Foresight

全英オープンで見た、ARが拓く未来

Microsoftのヘッドマウントディスプレイ型ウェアラブルデバイス「HoloLens」を駆使し、
リアルタイムのゴルフ観戦をもっと面白くするARアプリを開発。
それを全英オープンで発表した
NTTデータ グローバルの技術開発戦略チームを率いる本城啓史に話を聞きました。

ARが実現しうる近未来の生活は
私たちの今の想像を、きっと大きく超えていく

最新のゴルフ観戦はARでこんなに進化

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体験者に、思わず「Wow!」と言わせた

株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 企画部 グローバル戦略担当 部長 本城啓史

株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 企画部 グローバル戦略担当 部長 本城啓史

───さっそく体験させてもらいました。これは、すごいですね。

世界のゴルフメジャー選手権の1つ「全英オープン」に向けて、NTTデータの開発チームが新しく開発したこのAR(拡張現実)アプリは、おかげさまでたくさんのメディアに取り上げていただきました。私たちが提供したかったのは、誰でも思わず「Wow(ワオ)!」と言ってしまう驚きと感動の体験。いわば「Wow Experience(ワオ・エクスペリエンス)」です。

───日本人の私は、思わず「オー!」と言ってしまいました。

全英オープンの会場内に設置したNTTデータのパビリオンで、このARアプリをお披露目し、たくさんの方に体験していただきました。当日はゴルフ業界の関係者もたくさんいらっしゃっていて、本当に「Wow!」と言っていただけたのがうれしかったですね。

全英オープンの会場で数多くの人たちがARアプリを体験。これまでにないゴルフ観戦に「Wow!」と声を上げた(提供:技術革新統括本部)

全英オープンの会場で数多くの人たちがARアプリを体験。これまでにないゴルフ観戦に「Wow!」と声を上げた(提供:技術革新統括本部)

───ゴルフ通もうならせたARアプリですね。どんなものか、詳しく教えてください。

まず、Microsoftが提供しているヘッドマウントディスプレイ型のウェアラブルデバイス「HoloLens」をメガネのように装着します。すると目の前に3Dのゴルフコースが現れます。

───テレビのような2D映像ではなく、立体的な3Dコースが見られると。

そしてその上には、プレー中の選手のいる位置が、選手の写真で示されています。選手がプレーを進めていくと、ボールがコース上をどのように飛んだのか、その弾道データがリアルタイムで表示されます。また、選手ごとの弾道データを比較表示することもできます。たとえば、出場した日本人の松山英樹選手や、優勝したアメリカのジョーダン・スピース選手がどのようにコースを攻めたのかを分析して楽しむこともできるのです。

───ゴルフファンの方には特に喜ばれそうですね。

ゴルフファンの中には、選手のスコアや選手情報を詳しく見て楽しむ方もたくさんいらっしゃいます。HoloLensを通して目の前に表れている情報画面を指で触って操作すると、自分が見たい試合や選手のデータを選んで拡大表示できます。

また、合わせてコースの様子も見るなど、いろいろなデータを同時に表示させることも可能です。複雑な機器操作などは必要なく、目の前にあるバーチャル映像の気になるところを指で動かすだけ。「IT機器を使うのが苦手だ」という方や「最新のゴーグル型端末なんて触ったこともない」という方も意外と簡単に操作できます。

───ゴーグルをつけると目の前に広がる3Dゴルフコース。リアルで迫力がありますね。

これは、NTTデータが持つ独自技術「全世界デジタル3D地図提供サービス」(以下:AW3D)を利用したものです。デジタル3D地図の最新技術を駆使して、会場となったロイヤルバークデールゴルフクラブの1~18番ホールをバーチャルで再現しました。

───まるで鳥になった気分。ゴルフに詳しくない人でも楽しめそうです。

広大な野外のコースの上で行い、かつルールも簡単ではないゴルフ競技は、実際にやったことのない方には、どんなスポーツなのかイメージしにくいことも多いのではないでしょうか。しかしこのARアプリを体験すれば、ゴルフがどんな競技で、何が面白いのかを直感的に理解していただけると考えています。またゴルフファンの方には、ゴルフの面白さをより深く実感していただけます。

HoloLensを装着すると、目の前に広がるゴルフコース。ボールがコースをどう飛んだか一目瞭然(提供:技術革新統括本部)

HoloLensを装着すると、目の前に広がるゴルフコース。ボールがコースをどう飛んだか一目瞭然(提供:技術革新統括本部)

───ゴルフコース全体を見渡しながら観戦できるというのが斬新です。

ゴルフというと、これまではテレビ中継で楽しむのが一般的でした。コアなゴルフファンの方であっても、全英オープンなど海外のメジャー大会は、気軽には見に行けません。テレビではすべての人が同じ映像を見ていて、画面から把握できる情報には限りがあります。「トーナメント中の成績推移をもっと詳しく見たい」「選手のドライバー飛距離を比較したい」というファンがいても、そういった個別のリクエストにリアルタイムで応えるのは困難です。

最新のAR技術によって、映像によるゴルフ観戦の限界にチャレンジしようというのが今回のプロジェクトでした。全英オープンのオフィシャルパトロンであるNTTデータは、毎年何らかの新しいIT技術をトーナメント中に披露してきました。ちなみに昨年はコミュニケーションロボット。一昨年前はWi-Fiマルチキャスト。2017年の今回が、ARでした。

───最新のAR技術で、新しいゴルフ観戦の楽しみ方を実現したわけですね。

「もっと臨場感のあるゴルフ観戦を実現したい」というのが私たちの目標でした。大会期間中のパビリオンには、NTTデータが招待した企業関係者や、ゴルフ業界の関係者に加えて、海外の放送・メディア業界の方も多数訪れ、このARアプリを体験してくださいました。「Wow!」という驚きの一言だけでなく、「ゴルフ観戦の新しい可能性を感じた」「ファンが増えそう」「最新技術でここまでできるのか」といったコメントをいただきました。「テレビ中継の映像と組み合わせても良いのでは」というアイディアもいただいたりして、私たちもインスピレーションを受けました。

───この成功を受け、ARを駆使したゴルフ観戦はさらに進化しそうです。

全英オープン期間中に行った今回のお披露目は、世界初の試行運用でした。ひとまずは無事に成功したものの、今後一般にも公開して世界の人たちに楽しんでいただくには、まだまだ改善すべき点がたくさんあります。技術的な面だけでなく、「ゴルフファンの立場で考えると、選手スコアの表示方法をもっと工夫すべきだった」とか、ユーザビリティの観点からもいろいろと課題点が浮き彫りになりました。

───今後に期待がかかりますね。

今回のプロジェクトでは、ARでコース全体を見渡すという新しい視野を実現しました。しかし逆に、コース上にいる選手にうんと接近し、プレーしている横で観戦できたりしたら、それもまた大変面白いでしょう。今後さらなる研究開発が必要です。とはいえ、日本にいながらにして、全英オープンをARでリアルタイム観戦できるというところまでは、すでに現段階で実現可能となっています。

全英オープンの感動を支えるのは最新のIT技術。スコアや観客からのツイートを表示するなど、インタラクティヴなゴルフ観戦を実現したNTT DATA WALLもその1つ

※1 全英オープン

NTTデータ全英オープン特設サイト。 http://www.nttdata.com/global/ja/theopen/

※2 HoloLens

Microsoft社が開発・提供しているヘッドマウントディスプレイ。言い換えればゴーグル型のウェアラブルデバイス。ゴーグルのように頭に装着すると、現実世界とバーチャル映像を組み合わせた拡張現実(AR)を体験できる。 https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens

※3 全世界デジタル3D地図提供サービス

http://www.aw3d.jp/

※4 コミュニケーションロボット

コミュニケーションロボットの取り組みでは、複数体ロボットによる対話で人の購買意欲を喚起させる実証実験も、2016年7月にリクルートテクノロジーズ社と共同で行った。 https://inforium.nttdata.com/foresight/multiple_robots_conversation.html

※5 Wi-Fiマルチキャスト

Wi-Fiマルチキャストの取り組みも、「NACK5スタジアム大宮」(埼玉県さいたま市大宮区)でも実施。 https://inforium.nttdata.com/foresight/smart-stadium.html

スポーツだけではない。ARが変える未来

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未知の技術だったARは、今ますます身近に

───ARは今後、ゴルフだけでなく様々なスポーツ観戦を変えていきそうです。

テレビ中継を超える臨場感を味わいたければ、これまでは試合会場まで足を運ぶしか方法がなかったかもしれません。しかしARの技術が今後進化すれば、自宅にいながらにして臨場感たっぷりの観戦ができるようになる可能性は十分にあります。

ゴルフはもちろん、たとえばサッカーも楽しみです。有名選手と一緒にフィールドに立ち、自分が逆に観客席を見上げたり、ボールを追いかけたりできるようになるかもしれません。そう考えると本当にワクワクします。次世代のスポーツ観戦を、私たちの持つ技術でぜひ実現できたらと思います。

───ARとスポーツは、とても相性がよい分野ですね。

hl04私たちもそう思います。「こんな映像を見られたらいいな」「こんな楽しみ方ができたらいいな」という人々の思いは、ARが進化することで今後数多く実現できます。 ARによって、スポーツ観戦がいっそう楽しく、感動的なエンターテイメントになることは間違いありません。

新しいテクノロジーの力があれば、スポーツを通じて世界の人たちをもっと驚かせ、喜びや感動、幸福感を生み出せるのです。

───新しいスポーツ観戦の可能性を示した今回のプロジェクト。成功させるのは、決して簡単ではなかったと思います。プロジェクトの中で、何かピンチに見舞われましたか。

まずスケジュールが非常にタイトでした。全英オープンは7月開催ですので、それより半年前の1月にプロジェクトをスタートしました。3月には開発するシステムの概要を決定し、本番1カ月前の6月に完成させるつもりでした。しかし、予定どおりにはいきませんでした。

ユーザー画面や機能自体は早くに完成していたものの、特に問題が起こったのはデータ受信です。ゴルフコースの3D映像、スコアなどのプレー情報は、衛星をつうじてリアルタイムで受信する仕組みですが、それがなかなかうまく機能しかなかったのです。大会直前にプロジェクトチームが現地入りしてからも不具合は続き、やっと正常に動いたのは大会前日。会場で不具合を調整している最中に突然雷雨に見舞われ、作業をやめて避難するよう主催者側から言われた時は焦り、もうダメかと、めげそうになりました。

───最先端のプロジェクトには、想定外のトラブルがつきものですね。

それでも大会期間中、無事にデモンストレーションを成功させられたのは、グローバルチーム全員のチームワークがあったからだと考えています。NTTデータは日本企業ですが、全従業員約11万人のうち、日本にいるのは約4万人です。世界の様々な場所に拠点を置いています。

今回のプロジェクトは、イタリア人と日本人のメンバーを中心に据えたクロスボーダーな国際チームでした。海外メンバーとチームを組み一緒に仕事をするのは、大変な部分ももちろんあります。しかし、日本側では思いもよらない斬新なアイディアが出て来ることも多く、刺激的ですね。そしてそのアイディアが、プロジェクトの行き詰まりを打破するきっかけになったりもします。今回のプロジェクトも、国内外から様々な技術分野のスペシャリストを結集し、チームワークで最大限のパフォーマンスを出せたと考えています。

前代未聞のARアプリ開発を成功させたNTTデータの全英グローバルチーム。様々な技術のスペシャリストが結集した(提供:技術革新統括本部)

前代未聞のARアプリ開発を成功させたNTTデータの全英グローバルチーム。様々な技術のスペシャリストが結集した(提供:技術革新統括本部)

───そういえば本城さんは以前、シリコンバレーで最新IT技術に関するリサーチ業務をしていたと聞きました。

今から10年以上前の2005年、シリコンバレーにあるNTTデータの研究開発拠点に赴任しました。日本ではまだほとんど認知されていなかったスマートデバイスが、シリコンバレーではすでに大きな注目を浴び、これからの世界を変えると期待されていました。

ARに関しても、今世界の様々な国で最新の研究開発が進んでいます。たとえばドイツで、カーディーラーの販売業務にARを導入する実験があります。自動車販売といえば、これまでは紙のカタログなどを使って案内するのが一般的でした。それを今後ARが担おうとしています。車体の色や大きさなどをバーチャルな映像でもっとリアルに、お客にデモンストレーションします。

在庫情報などの様々な販売データも、同時に分かりやすく表示します。ビッグデータ活用が重要なマーケティング・プロモーション業務の現場をARが支えようとしているのです。

───ARが拓く未来は、スポーツの世界だけではないと。

スペインにはこのような構想もあります。工場やプラントにある複雑で大規模な機械の操作方法を従業員がマスターするため、AR技術を活用するのです。実機がなくても、バーチャルな環境でマシンのトレーニングを行って技能を向上させます。スポーツ分野と同様に、教育研修シーンにおいてもAR活用の可能性は大きいと思います。

ビジネスシーンでのAR活用も楽しみですね。3Dデータを共有しながら、たくさんの人たちと高度な遠隔ミーティングを行ったりできます。たとえば都市開発。世界中の建築・土木の専門家がバーチャルな都市俯瞰図を見ながら、同じ場所に集まらなくても詳細な打ち合わせを行えます。世界中の英知を集め、何かクリエイティブなビッグ・プロジェクトを進めようとするとき、そのフィールドをARが提供します。

人のカラダを3Dスキャンし、それをバーチャルな環境に置く技術も興味深いです。SNSでコミュニケーションをとるとき、自分のアバターを使っている人がいますね。これからは3Dのバーチャルな「ワタシ」が、ネット上でアバターの代わりになるかもしれません。

───未知の技術だったARは今、私たちの未来を身近なところで変えようとしているのですね。

hl06ARとは、日本語でいうと「拡張現実」。現実の世界にバーチャルな映像やCG、データを組み合わせ、これまでにない新しい体験をしてもらう。こういうと難しくも聞こえますが、情報技術で人々の生活を豊かにするという意味では、私たちがすでに慣れ親しんでいるインターネットやスマートフォン、タブレットと目的は同じです。

今はまだ、頭に装着するゴーグルも大きめです。しかし、デバイスもこの先どんどん進化するでしょう。今より何十倍、何百倍という大量の情報を一般の人たちが自在に操って、日常生活をいっそう便利にしたり、スポーツやエンターテイメントをもっと楽しんだりする。ARが実現しうるそんな近未来の生活は、私たちの今の想像を、きっと大きく超えていきます。


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