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INFORIUM 第6号

今号の特集は「身体へ! テクノロジーが変える運動能力」。テクノロジーは我々の身体能力をどこまで拡張するのか? パワードスーツやパーソナルモビリティなどプロダクト開発の最前線をレポートしています。ウェブでは編集長コラムとリソース情報をお届けします。 本誌を読む(PDF版)

編集長 小崎哲哉

編集長コラム(3)
駒場リサーチキャンパスに注目

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広報誌『INFORIUM』第6号の巻頭インタビューは、ロボットクリエーターの高橋智隆氏。特集「身体へ!— テクノロジーが変える運動能力」の基調インタビューは、インダストリアルデザイナーの山中俊治氏。おふた方にお話を伺うために、東京大学先端科学技術研究センター(先端研)と東京大学生産技術研究所(生研)に連日足を運んだ。

ふたつの施設は、両方とも東京都目黒区の駒場リサーチキャンパス内にある。東大教養学部のある駒場Iキャンパスからは歩いて10分ほどの距離で、駒場IIキャンパスとも呼ばれる。先端工学系の研究室が集まっていて、学部はないから原則的に大学院生以外の学生はいない。モダンなデザインの研究棟は、京都駅ビルや札幌ドームの設計で知られる建築家・原広司氏の手になるものだ。

●「技術研究」を謳う先端研と生研

先端研は1987年に設立された。公式ウェブサイトによれば、「学術の発展と社会の変化から生じる新たな課題へ機動的に挑戦し、人間と社会に向かう先端科学技術の新領域を開拓することによって、科学技術の発展に貢献すること」を目的とし、「学際性・流動性・国際性・公開性という四つの基本理念を掲げ、文系と理系の垣根を越えた領域横断の研究活動」を行う。研究室は40に上り、研究者は2016年7月現在、総計551名。文字どおりの先端研究のほか、「東日本大震災アーカイブプロジェクト」など、分野横断型の試みにも取り組んでいる。

生研は1949年に発足。こちらも公式ウェブサイトによれば、「基礎から応用まで、明日の暮らしをひらく様々な研究」を行い、「活動領域は横断的で量子レベルのミクロな世界から地球・宇宙レベルまでと大きく工学のほぼすべての分野をカバー」する。2016年1月1日現在、国内外からの1,000名以上の研究者が、110を超える研究室に在籍。大学に附置された研究所としては日本最大級だという。

どちらも「技術研究」を謳っているが、必ずしも理科系ばかりではない。先端研には社会科学部門があり、「政治行政システム分野」や「情報文化社会分野」、さらには「イスラム政治思想」分野などが設置されている。生研にも人間・社会系部門があり、ただしこちらは、社会基盤施設や、都市・地域・地球環境などを研究対象としている。工学をベースとしながら、人間的な視座を重要視するということだろうか。

●「文理融合」に挑戦する

駒場リサーチキャンパスには御厨貴氏の研究室もある(先端研情報文化社会分野)。政治学者で、オーラルヒストリーの第一人者。TBS「時事放談」のキャスターも務め、昨今は天皇譲位問題に関する有識者会議の座長代理としてマスコミによく登場するから、ご存じの方も多いだろう。その御厨氏が、先端研のウェブサイトに「先端とは何か」というエッセイを書いている。

「先端とは何か。(中略)それは先端研に、“文系”が、さらに言えば“政治学”が存在することの意味に他ならない。(中略)先端研が常に先端であるためには、実は“尖端”でなければならぬ。とがってないとダメなんだということ。実はそうするためには、個々の研究者が自分の専門領域で、“とがっている”だけではすまない。そう、組織として“とがっている”ことを常に意識させる存在が、必要なのだ。だからこその“文系”と言ったら、手前味噌に過ぎるだろうか。まずは異種を、異端を正統の中に入れることだ。何だか自分にとってあたりまえの世界に、異物がいることの大変さと大切さ。よく文理融合といわれる。これまた、言うは易く、行うは難しだ」

「文理融合」の具体例として実践されたのが、上に名を挙げた「東日本大震災アーカイブプロジェクト」。同じ先端研の廣瀬通孝教授(生命知能システム分野)らと協働し、「記憶のアーカイブ」を創造するために立ち上げられた。廣瀬教授がITやシステム工学の専門家とあって、バーチャル・リアリティ学会での御厨氏の特別講義がきっかけになったというのが象徴的だ。文と理のバランスの取れた協働こそが、意義のある事業やプロジェクトを生み出す。「行うは難」かっただろうと想像するが、これはその好例にほかならない。

●私たちの未来のために

駒場リサーチキャンパスは、実は以前にも2度ほど訪れたことがある。『INFORIUM』の前身に当たる『KAERURYOKU』を編集・制作していたころのことだ。1度目は2012年の秋に、「テクノロジーと身体」を特集した第11号の取材で、AR(現実の拡張)ならぬAH(人間の拡張)を提唱する暦本純一教授の研究室を訪ねた。『INFORIUM』今号と類似する企画だが、4年前と現在とで状況は相当に変わっている。しかし、記事を読み返すと、教授の先駆性と予見力に感服するほかはない。現在進んでいるのは、まさに人間の拡張と呼ぶべき事態だろう。

2度目は2013年の初春、「テクノロジーと自然環境」という特集を組んだ第12号の取材だった。特集のサブタイトルは「水の恵みと生きる」。基調インタビューとともに、全体の監修を、水文学の第一人者である生研の沖大幹教授にお願いした。「水はグローバルな資源ではない」「日本は水に恵まれた国ではない」「日本の水道水はまずくはない」などの刺激的な、そしてもちろん科学的な知見に裏付けされたお話が印象的だった。

先端研と生研の優れた研究者たちは、新たなテクノロジーに関わる研究を様々な形で進めている。私たちの未来が、彼ら彼女らの研究成果にかかっていると言っても過言ではないだろう。中にはマッドサイエンティストぎりぎりの方もいるという話も聞くが、「異種」や「異物」は社会に、とりわけ科学の領域には絶対に必要だ。産業技術総合研究所(産総研)や理化学研究所(理研)などとともに、駒場のふたつの研究所から目が離せない。

おざき・てつや1955年、東京生まれ、京都在住。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。1989年に創刊された新潮社の文化情報誌『03 TOKYO Calling』副編集長を務めた後、インターネットワールドエキスポ1996日本テーマ館『Sensorium』、愛知万博テーマ普及誌『くくのち』、ウェブマガジン『先見日記』のエディトリアルディレクターを歴任。CD-ROMブック『デジタル歌舞伎エンサイクロペディア』、写真集『百年の愚行』などを企画編集し、和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊した。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員、同大大学院および愛知県立芸術大学講師。あいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーも担当した。2014年12月、編著者として『続・百年の愚行』を上梓。刊行後も続く愚かな事件や事象の情報をアップデートするウェブサイト『百年の愚行』も運営している。

特集「身体へ!」 リソース集

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広報誌『INFORIUM』第6号の特集は「身体へ!— テクノロジーが変える運動能力」。編集部が参考にした書籍やウェブサイトから、面白かったものを集めてみました。
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『カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢』(山中俊治著)
プロダクトデザインの第一人者は、なぜ理想の義足をデザインしようと思い立ったのか?学生たちとともに取り組んだプロジェクトからは、陸上の高桑早生選手、自転車の藤田征樹選手がロンドン・パラリンピックに出場する。3年間のドキュメント。
(※誌面には山中氏のインタビューを掲載しています)

『スーパーヒューマン誕生! 人間はSFを超える』(稲見昌彦著)
『鉄腕アトム』『ドラえもん』『攻殻機動隊』から『2001年宇宙の旅』『スター・ウォーズ』『トータル・リコール』まで。SF作品を例に取って、拡張する身体というテーマに迫る。「超人スポーツ」発想の背景となった人間拡張工学とは?
(※誌面には「超人スポーツ」を紹介する記事を掲載しています)

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「テクノロジーと身体 新・人間拡張の原理」(『KAERURYOKU』No.11)
『INFORIUM』の前身に当たる広報誌での特集。東京大学大学院情報学環教授・暦本純一氏へのインタビューを掲載するほか、国立スポーツ科学センターによるアスリート強化の試みや、デジタルヘルスへの各社の取り組みを紹介する。
(※PDFファイルにリンクしています)

2Home 超人スポーツ協会
超人スポーツ協会
人間拡張工学に基づき、「人を超える」、あるいは年齢や障碍などの身体差により生じる「人と人のバリアを超える」超人スポーツを開発し、普及に努める協会の公式ウェブサイト。「競技一覧」に収録されたビデオを観るだけでも楽しい。
(※誌面には「超人スポーツ」を紹介する記事を掲載しています)

3CYBATHLON
サイバスロン(英語)
「サイバスロン」は、身体をサイボーグ化したアスリートたちによるスポーツの祭典。ウェブサイトでは、最先端テクノロジーが採り入れられた6種目の競技が紹介されている。自由で多様な未来のスポーツの可能性がここにある。
(※誌面では「超人スポーツ」を紹介する記事内でサイバスロンを紹介しています)

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スケルトニクス
動作拡大型スーツ「スケルトニクス®」は、自分の体よりも大きくダイナミックな動きを体感できる搭乗型の外骨格装置。全世代の機体を閲覧できるほか、外骨格でエクストリームスポーツを実現する「スター計画」の概要がつかめる。
(※誌面には「スケルトニクス」を紹介する記事を掲載しています)

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NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ
感覚運動インターフェースを中心に研究を進める、雨宮智浩主任研究員(特別研究員)のページ。「牽引力」で感覚を拡張するインターフェース「ぶるなび」の研究背景、メカニズムの解説、使用例を示した動画などが掲載されている。
(※誌面には「ぶるなび」を紹介する記事を掲載しています)

6 WHILLWHILL
車椅子の概念を革新した「パーソナルモビリティ」の開発思想や特徴を紹介。斬新なデザインと優れた機能を動画で確認できる。小回りが利くタイヤのディテール、iPhoneによる操作画面、様々なアクセサリーなど、細かい情報もうれしい。
(※誌面には「WHILL」を紹介する記事を掲載しています)

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義手メーカー、イクシー株式会社のウェブサイト。同社の電動(筋電)義手は、3Dプリンターによって高いデザイン性を実現している。実用的なモデルのHACKberryは設計データをオープンソース化。フォーラムへのポストも活発だ。
(※誌面にはexiiiの活動を紹介する記事を掲載しています)

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