に広がるゴルフコース。ボールがコースをどう飛んだか一目瞭然(提供:技術革新統括本部)

HoloLensを装着すると、目の前に広がるゴルフコース。ボールがコースをどう飛んだか一目瞭然(提供:技術革新統括本部)

───ゴルフコース全体を見渡しながら観戦できるというのが斬新です。

ゴルフというと、これまではテレビ中継で楽しむのが一般的でした。コアなゴルフファンの方であっても、全英オープンなど海外のメジャー大会は、気軽には見に行けません。テレビではすべての人が同じ映像を見ていて、画面から把握できる情報には限りがあります。「トーナメント中の成績推移をもっと詳しく見たい」「選手のドライバー飛距離を比較したい」というファンがいても、そういった個別のリクエストにリアルタイムで応えるのは困難です。

最新のAR技術によって、映像によるゴルフ観戦の限界にチャレンジしようというのが今回のプロジェクトでした。全英オープンのオフィシャルパトロンであるNTTデータは、毎年何らかの新しいIT技術をトーナメント中に披露してきました。ちなみに昨年はコミュニケーションロボット。一昨年前はWi-Fiマルチキャスト。2017年の今回が、ARでした。

───最新のAR技術で、新しいゴルフ観戦の楽しみ方を実現したわけですね。

「もっと臨場感のあるゴルフ観戦を実現したい」というのが私たちの目標でした。大会期間中のパビリオンには、NTTデータが招待した企業関係者や、ゴルフ業界の関係者に加えて、海外の放送・メディア業界の方も多数訪れ、このARアプリを体験してくださいました。「Wow!」という驚きの一言だけでなく、「ゴルフ観戦の新しい可能性を感じた」「ファンが増えそう」「最新技術でここまでできるのか」といったコメントをいただきました。「テレビ中継の映像と組み合わせても良いのでは」というアイディアもいただいたりして、私たちもインスピレーションを受けました。

───この成功を受け、ARを駆使したゴルフ観戦はさらに進化しそうです。

全英オープン期間中に行った今回のお披露目は、世界初の試行運用でした。ひとまずは無事に成功したものの、今後一般にも公開して世界の人たちに楽しんでいただくには、まだまだ改善すべき点がたくさんあります。技術的な面だけでなく、「ゴルフファンの立場で考えると、選手スコアの表示方法をもっと工夫すべきだった」とか、ユーザビリティの観点からもいろいろと課題点が浮き彫りになりました。

───今後に期待がかかりますね。

今回のプロジェクトでは、ARでコース全体を見渡すという新しい視野を実現しました。しかし逆に、コース上にいる選手にうんと接近し、プレーしている横で観戦できたりしたら、それもまた大変面白いでしょう。今後さらなる研究開発が必要です。とはいえ、日本にいながらにして、全英オープンをARでリアルタイム観戦できるというところまでは、すでに現段階で実現可能となっています。

全英オープンの感動を支えるのは最新のIT技術。スコアや観客からのツイートを表示するなど、インタラクティヴなゴルフ観戦を実現したNTT DATA WALLもその1つ

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近未来を体感するIoT宿泊施設へ https://inforium.nttdata.com/report/and_hostel.html Tue, 29 Aug 2017 01:18:06 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2848 海外からのゲストが訪れる

国内初のスマートホステルを銘打ち、宿泊を通じて最先端のIoTデバイスを体験できる「&AND HOSTEL(アンドホステル)」が福岡に誕生したのが2016年8月です。その第3号店が「&AND HOSTEL UENO」(東京・台東区)。稼働率9割以上を誇る人気施設は、どのようなサービスを提供しているのでしょうか。

AND HOSTEL UENO(東京都台東区東上野6-8-7) ※画像クリックでホームページが開きます

AND HOSTEL UENO(東京都台東区東上野6-8-7) ※画像クリックでホームページが開きます

施設に伺った3人は、NTTデータ技術開発本部の研究者。『絵で見てわかるIoT/センサの仕組みと活用』の著者でもある小島康平、小山武士、河村雅人です。

(左)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 IoT/ロボティクスチーム 主任 小島康平(中)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 小山武士 (右)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 河村雅人

(左)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 IoT/ロボティクスチーム 主任 小島康平(中)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 小山武士 (右)NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 河村雅人

建物入口で出迎えてくれたのは&AND HOSTEL UENOのブランド責任者を務める、茶置貴秀(ちゃおき・たかひで)さん。ホステルをプロデュースするand factoryは、もともとエンターテインメント系のアプリ開発を手がけています。そのため、同施設で用いるアプリを独自開発できる強みがあるのです。

and factory IoT Division Real Estate Tech Unit 茶置貴秀 マネージャー

and factory IoT Division Real Estate Tech Unit 茶置貴秀 マネージャー

茶置 ゲストの8割が海外から予約した宿泊客で、そのうちの4割ほどがアジアからの旅行者です。年齢層は20〜30代が多く、男女比は半々くらいですね。

当館に2部屋ある「IoTダブルルーム」に宿泊されるゲストには、チェックインの時に専用アプリをインストールしたスマートフォンを貸し出します。

ゲストのスマホにダウンロードした方が利便性は高いのでしょうが、IoT機器のセキュリティ面を考慮して、まだこの方法を取っています。それでは皆さん、2階へどうぞ。先にこのアプリで部屋のクーラーをオンにしておきましょう。

専用アプリは主に日本語表記(固有名詞などは一部英語)。海外ゲストとのコミュニケーションは、グラフィックをわかりやすくして伝えていく方針をとる

専用アプリは主に日本語表記(固有名詞などは一部英語)。海外ゲストとのコミュニケーションは、グラフィックをわかりやすくして伝えていく方針をとる

プラットフォーマーに乗らない

茶置 こちらがIoTダブルルームです。ここにある機器はAPIコードが開放してもらっていて自分たちで組み直していますので、複数のデバイスの連携を可能にしています。

複数の機器を手元のスマホアプリで一括操作できる室内。温度や湿度などの環境情報も収集している

複数の機器を手元のスマホアプリで一括操作できる室内。温度や湿度などの環境情報も収集している

ワンプッシュで4つの信号を送れます。例えば、アプリの「ナイトモード」を押すと、鍵がかかり、カーテンが閉まり、エアコンが快眠モードになり、照明が豆電球になる。こうした一連の体験を提供しています。

(上)フィリップス「Philips Hue」(左下)ロビット「mornin’」(右下)キュリオ「Qrio Smart Lock」

(上)フィリップス「Philips Hue」(左下)ロビット「mornin’」(右下)キュリオ「Qrio Smart Lock」

小山 部屋の鍵の開閉、鍵管理をアプリ側でできるのは非常に便利ですね。解錠と同時に部屋の中の照明を点けるといったサービスは従来からよく語られるアイディアですが、実際に体験してみると改めて便利なサービスだと感じます。

入室前にエアコンを操作できるのは思いのほか良いですね。一般的なビジネスホテルでは、入室時に熱気がムッとすることがありますし。お客さんが欲しい体験をすぐに用意できているのは、当たり前のようでいながらとても気持ちが良い体験です。

茶置 UIやUXの部分に気を使ってアプリを開発しています。得られる情報は多いに越したことはないのですが、多すぎると使う側が迷ってしまう。部屋のライトは約1,600万色表現できるものの、シーンを6つに切り取っています。体験の本質が下がらないようにするバランスが大事です。

河村 できることが多いと、結局は何もできないと言いますから。お客さんに「この体験をしてほしい」というところに絞り、それを提供することが大事ということですね。

茶置 そうです。これが100%の完成度とは思っていませんので、お客さんの声から改善していきたいですね。

河村 ところで、複数のデバイスに関して、逐次「APIを開放してください」とお願いしていったのは、結構大変だったのではないですか?

茶置 フィリップスは当初からAPIを一般に開放していたと思いますが、駆け出しのベンチャーにAPIを無償で開放する国内メーカーの例はなかなかありませんから、当初ハードルが高かったですね。

IoT機器を入れるごとに個別のアプリが必要になるのはまったくスマートではありません。それらの機器を一元管理できる独自のアプリを開発することは、事業の肝だと考え、APIを組み直してアプリを開発しました。

小山 プラットフォーマーと呼ばれる大手が提供するサービス、例えば、アップルの「HomeKit」や、グーグルの「Google Assistant」系サービス、アマゾンだったら「Alexa」といったものに乗っかって、自前で外側だけつくるようなやり方もあったと思うのですが、あえてそうしなかった理由は何でしょう。

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茶置 鍵を開けて部屋に入ると自動的に電気が点く、朝に目が覚めると自然にカーテンが開いて快適な温度に設定されている、といった一連の体験を設計するには、自社でやるのが一番だと思ったんです。

小島 確かに、IoTのデバイスを一番下に据えながら、全体の空間をデザインすることまで自分でやろうとすると、メーカーと直接やり取りするほうができることの枠が広がるかもしれません。

提供する側のメーカーとしても、プラットフォーマーにAPIを開放してしまったほうが楽かもしれませんが、いったんプラットフォームに乗ってしまうと、その仕様に準拠したものしか使えなくなってしまい、空間における制約条件がどうしても増えてしまう。自前でアプリを用意する手段があるのは、ビジネス面で重要だと思います。

建築空間も変えていく

茶置 現在のIoT機器は一般住宅の規格に合わせて設計されていますから、宿泊施設のような場所に使うのはいわば後付けで、少し無理をして設置している部分もあります。特に電源周りは煩雑になりがちで、独自にボックスをつくるなどで対応しています。

私たちが先陣を切って使って導入していけば、建築もIoTとの関係ありきの設計になって、空間も洗練されていくと思うのです。将来、壁の照明スイッチやドアの鍵穴などがない部屋が生まれたら、とてもスマートではないでしょうか。

ボックスには、室内にあるIoT機器へのアクセスポイントの役割を果たす「iRemocon」と「Philips Hue ブリッジ」が設置されている

ボックスには、室内にあるIoT機器へのアクセスポイントの役割を果たす「iRemocon」と「Philips Hue ブリッジ」が設置されている

小島 IoT機器を他の製品と組み合わせる場合、メーカーごと、デバイスごとにまとまってしまっているケースが多いように感じます。この部屋では体験をデザインするために入口からIoTデバイスを組み合わせている印象を持つので、非常に良い刺激を受けます。

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村井純(インターネット研究者) https://inforium.nttdata.com/keyperson/murai.html Fri, 21 Jul 2017 03:48:38 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2774 テレビは隠れた主人公

───IoT(Internet of Things)は「モノのインターネット」という訳語で紹介されることが多いですが、人や企業によって解釈もさまざまです。村井教授は一言でどう定義されているのでしょうか。

「全てのモノがフルスタックのTCP/IPを喋るコンピューターになる」という定義になると思います。あらゆるモノが本当のインターネットノードとなってインターネットと繋がるようになったということです。

これまでインターネットと繋がっていたのはコンピューターでしたが、それがあらゆるモノになる。コンピューターと全く同じ通信機能、責任を持っている時代になったというのが一番短い説明ですね。

村井 純(むらい・じゅん)慶應義塾大学環境情報学部学部長・教授。1955年東京生まれ。1984年慶應義塾大学大学院工学研究科後期博士課程修了。同年、東京工業大学総合情報処理センター助手時代に、東工大と慶應義塾大を接続した日本初のインターネット「JUNET」を設立。以来、インターネットの技術基盤や活用の発展に関わり続け、「日本のインターネットの父」と呼ばれる。英語中心だった初期のインターネットを、日本語を始めとする多言語対応へと導いた。WIDEプロジェクト ファウンダー。1994年より開催されているネットワークコンピューティングに特化したイベント「Interop Tokyo」で実行委員長を務める。内閣高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)有識者本部員。「IoT推進コンソーシアム」会長。

村井 純(むらい・じゅん)慶應義塾大学環境情報学部学部長・教授。1955年東京生まれ。1984年慶應義塾大学大学院工学研究科後期博士課程修了。同年、東京工業大学総合情報処理センター助手時代に、東工大と慶應義塾大を接続した日本初のインターネット「JUNET」を設立。以来、インターネットの技術基盤や活用の発展に関わり続け、「日本のインターネットの父」と呼ばれる。英語中心だった初期のインターネットを、日本語を始めとする多言語対応へと導いた。WIDEプロジェクト ファウンダー。1994年より開催されているネットワークコンピューティングに特化したイベント「Interop Tokyo」で実行委員長を務める。内閣高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)有識者本部員。「IoT推進コンソーシアム」会長。

───具体的にIoTの普及はどこまで現実味を帯びているのでしょう。注目している事例がありましたらお聞かせください。

最もIoTらしい例は、かなり発展してきた「スマートホーム」のようなものですよね。空調などのエネルギー関係は賢い繋がり方をするようになりました。その前提になっているのが家庭におけるWi-Fiの普及です。つまり電気製品がWi-Fiを介して基地局になれる。そこからアプリと繋がって、家庭の中のネットワークの一部になります。

スマホで機器のオンオフや設定ができるようになるし、最近の空調機器はダニやゴミも吸っているから、ヘルスケアにも役立てる。その辺りが身の回りでは発展しているのが現状です。

しかし、本当にフルスタックのTCP/IPのインターネットが乗っている家電機器は日本だとテレビなんです。2011年7月24日までにデジタル化すると決めましたが、これは歴史的にすごいことでした。国が「家のテレビを全部買い換えてください」と言ったんですから(笑)。

今すべてのテレビにはTCP/IPがあり、Ethernetが繋がるスペックが標準です。皆さんあまりインターネットに繋がる機能を使っていないから気付かないでしょうが、デジタルテレビは全部がインターネットに繋がるんですね。裏にEthernetの「RJ45」というコネクタが付いているし、Webブラウザーも搭載されています。

どのように使われるかは未知数の部分もありますが、テレビがインターネットに繋がれば、画面も大きいし、いろんなことができるようになるのではないかという夢があります。テレビはIoTの隠れた主人公なんです。

モノが自然の状態を検出する

───テレビとIoTの可能性について、もう少し詳しく伺えますか。

例えば米国の「Netflix」は、完全にIoT時代に即したビジネスを構築できています。米国ではテレビ本体ではなく、その脇にあるセットトップボックスをインターネットに繋ぎますが、テレビがインターネットに繋がったことを最大限に利用したのですね。

視聴者たちがどんな番組を見ているかをベースに「ハウス・オブ・カード 野望の階段(原題:House of Cards)」というテレビドラマを作り、それが「エミー賞」まで獲りました。視聴データを分析して、視聴者の一番喜びそうなドラマのシナリオを練り上げたのですね。これはビッグデータ分析の成功例ですが、同じ動きが日本でもこれから起こるはずです。

ハウス・オブ・カード 野望の階段 シリーズ予告編 – Netflix(2016/03/04 に公開)

───コンテンツビジネスの設計やサービスデザインに家庭の機器が強く影響するのは、IoTの話題として意外でした。

やはりテレビという機械のそばには、人間のユーザーがいますから。テレビを通じてユーザーの情報がすべて集められ、分析され、良いサービスに繋げていける。こうしたモデルは、IoTに期待される典型的な役割でもあるわけです。

───モノのインターネット化という表現より、「人間のそばにいるモノ」のインターネット化、という表現が相応しい例に思えました。

そういった側面もIoTにはありますね。モノが検出している人間の動きも一つの武器になると思います。あるいはモノが検出する自然の状態なども、何かを調べたいときに大きく役立ちます。

例えば、農作物の発育状態がどういう状態になっているかをセンサーが検知します。そのデータを集めると、その農作物に対してケアができるだけではなくて、地域一帯でどれだけの生産量を見込めるのかといった分析や、作物が病気になった時にどう対処できるのかといった対処が、センサーが繋がっている時と繋がっていない時で全然違います。

産業の成長は、4番目の時代へ

───IoTは社会やビジネスを変えていくということですね。

それ以前にもいくつか変革がありました。アナログの時代、コンピューターの時代、アフター・インターネットの時代。この3段階で、産業は成長を遂げてきました。

アフター・インターネットの時代までに、1つの産業を縦に繋げる動きが加速しました。全部がデジタルで繋がるようになって、データが流通するようになったからです。データサイエンティストも増え、流通するデータをどうやって利用するか、共有できるか、連携できるかという動きが起こりました。

今、これらの次に来ているのがIoTの時代です。この時代の特徴は「横」に繋がって発展できることです。先ほどのNetflixなど、コンピューター以外にデータ利用するためのモノが出てきたので、カバーできる範囲は無限です。

インターネットはすべての分野、すべての人に繋がることを目標にしてきましたが、すべてのモノが繋がるとどうなるか。

典型的な例としては、農作物の栄養素と人間の健康を結びつけることが考えられます。今まで「健康」という分野と「農業生産」という分野は、それぞれの産業として縦に分離していました。これが連携することで、新しいアプローチが生まれます。ハイブリッドな産業を結び付けて、社会全体に新しいインパクトを起こせるところまで来たのです。

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市場拡大を続ける無人航空機ビジネス https://inforium.nttdata.com/report/uas_business_idea.html Thu, 15 Jun 2017 02:29:51 +0000 https://inforium.nttdata.com/?p=2613 40年以上の知見を活かしUAS市場に挑む

2017年4月。NTTデータが新たに立ち上げた「UASビジネスグループ」は、「UAS」を活用した事業の企画立案を行う部署です。40年以上の長きにわたり、有人機用の航空交通管制システムを提供し続けてきたNTTデータ。その知見とノウハウを活かし、世界的な盛り上がりを見せるUAS市場に参入していきます。

現在このUAS市場には大きく3つの領域があります。ひとつ目は、ドローンをはじめとするUASの機体そのもの、すなわちハードウェアを中心に扱う領域。ふたつ目は、ネットワークを扱う領域。そして3つ目が、運航管理を行うFOSや空域・交通管理を行うUTMといったセンターシステム、すなわちソフトウェアを中心に扱う領域です。

この3つの領域のなかでUASビジネスグループはソフトウェアの領域、とくにFOSやUTMのシステムに注力した事業展開を考えています。その第一歩として、2017年10月には「airpalette UTM」というUAS専用運航管理・交通管理システムの提供を開始する予定。すでに、民間企業や地方自治体での導入が始まっていて、国内市場はもちろん、アメリカやヨーロッパ市場を視野に入れシェアの拡大を目指していきます。

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UAS市場における3つの領域。FOSやUTMのシステムを使用した場合、指示は左から順に伝わる

2020年には世界で1兆円の市場規模にまで成長すると予測されるUASビジネス。
今後、苛烈な競争が待ち構えているであろうこの領域で、NTTデータはどのように戦っていくのか。UASビジネスグループの伊神惠(いかみ・けい)と吉井洋平(よしい・ようへい)に話を聞きました。

拡大を続ける無人機ビジネスの市場

───まず、UAS市場の変遷を教えてください。

吉井 2001年の9.11テロをきっかけに、軍事利用を目的としたUAS開発がさかんになりました。2010年ごろには、エッジコンピューティングの技術革新により、ホビー用のドローンが開発され、市場が一気に盛り上がってきたんです。また搭載機能やWi-Fiの開発が進んだ影響で、操縦に関する特別な訓練なしに誰もが簡単にドローンを扱えるようになりました。

伊神 現在では、さまざまなビジネスに活用される業務用ドローンも増えてきています。ハードウェアが進化したことで、広大な土地の測量や危険な場所の点検など、精緻な技術が求められる分野にも続々とドローンが導入されるようになったんです。今後もかなりのスピードで技術革新が進み、市場規模も成長を続けていくことが予想されます。

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

(左)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 課長代理 吉井洋平 (右)NTTデータ 第一公共事業本部 第一公共事業部 市場創造推進室 UASビジネスグループ 部長 伊神惠

───現状、市場を席巻している国や企業はあるのでしょうか?

伊神 ハードに関しては中国の「DJI」が世界一のシェアを誇っています。ただ、世界中のスタートアップ企業が参入してきているので、情勢は変化する可能性が大きいです。

一方、ソフトの領域ではいまだ圧倒的な競争力を発揮している国や企業はありません。というのも、FOSやUTMといったシステムの要請が高まったのは、ドローンが業務用に活用されるようになった背景があるからなのです。その歴史はまだ浅いうえ、参入している企業もハードウェアと比較すればさほど多くはなく、シェアや技術力はいまだ横並びいった状況です。

───世界的に見て、NTTデータのような大企業がUASビジネスに参入することは珍しいのでしょうか?

伊神 たしかに、アメリカやヨーロッパでUAS事業に取り組んでいるのはスタートアップ企業がほとんどです。ただ、かなりの額の資金を調達していたり、インテルやマイクロソフトといった世界的企業が支援していたりするので、ひとくちに言える状況ではありません。今後は、スタートアップや大企業を問わず、多くの企業が参入してくることが予想されます。

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

株式会社MM総研によると、2021年の国内市場規模は2016年の見込みの約4倍と予測されている。出典:MM総研(リンク:リリース)

NTTデータが目指すのはUTMのマルチベンダー

───NTTデータはUASビジネスのなかでもソフトウェア、とくにFOS及びUTMに注力して事業を行っていくとのことですが、その背景や理由について教えてください。

伊神 そもそもNTTデータが、ITプラットフォームサービスの提供を主な事業としてきた背景があります。さらに、UASビジネスグループが属している第一公共事業部は、長年有人機の航空交通管制システムを提供してきた実績があります。その知見やノウハウを活かすという面でも、運航を管理するFOSや、空域・交通を管理するUTMの領域でチャレンジしたいと考えました。

吉井 また市場調査を進めるなかで、特定の業務に対してドローンそのものからそれを管理するシステムまで「垂直統合」で提供している企業が多いことが判明しました。そのなかでNTTデータの知見を活かせば、さまざまな業界を横断するマルチベンダーとして事業展開できるのではないかと考えたんです。

───具体的に、有人機のシステムで培った知見やノウハウは、UASビジネスにどのように活かせるのでしょうか?

伊神 NTTデータが海外展開のために立ち上げたソフトウェアブランド「airpalette」では、衛星写真を活用して、地形や障害物を3Dで再現するというソリューションを提供していました。その技術はUASの分野でも活用できると考えています。

───世界中の企業が市場に参入してくるなかで、NTTデータが差別化をはかるポイントはどういった点なのでしょうか?

伊神 最大の差別化ポイントは、効率と安全の両立ができることです。現在市場に参入している企業の多くは効率性やフライトの自由度を最優先している印象があります。しかし我々のように、航空交通管制システムの開発に長年携わっている立場からすると、空域という限られた公共資産をいかに安全に活用するかということが第一なんです。そのための知見やノウハウを持っている企業は、国内外を見てもNTTデータ以外にはほぼありません。

吉井 実は、ドローンが飛行する高度150メートル以下の空域には、ドクターヘリやセスナ機といった有人機も飛び交っています。もしドローンが効率性や自由度ばかりを重視したフライトをすれば、取り返しのつかない大事故につながりかねません。空の安全を守るためにも、NTTデータが率先して空域・交通を管理するUTMの領域に取り組んでいきたいんです。

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている

airpaletteのサイトトップ。ブランド内では、飛行経路設計システムやタワー管制訓練システムなどが提供されている(リンク:airpaletteウェブサイト)

日本はUAS市場でイニシアチブを握れるのか?

───日本はIT分野でのグローバル展開に出遅れていると思うのですが、UASの分野でイニシアチブを発揮できる可能性はあるのでしょうか?

伊神 これまで日本がIT分野で世界に遅れをとってきた最大の原因は、はじめからグローバルな市場を想定していなかったことだと考えています。日本そのものが裕福な国ですから、国内市場で成功するだけでもある程度の利益が得られるわけです。するとどうしても日本市場を軸足に事業を進めてしまい、結果的に海外展開に遅れをとってしまいます。

そこで我々は、一からグローバルな市場で事業展開を進めていこうとしているんです。とてもチャレンジングなことですが、そうでなければ生き残っていけないと思います。

───チャレンジングな状況のなかで、NTTデータが解決しなければならない課題はありますか?

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吉井 国内外問わずさまざまな企業がドローンを開発するなか、種類や形状、機能や飛行速度などは多種多様になっていきます。グローバルなマルチベンダーを目指すNTTデータにとって、それぞれの機体の特性を踏まえたうえで、いかに空の安全を担保するシステムに落とし込んでいくかということが大きな課題です。ただ、NTTデータには有人機の分野でメーカーに依存しないソリューションを提供してきた実績がありますから、その知見を活用して解決できる課題だとも考えています。

無人機の進化が叶える便利な社会

───UASビジネスは今後どのような発展を遂げていくのでしょうか?

伊神 たとえば、詳細な気象情報のデータを集めることでよりピンポイントな天気の予想が可能になるかもしれません。我々の事業で言うと、現在は衛星画像を使って再現している3D画像を、UASが収集してきた地形や障害物のデータを活用して、より詳細で精密なものに進化させることができるのではないかと考えています。

───今後、ハードもソフトもUASの技術が進化し続けていくなかで、どんな社会が実現できると思いますか?

伊神 地方や過疎地にUASで荷物を運搬したり、危険をともなう作業をドローンが代わりに行ったり、さまざまな公益をもたらしてくれるでしょう。また災害発生時に、いち早く被害状況を把握するための手段としても活用できます。今後、さまざまな企業や事業者とパートナーシップを組み、UASが効率的かつ安全に社会のために活用されるようなエコシステムを構築していくのがNTTデータの使命だと考えています。

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