2017. 06. 29 Update !

イマ旬

社会課題からテクノロジーを捉える

テクノロジーの進歩は生活やビジネスに変化をもたらし、社会課題の解決に繋がる場合もあります。今回は少子高齢化に焦点を当て、社会課題解決の観点で最新テクノロジーを捉えてみます。

松下 正樹
株式会社NTTデータ 技術開発本部
シニアエキスパート 松下 正樹

イマ旬の注目キーワード
高齢化対応技術

高齢化対応技術

特に日本では少子高齢化が大きな問題になっており、総務省の調査では2060年に人口の40%が65歳以上になるとも予測されています。深刻化する高齢化社会の訪れに際し、テクノロジーは何ができるのか、近年様々な「高齢化対応技術」が登場してきています。

・アンチエイジングや若返り
・身体及び脳力の強化や機能回復
・脳波や音声やジェスチャーによる機械操作
・センサによる見守りや健康促進
・遠隔医療や自宅用医療ポッド
・ドラッグデリバリーシステムやナノロボット治療
・DNA編集による難病の治療
・自動運転車やパーソナルモビリティによる移動支援
・コミュニケーションロボットやバーチャルリアリティを用いた会話機会創出

図1.高齢化対応技術のサンプルイメージ

図1.高齢化対応技術のサンプルイメージ

こうした技術は高齢化の問題を様々な面から解決に導くピース(欠片)になると考えられます。いくつかをピックアップし、もう少し深堀してみましょう。

・若返り
細胞を健康に保つサプリメント、老化によるDNAの損傷を修復する薬、若返る遺伝子治療…一見怪しい話ですが、既に若返りビジネスとして動いているものもあります※1。マウスの実験で効果を確認し、創業者自らが自身の体で効果を試すなど大胆な展開を見せたケースも出てきました。

こうした若返り系のテクノロジーはどこまで効果を出せるのか未知数ではあるものの、老化現象を解明する専門の研究分野もあり、着実な進歩を見せています。将来は資金さえあれば肉体的な寿命を普通に延ばせる世の中になり、精神的な寿命や心の面との釣り合いが求められるようになるかもしれません。

・身体及び脳力の強化
身体に装着することで物理的なパワーを高めるパワードスーツや、どれだけ歩いても疲れない靴、映像を網膜に投影して弱視者を支援するグラス※2など、身体能力を強化するデバイスが多数登場してきています。また、脳に刺激を与えることで神経接続や記憶力や集中力を高める“脳力”強化の取り組みも数年前から本格化しており、スポーツ分野などで実際に使われ始めています※3

高齢化に伴い筋力・体力・記憶力・認知力が低下し、肉体労働などの激しい運動や、車の運転など迅速な認知判断を伴う行為は年々厳しくなっていきますが、こうした強化デバイスを用いることで、労働寿命を高められる可能性があります。

・脳波による機械操作
脳波で機械を操作するブレイン・マシン・インタフェースと呼ばれる技術はかなり以前から実現されていましたが、ここ数年で改めて脚光を浴びるようになってきました。かつて実験されていたのは、脳波で家電を操作したりロボットアームを動かすような、どちらかというとダイレクトに機械を動かす形式が多かったのですが、最近はAIやIoT機能を持つスマートロボット類を間に挟み、脳波でスマートロボットに指示を出したり、脳波でコンピュータに入力する取り組みが増えてきました。

脳に直接チップを埋め込みAIと接続させる試みも始まっています※4。指で操作→音声で操作→脳波を検知して自然に動く、というインタフェースのシフトが期待されています。

少子化対応技術

高齢化と共に少子化も大きな課題です。少子化の問題は多岐に渡っており、「長時間労働に繋がる労働力不足」「社会保障負担増大に伴う生活水準低下」「若年層や女性の就労環境に対する支援施策の不足」「結婚・出産・子育ての困難化(金銭面、価値観の変化、保育士不足など)」といった話があります。こうした問題に対し、テクノロジーは何ができるでしょうか。

・ロボットやAIで業務を自動化
・アダプティブラーニングによる個別最適学習や就職支援
・バーチャルリアリティを用いた職業体験や訓練
・リモートオフィスや在宅からのリモートワーク
・クラウドソーシングやシェアリングエコノミーの活用
・データ分析やDNA診断を用いたマッチング

図2.少子化対応技術のサンプルイメージ

図2.少子化対応技術のサンプルイメージ

高齢化に比べて少子化は社会制度まで含めた改革が必要な問題も多く、テクノロジーが直球で解決に繋がることは少ないものの、役立つケースはあると考えられます。いくつかをピックアップし、もう少し深堀してみましょう。

・アダプティブラーニングによる個別最適学習や就職支援
理解度や達成度に合わせて学習内容と段階を設定していくことで、学習を個人最適化する仕組みです。Z会アステリア※5などで既に導入されています。現在は教育ビジネスにおける差別化要素として用いられている場合が多いですが、少子化問題と絡めてみると、別の捉え方ができると思います。

例えば、塾や大学へ行くことができないといった教育格差について、このテクノロジーと無償で公開されている講義や教育資材を掛けあわせれば、無料もしくは低価格で適切な教育学習環境を個別に提供できるかもしれません。さらに、習得した知識や技能に合わせて活躍できる職場をマッチングするサービスも登場してきており、将来は全ての子どもたちがなりたい職業に向けて不自由なく進んで行ける未来が作れるのではないか、と想像しています。

・クラウドソーシングやシェアリングエコノミーの活用
米国ではクラウドソーシングを活用してフリーランスとして働く人が増加しています。会社に所属せず、自分の裁量で仕事を選んで働くスタイルです。日本でありがちな、女性が結婚を機に会社を辞めてしまうケースでも、こうした仕組みをうまく活用すれば、自宅で自身の生活に合わせて収入を得られるような働き方が実現できるかもしれません。

また、シェアリングエコノミーの活用も有望です。空いている車や部屋を気軽に貸し出す、不在の3時間子供を見てくれる人を募集する、といった身近な話を頼み合う場としての活用に留まらず、利用者が増え地元のコミュニティとして支え合うプラットフォームにまで発展すれば、古き良き「皆で支える地域の子育て環境」が、ITでリメイク再現されるのも夢ではありません。低コストながら充実した生活が送れるようになるでしょう。

まとめ

社会課題解決の観点で最新テクノロジーを捉えてみると、実に様々な活用方法が挙げられます。新規ビジネスやサービスを考える場合、顧客の課題や収益など目先の事業性にとらわれがちですが、もっと大きな社会課題に目を向けることで、社会を変革する大きなインパクトを持つ仕組みが生み出せるかもしれません。

※1 面妖なる「アンチエイジング・ビジネス」が米国で拡大している

http://wired.jp/2016/09/19/the-weird-business/

※2 レーザー技術で弱視者を補助、網膜投影するスマートグラス

http://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/mirakoto/design/h_vol5/

※3 神経科学でアスリートの成績向上はかるヘッドホンHalo Sport発表。リオ・オリンピック出場選手もトレーニングに使用

http://japanese.engadget.com/2016/07/26/halo-sport/

※4 イーロン・マスク氏、新会社「Neuralink」で4年後の脳マシンインタフェース実現目指す

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1704/24/news096.html