Focused Issue

空間の共有で起ち上がる世界

国内外のITサービス事例などの最新トレンドを
映像や音楽を駆使したコンテンツで紹介するのが
通称「吉田劇場」と呼ばれる、エネルギッシュな講演。
NTTデータ イノベーション推進部部長の吉田淳一は
顧客と課題や思いを共有しつつ、未来のインフラを考えます。

これからは「気持ちをパケットに乗せていく」ということが
大事になってくるのではないか。

NTTデータ社員による “劇場型講演”

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観光とは、国の光を見ること

農家民泊をテーマに、2016年の3月12日〜13日には東京・豊洲でのハッカソン、3月23日〜24日に宮崎・西諸地区での実証実験が行われた「宮崎と東京をつなぐハッカソン」。

「宮崎と東京をつなぐハッカソン」のダイジェストムービー

一連の流れに先立って、都内で催されていたのが「NTT DATA Innovation Conference 2016」の「地方創生」セッションにおける、この取り組みの紹介だった。

登壇したのは、NTTデータ イノベーション推進部部長の吉田淳一。テキスト中心のスライドが続く従来のプレゼンテーションではなく、多くの写真や音声、YouTubeのムービーを使っての講演だった。

通称「吉田劇場」と呼ばれるこの講演は、これまでに省庁や自治体、企業など、のべ500団体以上で行われてきたもの。冒頭でショッキングな効果音とともに紹介されたのが、消滅可能性都市を取り上げた「増田レポート」の内容だった。

「自治体で人口が1人減ると、歳入が121万円ほど減ると言われていますよね。外から人を呼び込むとき、お金をいくら落としてもらえばいいでしょう。例えば、昨年は2,000万人のインバウンド(外国人観光客)が来日しました。『爆買い』される中国系の方々は平均11万円ほど使ってくれますが、それでも11人が必要です。大都市はどうぞやってくださいという感じですね」

観光とは「国の光を見るということに他なりません」と吉田は続ける。

「その地域でなければ見られない、会えない、味わえないものに触れる。それが観光の本来のあり方なんです。これは、昭和初期の西諸の写真です。沖縄の学童児童の疎開先は、西諸地区が多かったんですね。この地域は『人』が一番の資源なんです」

「そんな『人』を生かすために、ICTでどうやってお手伝いできるでしょう。外の若者と手を組むと、観光都市としての光が見えてくるのではないか。私たちは住民の皆さんとともに西諸流のスタイルを創造し、交流人口を増やしていこうと考えています」

小林市が制作してネットで話題になった移住促進ムービーについては、こう分析した。

「自分たちの地元はこういうところです、というのは十分に伝わりましたよね。ただその後、実際に来てもらえるかは別です。そのときに『ウェブコミュニケーション』が力を発揮するんです。空間を共有して、訪問前にお互い顔が知れた仲になる。訪問後もクチコミの循環によって、地域としてのブランドが育っていく。こうしたことを一緒にやっていきたいと考えています」

空間の共有で気持ちを伝える

ムービーだけにとどまらない「映像そのものが持つ力」について、こんな例を挙げた。

「どうやって農家民泊を広げていくか。そのヒントが『空間の共有』にあります。中学生や高校性が修学旅行で来ていても、親からすると子供たちが何をやっているのか分かりません」

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「でも、普段は朝起きられなくて遅刻している我が子が、朝4時に起きて牛の世話をしているのが映像で見られたらどうでしょう。きっと親御さんたちは感動しますよね。実際に子供たちが体験するのを見ると土地が近くなる、より理解できる、関係が深まる。これが映像の力なんです」

吉田劇場で現在取り上げるテーマは「インバウンドの需要拡大」と「地方創生」の2つであることが多い。あらためて、ITを活用する狙いを語る。

「日本社会や経済を活発化させる方法として、地方それぞれに特徴を生かした仕組みづくりをITでしたいと、NTTデータは企業や自治体と話し合っているところです。お客様の中に、まだ活用されていない魅力や可能性がたくさんあるんです。そんな気づきを生み出すのも、この『吉田劇場』の目的の1つです」

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「これまでNTTグループでは通信インフラを主に手がけてきました。情報を0と1の世界のパケットという形に分割して、世界中に発信していたんですね。これからは『気持ちをパケットに乗せていく』ということが大事になってくるのではないかと思っています」

離れた場所からの気持ちを伝える。それをバーチャルの世界だけで完結せず、リアルな世界でも実現したい、と今後の計画を披露した。

「大丸有(大手町、丸の内、有楽町)と三菱地所さんの間でコラボレーションして、都会のワーカーの方々と地域をどう結び付けるかを考え始めました。先に行われたアイディアソンでは、半日で111個ものアイデアが集まりました」

それらのアイデアは、4象限に当てはめると「見せる」と「体験」に集中していたという。

それを「つなげる」「貯める」という方向につなげるため、ハッカソンで空間共有の方法を実現していきたい、と語った。

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※1 NTT DATA Innovation Conference 2016

2016年1月28日に東京・溜池山王のANAインターコンチネンタルホテル東京で開催。数々の講演に加えて、「Technology(最新技術や高い技術力のビジネス活用など)」「Foresight(従来のビジネスを変革させる先進的な取り組みなど)」「Global(グローバルでのビジネス展開を力強く支える取り組みなど)」の3分野による分科会形式のセッションを設けた。
http://www.nttdata-conf.jp/innovationconference/2016/

※2 インバウンド(外国人観光客)

日本政府観光局(JNTO)調べによると、2015年の訪日観光客数は1,973万7千人。1970年以来、45年ぶりに出国日本人の数を上回った。旺盛な訪日意欲を後押ししたのは、円安による割安感の定着、ビザの大幅緩和、消費税免税制度の拡充等。そのほか、クルーズ船の寄港増加、航空路線の拡大、燃油サーチャージの値下がりによる航空運賃の低下、訪日旅行プロモーションによる需要拡大も要因としている。

地方と地方がつながっていく未来

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一人にならないで済む空間共有

空間共有で実現することは、何だろう。吉田は、「宮崎と東京をつなぐハッカソン」を終えた今、こう考えている。

「一番のメリットは、気持ちを伝えられることです。僕は日常的に母親と実践しています。3年前に父が亡くなり、母は神奈川の実家に離れて住んでいるんですね。東京で暮らす僕たち家族が夜9時過ぎに帰宅して、回線をつないで夕食を作るんです。すると『今日は何を作っているの?』と母が向こうから覗きに来るんですよ」

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「母親はITのリテラシーやノウハウが全くありませんが、たった2アクションでつながれてしまうので簡単です。土曜日には離れた家同士でも画面越しにテーブルを1つにくっ付け、食事しながら会話するんです。それを毎週やっていたら『もう来なくても平気』だなんて言われましたよ(笑)」

思いついたとき電話をかけるように、映像と音声で空間が共有できる。とても自然に意志疎通が図れる仕組みができ上がりつつあるのを、吉田は実生活から実感しているところだ。

宮崎の西諸地区でも、こうした自然さでITを使ったサービスが根付いていけるだろうか。

「今回のハッカソンで、地元の皆さんがなんとなく仕組みを理解してくれたかと思います。細かい技術はともかく、ITを使って遠隔地とコミュニケーションをとるとどんなことが起きるか、お互いの気持ちが結果としてどうなるかを『可視化する』のが、今回のミッションでした」

「これからは実際に、全ての人たちが簡単に使いこなせるものにならないといけません。今は現地に僕らのスタッフが行って調整していますが、誰もがボタンをポンと押せば、たちまち離れた空間がつながる世界を作りたいです」

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そんな世界が実現したときに利便性を享受するのは、遠隔地とコミュニケーションをする人々にとどまらない。

「西諸地区では今、独居の高齢者が3割を超えているそうです。一人暮らしで悶々として、社会活動やいろんな行政のサービスにもなかなか加わってくれないと聞いています。だから、市の民生委員が『おばあちゃん元気?』って一軒ずつ巡回しているんですね」

「すごく簡単につながれるタブレットの仕組みがあれば、毎日つないで話せるでしょう。朝5分でも画面を通して高齢者の顔色が見られるし、『あなたは私たちが見守っていますからね』と社会とのつながりを伝えられます。これが今のビジュアライズするITのすごくいいところ。ひとたび問題があったら、医師や行政の人も一緒に入って、四者通話をすることだってできます」

多くの人が使えてこその技術

宮崎と東京をつなぐハッカソンでは、いくつかの提案は実現可能だと評価された。

「東京と宮崎のコミュニケーションが図れるかどうかを検証しましたが、それよりも大事なのは、宮崎の人たちに『使いたい!』と思っていただけるか。こっちが『勝手に作りましたからどうぞ』と押し付けるのは間違いです」

「こんなことが実現するとしたらどうですか、使い勝手はどうでしょう、といろんな話をしなくては。技術というのは最先端なところだけでなく、最も多くの人が使いこなせる世界観を持たなくてはなりません」

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技術をサービスへとパッケージングしていく段階で、NTTデータにおけるビジネスのビジョンはどこにあるのだろう。

「各地域が抱えている課題をどうすればITで解決できるか。まずはきっかけを吉田劇場で見せてから、アイディアソン、ハッカソンを通じて実際にどうするのかをみんなで探ってもらいます」

「最初にこちらから提案のボールは投げますが、そこからは地元の人たちが考えて、必ず作ることができて、持続的に続けられるプログラムになることが大切です。そのための下地作りは、私たちが手伝わせていただきます」

ITに関するコンシェルジュ(案内係)を担うイメージだろうか。

「そうです。さらに地元でウェブコミュニケーションについて明るい『コミュニケーター(連携係)』のような人が加わってくれれば、もう東京は介さず、地方と地方同士でも勝手につながれます。そのきっかけをまずは宮崎で作りたいし、そういう体制を作っていかなくてはいけないですね」

地方と地方がつながる未来。今後はいろんな地域でも同様の試みが展開できる、と構想を描く。

「仕組みさえできれば、宮崎でも、青森でも、地域を選びません。『あなたたちの地域では何がやりたいですか?』と一緒に考えたうえでセットアップして、私たちがプログラミングします」

「ソウルでも、台北でも、どんどんつながっていけますよ。相手の顔を見ながら会話ができるんです。海外には日本語が話せるようになりたい人はたくさんいるから、みんな日本の人と話したいはず。おばあちゃんが1回500円でやる日本語会話教室なんて需要があるでしょうね。おばあちゃんだって、自分が国際交流に貢献しているのを感じてくれたら、長生きして良かったと思ってくれるんじゃないかな」

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実現したい構想はあっても、どのような仕組みを組めばいいのか。どこまで外任せにしていいのか。それがわからず、足踏みをしてしまっている自治体は多いことだろう。

そんなとき、NTTデータが「パートナー」として地域の問題を聞き、技術を提案しながら解決方法を一緒に探る。さらに、企業と行政と住民が1つのチームのように連携し、実現へ向けて進んでいく。

こうした「共創」のスタイルは、これからの社会のニーズには合っているように思える。

「宮崎と東京をつなぐハッカソンの実証実験では、成果発表を通じて1つの可能性が示されました。そこから、地元で実際にどうやって仕切ればいいのか。どうやって商品にし、どのように運ぶのか。その答えをこれからみんなで探していく段階に入ります」

「オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて、『日本』というブランドをいかに示せるか。さらに情報を拡散して、発信役として盛り上げたいですね」

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※1 コンシェルジュ(案内係)

「アパートの管理人」を意味するフランス語で、現在はホテルにおける宿泊客のあらゆる相談・要望に応える担当係を指す。執事役と訳されることも多い。近年はホテル以外でも駅や百貨店、公共施設などにも設けられるほか、ICTの進展にともないデジタルコミュニケーションにおいても需要がある。NTTドコモの「iコンシェル」「しゃべってコンシェル」の語源もこの単語から。

※2 コミュニケーター(連携係)

異なる二者間を取り持ち、コミュニケーションを円滑に図る役職。伝達者。国際会議での通訳などがこれに当たるほか、科学知識を一般にわかりやすく伝える「サイエンス・コミュニケーター」といった職能も生まれている。