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生活に溶け込むバンキングアプリ創発

ゆうちょ銀行とNTTデータが共同でワークショップを行いました。
テーマは「ゆうちょ銀行利用者のライフサイクルに寄り添ったバンキングアプリ」。
デザイン思考の手法を取り入れたことで、
ユーザー視点を重視した画期的なアイデアが続々と生まれました。

スマートフォンが人々の生活に溶け込んでいる今、
お客様の身近な存在でありたいゆうちょ銀行にとって、
バンキングアプリの開発は不可欠なことでした。

ゆうちょ銀行との合同ワークショップ

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ユーザー視点を追求するデザイン思考

地方銀行とベンチャー企業とをつなぎ、オープンイノベーションを起こす場として、NTTデータが提供している「BeSTA FinTech Lab」。ここでは主に、デザイン思考を取り入れた独自のプログラム「DCAP」を使用し、新規事業開発をサポートしています。

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先日その活動のひとつとして、国内最大規模の金融機関であるゆうちょ銀行とともに、2日間にわたるワークショップを開催しました。テーマは、銀行利用者のライフサイクルに寄り添ったバンキングアプリのアイデア創出。

参加者は、ゆうちょ銀行の行員とNTTデータの社員、アイリッジのメンバー、そして有志の大学生の計36名。6名ずつ6つのグループに分かれてワークに取り組みました。

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実は、今回のワークショップのテーマは、実際にゆうちょ銀行が抱えている課題から導き出されたもの。人々の日常のあらゆる場面で、スマートフォンが大きな影響を及ぼすようになった昨今、金融事業にもさまざまなIT系プラットフォーマーやベンチャー企業が参入し、従来の金融機関にはなかった革新的なサービスを、スマートフォンを通じて提供しています。

こうした状況も踏まえ、ゆうちょ銀行では、中期経営計画として「お客さまへ“新しいべんり”“安心”の提供」を掲げています。その目的は、スマートフォン等を活用したサービスを強化することにより、お客さまの日常生活を一層便利なものにすることです。そこで、今回のワークショップではユーザー視点をもっとも重視することにしました。そこで活用するのがデザイン思考を用いた手法「DCAP-ID」です。

DCAP

デザイン思考とは、ユーザーが求める価値を追求することで、イノベーションを生み出そうという考え方のこと。現在、世界的に注目を集めているビジネス手法ですが、その背景には、ユーザーが商品の機能や性質ではなく、それによって得られる体験や、自身の生活にどんな意味を与えてくれるかに、価値を見出すようになってきたという変化があります。

今回想定したユーザー像(ペルソナ)は、「20代~30代の働く女性」「20代~30代のワーキングマザー」「10代~20代の大学生や新社会人」の3つ。各ペルソナをそれぞれ2チームが担当し、ユーザーのニーズに即したバンキングアプリのアイデアを模索していきました。

ユーザーについて想像をふくらませる

まず1日目に行ったのは、ペルソナを深掘りし、趣味や交友関係など、さまざまな要素を検討しながらカスタマージャーニーマップを作っていく作業です。

ペルソナには、年収や居住地を始めとした細かい情報が、あらかじめ設定されています。それらに補足する形で、人柄や生い立ち、生活環境などのより細かい情報を、グループ内で話し合います。想像をふくらませることでユーザー像をより具体的にし、彼らが求めている価値を明確化させたり、隠れていたニーズを顕在化させたりしていくのです。

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このユーザー像をより具体化させるプロセスは、デザイン思考を活用するにあたりとくに重要なポイント。なぜなら、ユーザーのことをよく知らなければ、ユーザーファーストのサービス開発はできないからです。自分自身をユーザーと仮定して考えるのはもちろん、チーム内でペルソナと近い特性を持つ人の意見を参考にしたり、スマートフォンで情報を収集しながら、活発な意見交換が行われていました。

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2日目には、できあがったカスタマージャーニーマップからユーザーが抱えている課題を抽出し、それを解決できるバンキングアプリのアイデアを出していきます。

多かったのは、簡単に家計簿がつけられたり、貯金のサポートや資産形成のアドバイスが受けられる、というもの。お金の問題はライフスタイルの根幹に関わることという視点から、なかには、収入や支出の記録とともに写真を思い出アルバムとして管理できたり、他のアプリユーザーの中から相性のいいパートナーを紹介してくれたり、といった画期的なアイデアも生まれました。

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こういったアイデアは、機能や性質、コンセプトを前提に考えていては、なかなか思いつくものではありません。1日目のワークの時間をすべて、ユーザー像を想像し彼らが求める価値を知ることに費やしたように、徹底的にユーザー視点に立ったデザイン思考の手法だからこそ実現できたものでしょう。

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※2 DCAP-ID

NTTデータが開発した、ビジネス創発メソッド。プログラムは「ビジョン共有」「課題発見」「アイデア発想・収束」「アイデアブラッシュアップ」4つのフェーズからなる。多くの金融機関の新規事業を創出に活用されている。

※1 アイリッジ

スマートフォンの自動通知システムを提供しているスタートアップ企業。NTTデータとは、BeSTA FinTech Labのコラボレーターとしてオープンイノベーション創発などで協力している。

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デザイン思考が気付かせてくれること

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デザイン思考が気付かせてくれること

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本当の意味での「お客様第一」とは

実施後のワークショップ参加者に感想を聞きました。実際にデザイン思考の手法を体験したことで、ユーザー視点に立つことの重要性に気付かされた人が多かったようです。

NTTデータ 竹下さん
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今、育休中ということもあり、久しぶりに現場の空気に触れられたのが、とても楽しかったです。うちのグループは年齢も性別もバラバラだったんですが、割り当てられたペルソナと1番特性が近い私の意見をたくさん取り入れてくれました。
さまざまなアイデアが出たので、それをひとつに集約するのに少し時間がかかりましたが、デザイン思考を意識したおかげか全員が「このユーザーがよろこぶものを作ろう」という目標が共有でき、意思決定はとてもしやすかったです。普段から「お客様第一」という大前提は持っていたつもりだったんですが、今回初めてデザイン思考に取り組んでみて、気付かされたことが多かったですね。
最近、育休が終わったらちゃんと仕事に戻れるのか、ちょっと不安になっていたんです。でも、今回のワークショップを通して、早く現場に復帰したいなと思えるようになりました。

ゆうちょ銀行 今野さん
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NTTデータや大学生の方と話せて、いい刺激になりました。担当したペルソナは、自分とはまったく違う属性だったので、想像をふくらませるのは難しくもあって、特性が近い方の意見を参考にしながら、ワークに取り組みました。デザイン思考はこれまでやったことのないアプローチの仕方だったので、すごく新鮮でしたね。ユーザー視点で考えるという感覚が、なんとなくつかめたように思います。
今後、社内でもデザイン思考をどんどん取り入れていかなければならないと考えていたので、今回のワークを社内に持ち帰って展開していきたいと思います。

NTTデータ 畠山さん
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制限時間があるなかで、たくさんのアイデアを出していったので、かなり頭を使いました。グループの中にペルソナの特性に近い方がいらっしゃったので、その意見をインプットしてそれを自分なりに再考しながら、アイデアを考えていきました。
実は、大学のときデザイン思考の勉強をしていたんです。でも社会人2年目にして、その意識を忘れてしまっていたことに気付きました。企画を考えるとき、「上司に納得してもらえるか」とか「実現性を説明できるか」といったことに頭がいってしまって、本当の意味でユーザーを第一に考えることができなくなっていたと思います。今ちょうどスマートフォンアプリの開発を担当しているので、今回のワークショップで学んだことが普段の業務にも活かせそうです。

ゆうちょ銀行 篠原さん
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こんなに盛り上がっていろいろなアイデアが出てくるとは思わなくて、とても楽しかったです。うちのグループは私を含め、「20代~30代の働く女性」というペルソナと特性が近いメンバーが多かったので、ユーザー視点を突き詰めるに従って、女性の幸せとは何なのか、哲学的な話に発展したりしました。
デザイン思考という言葉は知っていたのですが、実際に取り組んだのは今日が初めてです。実現性ベースで考えるより、おもしろいアイデアがたくさん出るんだなと実感しました。いろいろな人の意見を組み合わせていく過程も、とても楽しかったです。

主催者の思い

最後に、今回のワークショップを主催したゆうちょ銀行の北野さんとNTTデータの青柳に話を伺いました。

(右)北野義人/ゆうちょ銀行 コーポレートスタッフ部門 経営企画部 グループリーダー(左)青柳雄一/NTTデータ 第一金融事業本部 郵政ビジネス事業部 企画開発総括部 デジタルビジネス推進担当 部長

(右)北野義人/ゆうちょ銀行 コーポレートスタッフ部門 経営企画部 グループリーダー
(左)青柳雄一/NTTデータ 第一金融事業本部 郵政ビジネス事業部 企画開発総括部 デジタルビジネス推進担当 部長

───まず、今回のワークショップを開催したきっかけを教えてください。

北野 スマートフォンが日常生活に溶け込んでいる今、お客様にとって身近な存在でありたい当行にとって、バンキングアプリの開発は、日常でお客様との接点を確保していく上で、不可欠なことでした。すでにいくつかのアプリをリリースしてはいるのですが、まだインターネットバンキングの機能を切り出したようなもの。もっとお客様の生活に寄り添うようなアプリを提供しなければならないと思っていたところ、今回のご提案をいただいたんです。

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青柳 ゆうちょ銀行様は、全国に2万4,000の郵便局と2万7,000のATMという国内最大規模の素晴らしいネットワークを持っています。だからこそ、その利点を活かして、とことんユーザーファーストなアプリを提供することが重要だろうと考えました。

───ワークショップという形をとったのはどうしてですか?

青柳 せっかくゆうちょ銀行様が新しいことにチャレンジしようとされているのなら、変革のきっかけを作れるような方法を試したいと思ったんです。さまざまな手法から、限定的なメンバーだけでなく、なるべく多くの行員の方に参加してもらえる方法として、ワークショップを選択しました。

───今回のワークショップには「デザイン思考」というポイントもありましたが。

青柳 デザイン思考はイノベーションを起こすために不可欠なスキルセットです。定着すれば、ブレストを重視する習慣や、意見をはじめから否定的に捉えない姿勢が身につきます。NTTデータ金融分野でも基本的にはこのようなスキルセットを誰しもが身につけるべきものとして、研修や留学の制度を推進しているんですよ。

北野 私たちも、デザイン思考の重要性は重々承知しているのですが……。銀行業務という特性上、どうしても実現可能性や合理性といったロジカルシンキングの手法を重視する傾向にあります。意識的な改革が必要だと考えていましたが、今回のワークショップはとてもいいきっかけになりました。

───実際に創出されたアプリのアイデアを見てどう感じましたか?

北野 銀行員が机に向かって考えていても、きっと出てこなかっただろうというアイデアが多かったように思います。例えば、浪費をすると、家族の思い出の写真が消えてしまうとか、貯金額に応じてアバターの服装が変わるとか、お金の流れを視覚的に捉えられる機能はすぐにでも試してみたいくらいです。また、なかなか実現は難しいかもしれませんが、金銭感覚が似ている人同士をマッチングさせて出会いの場を提供するというアイデアも、とてもおもしろかったですね。

青柳 お金を貯めるという目標に向けて、自分の達成度や努力の軌跡を周囲にシェアするアイデアが多かったですが、これはデジタルネイティブ世代ならではの発想ではないかと思います。特性が似ているメンバーだけで考えると、どうしてもバイアスがかかってしまうので、バックグラウンドが異なる人たちを集めてよかったと、改めて実感しました。

───最後に、今回のワークショップの総評をお願いします。

青柳 わかりやすい結果は、必ずしもすぐに出るわけではないと思います。でも、今回のワークショップが変革のきっかけにはなったはずです。きっと、普段の業務とは違う特性を発揮できた参加者もいたと思うので、直属の上司や同僚にもこの姿を見ていただけるともっと良かったですね。次回はそんな工夫もしてみたいと考えています。

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北野 参加者に話を聞くと、みんな口を揃えて「いい経験になった」と言うんです。「合理的な説明を求められるんじゃないか」「アイデアを否定されてしまうのではないか」という不安がなかった分、自由な発想ができたようで。これをきっかけに、行内の意識や文化が変わるきっかけになればいいなと思います。


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※1 デジタルネイティブ世代

生まれたとき、物心がつく頃に、インターネットやパソコンに囲まれて育った世代のこと。おおむね1990年代半ば以降に生まれた世代を指す。

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