2017. 01. 05 Update !

イマ旬

これからのモビリティは、新しい価値をめざす

NTT DATA Technology Foresight の策定を毎年支援し、先端IT活用推進コンソーシアム(AITC)で最新技術を調査研究している著者から、ITにより進化と多様化を遂げつつある乗り物(モビリティ)の現状と、これからの時代のモビリティのあり方についてお届けします。

大林勇人
株式会社NTTデータ経営研究所 社会システムデザインユニット
シニアマネージャー 大林勇人

イマ旬の注目キーワード
次世代モビリティ

いま、乗り物=モビリティが面白い

デジタルテクノロジーの力が、いま、モビリティを大きく変えようとしています。いまやニュースなどで目にしない日はないほどの自動運転車はその一例ですが、それ以外にも多様なモビリティが名乗りをあげています。いくつか事例を見てみましょう。

事例1.空飛ぶ自動車
古くは『鉄腕アトム』の頃から、一人もしくは数人乗りの空を飛ぶ自動車が未来のモビリティとして描かれてきましたが、それから半世紀を経て、ついに実用化が目前まで迫ってきています。現在は試行錯誤の段階で、一般的な4輪自動車型、超小型のヘリコプター等、多種多様な形態が存在します。そのうちの一例が「人も乗れるほどの大型のドローン」といったもので、国内では“SKYDRIVE”というモビリティが開発中(図1)です。

図1.SKYDRIVE

図1.SKYDRIVE(出典:CARTIVATORホームページ

事例2.一人乗り次世代モビリティ
一人乗りのモビリティは、長らく、バイク、スクーター、自転車、三輪車、一輪車が不動の座を占めていましたが、2001年に発表された「セグウェイ」が一定程度普及したことを嚆矢として、近年続々と新しい種類のものが登場しています。一つ例をあげると、緻密な重心のセンシングにより手足を動かすような感覚で前後左右の移動を可能とする次世代モビリティといったものがあります(図2)。2016年現在では「ハンドルなしセグウェイ」「ホバーボード」といった様々な呼称がつけられています。

図2.一人乗り次世代モビリティのひとつ”HOVERTRAX”(筆者が搭乗)

図2.一人乗り次世代モビリティのひとつ”HOVERTRAX”(筆者が搭乗)

事例3.”拡張遊具”としての車椅子
最後に、現在筆者もメンバーの一員として参画しているプロジェクトチーム「スライ・ド・リフト」が開発した全く新しい車椅子である「電動アシスト付オムニホイール型車椅子」(図3)を紹介します。この車椅子は、長い人類の歴史の中で、主に体が不自由な方向けの「介助用具」として位置づけられてきた車椅子を、デジタルテクノロジーの力で人間の全能感(almighty)を向上させる「拡張遊具」として再発明したものです。

図3.ドリフト走行も可能な「電動アシスト付オムニホイール型車椅子」(写真左奥は筆者) 出典:チーム「スライ・ド・リフト」より提供

図3.ドリフト走行も可能な「電動アシスト付オムニホイール型車椅子」(写真左奥は筆者)
出典:チーム「スライ・ド・リフト」より提供

これからの時代のモビリティ

デジタルテクノロジー、特に近年では“IoT(Internet of Things(モノのインターネット))”と呼称されることが多いデジタルセンシング技術の進化と、それに伴う低価格化は、自動運転型モビリティのみならず、個人向けモビリティのあり方を大きく変えつつあります。

東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 稲見昌彦教授は、テクノロジーの活用アプローチとして「機械に人間の代替作業をさせるといった『自動化』」と「技術を身にまとう『人機一体』によってやりたいことが自在にできるようになる『自在化』」との2種類の方向性を示しています

これから登場するモビリティも、「ヒトやモノを効率的に運搬する『自動モビリティ』」と、「ヒトが拡張された感覚を味わう『自在モビリティ』」といった本質が異なる2つの種類のものに分かれていく可能性が高いです。表1にこれらのモビリティの違いを整理してみました。

表1 これからの時代のモビリティの分類 表1 これからの時代のモビリティの分類

2種類のモビリティがもたらす異なる2つの社会的価値

「自動モビリティ」と「自在モビリティ」とでは、社会から求められるクオリティの種類が全く異なっています。図4の通り、社会が求めるクオリティは、「当たり前の品質」を達成する、いわばマイナスをゼロにもっていく「コンフォーマンスクオリティ」と、「突き抜けた品質」を追求する、すなわちプラスを無限に増加させる「パフォーマンスクオリティ」といった異なる2種類が存在します。

図4「コンフォーマンスクオリティ」と「パフォーマンスクオリティ」出典:三品和広『どうする?日本企業』(東洋経済) 79ページを参考に筆者作成

図4「コンフォーマンスクオリティ」と「パフォーマンスクオリティ」出典:三品和広『どうする?日本企業』(東洋経済新報社) 79ページを参考に筆者作成

一般的には、「自動モビリティ」は「コンフォーマンスクオリティ」の向上・改善、そして「自在モビリティ」は「パフォーマンスクオリティ」の創造や伝播を、それぞれ価値として社会に付加すると考えられます。言いかえると「自動モビリティ」は「社会問題を解決するためのモビリティ」で、「自在モビリティ」は「個人を幸福にするモビリティ」と位置づけてよいでしょう。

人生を豊かにするモビリティ普及のための課題 ~多種多様なモビリティが活躍するための場所づくり

これからも、デジタルテクノロジーの進化とあいまって、新しいタイプのモビリティが続々と発明、開発され、普及していくことが予想されます。そのような潮流の中で最大の課題は、ユーザーが自由に使える場所を確保・整備することです。完全自動運転車については、米国、英国、日本等において厳格な制限の下、公道走行実験が実施されつつあります。他の多種多様なモビリティについても、特に人生を豊かにしてくれる「自在モビリティ」を満喫できる場所づくりが、今後の社会の大きな課題になると考えられます。

国内に関しては、今後の人口減少や少子高齢化を背景とした、まちの空間の再設計・再配置・再開発が進展していきますが、その際には、「自動モビリティ」のみならず「自在モビリティ」を人々が自由に心から楽しめる場所を、多様なステークホルダーによる対話と協創を通じて、つくっていく必要があります

さいごに ~いまこそ、効率一辺倒を超えて

筆者は、HOVERTRAXや「電動アシスト付オムニホイール型車椅子」といった「自在モビリティ」について、100名以上の方たちの試乗をインストラクションしてきました。その中で、足腰が衰え自力で全力疾走できなくなった高齢者や、下半身まひで車椅子を日常で用いている障がい者といった方たちが、心から楽しんでいる様子を何度も目の当たりにすることができました。(図5)

図5 パラリンピック銀メダリスト上原大祐氏が「電動アシスト付オムニホイール型車椅子」を楽しむ様子 出典:チーム「スライ・ド・リフト」より提供

図5 パラリンピック銀メダリスト上原大祐氏が「電動アシスト付オムニホイール型車椅子」を楽しむ様子
出典:チーム「スライ・ド・リフト」より提供

このような光景は、まさに「自在モビリティ」が、人々の人生を豊かにするといった「パフォーマンスクオリティ」をもたらしている姿だといっても過言ではないでしょう。

昨今、「技術の開発や活用は、問題解決型やニーズドリブンで」というような「コンフォーマンスクオリティ」を第一とする考え方が広まりつつあります。しかし、ここで一度立ち止まり、人間一人ひとりが笑顔で過ごす毎日を実現するための「パフォーマンスクオリティ」にもっと目を向けた上で、新しい技術の開発や活用をしていくべきではないでしょうか。

※1 参考1 スロバキアのベンチャー企業”Aeromobil”社の空飛ぶ自動車(車名は企業名と同じ)

http://www.aeromobil.com/

※2 参考2 ニュージーランドの企業”Martin Aircraft Company Limited”の一人乗りヘリコプター“Martin Jetpack”

http://www.martinjetpack.com/

※3 参考3 “SKYDRIVE”の開発元である“CARTIVATOR”プロジェクト

http://cartivator.com/

※4 参考4 ダイヤモンド社Going Digital インタビュー「“人機一体”で人間はどう変わるのか「人間拡張工学」がもたらす新しい世界」

http://www.dhbr.net/articles/-/3912

※6 参考10 筆者はデジタルテクノロジーの進化を享受するための新しい形のまちづくりのあり方を「デジタル活用協創型まちづくり(Visual data oriented urban design)」として提唱している。

https://www.keieiken.co.jp/monthly/2016/0701/index.html