Key Person

和田幸子(ブランニュウスタイル 代表取締役)

もっと仕事で活躍したい人を支援する家事代行サービスが注目されています。
その最前線に立ち時代のニーズを捉えた新たな事業を手掛ける起業家に
「拡大家族」というライフスタイルについて語っていただきました。

家事という重い荷物を背中から下ろせば、
より多くの選択肢にチャレンジできる。

自分のニーズからアイディアが生まれた

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和田幸子(わだ・さちこ)ブランニュウスタイル株式会社 代表取締役 1999年富士通株式会社に入社し、システムエンジニアとしてERP製品の開発に従事。2005年、企業派遣制度にてMBAを取得した後、ERP製品のウェブプロモーション、中小企業向けクラウドサービスの事業立ち上げのプロジェクトリーダーを務める。2008年、第一子を出産後、フルタイム勤務で復職。2013年10月、自身の課題でもあった共働き家庭の「新しいライフスタイル」実現に必要な社会インフラを「ITを活用して作る」ため、富士通を退職。同年11月、ブランニュウスタイルを設立。2014年7月、家事代行サービスマッチングプラットフォーム「タスカジ」をオープン

和田幸子(わだ・さちこ)ブランニュウスタイル株式会社 代表取締役
1999年富士通株式会社に入社し、システムエンジニアとしてERP製品の開発に従事。2005年、企業派遣制度にてMBAを取得した後、ERP製品のウェブプロモーション、中小企業向けクラウドサービスの事業立ち上げのプロジェクトリーダーを務める。2008年、第一子を出産後、フルタイム勤務で復職。2013年10月、自身の課題でもあった共働き家庭の「新しいライフスタイル」実現に必要な社会インフラを「ITを活用して作る」ため、富士通を退職。同年11月、ブランニュウスタイルを設立。2014年7月、家事代行サービスマッチングプラットフォーム「タスカジ」をオープン

仕事と家事、育児に追い詰められる日々

私のキャリアは新卒で富士通に入社したのがスタートで、最初の約6年間はシステムエンジニアとして主にERP製品の開発に携わっていました。その後、企業派遣制度でMBAを取得する機会に恵まれ、戻ってからはウェブマーケティングや新規事業の立ち上げなどでプロジェクトリーダーをやらせていただきました。

ただ結婚や出産などを経てライフスタイルが変わり、特に育児休暇から復職したあとは、いろいろなことにストレスを感じるようになりました。もちろん仕事はとても楽しく、以前にも増してエネルギッシュに働いていましたし、目の前にはチャレンジしたいテーマがたくさんありました。夫も私のキャリアアップにとても協力的な人で、「家事も育児も2人で分担して一緒にやろうね」と言ってくれて、実際、その言葉どおりに実行してくれています。とはいえ2人とも仕事がとても忙しくて、育児はとりあえずなんとか頑張るのですが、家事まではどうしても手が回らない状態になってしまいました。掃除が滞って家の中が散らかったままになると、次第に精神的に追い詰められていくようで、次の日の活力も沸いてきません。

まわりの友人たちに話を聞いてみても、やはり似たような感じで、家事の役割分担が原因で夫婦喧嘩になったり、やりたい仕事に手を挙げられないと不満をためていたりする人が少なくありませんでした。

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こうした状況を脱出したいと思いついたのが、家事を代行してくれるハウスキーパーを利用することでした。世間の多くの見方と同じように、私もハウスキーパーについては「一部の富裕層だけが利用できるもの」という先入観を持っていたのですが、ある知人から「直接ハウスキーパーと個人間で契約すれば、派遣業者や代理店が間に入らないのでリーズナブルな価格でお願いできる」という話を聞き、それならばぜひ頼んでみようと踏み出したのです。

「私がやるしかない!」と奮起した

インターネット上で募集をかけたところ、とても良い方から応募をいただき、おかげで生活が一変しました。私も夫も家事の負担から解放されたことで、やりたい仕事に思うぞんぶんチャレンジできるようになったのです。そしてこの体験を、できるだけ多くの人と共有して、私たち夫婦と同じようにハッピーになって欲しいと思いました。ただ、その一方で私がとった方法を説明するだけでは、誰にも実践してもらえないだろうとも思いました。なぜなら、プロセスがとても大変だからです。

先に申しましたように、私はとても良いハウスキーパーさんと最終的に巡り会えましたが、それはあくまでも“運”であり、“結果論”でした。実際には当初10人くらいから応募があり、一人ひとりと面接を行ったのですが、平日は私も仕事があるため、週末の休日をそれに費やすしかありませんでした。しかも1時間くらいかけて話を聞いても、結局、その人がどんなスキルを持っているのかを見極めることはできません。ようやく1人に絞り込んでお願いしたにもかかわらず、その人は初日だけで「やはり辞めます」と断られてしまいました。

ハウスキーパーを依頼する側はもちろん、受ける側の条件や希望もさまざまです。人間同士の相性もありますから、なんの事前情報もなしにベストなマッチングに至るのは本当に難しいのです。試行錯誤を繰り返した私だからこそ、もっと簡単にマッチングを行う仕組みを作らないと誰にも続いてもらえないと思いました。また、この先ずっと待っていても、そんな便利な仕組みは出てこないだろうとも思いました。

ならば「私がやるしかない!」と奮起しました。もともとシステムエンジニアをやっていた頃から、ゼロベースで新しい仕組みを作り上げるのが大好きでしたし、事業の立ち上げについてもそれなりのノウハウがありましたから、恥ずかしながら、「私が一番の適任者だ」と思ったのです。こうして富士通を退職し、自分の思いを体現するための会社として「ブランニュウスタイル」を起業しました。

これが、派遣会社や代理店などの業者が間に入らないC2Cによる家事代行サービスの個人間契約を、インターネットやモバイルアプリを介してサポートする「タスカジ」を立ち上げたきっかけです。

『タスカジ』1時間1500円からの家事代行マッチングサービス動画

※1 ERP(Enterprise Resource Planning)

企業の資源要素を統合的に管理・配分し、業務の効率化や経営の全体最適を目指す手法。またはそのためのシステムを指す。

※2 C2C(Consumer to Consumer)

一般消費者と一般消費者の間の取引。

※3 タスカジ

https://taskaji.jp/

「拡大家族」という新しい考え方

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ITのネットワークで人と人をつなぐ

家事負担の問題は、私のような子育て世代だけの悩みではなく、ましてや女性だけに押し付けられるものではありません。独身の男性や単身赴任の男性も、家事には相当手を焼いています。また長いライフステージの中では、病気や高齢者の世話といった家事の負担をさらに増すような出来事も生じてきます。そうした中でタスカジを通じて提唱しようとしているのは、「家族」という関係を改めて再定義することなのです。

大家族が当たり前だった頃の日本では、血縁者がひとつの屋根の下で暮らしており、さらに近くに住む親戚や地域の人たちがお互いに協力し合って家事や育児を行っていました。ところが「核家族」が基本となった現代社会では、最小構成のマンパワーで家庭内のあらゆる問題を解決しなければなりません。しかも夫婦共働きができなければ家計を成り立たせるのが困難な時世ですから、そうした状況で家事までしっかりこなしていくのは、私たち夫婦がそうであったように「もう無理」と言わざるを得ません。だからといって、いまさら大家族に戻ろう、地域の絆を取り戻そうと訴えても非現実的です。一人ひとりの価値観やライフスタイルは昔と比べて格段に多様化しているのですから。

そこで改めて考えました。家事や育児、あるいは高齢者の世話にしても、困ったときに頼れるのは本当に血縁者や地域の人たちだけなのでしょうか。むしろ現在は、インターネットやSNSを通じた人と人のつながりがどんどん拡大しています。こうしたITのネットワークを活用した新しい形の「人の巻き込み」を積極的に行っていかないと、問題を抜本的に解決することは困難です。

こうした人のつながりをベースとした家族のあり方を、私は「拡大家族」と定義し、そのコンセプトをタスカジの根幹となるサービスポリシーとしました。たとえITのネットワークであっても、いやITのネットワークだからこそ、自分と近い価値観を持ち、人物的にも親近感を感じられるハウスキーパーと出会うことができたのなら、実際の血縁者以上のホスピタリティで最適なサポートを行ってくれるはずです。男性も女性も、家事という重荷を背中から下ろして、より多くの選択肢にチャレンジすることが可能となります。

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また時代背景として、富裕層ではないごく普通の生活者の間にも、自分たちの家庭に自然な形でハウスキーパーを受け入れる雰囲気が醸成されてきたように思います。最近のテレビ番組でも、主人公がベビーシッターやハウスキーパーを利用したり、自身が働いたりするドラマがいくつも作られるようになりました。もちろんドラマですから、現実との間にはかなりのギャップがあるのは確かですが、それでも家事代行サービスが身近な存在になってきたことを実感しています。

SNSに家事代行サービスの投稿数が増加

そうした時代の変化は、FacebookやTwitterなどの投稿からも強く感じます。私が初めて家事代行サービスを依頼した当時は家事を他人に任せることは恥ずかしい事で、誰かに助けてほしいと思っても口に出せない、まだそんな時代だったと思います。ですからFacebookやTwitterを見ても、家事代行サービスを頼んだといった投稿はほとんど目にすることができませんでした。

それが、タスカジを立ち上げてからのこの2年間で、家事代行サービスに関する投稿が驚くほどの急増ぶりです。家事を他人に任せることが恥ずかしい、と思う風潮はすっかりなくなり、心のハードルも下がってきたようです。実際、タスカジのマッチング実績も前年比10倍近いペースで伸びており、家事代行サービスの業界全体としてのマーケットは確実に拡大しています。

インタビュー後、NTTデータ社員に向けて講演する和田さん

インタビュー後、NTTデータ社員に向けて講演する和田さん

家事代行サービスのベストマッチング

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ハウスキーパーのステータス向上が重要

もっとも家事代行サービスに課題がないわけではありません。ハウスキーパーを求める人は増えているのですが、働き手が圧倒的に不足しているのです。2016年12月時点のタスカジ登録者数でいうと、需要者は約8,000人で、これに対する供給者となるハウスキーパーは約400人にとどまっています。

ハウスキーパーという仕事がまだ一般的な職業として確立されていないという事情はあるのですが、タスカジとしてもハウスキーパーをプロフェッショナルな仕事として広く認知させるとともに、そのステータスを高めていく必要があると考えています。

例えば、出産を機に現場仕事を辞めて主婦になっている潜在栄養士や潜在調理師といった専門資格を持つ人に、積極的にハウスキーパーとして登録していただき、料理づくりを任せたいと望む需要者とのマッチングを行うことで、高いスキルを発揮して欲しいと考えています。一方では、子どもが大きくなって手離れしてきた主婦の方たちにも社会に復帰するためのきっかけとして、得意な家事を活かし、「主婦をしながら働く」というスタイルを提案していこうとしています。

言葉の問題から他のサービス業では就業が難しい外国人にも、タスカジならばたくさんの活躍の場があります。タスカジの主な需要者層である30~40歳代の家族は、会社からグローバル化への対応を迫られている世代です。家事というコミュニケーションを通じて異文化や外国の言葉に接することは、需要者にとって大きなメリットであり、ニーズはどんどん増加している状況です。最初からダイバーシティ(多様性)を受け入れるプラットフォームづくりにこだわってきたタスカジならではの将来的な強みになると考えています。

レビュー機能がシステム満足度を高める

また需要者とハウスキーパーの最適なマッチングを行い、同時にハウスキーパーの職業としてのステータスを高めていくITシステムからのアプローチとして、タスカジではレビュー機能の充実に注力しています。タスカジはC2Cのサービスを提供するプラットフォームと先述しましたが、これは平たく言えばメルカリやヤフオク!、あるいは海外で台頭しているAirbnbやUberと同様の考え方を持ち、サービスの需要者と供給者をつなぐ仕組みです。

タスカジは出会いの場を提供する立場であり、誰を選んで、どんなサービスを依頼するのか、契約の主体はあくまでも当事者同士になります。そうした中で需要者と供給者がお互いを選ぶ際の重要な判断材料になっているのが、レビューに記された内容であることをおわかりいただけると思います。

タスカジのレビューサイトより https://taskaji.jp/

タスカジのレビューサイトより https://taskaji.jp/

タスカジにおいて需要者が気に入ったハウスキーパーに継続的に来てもらいたいと思えば、レビューを通してそのハウスキーパーを高く評価し、感謝やフィードバックを伝えることが効果的です。ハウスキーパーとしても次の行き先を決める際には、やはり自分のことを高く評価してくれている需要者の家庭で働きたいと考えますし、フィードバックを活かして次回はより良い仕事をしようと工夫するからです。

そして高評価のレビューが多くの需要者から寄せられるようになると、レベルに応じてハウスキーパーの報酬額をアップさせる仕組みも取り入れています。これによりハウスキーパーはさらに自分の評価を高めようとモチベーションを維持しますし、需要者はより高品質のサービスを受けられるようになります。現に、この仕事に対する強いやりがいとプライドを持ち、自ら専門書を読んだり、セミナーに参加したりして、自己啓発に努めているハウスキーパーは少なくありません。こうした好循環によって、タスカジは需要者とハウスキーパー双方の満足度を高めていきます。

さらにタスカジでは、将来的にAIや機械学習などの最新ITも積極的に取り入れていきたいと考えています。需要者とハウスキーパーのマッチングは人と人との出会いであり、拡大家族としての絆を深められるかどうかは、評価ポイントなどでは点数化できない「気心が通じる」「ウマが合う」といった相性も大きく左右します。その意味ではレビュー機能も十分とは言い切れず、そこをAIや機械学習などのITを活用することで補っていきたいのです。例えばレビューに記されたコメント(テキスト)を大量にシステムに読み込ませて学習させることで、当事者同士の真のニーズや深層心理まで判断した上でのレコメンデーションが、将来、可能になるかもしれません。

タスカジとしてやるべきこと、やりたいことはまだまだ山積みですが、拡大家族のコンセプトを広く根付かせていくために、今後も立ち止まることなく発展を目指したいと思います。この取り組みが結果として、さまざまな社会問題の解決に少しでも貢献し、男性も女性も、老いも若きも関係なく、誰もが新しいテーマにチャレンジして活躍できる世の中を実現できたのなら、私としてもそれ以上の喜びはありません。

※1 メルカリ(mercari)

スマホから誰でも簡単に売り買いが楽しめるフリーマーケットアプリ。

※2 深層心理

人間の思考のうち、自分自身が自覚していない「無意識」の部分。